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45.デートしませう。①
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12月29日、年内の営業最終日。
事前に話を聞いていた通り、納会というのは会社での飲み会みたいなもので、私は新入社員ということもあり、ビールをいろんな人に注いで回った。
でも、少し経つと帰る人も出てきて、その中に紛れて抜け出ることに成功。
駆け込んだ女子トイレで早速お化粧直しをしていたら、同期の美波ちゃんに声をかけられた。
「優里も抜け出してたんだ。この後まっすぐ帰るの?」
彼女もお化粧ポーチを持っているから、同じく帰宅組っぽい。
「ちょっとデパートで寄り道...かな」
少し禿げてしまった口紅を鏡に向かって塗り直しながら、うまい言い訳が思い浮かばなかった。
「なんだ、お化粧直しをしているからデートかと思っちゃった」
...す、鋭い。
それにはドキッとしたものの、彼女はマスカラ塗りに気を取られている。そのおかげで、それ以上は何も聞かれずそこで別れた。
ただ、帰り際にふと思ってしまったのは本当のことを言えない後ろめたさ。
彼が以前に話していたのはこういうことだったのかと感じる。
...正直に話せなくて、ごめんね。
密かに謝りながら、会社を後にする。
※※※
地下鉄に乗りながら早く到着しないとと気持ちだけは焦ったけれど、その間もメイクは崩れていないかと心配になる。私は普段からナチュラルメイクだから、お化粧している感じが殆どしない。だから、彼の目に自分がどんな風に映っているのか気になり、地下鉄の窓ガラスに映り込む自分の顔をじっと眺めた。
相変わらず地味な顔と思いつつ、途中のコンビニに寄ってもう少し何かを加えようかとかいろいろ考えていたら、もう約束の時間近く。
どこかに寄るのは諦め、慌てて地下鉄のホームから階段を駆け上がると、藤澤さんからのメールが届いていた。
『こっちは着いた。いけふくろうの近くで待ってるよ』
【いけふくろう】とは待ち合わせの銅像の名前。
彼はここら辺には土地勘がないということだったので、この場所は私が指定した。
それでも、藤澤さんが【いけふくろう】という単語を使うのが少し可愛いく思えて、クスリとしてしまったけれど、スマホの時刻表示を確認して再び焦ってしまう。
...もう着いてるの!?
会社帰りの初デートなのに遅刻?と思ってしまったけれど、まだ15分前。
遅刻じゃないけれども、彼より遅くなるなんてなんて恥ずかしいと思いながら銅像が見える位置まで行くと、待ち合わせピッタリくらいに到着。
...と、とりあえずセーフ?
息を落ち着かせたところで、遠巻きに彼を見つける。
彼は連絡をくれた通り一足早く着いていており、今日の彼はブラックのステンカラーコートに、グレーのマフラーの装い。
背が高くスタイルのいい彼には、とてもよく似合っていて、いつもの白衣姿が全く想像つかない仕事帰りのビジネスマンにしか見えなかった。普通にブリーフケースを持って立っているだけなのにその長身からくりなす見栄え抜群の外見のせいで、人目をひいているのが、よく分かる。
人知れずの女性からの視線も本人よりも私の方が感じてしまっていた。
そのおかげで私も彼の姿はすんなり確認できたのだから。それでも...。
「...自分から声かけられない」
私は一旦、駅の柱の影に隠れ大きく深呼吸。
自分の中でさあっと勢い付けて彼の元へ歩み寄ろうとすると、自然と歩みが止まる。
知っている...人?
