ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

文字の大きさ
10 / 102
第一章 人生が変わった7日間

10:お嬢様に無茶振りされました

しおりを挟む
 挨拶を終えて私がポーッとしている内に、父さんはアルフィール様を屋敷の中へ案内した。つい先ほどまで部屋に閉じこもっていた私には何もかもが珍しく、ついキョロキョロと辺りを見回してしまった。

 そうしてたどり着いたのは、庭に面した部屋だった。落ち着いた雰囲気の棚や絵が壁際に並び、高級そうなソファとローテーブルが置かれている。庭に直接出られる大きなガラス戸が開け放たれていて、そよそよと風が吹いて心地いい。
 アルフィール様はお一人で。父さんと母さんが並んで座り、私は兄さんと同じソファに腰を下ろした。イールトさんはというと、アルフィール様の斜め後ろに立っていた。

 イールトさんは屋敷に来てから私と一度も目を合わせていない。きっとお仕事に集中しているんだと思うけれど、せっかくドレスまで着せてもらえたのに何の反応もないのは少し寂しかった。

「改めてお礼を。マリアとシャルラを助けて頂いて、ありがとうございました。イールト殿がいなければ、私は最愛の人をこの手で殺してしまう所でした」
「イールトがお役に立てたなら何よりですわ。あの日は、下町にいたようですから。運がよろしかったのね」

 紅茶とお菓子が出されると、父さんは神妙な面持ちでお礼を言った。それに答えたのは、イールトさんではなくアルフィール様だった。
 でも、そのアルフィール様の言葉に私は引っかかりを覚えた。

 だってイールトさんは「お嬢様の予言」で下町に来ていたはずだ。事故に巻き込んでしまったし、目当ての人には結局会えなかったのだろうけど。それでも、イールトさんが下町にいた事をアルフィール様が知らないわけがない。

 疑問が顔に出てしまったのか、一瞬だけイールトさんが目を向けてくれた気がしたけれど、やっぱり私と目が合う事はなかった。

「ところでモルセン卿。シャルラさんの今後については、どうお考えですの?」
「もちろん、王立学園に通わせるつもりです。ただ、マナーなど最低限のことを学ばせる必要がありますので、二学期からになるかと思いますが」

 学園の詳しい事を私はまだよく分かっていないけれど、父さんの話はもっともだと思えた。
 学園には貴族の子どもがたくさん集まってるんだろうし、アンヌさんから教わった付け焼き刃のものじゃ、きっと父さんたちに恥をかかせてしまうだろうから。

 今だって目の前に美味しそうなクッキーや見た事もないお菓子が並んでいるけれど、私はグッと我慢しているんだ。お昼も食べてないからよだれが出そうだけど、アルフィール様の前で何か粗相があったら困るから諦めるしかない。

 紅茶ぐらいは飲むべきかなって悩んでるけれど、アルフィール様や父さんたちを見ていると、カップを持つ仕草まで洗練されているのが分かる。
 私と母さんは人形のように笑みを貼り付けて、ただ話を聞いているだけ。それだって、何かおかしな所はないかと心配で堪らなくて、変な筋肉痛になりそうなぐらいだ。
 二学期というのがいつからなのか分からないけど、それまでに色々覚えなくちゃ……なんて思ったんだけれど。

「まあ、それはいけませんわ!」

 スッと目を細めたアルフィール様は、私を見てニヤリと……うん? ニヤリと? 自分の目が信じられなかったけれど、そうとしか言いようのない笑みを浮かべていた。

「モルセン卿もご存知のように、わたくしも今年入学したばかりですの。学園の授業は今ならまだ挽回出来る程度ですけれど、これからどんどん難しくなるようですから、悠長なことは仰らず早めに入学された方がいいわ。明日から一週間はちょうどテスト休みですから、その間に必要最低限を仕上げて、来週から登校なさっては?」

 怪しい笑みを一瞬で引っ込めたアルフィール様は、先ほどと変わらぬ様子で微笑みつつも、とんでもない事を言い出した。

(来週⁉︎ あと六日しかないなんて、絶対無理でしょ! 無理……!)

 驚いたのは私だけじゃなかったみたいで、父さんも兄さんも目を見開いていた。

「いや、来週はさすがに……。そういうことなら、来年度に入学させても」
「心配せずとも大丈夫ですわ。わたくしがお手伝いしますから」
「アルフィール嬢が、ですか」
「それに一学年上にはなりますが、ミュラン様だっていらっしゃるんです。絶対に今年入学させるべきですわ。ミュラン様もそう思いますでしょう?」
「いや、まあ。でもそれは」
「悪いようにはしませんわ。わたくしにとても良い考えがありますの」

 頭を抱えたい気持ちでいっぱいの私を置いてけぼりにして、話はどんどん進んでいく。
 アルフィール様はかなり押しの強い方のようで、渋っていた父さんと兄さんも、結局頷かざるを得なかった。

「分かりました……。では、お願い致します」
「良かったわ。ではとりあえず、シャルラさんと二人きりでお話させて頂けないかしら?」
「娘と二人で? いや、それはしかし」

 一難去ってまた一難。今度は私と話したいですって⁉︎
 今度こそ無理だと、必死に目線で父さんに助けを求めた。父さんは察してくれたみたいだけれど、畳み掛けるようにアルフィール様は話を続けた。

「入学に際して、女同士でお話しておきたいことがありますの。ああ、お茶なら心配いりませんわ。イールトがいますもの、メイドもみんな下げてくださいね。シャルラさんもよろしいわよね?」

 すごく美しい笑みを向けられているのに、どうしてか背筋が寒くなって、絶対に断っちゃいけない気がした。
 コクコクと頷くだけで精一杯の私に、父さんと兄さんは心配で堪らないというように眉を下げた。

「シャルラ……くれぐれも失礼のないようにな」
「ごめんね、シャルラ。もし何か失敗しても僕たちが一緒に謝るから。頑張って」
「わ、分かりました……」

 メイドさんたちを下げると、父さんたちは悲壮な面持ちで母さんを連れて部屋を出て行く。閉まる扉を見つめながら、生贄に差し出される子羊ってこんな心境なのかなって、ぼんやりと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...