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第六章

106話

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「あんなイメージ?」
「ん~、テラス席は欲しいけど、イメージとちょっと違うかな。もっとこう、オープンな感じは残したいのよね」

 ヒュペリトから帰ってきた翌日。
 エルビラからお店をやりたいと言われた。
 最初はヘイデンさんの仕事を?って思ったけど、話を聞くとそうではなかった。
 俺が狼討伐に行っている間、一葉で働いていたエルビラは調理場に入ることが増え、結果的に料理の腕があがった。
 それで、昔から自分のお店に興味を持っていたエルビラが、料理上手な母と2人で調理を担当し、俺やペリシアに給仕を任せるといったイメージでお店を出したいと母に相談していたらしい。
 エルビラのイメージしているお店がどういう感じなのかを確かめるために、マホンを探索と言う名の散歩中だ。
 リアナとラモーナにもマホンを案内するのにちょうどいいから一緒に連れて来た。もちろんマリンも。

「でもさぁ、ヘイデンさんのお店の広さだと難しくないか?」
「そうなんだけど……」

 ヘイデンさんが商品を販売していた所はそこまで広くはなかった。
 その為、他の部屋(調合室や倉庫等)を壊してリフォームする予定だ。
 それでも、キッチンや食材用倉庫等を作ると食事を提供するスペースは限られる。
 居住スペースは2階だが、こちらも部屋数が足りない。やはり別で家を借りて、そちらに住む必要がありそうだ。

 誰かに信頼できる不動産屋を紹介してもらわないとな。
 あれだな、困ったときのアビーさんだな。
 明日冒険者ギルドに行くからその時にでも聞いてみよう。

「やっぱり無理かなぁ。あ、リアナ、ここが話してたお店よ」
「ここが?」
「そう。入ってみようよ」

 エルビラを先頭に入っていくお店は、ドライフルーツ専門店だ。
 リアナとラモーナが、マホンではどんなドライフルーツが売られているのか知りたいという事で、今日の散歩中に覗いてみようと言うことになっていた。
 エルビラが、何軒かあるうちの1件が近くにあるよと言っていたのがここのようだ。

「リアナ、ラモーナ、気になる物があれば買っていいからね。エルビラ、お金を渡しておくから2人と一緒に見て回ってくれない?」
「ええ、いいわよ。さぁ、2人とも行きましょ」

 女性同士の方が気兼ねなく買い物もできるだろうから俺は店先で待つ。

『ご主人さま。あの~えっと、その、ひとつお願いがあるのですが……』
「どうしたの?ん?何か言いにくいこと?」
『いえ、大したことではないのですが……私も、その……』

 マリンが子狼の姿で器用にモジモジとした態度を表し、ドライフルーツの方をチラチラと見ては俺の顔を見上げる。

「もしかして、マリンもドライフルーツに興味があるの?」
『数百年ぶりに下界に降りてまいりまして、こういった物を久しぶりに見ると、興味をそそられるといいますか……』

 ……。女性が甘い物に弱いというのは、人間でもフェンリルでも変わらないということか。

「わかったよ。一緒に店内を見ようか。欲しい物があれば買ってあげるから教えてね」
『あ、ありがとうございます』

 結局、俺も店内に入りマリンの買い物に付き合うことになってしまった。



「ごゆっくりどうぞ」

 テーブルに4人が注文した料理が出された。
 足もとで買ってきたドライフルーツを美味しそうに食べている子狼(実際にはフェンリルなんだけどね)に目じりを下げながら、女性店員は自分の仕事に戻って行った。
 あのドライフルーツ店でマリンのおねだりにより結構な量を買ってしまった。

「ドルテナ君、あの量のドライフルーツどうするの?」
「マリンが全部食べるらしいよ?」
「マリンちゃんにあの量食べさせたら病気になっちゃうわよ……」
「そう言われても……。マリン、おいしいか?」
「クゥ~(はい、ご主人さま)」
「もう。そんな声出されたら注意できないわ」

 マリンはエルビラへ顔を向けてかわいい鳴き声を出していた。女優である。

「マリンちゃん。いずれもっと美味しいドライフルーツを作って食べさせてあげますからね」

 リアナはあのドライフルーツ店を視察して、自分の方が技術は高いと感じたらしい。
 エルビラはリアナがドライフルーツ作りが得意と聞いて、料理はもちろんデザートにも使って幅を持たせられると確信していた。
 ドライフルーツ作りには直射日光が欠かせないのだが、なんと、ヘイデンさんのお店には屋上があるんだと。
 薬草などを自分で乾燥させなければならない物もあるから、その為に屋上で乾燥させられるようにしていたらしい。

