ヒロインと呼ばれても〜自称悪役令嬢に王子をお勧めされましたが、私の好みは貴女の従者様です

春日千夜

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第二章 諦めない70日間

50:作戦を開始しました

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 二度目の公爵家訪問は、予定外の出来事がたくさんあって疲れたけれど、結果としては良かったと思う。
 でもやっぱりリジーには、ビックリさせてしまったようで。帰りの馬車の中で二人きりになると、リジーは身を乗り出してきた。

「シャルラ、お庭で何をしたの? あんな短時間であそこまで王子殿下と仲良くなるなんて。殿下の名前呼びまで許されてたじゃない」
「心配しないで。殿下のあれは演技だよ」
「演技⁉︎ じゃあまさか、全部話したの⁉︎」
「ううん、全部じゃないよ。リジーと相談してたことを話したら、それなら名前で呼べって言われたの」

 第一王子からの信用を得るために、私とリジーが考えたのは、殿下とアルフィール様の接点を増やすという事だった。
 アルフィール様は極力第一王子と顔を合わせずに済むようにしていて、第一王子はそれを不満に思ってる。何の前触れもなくお忍びで公爵家を訪れるのもそのためだから、その不満を解消してあげれば信用に繋がるんじゃないかって思ったんだ。

 とはいえ、正攻法でアルフィール様と第一王子を会わせようとするのは無理だろう。だから私が第一王子と会う約束を取り付けて、そこにさり気なくアルフィール様を巻き込む、という事を第一王子に提案した。
 アルフィール様は、ジミ恋のシナリオ通りになる事を望んでるから、それに則った形で私と第一王子との接点を増やせば、違和感も持たれないと思ったんだよね。

「表面上で仲の良さを演出しても、アルフィール様は聡いから騙されないだろうって、殿下が言ったの。だから近しい友人として振る舞うようにしようって、逆に提案してくれて」
「なるほどね。王子殿下からの提案かぁ。まあ確かに、ヒロインと王子殿下は初対面の時から名前で呼び合うはずなのにってお嬢様も仰ってたしね」
「うん。今日のあれで、かなり安心してもらえたんじゃないかな」

 ゲームだと、第一王子はヒロインを「~嬢」と敬称付きで呼んで、ヒロインは第一王子を「ディライン殿下」と呼ぶらしいんだけど。実際の第一王子は私の事を「モルセン子爵令嬢」と呼び、私は第一王子を「王子殿下」と呼んでいた。
 それは、夜会やお茶会など学園外での社交の場での呼び方だから、間違いではないのだけれど。よそよそしい呼び方だから、アルフィール様は不安がっていたんだよね。
 そのせいでゲームの流れとの違いが大きくなったのではと悩んで、私にマナーを教えたのは間違いだったかもしれないとも、溢してらしたんだ。
 だから私と第一王子がお互いに名前を呼びながら庭から戻ると、アルフィール様は驚きながらも安心されてたように思う。

(まあでも、ちょっと寂しそうでもあったけれどね)

 第一王子が私の手の甲にキスを落とした時、アルフィール様の微笑みにほんの一瞬だけ影が差した。第一王子もきっとそれに気付いたんだろう。嫉妬された事に喜んだみたいで、私の手をなかなか離してくれなかったから、ラステロくんが怒ってたっけ。

(私が怒ってほしかったのは、ラステロくんじゃなくてイールトさんだったんだけどな)

 そばにいたラステロくんの陰になって、イールトさんがどんな顔をしてたのか分からなかった。
 もう私に何の興味も持ってなかったらどうしようって不安になるけれど、きっとまだ大丈夫だって信じたい。今日、二度も私を庇ってくれたのは、仕事のためだけじゃないって思いたかった。

(後ろ向きに考えるのはやめよう。そんなの私らしくないから)

 挫けそうな自分を吹き飛ばすためにも、他のことを考えなきゃね。例えば、そう。今日楽しみにしてた事とか。

「そういえばリジー。私が作ったバゲットサンドって、全部お昼に出しちゃったの?」
「まさか。ちゃんとイールト兄様の分は取ってあるから、安心して。きっと今頃食べてると思うわよ」
「リジー! ありがとう!」

