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43.Bask in the afterglow③
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クリスマスイブから程なくして。
今日は生体標本運びではなく、ただの資材運び。
それでも、行き先は研究所の方だった。
プロジェクトが終わっても、田山さんからは何かと研究所への用事を頼まれる。
私が二つ返事で分かりやすく喜んでしまうのがバレているのかなと思う今日この頃。
相変わらず、藤澤さんはあっち行ったりこっち行ったりで忙しいみたいだけれど、偶然でも良いから見かけられたらなって思っている。
そんなわけで本日私が両手を広げ抱えているのは、大きな段ボール一箱。
持ちづらいので紙袋はその上に置いて、歩くのがヨタヨタしていた。
「今日はまた一段と大きいもの持ってますね」
「あ...」
私に声をかけながら肩を突っつく人は藤澤さんしかいないと分かりきっているからこそ、顔がにやけそうなのを必死で抑える。
「こ、こんにちは」
声の方を向いて、挨拶すると予想通りの彼がニッコリ。さりげなく私の荷物を覗き込む。
「こんにちは。それもうちへ持っていく荷物ですか?」
「は、はい...まあ」
彼と話していくうちに、つい、口元に視線がいってしまう。
その唇とキスした事が思い出されて、顔が熱くなる。
そんな私とは対照的に藤澤さんはポーカーフェースというか、至って普通だった。
私と付き合っている事を感じさせない距離感を保ちつつも、私が持っている荷物をみながら、軽く憤慨してくれた。
「本当、田山のやつ。全く、人使いの荒い嫌な上司だな。女性にこんな大きな荷物を持たせるなんて」
「...いえ、そんな。田山さんは優しくて尊敬できる上司ですから」
お友達だからこそ言える文句の言い方が可愛い。
私が上司批判になりそうな事をやんわり否定すると、少し気持ち拗ねた所も。
それでも、優しい事には変わりない。
「段ボールの方を持ちますよ」
「そ、そんな。いいです!いいです!!」
私の頑なな遠慮に藤澤さんは苦笑い。それでもって周りに聞こえない声でコソッと。
「...その、段ボールの上の軽い紙袋持って一緒に歩いてくれたら、疑われずに話せると思うのですが」
「あ...」
彼の真意は荷物を持って歩きながら私と自然な感じで話すことだと気がつき、言われた通りに大きな段ボールの方を渡して、私は紙袋を1つ持った。
それから、彼は段ボールを持ち上げた後、珍しくキョロキョロしてほんの少しだけ私に近づいて耳打ちする。
「...そのピアスしてくれたんだね。似合ってるよ。可愛い」
今日は彼からもらったピアスをしていた。いきなり、そんな事を言うのはずるい。
気がついていないと思ったのに...。
でも、ここは職場で人の目もあるから何事もなかったようにしなければいけないのが辛いところ。顔の火照りを感じながらも、進行方向をなるべく見ながら彼と敬語で仕事の話を頑張った。
ただ、よくよく考えてみれば私に合わせての2人の歩みは相当遅いので、私たち話している内容はそんなに分からなかったと思う。
「あれから、少し考えたんですけどね」
「...はい」
てっきり、仕事がらみの話かと思って返事してしまうと、違っていて。
「俺が思い上がっていたのだと思います。それを三浦さんに言われるまで気がつきませんでした」
「え?」
ここでようやく彼の話が先日のクリスマスイブの時の話だと気がつき、思わず、彼の方を見てしまう。藤澤さんは私に見られている事を知った上で、ずっと前を見ながら話しを続ける。
「だから、三浦さんの言われた通りにしてみたいと思います。ただ、いきなりは無理なので、少しづつ、変えていく努力をするということになりますが。...それでいいですか?」
それでも、最後だけは許しを請うみたいに私の方を見て話した。
その事は終わったはずと思っていたので、彼の方でちゃんと考えてくれた事が何よりも嬉しい。私の方こそ大人気ない事をしてしまったと反省すべきだった。
「...はい、それで充分です。こちらの方こそ生意気なことを言ってすみませんでした」
「どうして?三浦さんは正論を言っただけだから、謝る必要はありませんよ」
なんでこんなに優しいのに、他の人にはわかってもらえないんだろう?