 明日、実際にリアナに現場を見てもらい、必要な物は買ったり発注したりする予定だ。

「さぁ、俺達も食べよう。午後も買い物があるんだろ?」
「ドルテナ様、本当によろしいのですか?」
「よろしいも何も、家から持って来られた物って僅かなんでしょ?生活に必要な物はすべて用意すること」

 家から持ち出せたものは、あの時着ていた物とアイテムボックスに入れていた数枚の下着のみだったらしい。
 家の中に置いていた服などは全て借金に方に取られてしまったそうだ。
 マホンならお店も多いから、2人の好みに合う物もあるだろう。

「分かりました。ありがとうございます」
「そんな、大したことじゃないよ。ただ、色々と俺が一緒に買いに行きにくい物もあるから、またエルビラにお願いすることになるかな」
「うん、任せといて。最近人気のお店があるの。きっとリアナやラモーナに気に入ってもらえるわ。すっごく可愛い服とかあるんだから」
「え?新品の服なのですか?そんな、勿体ないです」
「いいじゃない。ドルテナ君の奢りなんだから。それにリアナにはそれくらいしてもらう権利はあるわよ。リアナはドルテナ君にあげてるんだから」

 エルビラが俺をグイッと顔を向けた。

 うぉ!エルビラから凄い圧が!。
 あれはリアナの為にもらったわけで、俺から……。いや、これ以上はよそう。何だかエルビラに考えを読まれていそうで怖い。

「エルビラ様、あのことはどちらかといえばドルテナ様に助けていただいた意味合いが強いので、どうかドルテナ様をお許しください」
「様は付けなく……あぁ、そうだったわね」

 2人はお互いを名前で呼び合うことになったが、人がいるところではエルビラに様をつけて呼ばざるを得ない。
 種族間の差別がないシネスティア国ではあるが、階級制度(カースト)は存在している。
 貴族>一般人>奴隷となっており、自分より上の階級の人を呼び捨てにするのは不敬罪となる。

 その為、奴隷であるリアナが一般人のエルビラに向かって呼び捨てで話しかけられるのは、家族の前でしかできないことなのだ。
 俺は元々早い段階で奴隷から解放するつもりでいたので、今日の朝にその話をしたんだが、リアナからもう少しこのままでいたいと言われた。
 何故かと聞くと、奴隷は主人の所有物の為、他人が奴隷に暴力を振るったり怪我を負わせたりした場合は、主人が相手に損害賠償などの補償を求めることができる。
 つまり、奴隷は主人によって守られている存在なのだ。
 知らない土地で身寄りもないリアナにしてみれば、不安定な一般時より奴隷でいた方が身の安全が確保できると考えたらしい。
 そういう意味ではラモーナが一番不安定なのかも知れないが、未成年の彼女は家族全員で保護していく。
 エルビラの商売が軌道に乗る頃にはリアナは開放する予定ではある。
 また、ラモーナも新しい店で従業員として雇う予定になっている。

「兎に角、リアナは新しい服を買ってもらってもいいのよ」
「ま、まぁ、理由は兎も角、リアナとラモーナに誰かのお古を着てもらうつもりはないよ。時間はあるから、夕方までにゆっくりと買い揃えればいいから」
「妹まで心配していただきありがとうございます」

 リアナとラモーナが席を立って頭を下げるが直ぐに止めさせる。

「2人共止めてくれ。リアナ、確かに今は俺の奴隷だけど、近いうちに解放する予定だろ。今の君の立場は一時的なものだ。だからそんなに大袈裟なことはしなくていい。それと、ラモーナも俺が連れて来たんだから俺が責任を持って面倒を見るからね。だからリアナと同じで気にしなくていいから」

 礼儀をわきまえている2人からされる行為は嫌いではないがむず痒いんだ。

「ほらほら2人共座って。御飯を食べましょ」

 エルビラに促された2人は着席して食事を始めた。

 食事を終えた俺達は、エルビラの言う最近人気のお店に向かった。
 この世界で新品の服は割と高い。布自体が高価と言うこともあるのだろう。
 なので、通常は古着を買って着るのが一般的で、新品の服なんてなかなか買えない。
 買えないのだが、最近人気の店には多くの若い女性客が商品を購入していた。

「エルビラ、何でこんなに人が多いんだ?」
「デザインもいいけど、値段が他の店に比べて安いの」

 エルビラは安いというけど、値段を見ると確かに相場に比べれば安いかも知れないけど、それでもホイホイと簡単に買えるような値段ではない。

「女性はオシャレのためなら色々と頑張れるのよ」

 どの世界でも、女性はそう言うことにかけては何よりも優先されるのだろう……。

 この後、3人で色々と見て回っていた。なぜが下着売り場の滞在時間がやたらと長かった気がするが……。

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