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122.誰にも言えない②
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甘いものを食べている時はなんで嫌な事を忘れられるんだろう...。
幸せ物質でも分泌されるのかな?
そんな気持ちであんみつを全て食べ終わる頃、課長代理はちょうど食後用に配られていた煎茶を上品な所作で口に運んでいた。彼のみつ豆はまだ皿に残っているというのに。
甘いものを口に入れて少し落ち着いた私は今までこんな風に真正面から課長代理の顔を見た事がない。失礼だと思いつつ、つい、マジマジと見つめてしまう。
その容姿は同期の真奈美ちゃんがイケメンって騒ぐだけのことはある。彼女が噂する通り、顔を構成するどのパーツを取ってしてもモデルみたいな完成系。私が知っている男性社員の中でもその存在感は群を抜いており、そのソフトな雰囲気から漂わせる笑顔は、思わず見惚れてしまいそう。あの天敵のような真央ちゃんですら顔だけは良いと 評価していたのを思い出し、その笑顔が怖い時があるという鍛えられた部下ならではの意見も頭をよぎっていた。
...今、まさにそういう場面なのでは?
そうなると急に落ち着きのなくなった私は疑心暗鬼になり、課長代理の顔から視線が落ち手元ばかりをチラチラ。その視線にすぐ気がついた課長代理には何か勘違いされたようで。
「そんなにこちらのみつ豆が美味しそうに見えるなら、追加でもう1つ頼みますか?」
「へ?」
それには、思わずおかしな声を上げてしまい、課長代理は、一層、目を細めていた。
「い、いえ、その...みつ豆が食べたいというわけでは...」
「ははは。そんなにムキになって断らなくても。鳴沢だったらこういう時は、絶対遠慮しませんよ」
朗らかな笑顔からサラリと親しい友人の名前が出て、強張っていた気持ちが一気に緩む。元上司の田山さんみたいに場を作るのが上手い人なんだと、その笑顔つられて笑っていたら、その穏やかな笑顔はいきなり私の意表を突いた。
「私の考えすぎかもしれませんけど...最近の三浦さん、少し変ですよね?」
最初はなんの冗談かと思い目を瞠ると、その穏やかな笑みは相変わらず、課長代理は同じセリフをリフレイン。今度は冗談ではなく、本気に聞こえた。
「あ、あの...何を...根拠に?」
私がその問いに明確な答えを出ししぶってしまったせいか、先ほどまでの和やかなムードが一転。スーッと目の前の課長代理から笑顔が消え、眼鏡の奥の鋭い眼差しが核心に迫ってきた。
「では、言い方を変えましょう。貴女は、いま、何か問題を抱えていませんか?」
「...それは」
先ほどまで笑えていたはずの自分の笑顔が、ぎこちなく固まってゆくのが分かる。もう課長代理の顔を見て話すことができなくて、俯くしかできなかった。課長代理は私の言葉を待つかのようにその後沈黙し、周りの雑音だけがやけに耳に届く。その雑然とした空気の中で山本さんとの事を話すべきかを迷う。いくら上司といえども包み隠さず話してしまったら、山本さんに何をされるか分からなかったから。
それに私は山本さんとの事もあり、すっかり管理部の人間には心を閉ざしていた。管理部という部署は、個人が受け持っている案件を自分の裁量で処理していくのがお仕事。その職種の特殊性の為、お互い他の人間がどんな案件を受け持っているかなんて殆ど分からないし、分かる必要もなかった。よほど大きな案件がない限り、チームになることもなかったので、他の部署と違い人間関係も希薄。以前いた営業職と真逆なのでコミュケーションもさして取ることもない。だから、課長代理が私の置かれている状況も、気持ちも、分かるわけがないと思った。
「...何も...問題なんて抱えてません」
否定の言葉とともに、目を伏せたままテーブルの下で膝の上で拳を小さく握る。それは私の頑な気持ちの表れ。それを悟られまいと私は必死だった。
「...問題ない...か」
課長代理は彼は私の言った言葉を独り言のように繰り返し、溜息をついている。その間がなんとも言えない居心地の悪さを生み出し涙が出そう。もうなにも詮索しないで欲しいと切に願ったけれどもそれは無残にも打ち砕かれた。
「もしかして、三浦さんは私のこと見くびってますか?」
「そ、そんな...見くびるだなんて!ただ...」
思わず背けていた顔を上げてしまい、その時、課長代理と目があった。その低い声色からきっと怒っていると思っていた彼は、どういうわけだかクスクスと笑っていた。
「...あのぅ?」
おずおずとその真意を尋ねようとすると、その穏やかな笑顔を彼は崩さず。
「三浦さんは嘘がつけない人なのですね。まあ、だからこそ分かるものもあるのですよ。では、こちらもお付き合いして正直に言いましょう。君の抱えている問題とは管理部での仕事が辛い...それか管理部での人間関係といった所でしょうか?」
ダメ押しのようににこりと微笑まれた笑顔。それはそれはとても優しい笑みで思わず引き込まれそうになったけれど、私は無言を貫き虚勢を張る。それを易々と信じる課長代理ではなかった。
「意外と三浦さんは強情ですね...やはり、私は付き合いの浅い管理部の人間だから信用ならないということでしょうか?」
的確に掴まれる私の真意。課長代理は人の考えていることを読むのが上手いというのを身をもって知ってしまったけれど、今更どうにもならない事だ。グッと下唇を噛んで、言葉を発しないように堪えていたら、今度は絡め手の...。
「...大方の予想はついていますが、事の真相を私は貴女の口から聞きたいのです。貴女は鳴沢の大事な友人ですから。私のことは管理部の上司としてではなく鳴沢の友人と思ってくれていい」
突然、真央ちゃん名前を出され動揺して肩が小刻みに震える。その途端、心の中で張っていた何かが堰を切るように溢れ出してゆくのを私はジッと堪えていた。
幸せ物質でも分泌されるのかな?
