社内恋愛はじめました。

柊 いつき

文字の大きさ
162 / 199
【spin-off】bittersweet first love

2

しおりを挟む
はて、俺の初恋はいつだったか???

※※※


「お前さ、先週、お隣さんの子に告られたんだって」

委員会帰り、小学校から友人の吉岡が一緒にクラスに戻る途中、そんな事を言い出した。
俺たちが通っていたのは私立大学付属の男子校。共学の小学校に帰国子女として編入したのだが、どういう訳かうちの学校は中学から男女別学になっている。その為、女子は隣の校舎で女子校お隣さんとして成り立っていた。

吉岡にはその女子部に彼女がいる。大方、そこから耳に入ったのだろう。

「そんな昔の事、覚えていない」

「ひどっ!いくら顔を覚えられないからってそれはないんじゃ?しかも、告られた時、知らない人に手紙もらうなんて気持ち悪くてもらえませんとか言ったんだろ?」

吉岡はまるでその場にいたかのように語り、彼女からの入れ知恵なのか告白時の俺の態度に対して非難轟々。だがこちらにだって言い分はある。

「そりゃそうだろ。いつも見てましたって言われても俺にとってはどこの誰か分からない。そんな相手から好きでした、付き合ってくださいと言われて、はい、分かりましたって言えるか??」

中等部にいたころはそんな風に女子からアプローチされた事は一度もなく、高等部に入った途端、俺の名前やら個人情報を彼女らがなぜか知っているという奇妙な事が起こり始めている。身長が標準よりも高くなり目立つようになったせいだと思ってはいたのだが、気味が悪い。

「まあ、分からなくもないけど。お前、見た目は王子様っぽいって女子部お隣さんに噂されてんのにその口の悪さは何とかならないの?」

「ならない」

間髪入れずに即答すると吉岡は閉口してしまい、それ以上その話題には触れてこなかった。俺ももちろん触れずにいたのだが疑問が残る。

...王子様って何だ?

モヤっとした気持ちでクラスの教室に戻ると、俺たちを待っている日直の田山がいるはずだったのだが、もう1人。男子校にいない女子生徒の姿があった。女子部との交流が盛んだったので男子校ここでも、大して気にも止められないのだが。田山は机に向かっていて、彼女は前の席に座り2人で顔を突き合わせていた。どうやら話をしているらしい。そんな2人に好奇心に駆られた俺と吉岡は足音を立てず近づく。

田山は日誌を書きながらなので俺たちには全く気がついていなかった。

「...好きな科目は英語と化学。これは絶対!!理系だし」

田山は文系のはず?と微妙な違和感を覚えるがそのままスルーして話に聞き耳を立てていると、彼女はもっと食い込む。

「じゃあ、12月24日クリスマスイブ生まれって本当??」

「そうそう、だからの誕生日って覚えやすいんだよな」

「やだっ、また新情報」

...犯人はお前らか!!?

情報流出先が判明し、頭にきた俺は田山の座っている椅子を後ろから思いっきり蹴るとバランスを崩した田山が椅子から転げ落ちた。

「ってえな!?わわっ藤澤!??何で!!?」

「今、戻ってきたんだよ」

怒りで眉間に皺を寄せる俺と慌てまくってる田山の間に吉岡は仲裁に入る。

「まーまー、藤澤も許してやれよ。田山がお喋りなのはいつもの事だろう?」

それには田山も悪びれず、そうそうと頷いて、俺ははぁーっと深く息を吐く。

「...もう、絶対するなよ」

「はーい」

素直に手を挙げる田山はいいとして、俺が思うに元凶はこちら。チラリと一瞥すると、彼女は机に背を向けて寄りかかっており、罪悪感は微塵も感じられなかった。

「...藤澤って頭固いわ。誕生日くらい知られたっていいじゃない、へるもんじゃないし」

その言い草に再びカチンとくる。

「高澤は良いかもしれないけど、俺は嫌なんだよ!!」

この生意気そうな女子は中等部の頃からの顔見知り。昔からサバサバした竹を割ったような性格で、田山とつるんでいると何かと構われるというかイチャモンをつけられていた。おかげで名前と顔だけは覚えている。

...高澤晶たかざわあきら。この男女め。

俺は彼女に対してだけは無関心ではいられず、つい感情的になってしまう。互いにいけ好かない存在だと同じ気持ちでいることだろう。

「だから、毒舌王子って言われるのよ!!あっかんべー」

子供じみた捨て台詞を吐きながら教室を出る彼女の後ろ姿に舌打ちする俺。そんなやり取りをずっと見てきた田山と吉岡は呆れ顔だった。

「お前ら相変わらず...仲、悪いな」

「は?あっちがふっかけてきたんだろ」と分かりやすく不貞腐れる。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

処理中です...