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盛夏の頃
幽暗
しおりを挟む誰かに呼ばれた気がして、はっと目を覚ました。
ぐるんと寝返りを打って、ベッドの上から真っ暗な部屋を見回す。
寝る時は電気を一切点けていない。寝惚けた目には、かろうじて家具の輪郭が見える。
「あっつい……」
エアコンを点けたまま寝たはずなのに妙に暑い。さてはパパのやつ、エアコンの温度上げたな。俺は二十五度くらいが好きなのに、気づいたらパパに直されて二十七度にされるのだ。酷い。
リモコンはパパの側にあるはずだ。むくりと起き上がって、ベッドからパパの布団に転がり落ちた。
「ありゃ……?」
そこにあると思ったパパの身体が無い。おかしいな。パパはどこ行った?
主がいない布団の上で不思議に思いながらキョロキョロと見回すも、パパの姿は見当たらない。
うーんと首を捻った時、寝室の扉が僅かに開いていることに気づいた。部屋が暑くなった原因はこれのせいか。この部屋に先に入ったのは俺だから、ちゃんと閉めなかったのはパパだな。
「ちゃんと閉めろよ、パパー」と悪態を吐きつつ、少しだけ開いた扉を閉めにいく。閉める前に一度廊下を確認する。廊下でパパが行き倒れてないかと思ったけど、そんな事はなかった。そのかわりに、リビングの扉から光がちかちかとこぼれているのが見える。
扉を閉めるのはやめて、忍び足でリビングに近づいた。物音を立てないように、扉を開けて中を見る。
視界に入ったのは、パパが一人電気も点けず、自分が出ているドラマのDVDを見ている姿だった。俺が起きていることには気づいてなさそうだ。じっと静かに、画面を見ている。
俺が見ている時に一緒に見ることはあったけど、一人で、しかも自分からすすんで見る姿は初めて見る。
珍しいなと思いながら、普段見せる事がない男の姿を、俺も静かに見ていた。
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