社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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47.デートしませう。③

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エレベーターを降りた途端、室内が薄暗く設定されていたみたいで遠目でも見える煌びやかな雰囲気に、初めて来た私は大興奮。よくよく見ると建物の外周一面がガラス張りになっており、そのヘリに人が立てると分かったので、繋がれた手はそのままにここでは私が彼をリードした。

「藤澤さん、あそこ空いてます」

今夜の展望台は運良く人が少なかったので、ちょうど空いていた大きな窓ガラスの一面にへばりつくように、立つことができて。この高さから見える夜景は、高層ビル群、幹線道路を走る車などの都心特有のパーツが複雑に絡み合い、様々な光を演出していた。そのロマンチックさに思わず感嘆の声をあげる。

「...わ、すごい!高いところから見る夜景って、キラキラで華やかなんですね」

「そうだね。こんな高いところから夜景を見るのはなかなか無いから、迫力はある」

来たことがある藤澤さんでさえ、息を飲んでしまうほどの煌びやかで幻想的な空間。
流石、地上60階と銘打っているだけのことはあった。
特に室内の照明は極力落としてあるようだから、夜景の明るさが際立つ。

「そんなに喜んでくれるなら、もっと早く来るべきだったね」

「いや、そんな...」

彼が思った以上にの夜景に関心を持ってくれて、誘った方としては嬉しいことこのうえない。それに今夜の夜景が綺麗に私の瞳に映る理由は多分。

「...その...藤澤さんと一緒なので、余計に綺麗に見えるのかもです」

照明が暗かったから、ハッキリと顔を見られないから、こんな事も言えたりして。これぞ、キラキラマジック。

「...うん、そう思ってくれるのは嬉しいかな」

ただ、そんな風に言ってくれる彼の表情も少し不鮮明なのが残念だった。

そして、少しの間、あっちに見えるのはどこの都市とか話していたら、反対の場所からも違う夜景を見たくなったので、ずっと繋がっている手を少し動かして彼の注意をひく。

「あっちの方も見て...いいですか?」

「はい、はい」

「じゃあ、早速」

彼の前だというのに無邪気にはしゃいでしまうのを抑えられない。やや、積極的気味に彼の手を引っ張り、外周から外れて暗い方から進む。ガラスから離れれば離れるほど、夜景を綺麗に眺める為に照明は落とされていた。ポツポツと人も少なくなり。

「あ、そっちは...」

背後の方で私を引き止める彼の声が聞こえたような、聞こえなかったような?
それでも、見てみたいという欲求を抑えられず奥へと進んでいくと、私はある光景を目撃。そこから、すぐさまクルリと踵を返し、来た道へ戻ろうとする。もちろん、彼には不思議がられた。

「どうしたの?」

「...あ、あっちへ行きましょうっ!」

「なんで?さっき見たよね?」

「はい。でも...すみません。また、あっちの景色を見たくなりました」

少々渋る藤澤さんに対し、明確な答えを言えなかった私は彼の腕ごと引っ張るような無理やりの方向転換。

「さ、さあ、あっちにいきましょ!」

「...たく、仕方ないな(笑)」

なんだかんだ言いながらも、彼は私の言う通りに従ってくれて、私たちは先ほどと同じ窓ガラスの位置へ戻った。
空いていたから場所を取られている事がなく、良かったと思う反面、違う意味で心臓がドキドキする。
夜景の綺麗さに気を取られていたけれど、ここはれっきとしたデートスポット。
それに見渡すと遅い時間帯のせいもあって、カップルばかり。
そんなロマンチックな空間で先ほど出くわしてしまったものは、人目を避けてのラブシーン。

...初めて、みた。

恋愛初心者には刺激が強すぎな場面を目撃してしまった私は、そこから逃げるように彼を促してきたのは言うまでもなかった。
さっきの場所で、また同じように夜景を見下ろしている彼の顔をチラリ。
盗み見すると彼は何事もなかったようにしている。

...良かった。藤澤さんはさっきのアレ気がつかなかったんだ。

ホッと胸を撫で下ろすと、目の前のガラスがヒンヤリして気持ちが良いことに気がつく。さっきのドキドキで自分の頰はそこに付けて冷やしたいくらい、火照っていた。
でも、そんな事をしたら隣の藤澤さんにはきっと変に思われてしまう。

そんな風にテンパってしまうほど、さっき見たものは強烈だった。

彼には気がつかれていないと思うけれど、自分の瞳には鮮明に焼き付いてしまっている。

私たちもクリスマスイブには...その...同じような事をしていたから、余計なのかもしれないけど。

その事を思い出してしまうと、隣の彼のことがまた気になり始める。
特に唇に意識がいってしまうのが恥ずかしい。
今、繋いでいる手から、考えてしまっている事が伝わってしまったらどうしようとか。

今の自分の心の中を藤澤さんに知られたらと思うと、その場から消えていなくなりたいレベルで、絶対知られたくないと思った。

※※※

「終電なくなると困るからそろそろ帰ろうか?」

しばらく夜景を見ながら無言だった彼が、ゆるりと腕時計をみながら、終わりの時刻を告げる。私も腕時計を確認すると、この間よりも早い時間。それは今日の彼が車ではなかったので、私の帰りを気にしてくれてのことだった。

...え?もう、そんな時間?

ずっと来たかったこの場所に藤澤さんと一緒に居られる夢みたいな時間は、あっという間におしまい。

...もう少し、一緒にいたかったけど。

いつも多忙な彼には決して言えない、それは素直な私の気持ちだった。

口には出さなくても、こういう時は繋がっている手から気持ちが伝わればいいのにと、さっきとは真逆の都合のいい事を考えてしまう。
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