そんな気持ちであんみつを全て食べ終わる頃、課長代理はちょうど食後用に配られていた煎茶を上品な所作で口に運んでいた。彼のみつ豆はまだ皿に残っているというのに。
甘いものを口に入れて少し落ち着いた私は今までこんな風に真正面から課長代理の顔を見た事がない。失礼だと思いつつ、つい、マジマジと見つめてしまう。
その容姿は同期の真奈美ちゃんがイケメンって騒ぐだけのことはある。彼女が噂する通り、顔を構成するどのパーツを取ってしてもモデルみたいな完成系。私が知っている男性社員の中でもその存在感は群を抜いており、そのソフトな雰囲気から漂わせる笑顔は、思わず見惚れてしまいそう。あの天敵のような真央ちゃんですら顔だけは良いと 評価していたのを思い出し、その笑顔が怖い時があるという鍛えられた部下ならではの意見も頭をよぎっていた。
...今、まさにそういう場面なのでは?
そうなると急に落ち着きのなくなった私は疑心暗鬼になり、課長代理の顔から視線が落ち手元ばかりをチラチラ。その視線にすぐ気がついた課長代理には何か勘違いされたようで。
「そんなにこちらのみつ豆が美味しそうに見えるなら、追加でもう1つ頼みますか?」
「へ?」
それには、思わずおかしな声を上げてしまい、課長代理は、一層、目を細めていた。
「い、いえ、その...みつ豆が食べたいというわけでは...」
「ははは。そんなにムキになって断らなくても。鳴沢だったらこういう時は、絶対遠慮しませんよ」
朗らかな笑顔からサラリと親しい友人の名前が出て、強張っていた気持ちが一気に緩む。元上司の田山さんみたいに場を作るのが上手い人なんだと、その笑顔つられて笑っていたら、その穏やかな笑顔はいきなり私の意表を突いた。
「私の考えすぎかもしれませんけど...最近の三浦さん、少し変ですよね?」
最初はなんの冗談かと思い目を瞠ると、その穏やかな笑みは相変わらず、課長代理は同じセリフをリフレイン。今度は冗談ではなく、本気に聞こえた。
「あ、あの...何を...根拠に?」
私がその問いに明確な答えを出ししぶってしまったせいか、先ほどまでの和やかなムードが一転。スーッと目の前の課長代理から笑顔が消え、眼鏡の奥の鋭い眼差しが核心に迫ってきた。
「では、言い方を変えましょう。貴女は、いま、何か問題を抱えていませんか?」
「...それは」
先ほどまで笑えていたはずの自分の笑顔が、ぎこちなく固まってゆくのが分かる。もう課長代理の顔を見て話すことができなくて、俯くしかできなかった。課長代理は私の言葉を待つかのようにその後沈黙し、周りの雑音だけがやけに耳に届く。その雑然とした空気の中で山本さんとの事を話すべきかを迷う。いくら上司といえども包み隠さず話してしまったら、山本さんに何をされるか分からなかったから。
それに私は山本さんとの事もあり、すっかり管理部の人間には心を閉ざしていた。管理部という部署は、個人が受け持っている案件を自分の裁量で処理していくのがお仕事。その職種の特殊性の為、お互い他の人間がどんな案件を受け持っているかなんて殆ど分からないし、分かる必要もなかった。よほど大きな案件がない限り、チームになることもなかったので、他の部署と違い人間関係も希薄。以前いた営業職と真逆なのでコミュケーションもさして取ることもない。だから、課長代理が私の置かれている状況も、気持ちも、分かるわけがないと思った。
「...何も...問題なんて抱えてません」
否定の言葉とともに、目を伏せたままテーブルの下で膝の上で拳を小さく握る。それは私の頑な気持ちの表れ。それを悟られまいと私は必死だった。
「...問題ない...か」
課長代理は彼は私の言った言葉を独り言のように繰り返し、溜息をついている。その間がなんとも言えない居心地の悪さを生み出し涙が出そう。もうなにも詮索しないで欲しいと切に願ったけれどもそれは無残にも打ち砕かれた。
「もしかして、三浦さんは私のこと見くびってますか?」
「そ、そんな...見くびるだなんて!ただ...」
思わず背けていた顔を上げてしまい、その時、課長代理と目があった。その低い声色からきっと怒っていると思っていた彼は、どういうわけだかクスクスと笑っていた。
「...あのぅ?」
おずおずとその真意を尋ねようとすると、その穏やかな笑顔を彼は崩さず。
「三浦さんは嘘がつけない人なのですね。まあ、だからこそ分かるものもあるのですよ。では、こちらもお付き合いして正直に言いましょう。君の抱えている問題とは管理部での仕事が辛い...それか管理部での人間関係といった所でしょうか?」
ダメ押しのようににこりと微笑まれた笑顔。それはそれはとても優しい笑みで思わず引き込まれそうになったけれど、私は無言を貫き虚勢を張る。それを易々と信じる課長代理ではなかった。
「意外と三浦さんは強情ですね...やはり、私は付き合いの浅い管理部の人間だから信用ならないということでしょうか?」
的確に掴まれる私の真意。課長代理は人の考えていることを読むのが上手いというのを身をもって知ってしまったけれど、今更どうにもならない事だ。グッと下唇を噛んで、言葉を発しないように堪えていたら、今度は絡め手の...。
「...大方の予想はついていますが、事の真相を私は貴女の口から聞きたいのです。貴女は鳴沢の大事な友人ですから。私のことは管理部の上司としてではなく鳴沢の友人と思ってくれていい」
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