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盛夏の頃

標本

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「これ見に行きたい!」と言って、子どもがチラシを見せてくる。
 銚子の家に着いて、畳の上で寝ながら運転疲れを癒していた時のことだ。
 居間に置かれていた新聞の間から見つけたそれを、子どもは「よく見ろ」と押し付けてくる。
 なにかと思ってチラシを見れば、中央博物館で開催される企画展示の告知だった。鯨がメインで、標本や鯨に関する文化の文献等が展示されるとある。シャチの模型も展示されるそうだ。

「中央博物館って家からの方がちけぇじゃねえか」

「帰りに寄ってよー」

「ねえねえ」と、横になる俺の脇腹にのし掛かる。新しい遊びだと思ったのか、柴犬のわんこも子どもの真似をして、腹に頭突きをしてきた。
 見ようによっては幸せな光景だろうが、地味に痛いしなにより重い。
 駄々っ子になっている子どもを「わかったわかった」と宥めながら、腹からどいてもらう。
「絶対だぞ」とじっとりとした視線で念押しされる。

「一人で行けないのか?」

「博物館、駅から離れてるんだもの」

 子どもに言われ、そういえばそうだったなと駅からの道筋を思い出した。あの博物館は交通機関を使うよりも自家用車で行った方が楽だ。道がやや狭いのが難点ではあるが。
 博物館に寄る約束を獲得した子どもは、満面の笑みを見せながらわんことの遊びに戻っていく。テンションが高い子どもの様子を見た母が「どうしたのか?」と首を傾げる。
 理由を話すと「一番見たかったのはあんたじゃないの」と笑われた。

「まさか……」

「そんなわけないだろ」と抗議すると「絶対そうだってー」と返される。

「だってあんた、小学校の自由研究でサバの標本作ったでしょう?」

 待て。今、子どもが側に居る状態でその話を持ち出して来るのは反則である。案の定、耳の良い子どもはこの話に食いついた。
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