社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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42.Bask in the afterglow②

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「...マズイよなぁ」

藤澤さんのため息のよう呟きが頭の上から聞こえる。
それからゆっくり身体を離されたけれど、私が名残惜しそうにしていたように見えたのか、膝の上に置いている手には彼の手が重ねられていた。

...もう、帰らないと。

自分からアクションを起こすべきか悩んでいると、彼がさっきとは違うテンションで。

「...そういえば、なんでわざわざ空港まで来てくれたの?嬉しかったけど」

私が最初に話した「クリスマスだから」という一見もっともらしい言葉を聡明な彼が鵜呑みにするわけがなかった。
キャンセルを聞いた私は、会えないことをすごく怒っていたのだから。

「あ...、その....」

分かりやすく言葉に詰まってしまうと、ずっと、重ねられていた彼の手が私の手をギュッと握り込む。そして、穏やかな笑顔と素敵な声で優しく促す。

「怒らないから、理由を言ってごらん?」

未だに彼に片想いしているような気持ちのある私は、この笑顔に耐性がなかった。
ざっくりだけれど更衣室でのことを話してしまうと、藤澤さんは話を聞いていささか拍子抜けしている。

「なんだ、そんなこと。それなら優里は少しも気にしなくていいよ」

「そんな....。私は藤澤さんが悪く思われるのは嫌です。こんなに、優しいのに」

「いや、以前にも話したと思うけど、俺は女子社員に評判悪いのは自分でも知っているから」

「でも...やっぱり...」

彼がこんな風に投げやりに自分のことを諦めるのを見たのは初めてだった。
それが痛々しく見えたのは気のせいじゃないと思う。

「藤澤さんがずっと誤解されているのは辛いです。だから、私と同じように他の人にも...優しく」

この言葉に彼の表情が硬くなった。さっきまでの穏やかな表情が消え、唇を結び不満気な表情を露わにする。

「...ねぇ、考えてごらん?自分以外の女性に彼氏が優しくするなんておかしいでしょ?俺はユリ以外の子に優しくしたいなんてこれっぽっちも思っていないから」

「...そんな」

自分の言っていることが正しいのか、藤澤さんが言っていることが正しいのか、こうなってくるとワケが分からなくなり、お互いの気持ちが平行線を辿る。彼も私も言葉が出ずに、私は顔を見れなくて俯く。

...怒らせるつもりじゃ。

暫くすると、彼のため息も聞こえてきて、余計な事を言ってしまった後悔でウルっとくる。それが本格的な涙になり、肩が揺れ始める。

「...ひくっ....うぅ...」

「...優里?」

名前を呼ばれても、私は涙を必死で拭い彼の顔がまともに見れない。それで泣き顔を隠そうとすると、力強く手首を掴まれ、顔をあげさせられてしまう。彼も傷ついた表情をしていた。

「頼むから...もう、泣かないで」

謝るように言われ、さっきと同じように彼の腕の中に閉じ込められる。
それもしっかりと。
背中に回された手は、泣いている子供をあやすみたいに優しく撫でてくれた。

「本当に頼むから。優里に泣かれるときつい。どうしていいか、分からなくなる」

そう辛そうに話す言葉に、胸がチクンと痛み、無理やり涙を止めにかかる。
彼の顔を見て話すために身を捩ると、すんなりその腕から解放された。

「藤澤さん、ごめんなさい...ひどい事を」

私が謝ろうとすると、藤澤さんは顔を横に振りその言葉を遮る。

「こっちこそ、ごめん。もう、この話は無しにしよう。優里の言いたいことは、充分、分かったから」

涙で濡れてしまった私の頬に仲直りと軽くキスをしてくれ、私はそれに従うかのように頷いた。

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