小鬼は優しいママが欲しい

清風の頃

透明

　どんよりとした空から、ぱらぱらと雨粒が落ちている。その事に気づいたのは、「遊びに行きたい」と言っていた幼馴染みから「電車に乗った」という連絡を受けてからだった。
　面倒臭がりなあいつの事だから、絶対に傘を持ってきていないだろうな。それに、職業柄車で移動する事が多いあいつの事だから、雨具の存在を忘れていることだろう。
　駅から俺の部屋まで、いささか距離がある。歩けない程ではないが、ぱらついた雨でも雨具無しで歩いたら頭も肩もしっかり濡れる。そんな距離だ。
　引っ越して来たばかりで、家にある傘は透明なビニール傘一本しかない。が、あいつによって舞浜に連れ出される事が多い俺は、雨の日リゾートで使うカッパを実家から持ってきている。
　カッパをエコバッグに入れ、財布と鍵、スマートフォンという必要最低限の荷物をジーンズのポケットに詰めてから、傘を片手に家を出た。
　ビニールの傘は、柄物の傘と違って視界が開けてよく見える。
　だから、改札口を出て、空を見上げて途方に暮れているあいつの姿も、透明な視界からよく見えた。
　俺の姿に気づいたあいつが、ぎょっと目を丸くする。
　なんだその、妖怪を見つけた時みたいな反応は。
「おかしな表情をしているな」と思いながら微笑んでやると、口をへの字に曲げた。
　仮にも一応アイドルな男が、そんな表情を見せていいのだろうか。
「お待たせ」と声をかけると、さらに不服そうな反応を寄越す。

「どうした？」

「ファンサービス受けてるみたい」

　どうやら、俺を取り巻く女たちと同じ扱いを受けてる感じが嫌だそうだ。こう言ってはあれだが、女子には困った事がない俺である。
　安心しろ。雨の日に、わざわざ迎えに来る真似は他人にはしないから。