自分よりも華やかな感じの女性と話している藤澤さんを見て、躊躇した。
2人の様子とかけ離れた、自分の服装を省みるなり、平凡さに気がひけてしまう。
彼を待たせているのは自分のはずなのに、このまま帰ってしまおうかというくらい彼には自分が不釣り合いのような気がしてならなかった。
でも、帰りたくもない自分もいてその場でまごついていたら。
「優里」
彼の方からこちらに駆け寄ってきてくれた。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です...」
彼の方から声をかけてくれたというのに、顔がまっすぐ見られなくて視線を逸らしてしまう。すると、彼は何かを察した。
「...何か気になることでもあった?」
「そんなことない...です...けど」
図星をつかれたせいか、つい、頬を膨らませてしまう。すると、彼の人差し指が私の頬を突っついてきたので、思わず彼の方に顔を向けてしまうと、彼は満面の笑みだった。
「どうだろうね。もしかして、さっきの人が気になったの?」
今度は頬ではなく耳元のピアスを指で弄ばれて、これにはくすぐったくなりもじもじする。
「もう...今日の藤澤さんはいじわるです。さっきの人は少し気になりましたけれど...。それよりも私ばっかり...好きみたいでズルい...です」
俯きながらも、本音もポロリと口をつく。こんな事を言うつもりはなかった。
でも、その言葉を聞いた途端、私を触れていた指が止まり、彼は少しばつが悪そうな顔をする。
「...ごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎた。さっきの人にはたまたま道を聞かれただけだから。それに...好きなのはユリだけじゃないと思うよ。その証拠に、ほら見てごらん」
私の見てる前でマフラーの前の部分をはだけさせ、コートボタンを幾つか外し、ある部分を見せる。そこからのぞいた場所はスーツの前の部分でちょうどネクタイが見えるところ。そのネクタイに大いに見覚えのあった私は。
「...それ、プレゼントしたネクタイですか?」
「もちろん。優里に見せようと思って、今日、初めてつけてきた。どう、似合ってる?」
「はい!とっても、とっても!」
さっきまでのふくれっ面がどこへやら。
嬉しくなりものすごい勢いで頭を上下させてしまった私を見て、彼は口元を手で隠しながら目を細め、それから、徐ろに手を私の目の前に差し出した。
「それに、今日は初デートってことなので」
自然な流れで差し出された彼の手が不思議だった。
これには意味が分からず彼の手を眺めながら首を傾げてキョトンとしてしまうと、さっきとは違い困った顔をされ、確認するみたいにコホンと彼は咳払い。
「ここは人も多いから、手を繋いで歩きたいのですが」
言われてハッとして手を出すと、あっという間に大きな手は私の手を包み、指を絡めてきての俗にいう『恋人繋ぎ』の完成。そして。
「...そのピアス今日もしてくれたんだ。嬉しいな。とても似合うよ、可愛い」
そっと耳元でちゃんと褒めてくれるあたり、今日の藤澤さんはいつも以上に甘めな恋人モード。こういう扱いに全く慣れていない私は、彼の些細な言動1つ1つに嬉しいやら、照れるやらでなんて忙しい...。
事前に話を聞いていた通り、納会というのは会社での飲み会みたいなもので、私は新入社員ということもあり、ビールをいろんな人に注いで回った。
でも、少し経つと帰る人も出てきて、その中に紛れて抜け出ることに成功。
駆け込んだ女子トイレで早速お化粧直しをしていたら、同期の美波ちゃんに声をかけられた。
「優里も抜け出してたんだ。この後まっすぐ帰るの?」
彼女もお化粧ポーチを持っているから、同じく帰宅組っぽい。
「ちょっとデパートで寄り道...かな」
少し禿げてしまった口紅を鏡に向かって塗り直しながら、うまい言い訳が思い浮かばなかった。
「なんだ、お化粧直しをしているからデートかと思っちゃった」
...す、鋭い。
それにはドキッとしたものの、彼女はマスカラ塗りに気を取られている。そのおかげで、それ以上は何も聞かれずそこで別れた。
ただ、帰り際にふと思ってしまったのは本当のことを言えない後ろめたさ。
彼が以前に話していたのはこういうことだったのかと感じる。
...正直に話せなくて、ごめんね。
密かに謝りながら、会社を後にする。
※※※
地下鉄に乗りながら早く到着しないとと気持ちだけは焦ったけれど、その間もメイクは崩れていないかと心配になる。私は普段からナチュラルメイクだから、お化粧している感じが殆どしない。だから、彼の目に自分がどんな風に映っているのか気になり、地下鉄の窓ガラスに映り込む自分の顔をじっと眺めた。
相変わらず地味な顔と思いつつ、途中のコンビニに寄ってもう少し何かを加えようかとかいろいろ考えていたら、もう約束の時間近く。
どこかに寄るのは諦め、慌てて地下鉄のホームから階段を駆け上がると、藤澤さんからのメールが届いていた。
『こっちは着いた。いけふくろうの近くで待ってるよ』
【いけふくろう】とは待ち合わせの銅像の名前。
彼はここら辺には土地勘がないということだったので、この場所は私が指定した。
それでも、藤澤さんが【いけふくろう】という単語を使うのが少し可愛いく思えて、クスリとしてしまったけれど、スマホの時刻表示を確認して再び焦ってしまう。
...もう着いてるの!?
