175 / 199
【spin-off】bittersweet first love
15
しおりを挟む
それから数ヶ月後、俺は大学生になり念願の一人暮らしを始める。
学生生活は理系学部の為か課題レポートなどで意外と多忙で、女子大に進学してサークルに入ったばかりの倉科とはスケジュールがかみ合わない。そのせいかめっきり会う機会が減っていた。それでも、付き合いが切れなかったのは程のいい『女性除け』になったからだ。細々でも彼女と会っている既成事実は女性関係に煩わされたくない俺にとって実に都合が良い。
...別に倉科と別れてでも付き合いたい女性がいる訳でもないし。
事実、自分から会いたいなんて女性は今の所皆無で、忙しさにかまけて倉科と会う時間が減りつつある状況はますますうってつけ。だが、俺の性格を俺以上に知り尽くしている田山がその関係に異を唱える。
「もう、倉科と別れちゃえば?」
「...何を今更」
約束もなしに俺のマンションに来て酒を飲んでいる田山には慣れた。田山はアルコールに少々弱いらしく、もう既に顔が赤くなっている。そのせいでいつもより踏み込んだ事を言われるのは無礼講だと思うが、人の恋愛観にまで口出しされる覚えはない。ジロリと睨みつけると田山と同様覚えたてのビールを煽る。俺の方はアルコールに強い体質なので、至って素面。聞き逃せるほど酔ってはいなかった。
「良いだろ、別に。高校時代にやたらと誰かに会わされるより今の方が全然マシ」
思い起こすと倉科は俺を友達に彼氏として良く紹介しようとしていた。そのおかげですぐに周知の事実となり、挙句の果てに高校の卒業式まで迎えに来いで、女子高の校門前での待ち合わせは晒し者扱いだった。
...でも、あの日は久々に高澤と会ったんだよな。
卒業式の後、卒業生らしき女生徒が校門を通りすぎたり、記念撮影をしたりしているを暇つぶしに眺めていたら、その中の1人が高澤だった。でも、人目があるから交わした言葉はたった一言。
「御守りのおかげで志望校受かったよ。ありがとう」
「...どういたしまして」
本当に他人行儀な会話だったが、今でもその時の情景はハッキリと覚えており、思い出すと飲んでいるビールが不思議と苦い。その苦いビールを口に含み感傷に耽っていると、田山がツマミのチキンを手に取りながら水を差す。
「...でさあ、来週の土曜日、暇??」
「は?」
どういう脈絡でそこにつながる?と疑問を呈すと聞いてくれよーと己の恋愛話を始めた。どうやら田山の恋愛に関係しているようだ。俺の知る限り、田山は比較的暇な文系に在籍し、入学早々サークルに入った。それはもちろん彼女作りの行動で、最近これはという出会いがあったらしい。
「...その天使ちゃんが!」
「天使ちゃん??」
聞きなれない単語に聞き返すと、看護学部の生徒だから『白衣の天使』で『天使ちゃん』と言う田山の隠語。その彼女について出会いから滔々と聞かされた。そこからようやくデートにこぎつけたのだが、2人で会うよりもう1人誰かを連れてならOKということらしい。そのダブルデートとやらに俺を巻き添えにしようとしているらしいが。
「断る。彼女いるし」
「そんなこと言ったって、もうOKしちゃった」
「そのもう1人の相手に悪いだろ?別のやつに当たれよ」
「...でも、倉科とはもう破局寸前じゃん」
本当のところを指摘され、ピクッと眉が引きつる。付き合いの長い田山はその図星をズケズケとつくことに容赦しなかった。
「...実際の藤澤の女性関係って倉科と高澤だけでつまんないよな。たまには他に目を向けたら?破局寸前の彼女に義理立てしたって仕方ないし。倉科だって他所で宜しくやってるよ、きっと」
確かに今の倉科に別の男の影が見え隠れしているのは事実だ。それならこちらから解放してあげる方が良いのかと、思えた。
「...そうかもな」
「そうそう」
チキンの油をお手拭きで拭いている田山の良いなりになるのは癪だったが、いつもこんな風に乗せられて彼の思う方向に事が進む。それが分かっていても嫌な気が全くしないのは、彼の人懐っこい人柄のせいだ。