笑いながら優しく話す藤澤さんの笑顔が私には眩しかった。
「ただ、これだけは覚えていてください。俺が本当に優しくしたいのは三浦ユリさんだけです。だから、君から優しくしようと、敢えてキッカケを作りました」
本当、ナチュラルに言われてしまうと、なんて返していいのやら。
...こういう時の返し方を誰か教えて下さい。
そんな事を言われると、私がますます普通の態度が取れなくなるのをわかって言っているのかと勘ぐりたくなるくらい甘い言葉を彼は平気で言ってくる。
今日は生体標本運びではなく、ただの資材運び。
それでも、行き先は研究所の方だった。
プロジェクトが終わっても、田山さんからは何かと研究所への用事を頼まれる。
私が二つ返事で分かりやすく喜んでしまうのがバレているのかなと思う今日この頃。
相変わらず、藤澤さんはあっち行ったりこっち行ったりで忙しいみたいだけれど、偶然でも良いから見かけられたらなって思っている。
そんなわけで本日私が両手を広げ抱えているのは、大きな段ボール一箱。
持ちづらいので紙袋はその上に置いて、歩くのがヨタヨタしていた。
「今日はまた一段と大きいもの持ってますね」
「あ...」
私に声をかけながら肩を突っつく人は藤澤さんしかいないと分かりきっているからこそ、顔がにやけそうなのを必死で抑える。
「こ、こんにちは」
声の方を向いて、挨拶すると予想通りの彼がニッコリ。さりげなく私の荷物を覗き込む。
「こんにちは。それもうちへ持っていく荷物ですか?」
「は、はい...まあ」
彼と話していくうちに、つい、口元に視線がいってしまう。
その唇とキスした事が思い出されて、顔が熱くなる。
そんな私とは対照的に藤澤さんはポーカーフェースというか、至って普通だった。
私と付き合っている事を感じさせない距離感を保ちつつも、私が持っている荷物をみながら、軽く憤慨してくれた。
「本当、田山のやつ。全く、人使いの荒い嫌な上司だな。女性にこんな大きな荷物を持たせるなんて」
「...いえ、そんな。田山さんは優しくて尊敬できる上司ですから」
お友達だからこそ言える文句の言い方が可愛い。
私が上司批判になりそうな事をやんわり否定すると、少し気持ち拗ねた所も。
それでも、優しい事には変わりない。
「段ボールの方を持ちますよ」
「そ、そんな。いいです!いいです!!」
私の頑なな遠慮に藤澤さんは苦笑い。それでもって周りに聞こえない声でコソッと。
「...その、段ボールの上の軽い紙袋持って一緒に歩いてくれたら、疑われずに話せると思うのですが」
「あ...」
彼の真意は荷物を持って歩きながら私と自然な感じで話すことだと気がつき、言われた通りに大きな段ボールの方を渡して、私は紙袋を1つ持った。
それから、彼は段ボールを持ち上げた後、珍しくキョロキョロしてほんの少しだけ私に近づいて耳打ちする。
「...そのピアスしてくれたんだね。似合ってるよ。可愛い」
今日は彼からもらったピアスをしていた。いきなり、そんな事を言うのはずるい。
気がついていないと思ったのに...。
でも、ここは職場で人の目もあるから何事もなかったようにしなければいけないのが辛いところ。顔の火照りを感じながらも、進行方向をなるべく見ながら彼と敬語で仕事の話を頑張った。
ただ、よくよく考えてみれば私に合わせての2人の歩みは相当遅いので、私たち話している内容はそんなに分からなかったと思う。
「あれから、少し考えたんですけどね」
「...はい」
てっきり、仕事がらみの話かと思って返事してしまうと、違っていて。
「俺が思い上がっていたのだと思います。それを三浦さんに言われるまで気がつきませんでした」
「え?」
ここでようやく彼の話が先日のクリスマスイブの時の話だと気がつき、思わず、彼の方を見てしまう。藤澤さんは私に見られている事を知った上で、ずっと前を見ながら話しを続ける。
「だから、三浦さんの言われた通りにしてみたいと思います。ただ、いきなりは無理なので、少しづつ、変えていく努力をするということになりますが。...それでいいですか?」
それでも、最後だけは許しを請うみたいに私の方を見て話した。
その事は終わったはずと思っていたので、彼の方でちゃんと考えてくれた事が何よりも嬉しい。私の方こそ大人気ない事をしてしまったと反省すべきだった。
「...はい、それで充分です。こちらの方こそ生意気なことを言ってすみませんでした」
「どうして?三浦さんは正論を言っただけだから、謝る必要はありませんよ」
なんでこんなに優しいのに、他の人にはわかってもらえないんだろう?
笑いながら優しく話す藤澤さんの笑顔が私には眩しかった。
「ただ、これだけは覚えていてください。俺が本当に優しくしたいのは三浦ユリさんだけです。だから、君から優しくしようと、敢えてキッカケを作りました」
本当、ナチュラルに言われてしまうと、なんて返していいのやら。
...こういう時の返し方を誰か教えて下さい。
そんな事を言われると、私がますます普通の態度が取れなくなるのをわかって言っているのかと勘ぐりたくなるくらい甘い言葉を彼は平気で言ってくる。
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