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64.Research②
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「それがどうしたの?別にいい事だと思うけど」
その理由に大いに心当たりのある私が口を挟むと「それには理由があるらしい」と話す松浦の顔は得意げだ。私も彼のことを知りたい好奇心が先に立ってしまい、次第に松浦と藤澤さんの話に夢中になる。しかも小声の噂話の為かお互いに前のめりで、周りの視線なんて御構い無しだった。
「一番の大きな理由は、最近、彼女ができたっていう噂。しかも超遠距離恋愛だとさ」
「ふぇぃ?」
自分の思いもよらない理由に、変な声が。
「え、遠距離ぃ...!?」
改めて言い直すと、何だか生々しい響き。そのせいなのか無意識に声のボリュームが上がってしまう。それを松浦に恭しく注意をされ、慌てて口をつぐんだ。
そうだった。話に夢中になっていて忘れていたけれどここは社員食堂。誰が聞き耳を立てているかなんて、分からない環境なのだ。私は手で口元を抑え、周りをキョロキョロ確認。昼休みが通常とはズレていたから、幸い、近くのテーブルには誰も座っていなかった。
...良かった。それにしても、そんな噂が立っていただなんて。女子には嫌われているって本人は言っていたけれど、やっぱり、それは注目されている事の裏返しで。
知らなかった。いつの間に私との事ばれたんだろう?
それも、遠距離...............?あれ?遠距離恋愛って私じゃない...?
あらぬ事を考え出すと変な可能性に気がついてしまい、言葉が出なくなる。
「どうした?ショックで話せない?」
松浦は違う意味でショックの私に対して、見当違いな心配をしてくれる。
「だから、無駄だって言ったのに...実際に聞くだけでそんなショックを受けるなんて、お前って本当にバカだな」
彼の言い方がさっきまでの口調と違い、段違いに優しくなっていた。でも、そんな気遣いすら気がつかない私は、ようやくの思いで口を開く。
「え、遠距離恋愛...って、なに?」
「あー、日本人じゃない人って話。主任は日本語以外の言葉にも困らないから」
...私、日本語しか話せない。
全く自分と違う人物像という決定な事を聞かされて、ズーンとさっきまでのウキウキした気持ちが落ち込む。1人で舞い上がっていた自分が恥ずかしくなる。
私とはただの遊びだった?
それとも二股?
気持ちの落差についていけない私に、松浦は哀れむ。
「これが現実なんだから、諦めろ。だから、主任に本命チョコなんてやっても無駄。それでもあげたいなら、コンビニのやつとかいいんじゃない?良く買ってきて食べているし」
「そうだね...」
一緒に仕事をしていた時に、私がもらっていた一口サイズのお菓子は藤澤さん自身も食べる事が多いと聞く。それならあげても迷惑じゃないかなと考え始める。
ここで私の初めてのバレンタインは呆気なく終了だと思われてガッカリ。これ以上松浦に聞いても仕方がないかと思っていたら、パコン!と小気味いい音が耳に届いた。
「いって!?何する...!?」
音とともに松浦が頭を手で押さえながらすごい形相で顔をあげる。どうやら彼の頭が何かで叩かれたみたいだった。すぐさま文句を言おうと彼が振り向いた先には、私たちがさっきまで噂話をしていた当の本人が腕を組んで仁王立ちしていた。
松浦の頭を叩いたのは、今、藤澤さんが握っている丸めた雑誌だと瞬時に分かる。
「それはこっちのセリフ。上司に向かってその言い草はなんなんだ?」
「しゅ、主任!なんでここに!?」
「...いたら悪いか?」
「いや、そういうワケでは...」
優しい言い方をしていたけれど、顔は少しも笑っていない藤澤さんに松浦はしどろもどろ。さっきまで私に毒舌を吐いていた人間とは思えない。その一方でなかなか彼に会えなかった私は、自分が怒られているわけではないので、こんな場面ですら内心会えた♡と喜んで傍観者に徹していた。
仕事モードの藤澤さんも凛々しくて、素敵。なんて事を怒られている松浦の前で口が裂けても言えないのが残念。
「わざわざ、様子を見にきてやったっていうのに。まさか井戸端会議をしているとは驚いたよ」
「いや、違うんです!こいつが!!」
「こいつ?」
ビシッといきなり顔を指さされて、傍観者だったはずの私にも藤澤さんの注目が向けられる。彼には私の存在が見えなかったみたいだった。
