ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

文字の大きさ
9 / 102
第一章 人生が変わった7日間

9:公爵家のお嬢様に会いました

しおりを挟む
 貴族の馬車はどれも豪華だと思っていたけれど、貴族のトップだというメギスロイス公爵家の馬車は、これまで見たどんな馬車より美しいものだった。

 艶やかに光る黒い車体に金色で薔薇の紋章が描かれ、窓や車輪は銀で縁取りされている。遠目にも分かる美麗さは馬や御者にも現れていて、華やかな衣装をそれぞれまとっていた。
 そしてさらに、馬車の前後には騎乗した護衛騎士が付いている。立派な体躯の馬たちが足並みを揃えてお屋敷の門をくぐる姿に、ただ見惚れてしまった。

「すごい。まるでパレードみたい……」
「メギスロイス公爵家のアルフィール嬢は、第一王子ディライン殿下のご婚約者だからね。普段から守りもしっかりしてるんだよ」
「えっ⁉︎ 第一王子って、未来の国王様ですよね? その婚約者なら、アルフィール様は王妃様になる人ってことですか⁉︎」
「そうだね。まだ王太子は決まってないけれど、成人と同時に殿下が立太子されるだろうと言われてるから」

 隣に立つ兄さんの話に、思わず変な声を上げそうになったけれど、必死で飲み込んだ。

(嘘でしょ⁉︎ これから会う相手が未来の王妃様ってどういうことなの⁉︎ 付け焼き刃のマナーで本当に大丈夫なのかな⁉︎ というか、そんな凄いお嬢様の従者だなんて、イールトさんもとんでもない人だったんじゃない!)

 お出迎えに出ているだけなのに目眩を感じてしまったけれど、私の衝撃はそれだけでは終わらなかった。

 最初の驚きは、初めに馬車から降りたイールトさんだ。母さんの言った通り、本当にどこにも怪我はなかったようで安心したけれど。それ以上に、いつものラフな服装と違って執事のように見える装いが、あまりに格好良くて目を奪われた。
 お店に来ていた時に着けていたメガネは変装用だったんだろう。メガネも帽子もない姿は新鮮で、お仕事モードのキリリと引き締まった表情も素敵すぎる。

 けれど私は、いつまでもイールトさんに見惚れていられなかった。馬車の中へ差し出されたイールトさんの手を取って、アルフィール様だろう、とんでもない美人が現れたから。

 アンヌさんからは、私とアルフィール様は同い年だと聞いていたけれど、到底信じられない完成された美女が優雅な足取りで馬車を降りる。
 品のある華やかな赤いドレスに、レースの手袋をはめた細く白い手。ハーフアップにした黒髪がさらりと流れる先には、豊かな胸元とくびれた腰が。吸い込まれそうな黒眼は少し吊り目がちだけれど、表情は柔らかで口元には微笑が絶えない。ステップを降りる仕草の一つ一つからは、私でも感じられるほど優美さが滲み出ていた。
 まさしく高貴なお姫様といったアルフィール様は、あまりに眩しくて。ちょっと着飾ったぐらいで喜んでいた自分が、恥ずかしくなった。

「ごきげんよう、モルセン卿。ミュラン様も」

 アルフィール様のぽってりとした唇から溢れたのは、鈴を転がしたような可憐な声ながらも、凛と響く言葉。聞いているこちらがすっと背筋が伸びるようだった。
 けれど、続く光景に私は釘付けになった。父さんと兄さんがアルフィール様の手を取り、当たり前のように手袋越しにキスをしたから。

「アルフィール嬢もご機嫌麗しく。この度は当家にご足労頂きありがとうございます」
「アルフィール様は今日も変わらずお美しい。瑞々しく咲いた薔薇のようなあなたを、我が家にお迎え出来て光栄です」

 噂にしか聞いた事のない、貴族の挨拶が目の前で繰り広げられ、自然と頬が熱くなる。

 父さんに親近感なんて感じちゃダメだった。流れるような挨拶に、この人は正真正銘の貴族なんだとつくづく思った。
 そして兄さんは見た目通りの美男子ぶりで、挨拶すら甘くてさすがとしか言いようがない。アルフィール様と向かい合う姿があまりに素敵で、この人がなぜ王子様じゃないのかと本気で悩みたくなるほどだった。

 すると、瞬きも忘れて見入ってしまった私に、アルフィール様はくすりと笑った。

「それでモルセン卿。あなたが探し続けられていた、唯一の宝石をご紹介頂いても?」
「これは失礼しました。こちらが私の最愛の人マリア。そして娘のシャルラです」

 父さんが母さんをずっと探していたって、アルフィール様もご存知だったみたいだ。父さんは嬉しそうに、母さんと私を紹介してくれた。
 付け焼き刃でしかないけれど、失礼のないように挨拶しなければならない。私は緊張に震えそうになりながら、母さんと一緒に膝を折った。

「お初にお目にかかります、マリアでございます」
「シャルラです。よろしくお願いします」
「わたくしはアルフィール・メギスロイスよ。あなた方のことはイールトから聞いてるわ。どうぞ気楽になさってね」

 私が必死に作った笑顔は、どうやら強張っていたみたいだ。でもアルフィール様は微笑んで優しく話して下さって。その慈愛に満ちた声に、本当は女神なんじゃないかと本気で思えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...