小鬼は優しいママが欲しい

siyami kazuha

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盛夏の頃

くらげ

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 久しぶりに幼馴染みと二人っきりで出掛けた先は、舞浜のリゾートと水族館だった。今年のスプラッシュにどうしても乗りたいと言われたので、付き添いでやって来た。
 言い出しっぺのくせに、幼馴染みはリゾート内を巡る間も「暑い」と繰り返して、だらけた表情を見せていた。しっとりと冷えたアトラクションの通路に入りようやく気を持ち直したのか、うきうきと浮かれている。それだけこの水増し増しスプラッシュが楽しみなのだろう。
 浮かれているのは俺もだ。が、理由はこの幼馴染みのものとはきっと違う。

「今度の仕事はどんなやつ?」

 世間話を投げながら、自分のスマートフォンを取り出し、カメラモードにする。
 リゾートのアプリを見ていた幼馴染みが顔を上げた瞬間を狙って、カシャリと一枚。彼は、人と話し始める時に目を見て口を開く人間なので、シャッターチャンスが大変わかりやすくて良い。
 幼馴染みは撮られた事に気づくと「あー!」と声を上げた。

「盗撮したらいけないんだー! 撮影料取るよー!」

「俺の撮影料は高いよー!」と、ぷんすかと機嫌を損ねる姿がおかしくて、「ごめん、ごめん」と謝りながらも笑みがこぼれてしまう。

「でも盗撮じゃないから。堂々と撮ってるから」

「そういう問題ではない!」

 彼の義父(マネージャー)(彼の義父みたいな男は俺の姉の彼氏なので、俺にとっては義兄と呼ばれる人物だ)が使いそうな言葉で言い返され、両の頬っぺたも摘ままれる。
 オファー急増中の彼(アイドル)から貰う痛みに優越感を抱きつつ、撮った写真を確認してから待ち受け画面に戻した。
 設定している壁紙は、紫色のライトに照らされた水槽の中を、半透明のくらげが漂う写真だ。目前にいる彼が、ロケ先で撮ってきたものである。『くらげって自分で泳いでるわけじゃないんだよ』という言葉と一緒に。泳いでいるわけではなく、潮の流れに乗って漂っているのだと。
 俺も、彼の気まぐれに付き合うだけのくらげだ。
 気まぐれに乗っかって、漂って、たまに存在を主張するように、ぷすりと毒針を刺してやるのだ。
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