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盛夏の頃

絶叫

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 久しぶりに、演じる側として入る楽屋は、なんだか肌がむずりと痒くなった。
 仕事用のスーツではなく、会見用のカジュアルな夏衣服を身につけ、顔の半分を覆っていた長い前髪も、眉の下辺りまでばっさりと切った。鏡に居る俺は、現役だった頃の俺に戻ったかのよう。
 鏡から視線をそらし、備え付けられたソファーに腰を下ろす。今日の段取りは頭に入っているが、落ち着かない。
「慌てない。落ち着け」と、普段子どもに言い聞かせている言葉を繰り返し、精神をサラリーマンから役者のものへと変えていく。
 十年間芸能人をやっていたのだ。ただのサラリーマンより、芸能の期間の方がまだ長い。
 一度閉じた瞼を開け、「よし」と一つ口にする。
 今日の台本を改めて確認している時に、スタッフの一人が俺を呼びに来る。時計を見れば、裏に集まる時間となっていた。
 今日出る俳優陣とはすでに顔を合わせ、挨拶も済ませている。楽屋にも俺の方から邪魔した時もあれば、向かう前にわざわざやって来た奴も居た。
 楽屋から部屋に出れば、「待っていました!」と言わんばかりに、友人が待機していた。

「なぜ居る」

「逃げ出さないように迎えに来たんじゃーん! どう? 久しぶりの会見大丈夫そう?」

「NGな質問は提出してあるし、他の受け答えも確認してある。問題ない」

「行くぞ」と友人よりも先に一歩踏み出した。鏡に居る俺は、きっと芸能人の顔つきになっているはず。
 翌日。情報番組の芸能コーナーで流れた、舞台の制作会見の一場面。
 壇上に並び、しっかりと受け答えをする俺の姿を見つけた子どもと彼女が、同じタイミングで俺の顔を見るなり、言葉を発した。

「聞いてないよ!」

「言ってないからな」
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