小鬼は優しいママが欲しい

siyami kazuha

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ただし、通勤用

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 引っ越ししてから、初めての登校日。
 定期券の表を見て、久しぶりにひゅっと息が詰まった。

「やっちまった……」

 口から出てきたのは、やらかした事による落ち込みと焦りがないまぜになった言葉。けっして、県内の地名ではない。というか、言ってる場合ではない。
 引っ越しのごたごたで、すっかり忘れてた。引っ越したということは、使う駅も変わるのだ。

「あーーどうしよう」

 今日はアデリーペンギンのICカードを使うしかないか。チャージした分、幾ら入ってたっけ? 財布には何円入れていたっけ?
 この古い定期も使わなくなるのもったいなあと思ったけど、よくよく考えたら実家に戻った時に使う……かもしれない。家の事情が事情な為、実家から学校へ登校する日が、完全に無いわけではないのだ。それに、友人たちの家も実家の近くだし、学校から直接友人の家に行く可能性もあるわけである。

「新しい定期券買わないとだなあ……」

「余計な出費だー」と、のそのそと着替えてリビングへ行くと、パパは既に着替えを終えていて、自分の荷物を確認していた。

「そろそろ出るぞ。忘れ物してないだろうな?」

「定期買い忘れた」

 絶望顔で告げると、パパは鞄の内ポケットから真新しいミッキーのパスケースを一つ取り出す。

「ほら、新しい定期。絶対買ってないだろうなと思ってたよ」

 そもそも、買うお金すら持ち合わせてなかっただろう。
 渡されたパスケースは当然新品のままで、定期券も間違いなくこの家の最寄り駅のものだった。

「いつの間に……」

 使う本人も忘れていたのに、この大人はよく覚えていたな。
 パスケースに入れられた定期券をほくほく顔で見ていると、「置いていくぞ」と急かされた。
 胸の内側が、妙にくすぐったいのは何故だろう
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