学生生活は理系学部の為か課題レポートなどで意外と多忙で、女子大に進学してサークルに入ったばかりの倉科とはスケジュールがかみ合わない。そのせいかめっきり会う機会が減っていた。それでも、付き合いが切れなかったのは程のいい『女性除け』になったからだ。細々でも彼女と会っている既成事実は女性関係に煩わされたくない俺にとって実に都合が良い。
...別に倉科と別れてでも付き合いたい女性がいる訳でもないし。
事実、自分から会いたいなんて女性は今の所皆無で、忙しさにかまけて倉科と会う時間が減りつつある状況はますますうってつけ。だが、俺の性格を俺以上に知り尽くしている田山がその関係に異を唱える。
「もう、倉科と別れちゃえば?」
「...何を今更」
約束もなしに俺のマンションに来て酒を飲んでいる田山には慣れた。田山はアルコールに少々弱いらしく、もう既に顔が赤くなっている。そのせいでいつもより踏み込んだ事を言われるのは無礼講だと思うが、人の恋愛観にまで口出しされる覚えはない。ジロリと睨みつけると田山と同様覚えたてのビールを煽る。俺の方はアルコールに強い体質なので、至って素面。聞き逃せるほど酔ってはいなかった。
「良いだろ、別に。高校時代にやたらと誰かに会わされるより今の方が全然マシ」
思い起こすと倉科は俺を友達に彼氏として良く紹介しようとしていた。そのおかげですぐに周知の事実となり、挙句の果てに高校の卒業式まで迎えに来いで、女子高の校門前での待ち合わせは晒し者扱いだった。
...でも、あの日は久々に高澤と会ったんだよな。
卒業式の後、卒業生らしき女生徒が校門を通りすぎたり、記念撮影をしたりしているを暇つぶしに眺めていたら、その中の1人が高澤だった。でも、人目があるから交わした言葉はたった一言。
「御守りのおかげで志望校受かったよ。ありがとう」
「...どういたしまして」
本当に他人行儀な会話だったが、今でもその時の情景はハッキリと覚えており、思い出すと飲んでいるビールが不思議と苦い。その苦いビールを口に含み感傷に耽っていると、田山がツマミのチキンを手に取りながら水を差す。
「...でさあ、来週の土曜日、暇??」
「は?」
どういう脈絡でそこにつながる?と疑問を呈すと聞いてくれよーと己の恋愛話を始めた。どうやら田山の恋愛に関係しているようだ。俺の知る限り、田山は比較的暇な文系に在籍し、入学早々サークルに入った。それはもちろん彼女作りの行動で、最近これはという出会いがあったらしい。
「...その天使ちゃんが!」
「天使ちゃん??」
聞きなれない単語に聞き返すと、看護学部の生徒だから『白衣の天使』で『天使ちゃん』と言う田山の隠語。その彼女について出会いから滔々と聞かされた。そこからようやくデートにこぎつけたのだが、2人で会うよりもう1人誰かを連れてならOKということらしい。そのダブルデートとやらに俺を巻き添えにしようとしているらしいが。
「断る。彼女いるし」
「そんなこと言ったって、もうOKしちゃった」
「そのもう1人の相手に悪いだろ?別のやつに当たれよ」
「...でも、倉科とはもう破局寸前じゃん」
本当のところを指摘され、ピクッと眉が引きつる。付き合いの長い田山はその図星をズケズケとつくことに容赦しなかった。
「...実際の藤澤の女性関係って倉科と高澤だけでつまんないよな。たまには他に目を向けたら?破局寸前の彼女に義理立てしたって仕方ないし。倉科だって他所で宜しくやってるよ、きっと」
確かに今の倉科に別の男の影が見え隠れしているのは事実だ。それならこちらから解放してあげる方が良いのかと、思えた。
「...そうかもな」
「そうそう」
チキンの油をお手拭きで拭いている田山の良いなりになるのは癪だったが、いつもこんな風に乗せられて彼の思う方向に事が進む。それが分かっていても嫌な気が全くしないのは、彼の人懐っこい人柄のせいだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる