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136.beloved④
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お互いに観たい映画で、たまたま吉田さんは私の事を思い出し、誘う相手がいなかったから誘ってくれたのだと思う。だから、私も特に彼のことを意識することなく会うことにした。
待ち合わせは都心の某所。郊外の実家住まいの私はそこまで行くのに多少の時間を要してしまい、少し待ち合わせの時刻よりも遅刻しまった。待ち合わせの大きな書店の店先を遠目で吉田さんらしき姿が分かる。私は彼らしき人物に小走りで駆け寄ると、やっぱり吉田さんだった。
「す、すみません。遅れてしまって...」
「あ、いや...大丈夫です。俺も今来たとこですし時間はまだまだありますから。それより三浦さんの方が心配」
日頃の運動不足がたたり、急に走ったせいで過呼吸気味の私。身を軽く丸めて息を整えている間、吉田さんはその場でずっと待っていてくれた。そして、息の落ち着いた私を急かさずに映画館までゆっくりと歩調を合わせるように歩いてくれる。
...優しくて、マメな人なのね。
その予感はあたり、私が劇場内のトイレに行っている間にも飲み物を買っておいてくれたり、至れり尽くせりは変わらなかった。
...なんだか、デートみたい。お互いそんなつもりないんだけど。(笑)
そんな感情を抱いていると会場が暗転し、スクリーンから映像が映し出される。そして、いつの間にか映画の方に見入ってしまい、さっき吉田さんに思っていた感情はどこかに消えてゆく。映画の内容は原作を読んでいたからすごく楽しめた。その余韻で何気なく見ていたスタッフロール。その映像とともに流れてくるエンディングに私は心を奪われる。
『夢のような人だから夢のように消えるのです』
本当だ。
藤澤さんは夢のような人だったから夢のように消えてしまったのかもしれない。
彼と付き合って過ごした日々は未だに現実味がなくて、今は夢の中の出来事みたいに思えた。
初めてデートした時も、
初めてキスした時も、
初めて愛してもらった時も、
いつも夢みたいと思っていたから。
目の前のスクリーン映し出される映像とは関係ない藤澤さんとの想い出が走馬灯のように頭に浮かび、曲の途中から視界がぼやけてくる。次第に周りからも少し鼻をすするような音も聞こえて、エンディングロールは終了。劇場内の灯りがつくと同時に吉田さんが席から立ち上がろうとして私を見た途端。
「面白かったですね、えぇ?...三浦さん?!」
彼が驚くのも無理はない。私は人目もはばからずポロポロと涙を流していたのだから。
「す、すみません...」
彼に驚かれたことで我に帰りようやく涙が止まる。バックからハンカチを取り出し流れてしまった涙を拭っていると立ち上がろうとしていた吉田さんは座席に座り直してこちらの様子を伺い見ていた。
「三浦さんって...感受性が高いんだ」
彼がぽそっと呟いた言葉から映画に感動して泣いたと誤解されてしまったのが分かる。けれども、敢えてそれを訂正する事は出来なかった。それから、劇場内の売り場で吉田さんはパンフレットを買って、そのあと立ち寄ったカフェでお昼ご飯を食べる。 その時はもちろん映画の話で盛り上がり、彼の持っていたパンフレットを見ながらお互いに感想を言い合う。女の子同士ならともかく、こんな風にマニアックな話を男の人と話したのは初めてのことだった。
「はぁー、今日は楽しかった。三浦さんは彼氏さんと普段どんな映画観るの?」
映画の話の中で急にふられた彼氏の話。しかも吉田さんの中で私には彼氏がいるという前提らしい。それには慌ててしまった。
「いや、お付き合いしている方はいません。それに恋人がいたら吉田さんとはこんな風にお会いするのは...」
「なんだ。俺はてっきり」
恋人の有無を聞いたことを悪いと思ったのか吉田さんは決まりが悪そうに言葉を濁している。
「それを言うなら、吉田さんも彼女さんが」
こんなにマメで素敵な人に彼女がいないワケがない。話を繋げるつもりで軽く質問すると。
「え?俺だってもう何年も彼女いないし!俺も恋人がいたら三浦さんをこんな風には誘わないから!」
ムキになって否定する彼の耳が少し赤い。それを見て面白い人と心の中で密かに思う。
※※※
吉田さんは終始穏やかな雰囲気の人で、その穏やかな佇まいから話していると同じように穏やかな気持ちになる。
藤澤さんみたいに彼の一挙手一投足においてドキドキする事はないけれど、それでも素敵な人。
もし、一生において誰かにときめいたり、