私は思いがけない巻き込み事故に畏ると、違う部署な為か、一切、お小言もお咎めなし。その代わり、彼は無言で持参してきた雑誌とコーヒーをテーブルに置き、松浦の隣に座る。
「で、イチャつく暇があるんだから、頼んだものは出来上がってるんだろうな。さぞかし、素晴らしいモノが」
「あ...それがもう少し...いや、只今、できます」
できていないのに今行きましたみたいな出前のような言い訳を聞くと、藤澤さんは疑ってかかり顔をしかめる。松浦はすぐさまそれを察し、閉じてあったノートパソコンの画面を開き見せると、彼はようやく納得したようだった。
「あと、どの位かかる?」
スケジュールの多忙な藤澤さんが腕時計をみながら、松浦に尋ねると「30分もあれば」 と即答。「了解。なら、待てる」と藤澤さんも阿吽の呼吸で返していた。
それからすぐに彼の隣の席の松浦は、緊張の面持ちでキーボードを叩き始め、次第に自分の世界へと没頭してゆく。
そうなると今度は私のターン。
松浦とイチャついているなんて嫌な誤解は早く解かねばと、フッと彼の顔を見ると目と目が合う。それには松浦が隣にいるというのにニコリとしてくれて、ホッと一安心。こういう無言のコミュニケーションも社内恋愛の醍醐味?とドキドキしていると、傍から私たちを邪魔する声が。藤澤さんもそれにはすぐに仕事モードに切り替えて応じていた。
「もう、終わったのか?」
「はい。ご確認をお願いします」
彼は自分に向けられたノートパソコンの画面をスクロールさせながら確認し、その出来栄えにお怒りモードを少し緩めた模様。
「やれば、できるじゃん。お前、出来るならもっと早く出せよな」
苦笑いしながら、軽くコツンとげんこつで松浦の頭を叩くと、松浦も安心したようでそのせいか、いつもみたいな減らず口を叩き始めた。
「そうなんすよね、俺もちゃんとやれば何とかなると思ってるんすけど。今回はこいつがチャチャ入れてきて...」
また松浦は懲りもせず私を指差してきて、そのおかげで藤澤さんは再度私を注目。
「ち、ちがっ...」
私はプルプルと怯えた小動物みたいに顔を横に振り、それは冤罪だと態度で訴えていた。
もう、巻き込み事故は勘弁してほしいです。
その理由に大いに心当たりのある私が口を挟むと「それには理由があるらしい」と話す松浦の顔は得意げだ。私も彼のことを知りたい好奇心が先に立ってしまい、次第に松浦と藤澤さんの話に夢中になる。しかも小声の噂話の為かお互いに前のめりで、周りの視線なんて御構い無しだった。
「一番の大きな理由は、最近、彼女ができたっていう噂。しかも超遠距離恋愛だとさ」
「ふぇぃ?」
自分の思いもよらない理由に、変な声が。
「え、遠距離ぃ...!?」
改めて言い直すと、何だか生々しい響き。そのせいなのか無意識に声のボリュームが上がってしまう。それを松浦に恭しく注意をされ、慌てて口をつぐんだ。
そうだった。話に夢中になっていて忘れていたけれどここは社員食堂。誰が聞き耳を立てているかなんて、分からない環境なのだ。私は手で口元を抑え、周りをキョロキョロ確認。昼休みが通常とはズレていたから、幸い、近くのテーブルには誰も座っていなかった。
...良かった。それにしても、そんな噂が立っていただなんて。女子には嫌われているって本人は言っていたけれど、やっぱり、それは注目されている事の裏返しで。
知らなかった。いつの間に私との事ばれたんだろう?
それも、遠距離...............?あれ?遠距離恋愛って私じゃない...?
あらぬ事を考え出すと変な可能性に気がついてしまい、言葉が出なくなる。
「どうした?ショックで話せない?」
松浦は違う意味でショックの私に対して、見当違いな心配をしてくれる。
「だから、無駄だって言ったのに...実際に聞くだけでそんなショックを受けるなんて、お前って本当にバカだな」
彼の言い方がさっきまでの口調と違い、段違いに優しくなっていた。でも、そんな気遣いすら気がつかない私は、ようやくの思いで口を開く。
「え、遠距離恋愛...って、なに?」
「あー、日本人じゃない人って話。主任は日本語以外の言葉にも困らないから」
...私、日本語しか話せない。
全く自分と違う人物像という決定な事を聞かされて、ズーンとさっきまでのウキウキした気持ちが落ち込む。1人で舞い上がっていた自分が恥ずかしくなる。
私とはただの遊びだった?
