社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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135.beloved③

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気がつくと自然とカップリングができているみたいで、その波に乗り遅れていたのは私とその彼だけのようだった。その為、他に話す相手がいなくなってしまったので、いきなり黙ってしまうわけにもいかず、成り行き上、その組み合わせのまま話すことになってしまう。ただ、最初に自己紹介していたものの興味がなかったので何となくうろ覚え。それはお互い様だったみたいでここでコソッと2人だけで自己紹介した。

「では、改めてまして。吉田と申します」

「わ、私は三浦と申します。今日は宜しくお願い致します」

「こちらこそ」

彼は身分証明代わりにと自分の勤めている銀行の名刺をくれ、私も同じように名刺を渡した。それから休日は何して過ごすのかと言う話から、いつの間にか趣味の話になり、2人とも読書好きで、好きなジャンルが似ていることが分かる。

「え?三浦さん、◯◯◯◯の新刊もう読んだの?」

「はい、昨日買って一気読みしてしまいました」

「うわー、俺も買って読まないと。あとさ、◯◯◯◯は来月、新刊出るみたいだよ」

「本当ですか?」

なんてここから話が弾み出す。そもそも私の読書の趣味は漫画から小説と多岐にわたっていたけれど、少々マニアックの部類に入ると思う。漫画は同じ趣味の真央ちゃんがいたから大丈夫だったけれど、小説の話題は表立っては殆ど人と話したことがない。松浦は読書自体しないから論外だし、藤澤さんは実用書ばかりで小説とかは殆ど読まないと聞いていたので人前でこんな風に話す機会は殆どなく。だから、純粋に好きな小説の話を盛り上がって話せた吉田さんのおかげで今回の合コンはわりと楽しめた。そして、帰りにはお決まりの連絡先交換を全員で行い、由香と一緒に電車で帰る。

その時の話題はもちろん今日の合コンの事。

「優里と吉田さん、いい雰囲気だったよね?」

「...そうかな?」

いい雰囲気というよりは趣味の話に夢中になっていたからと首を傾げると、由香は難しい顔をして、眉をひそめる。

「ほら、優里はいつもそうやって逃げ腰なんだから。もう、いい加減、新しい恋をして忘れなさいって。それに優里があんな風に話せる人なんてなかなかいないよ?」

半ばお説教も混じっていたけれど、心配してくれる親友の助言はありがたかった。確かに言われた通りあんな風に初見の男の人と話が盛り上がったのは本当に珍しい。由香に言われて今日会ったばかりの人にいきなり恋愛感情は湧くものではないけれど、いい人だとは思う。私は感謝の気持ちから、その日のうちに吉田さんにお礼のメールを打つことにした。

『今日は趣味の話ができてとても楽しかったです。ありがとうございました』

由香に怒られそうな社交辞令のような内容のメール。こんなメールだから、吉田さんからの返事は全く期待していなかったのに。

『こちらこそ、今日はありがとうございました。楽しかったです。では、また』

予想に反してその日のうちに吉田さんからもメールが届く。けれども、私と同じような社交辞令メールだったので、数日後に直接電話がかかってくるなんて思わなかった。

「...先日お会いしました吉田と申しますが」

最初、電話に出た時、合コンの時の吉田さんだとは登録すらしていなかったのでピンとこなくて、しばらく考えたのち...。

「........え、あ、あの吉田さんでしょうか?合コンの時の!」

思わず印象深かった『合コン』という言葉を強く口走ってしまい、スマホの向こうでプッと吹き出すような声が聞こえた。

「そうそう、その合コンの吉田です」
相手は笑い混じりの声で名乗ってくれたものの、私には彼がなんで電話をくれたのか、皆目、見当もつかなく。

「...?何か...用事でも?」    

無意識に警戒口調の私に、吉田さんは慌てる。

「いや、大した用事じゃないんだけど。今週末、映画でもどうかなと思って」

「...映画、ですか?」

ますます頭の中でクエスチョンマーク。誘われる理由が分からずにいると。

「この間話していた◯◯◯◯の原作の映画、今週末封切りで前売りを買ってあったんだけど、ちょっとマニアックな映画だからなかなか一緒にいく人間が見つからなくて。この間、随分、話が弾んだし、三浦さんならどうかなと思ってさ」

その映画は小説が好きでないと観ないかもという映画で、観てみたいと合コンの時に彼に話したばかりだという事を思い出した。予定を確認すると、偶然その日は予定なし。
...ちょうど、空いていることだし。

「そういうことでしたら、是非」

合コンの時から吉田さんと話すのは楽しかったので躊躇することなく、返事をした。

それから映画に行く日まで彼からこまめにメールをもらうようになり、吉田さんはいい人でマメな人という印象に私の中で変わりつつある。
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