早く鼓動してしまう回数が決まっているなら、
私は藤澤さんとの恋にそれらを全て使い果たしてしまったのかもしれない。
そのくらい、今の私の鼓動は穏やかに流れている。
待ち合わせは都心の某所。郊外の実家住まいの私はそこまで行くのに多少の時間を要してしまい、少し待ち合わせの時刻よりも遅刻しまった。待ち合わせの大きな書店の店先を遠目で吉田さんらしき姿が分かる。私は彼らしき人物に小走りで駆け寄ると、やっぱり吉田さんだった。
「す、すみません。遅れてしまって...」
「あ、いや...大丈夫です。俺も今来たとこですし時間はまだまだありますから。それより三浦さんの方が心配」
日頃の運動不足がたたり、急に走ったせいで過呼吸気味の私。身を軽く丸めて息を整えている間、吉田さんはその場でずっと待っていてくれた。そして、息の落ち着いた私を急かさずに映画館までゆっくりと歩調を合わせるように歩いてくれる。
...優しくて、マメな人なのね。
その予感はあたり、私が劇場内のトイレに行っている間にも飲み物を買っておいてくれたり、至れり尽くせりは変わらなかった。
...なんだか、デートみたい。お互いそんなつもりないんだけど。(笑)
そんな感情を抱いていると会場が暗転し、スクリーンから映像が映し出される。そして、いつの間にか映画の方に見入ってしまい、さっき吉田さんに思っていた感情はどこかに消えてゆく。映画の内容は原作を読んでいたからすごく楽しめた。その余韻で何気なく見ていたスタッフロール。その映像とともに流れてくるエンディングに私は心を奪われる。
『夢のような人だから夢のように消えるのです』
本当だ。
藤澤さんは夢のような人だったから夢のように消えてしまったのかもしれない。
彼と付き合って過ごした日々は未だに現実味がなくて、今は夢の中の出来事みたいに思えた。
初めてデートした時も、
初めてキスした時も、
初めて愛してもらった時も、
いつも夢みたいと思っていたから。
目の前のスクリーン映し出される映像とは関係ない藤澤さんとの想い出が走馬灯のように頭に浮かび、曲の途中から視界がぼやけてくる。次第に周りからも少し鼻をすするような音も聞こえて、エンディングロールは終了。劇場内の灯りがつくと同時に吉田さんが席から立ち上がろうとして私を見た途端。
「面白かったですね、えぇ?...三浦さん?!」
彼が驚くのも無理はない。私は人目もはばからずポロポロと涙を流していたのだから。
「す、すみません...」
彼に驚かれたことで我に帰りようやく涙が止まる。バックからハンカチを取り出し流れてしまった涙を拭っていると立ち上がろうとしていた吉田さんは座席に座り直してこちらの様子を伺い見ていた。
「三浦さんって...感受性が高いんだ」
彼がぽそっと呟いた言葉から映画に感動して泣いたと誤解されてしまったのが分かる。けれども、敢えてそれを訂正する事は出来なかった。それから、劇場内の売り場で吉田さんはパンフレットを買って、そのあと立ち寄ったカフェでお昼ご飯を食べる。 その時はもちろん映画の話で盛り上がり、彼の持っていたパンフレットを見ながらお互いに感想を言い合う。女の子同士ならともかく、こんな風にマニアックな話を男の人と話したのは初めてのことだった。
「はぁー、今日は楽しかった。三浦さんは彼氏さんと普段どんな映画観るの?」
映画の話の中で急にふられた彼氏の話。しかも吉田さんの中で私には彼氏がいるという前提らしい。それには慌ててしまった。
「いや、お付き合いしている方はいません。それに恋人がいたら吉田さんとはこんな風にお会いするのは...」
「なんだ。俺はてっきり」
恋人の有無を聞いたことを悪いと思ったのか吉田さんは決まりが悪そうに言葉を濁している。
「それを言うなら、吉田さんも彼女さんが」
こんなにマメで素敵な人に彼女がいないワケがない。話を繋げるつもりで軽く質問すると。
「え?俺だってもう何年も彼女いないし!俺も恋人がいたら三浦さんをこんな風には誘わないから!」
ムキになって否定する彼の耳が少し赤い。それを見て面白い人と心の中で密かに思う。
※※※
吉田さんは終始穏やかな雰囲気の人で、その穏やかな佇まいから話していると同じように穏やかな気持ちになる。
藤澤さんみたいに彼の一挙手一投足においてドキドキする事はないけれど、それでも素敵な人。
もし、一生において誰かにときめいたり、
早く鼓動してしまう回数が決まっているなら、
私は藤澤さんとの恋にそれらを全て使い果たしてしまったのかもしれない。
そのくらい、今の私の鼓動は穏やかに流れている。
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