会社帰りの初デートなのに遅刻?と思ってしまったけれど、まだ15分前。
遅刻じゃないけれども、彼より遅くなるなんてなんて恥ずかしいと思いながら銅像が見える位置まで行くと、待ち合わせピッタリくらいに到着。
...と、とりあえずセーフ?
息を落ち着かせたところで、遠巻きに彼を見つける。
彼は連絡をくれた通り一足早く着いていており、今日の彼はブラックのステンカラーコートに、グレーのマフラーの装い。
背が高くスタイルのいい彼には、とてもよく似合っていて、いつもの白衣姿が全く想像つかない仕事帰りのビジネスマンにしか見えなかった。普通にブリーフケースを持って立っているだけなのにその長身からくりなす見栄え抜群の外見のせいで、人目をひいているのが、よく分かる。
人知れずの女性からの視線も本人よりも私の方が感じてしまっていた。
そのおかげで私も彼の姿はすんなり確認できたのだから。それでも...。
「...自分から声かけられない」
私は一旦、駅の柱の影に隠れ大きく深呼吸。
自分の中でさあっと勢い付けて彼の元へ歩み寄ろうとすると、自然と歩みが止まる。
知っている...人?
自分よりも華やかな感じの女性と話している藤澤さんを見て、躊躇した。
2人の様子とかけ離れた、自分の服装を省みるなり、平凡さに気がひけてしまう。
彼を待たせているのは自分のはずなのに、このまま帰ってしまおうかというくらい彼には自分が不釣り合いのような気がしてならなかった。
でも、帰りたくもない自分もいてその場でまごついていたら。
「優里」
彼の方からこちらに駆け寄ってきてくれた。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です...」
彼の方から声をかけてくれたというのに、顔がまっすぐ見られなくて視線を逸らしてしまう。すると、彼は何かを察した。
「...何か気になることでもあった?」
「そんなことない...です...けど」
図星をつかれたせいか、つい、頬を膨らませてしまう。すると、彼の人差し指が私の頬を突っついてきたので、思わず彼の方に顔を向けてしまうと、彼は満面の笑みだった。
「どうだろうね。もしかして、さっきの人が気になったの?」
今度は頬ではなく耳元のピアスを指で弄ばれて、これにはくすぐったくなりもじもじする。
「もう...今日の藤澤さんはいじわるです。さっきの人は少し気になりましたけれど...。それよりも私ばっかり...好きみたいでズルい...です」
俯きながらも、本音もポロリと口をつく。こんな事を言うつもりはなかった。
でも、その言葉を聞いた途端、私を触れていた指が止まり、彼は少しばつが悪そうな顔をする。
「...ごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎた。さっきの人にはたまたま道を聞かれただけだから。それに...好きなのはユリだけじゃないと思うよ。その証拠に、ほら見てごらん」
私の見てる前でマフラーの前の部分をはだけさせ、コートボタンを幾つか外し、ある部分を見せる。そこからのぞいた場所はスーツの前の部分でちょうどネクタイが見えるところ。そのネクタイに大いに見覚えのあった私は。
「...それ、プレゼントしたネクタイですか?」
「もちろん。優里に見せようと思って、今日、初めてつけてきた。どう、似合ってる?」
「はい!とっても、とっても!」
さっきまでのふくれっ面がどこへやら。
嬉しくなりものすごい勢いで頭を上下させてしまった私を見て、彼は口元を手で隠しながら目を細め、それから、徐ろに手を私の目の前に差し出した。
「それに、今日は初デートってことなので」
自然な流れで差し出された彼の手が不思議だった。
これには意味が分からず彼の手を眺めながら首を傾げてキョトンとしてしまうと、さっきとは違い困った顔をされ、確認するみたいにコホンと彼は咳払い。
「ここは人も多いから、手を繋いで歩きたいのですが」
言われてハッとして手を出すと、あっという間に大きな手は私の手を包み、指を絡めてきての俗にいう『恋人繋ぎ』の完成。そして。
「...そのピアス今日もしてくれたんだ。嬉しいな。とても似合うよ、可愛い」
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