社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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【spin-off】bittersweet first love

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「何だよ、2人してバカにしやがって。吉岡はともかく藤澤まで!」

「仕方ないだろ。お前だけだもん、DTドーテーは」

「くそぉ」

痛い所を突かれた田山はぐうの音も出ず、テーブルを拳で小突く。女子の話は大好きな彼も経験を問われると吉岡には勝てないうえにまさか俺までとは思いもよらなかったのだろう。俺的にはこの手の話はどちらかというとあまり好きではないので話題を変えたかったのだが、田山はよほど悔しかったのか、それともただの興味本意なのか。しつこく掘り下げてきた。

「...藤澤は何で彼女作らないのさ?そういう事はちゃっかりする癖に」

ズズーッと音を立ててアイスコーヒーを飲む田山のわりになかなか鋭い。普通はこういう事は聞きづらいと思うのだが、それは昔からの旧友であるが故ズケズケと土足で切り込む。それは吉岡も同じく。

「そうだよなぁ。普通は俺みたいに彼女とか大半だし。もしかして藤澤って女なら誰でもいいのか?」

吉岡は極論すぎる。俺は好みはどうでもいいわけでなく、今は誰かと付き合いたいと思わないだけだ。

「違う。そうではなくて...」

その誤解だけは解こうとすると田山が嬉々として促す。

「じゃあさ、パッと頭に浮かぶ女子っている??」

...頭に浮かぶ女子?

弁解を忘れ田山に言われるままに考えると、確かにいた。だが、それは自分が思い描く彼女像と全くかけ離れている気がする。俺がしばし頬杖をついて悩むと勘のいい田山はすかさず。

「あー、やっぱり気になっている女子いるんじゃん!!ねー、誰よ?誰??」

さっきまで俺たちに散々からかわれていたので今度は鬼の首を取ったかのようにの給う。

「うるせーな」

こいつだけには言うまいと思ったのだが、次第に吉岡も興味を示し始めて2人がかりで責められ観念した。

「たか...ざわ...」

「え!?藤澤って高澤がタイプだったの!!?」

田山が色めきだつと、予想通りの展開だったので呆れる。

「違うわ、最後まで聞け!中等部の時、高澤の後ろに良くいた...ほら!」

女子に関心のない俺と違い、ここまで言うと女子と仲の良い田山はすぐに。

「藤澤って倉科がタイプだったの!!?」

大騒ぎする田山を尻目に名前が思い出せなかった俺は「そうそう」と適当に相槌を打つと吉岡は意外だなぁと首を傾げる。

「意外か?」

「ああ。藤澤の性格からいってああいう正統派が好きとは、ね」

...こいつ、意外と鋭いんだよな。

名前も知らなかった彼女がタイプ、なわけがない。本当の所を言うと頭に浮かんだのは高澤だった。その事を自分で認めたくなく、たまたま覚えていた彼女をカモフラージュに使ったのだ。

...高澤彼女がタイプなわけあるか!あんな男女。

普段のインパクトが強いからすぐに思い出してしまっただけだろう。そう自分で自己分析していると、徐ろに田山がリュックから一枚の紙を取り出した。

この紙は同じクラスである俺も吉岡も貰っていた進路志望調査票。今、俺たちは高校3年で2年の頃からこのプリントは提出しているので今更感はある。それにうちは大学付属なので受験なしの内部調査に近かった。

「何度も同じこと書くのかったりーよな。俺と吉岡は経済、商学だろ?藤澤は理工...」

田山の言う通り2年時までの俺の希望は理工学部で、院まで行って将来は研究職に就きたいという事は周知の事実。成績は内部推薦のラインを超えていたのだが。

「...俺、うちの理工には行くのやめるわ」

「は??」

突然の宣言に言葉を失う田山たち。

「藤澤、正気か?」

「ああ」

うちの大学はそれなりに難関大学に位置しており一般の大学受験は難しい。その一般の受験を回避しエスカレーターで入学するためにわざわざ付属校に入学しているというのに、その有利な立場を放棄すると俺は宣言したのだ。彼らは口を合わせて「勿体無い」と言う。それでも。

「師事したい教授がいる」

たまたま高2の冬にある講演会に参加し、ある教授の講演に深く感銘を受けた。それだけの出来事が俺に進路変更をさせた。だが、教授は国公立大学に在籍されているので、受験は私立大と違い科目の多いセンター入試という大きな壁が立ちはだかる。内部推薦を蹴り、果たして一般の受験生に太刀打ちできるのか?

私立大学付属校という温室の中で勉強してきた俺には勝算がないように思えたが、後悔はしたくなかった。
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