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清風の頃
お下がり
しおりを挟む「これ、あげる」と言って、あいつが持ってきたのは、卓上で楽しむタイプの流しそうめんだった。
急に「遊びに行っていい?」と来たから、今度は何に悩んでいるのか。それとも、いよいよ一人暮らしの相談かと身構えればこれである。
「ほいっ」と渡された流しそうめんの箱を見れば、開封された痕跡があった。
「いや、いらない…………の前にどうしたんだ? これ」
「魔女から貰った」
魔女とは、こいつのプロデューサーのことだ。業界にいない俺でも知ってる、どこかの荒地にいそうな風貌をした女である。年齢をずいぶんと重ねていたはずだが、未だに手腕は衰え知らず、なんなら年々強力になっているとも聞く。
「家では使う機会来なそうだから、大学生ライフを満喫してる君にあげよう。家呑みとかもそのうちするんでしょう?」
「いや、いらないって。家呑みするとしても使わないって」
「魔女からの有り難い贈り物だぞ」
「その有り難い品を横流ししてるのは誰だよ」
「いつ貰ったんだ? これ」と問えば、あいつはゆっくりと首を傾けて答えた。
「昨日……?」
「秒でお下がりにしてるじゃねえか」
「だってえ~。使わないしい~貰っとかないとあとが怖いしい~」
「今週は今日しか休みがなかったんだよー」とぶつくさとこぼす幼馴染みに、俺は少々目を丸くした。
貴重な休みを使って、俺の部屋に持ってきたのか。
俺の部屋よりも、マネージャーの家の方が使う機会はたくさん来るだろうに。
「子どもができたりとかさ」と言おうと思ったところで、俺は口を閉ざす。
その子どもを産むのは、何事もなければ俺の姉だ。
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