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清風の頃
触れる
しおりを挟む一人暮らしを始めた幼馴染みの部屋は、パパのマンションと比べるとびっくりするくらい狭くて(それを伝えたら「芸能生活最前線を十年駆け抜けた野郎と大学一年生の部屋を比べるな)」と小突かれた)、最低限の家具がみっちりぎゅうぎゅうとしていた。
それでも統一感はあるから、幼馴染みの趣味は最低限家具のどこかに入っているのだろう。対面式のキッチンの前に小さなローテーブルが置かれて、日常的に使っているパソコンやら教科書やらはテーブルから一番近い壁に用意されたラックに押し込まれている。
俺が遊びに行くと連絡を入れてから、いそいでしまったんだろうなあという姿が見受けられた。この様子だと、普段はテーブルに置きっぱなしか床に置きっぱなしなのだろう。
途中でコンビニに寄りつつ、二人一緒に雨から逃げるようにして歩いて来たから、身体は怠いし喉はからからだ。
「麦茶を出してやる」と言うので、ありがたく頂くことにした。ついでのおつまみは、コンビニで買ってきたおにぎりやからあげ、サンドイッチやサラダ等だ。
青い水玉模様のガラスのコップに、麦茶が注がれる。ご丁寧な事に氷入りだ。幼馴染みは、黒い水玉模様のコップにサイダーを注いで、ようやく着席する。
違う色の液体が入った、色違いのコップ。ホームセンターで買った、文鳥柄のお茶碗を思い出す。家の食器棚に並んだ、白い文鳥と黒いカラスとオウム柄のお茶碗。あのお茶碗は、今は仲良く三つ並んでいるけど。
中身をじっと見つめてから、両の手を冷やすようにガラスを包んだ。コップに浮き出た結露が、ひんやりと肌を濡らす。
いつまで、並んだままで居て良いのだろう。
「…………この前ね、お揃いのお茶碗買ったの」
首を傾げる幼馴染みに「うん」と一つ頷いてから「ママ専用のお茶碗を買ったの」と伝えた途端、幼馴染みは苦虫を噛み潰した表情を見せた。
「定住する日も近いな」
なんのこと?
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