それとも二股?
気持ちの落差についていけない私に、松浦は哀れむ。
「これが現実なんだから、諦めろ。だから、主任に本命チョコなんてやっても無駄。それでもあげたいなら、コンビニのやつとかいいんじゃない?良く買ってきて食べているし」
「そうだね...」
一緒に仕事をしていた時に、私がもらっていた一口サイズのお菓子は藤澤さん自身も食べる事が多いと聞く。それならあげても迷惑じゃないかなと考え始める。
ここで私の初めてのバレンタインは呆気なく終了だと思われてガッカリ。これ以上松浦に聞いても仕方がないかと思っていたら、パコン!と小気味いい音が耳に届いた。
「いって!?何する...!?」
音とともに松浦が頭を手で押さえながらすごい形相で顔をあげる。どうやら彼の頭が何かで叩かれたみたいだった。すぐさま文句を言おうと彼が振り向いた先には、私たちがさっきまで噂話をしていた当の本人が腕を組んで仁王立ちしていた。
松浦の頭を叩いたのは、今、藤澤さんが握っている丸めた雑誌だと瞬時に分かる。
「それはこっちのセリフ。上司に向かってその言い草はなんなんだ?」
「しゅ、主任!なんでここに!?」
「...いたら悪いか?」
「いや、そういうワケでは...」
優しい言い方をしていたけれど、顔は少しも笑っていない藤澤さんに松浦はしどろもどろ。さっきまで私に毒舌を吐いていた人間とは思えない。その一方でなかなか彼に会えなかった私は、自分が怒られているわけではないので、こんな場面ですら内心会えた♡と喜んで傍観者に徹していた。
仕事モードの藤澤さんも凛々しくて、素敵。なんて事を怒られている松浦の前で口が裂けても言えないのが残念。
「わざわざ、様子を見にきてやったっていうのに。まさか井戸端会議をしているとは驚いたよ」
「いや、違うんです!こいつが!!」
「こいつ?」
ビシッといきなり顔を指さされて、傍観者だったはずの私にも藤澤さんの注目が向けられる。彼には私の存在が見えなかったみたいだった。
私は思いがけない巻き込み事故に畏ると、違う部署な為か、一切、お小言もお咎めなし。その代わり、彼は無言で持参してきた雑誌とコーヒーをテーブルに置き、松浦の隣に座る。
「で、イチャつく暇があるんだから、頼んだものは出来上がってるんだろうな。さぞかし、素晴らしいモノが」
「あ...それがもう少し...いや、只今、できます」
できていないのに今行きましたみたいな出前のような言い訳を聞くと、藤澤さんは疑ってかかり顔をしかめる。松浦はすぐさまそれを察し、閉じてあったノートパソコンの画面を開き見せると、彼はようやく納得したようだった。
「あと、どの位かかる?」
スケジュールの多忙な藤澤さんが腕時計をみながら、松浦に尋ねると「30分もあれば」 と即答。「了解。なら、待てる」と藤澤さんも阿吽の呼吸で返していた。
それからすぐに彼の隣の席の松浦は、緊張の面持ちでキーボードを叩き始め、次第に自分の世界へと没頭してゆく。
そうなると今度は私のターン。
松浦とイチャついているなんて嫌な誤解は早く解かねばと、フッと彼の顔を見ると目と目が合う。それには松浦が隣にいるというのにニコリとしてくれて、ホッと一安心。こういう無言のコミュニケーションも社内恋愛の醍醐味?とドキドキしていると、傍から私たちを邪魔する声が。藤澤さんもそれにはすぐに仕事モードに切り替えて応じていた。
「もう、終わったのか?」
「はい。ご確認をお願いします」
彼は自分に向けられたノートパソコンの画面をスクロールさせながら確認し、その出来栄えにお怒りモードを少し緩めた模様。
「やれば、できるじゃん。お前、出来るならもっと早く出せよな」
苦笑いしながら、軽くコツンとげんこつで松浦の頭を叩くと、松浦も安心したようでそのせいか、いつもみたいな減らず口を叩き始めた。
「そうなんすよね、俺もちゃんとやれば何とかなると思ってるんすけど。今回はこいつがチャチャ入れてきて...」
また松浦は懲りもせず私を指差してきて、そのおかげで藤澤さんは再度私を注目。
「ち、ちがっ...」
私はプルプルと怯えた小動物みたいに顔を横に振り、それは冤罪だと態度で訴えていた。
もう、巻き込み事故は勘弁してほしいです。
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