 やっぱり持つべきものは友達だ! 全部ゼリウス様に食べられてたらどうしようと思ってたけど、きちんと取り分けておいてくれたんだ。

「リジーもお腹空いてるよね? 帰ったらリジーのお昼、用意してもらうからね」
「それは大丈夫。わたしの分だって、ちゃんと取っておいたもの」

 リジーは「ほら」と笑って、空になったはずのバスケットを開いた。中にはバゲットサンドが二切れ、布に包まれて入っていて。リジーはそれを取り出して、「本当はこれが正しい食べ方なんでしょう?」なんて言いながら、その場でパクリと食べてくれたから、私はホッとして笑ってしまった。

 そんなこんなで、お休みの日はあっという間に終わってしまって。翌日からはまた学園での生活が始まった。
 そうなると、第一王子と打ち合わせていた通りの事が起こるわけで。

「ああ、シャルラ嬢。やはりここにいたか。君たち、失礼するよ」
「お、王子殿下⁉︎」

 昼休憩の時間、ジェイド様とゼリウス様を伴って、第一王子が私たちのいる一年の教室にやって来た。突然現れたキラキラしい王子様に、クラスのみんなはソワソワしてる。
 けれど第一王子はそんな事お構いなしに、教室へ入ってきた。

「こんにちは、シャルラ嬢。君の顔が見たくて来てしまったよ。お昼の予定は空いてるかな」
「ご機嫌よう、ディライン殿下。お昼はラステロくんやアルフィール様と食べようと思ってました。よろしければ殿下もどうですか?」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 第一王子から甘い微笑みを向けられたのが、婚約者のアルフィール様ではなく私だった事で、教室中が騒ついている。
 でも私には関係ない。だってこれは、一つ目の作戦「ディライン殿下とアルフィール様に一緒にランチをしてもらおう!」だからだ。
 けれどアルフィール様は、困ったように微笑んだ。

「まあ、シャルラさん。わたくし、あなたとお昼の約束なんてしてないわ。わたくしはイールトと先に行くから、どうぞ楽しんでらして」
「えっ、ダメですか? 私だけ殿下とご一緒するのは、ちょっと心配なんですけど」
「でも……」
「お願いします、アルフィール様」

 アルフィール様、さり気なく逃げようとしてますね。でもそうはさせません。ここでの頑張り次第で、第一王子の信用を勝ち取れるかが決まるんだから!

 気合いを入れて、元々は第一王子との出会いイベントのために散々練習したうるうる目線で、アルフィール様を上目遣いに見つめてみる。不安だと囁いてみたけれど、やっぱりアルフィール様は一筋縄ではいかなくて、なかなか頷いてくれない。
 するとラステロくんが、助け舟を出してくれた。

「いいじゃない。フィーちゃんも一緒に行こうよ。ボク、みんなで食べたいなぁ。それにね……たら、……ないよ?」
「ラステロ……仕方ないわね」

 ラステロくんはあの後、第一王子から事情を聞いたらしく。協力するよって、こっそり話してくれてたんだよね。
 ラステロくんが何かをアルフィール様に囁いてくれて。ゼリウス様とジェイド様も無言でアルフィール様を見つめてたからか、アルフィール様は渋々ながらも頷いてくれた。

 私としては、このまま第一王子がアルフィール様を学食までエスコートしてくれればと思ってたんだけれど。なぜか第一王子は、私をエスコートして歩き出した。

「もう少し協力しろ。アルフィールのあの顔が見たい」

 歩きながら耳元で囁かれた言葉は、何だかとっても不穏な気配がした。第一王子は、昨日垣間見えたアルフィール様のヤキモチ顔が、よほど嬉しかったみたいだ。
 イールトさんも見てるのに、わざと見せつけるように体を引き寄せられて、私としては居心地悪くて仕方ない。私がこうしてほしいのは、イールトさんだけなんだって叫びたいけれど、そういうわけにもいかないから。私は精一杯笑みを浮かべるしかなかった。

 そうして学食へたどり着けば、集まっていた学生たちが大きく騒ついた。これまで側近候補たちとサロンで食事をしていた第一王子が、私やアルフィール様と一緒に学食のテーブルに座るんだから当然だと思う。
 みんな一定の距離以上近付いてこないけれど、視線だけは体が溶けるんじゃないかってぐらい熱く注がれて。もう本当に居た堪れない。

 どうしたって恥ずかしさで顔が熱くなってしまって、俯きたかったけれど。少しでも視線を下げると、すかさず第一王子が耳元で「顔を上げて堂々としていろ」と命じてくるから。私は、今だけだって何度も自分に言い聞かせて、必死に表情を取り繕った。
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