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清風の頃
遠くまで
しおりを挟む裏にいても、客席からの手拍子が聞こえる。
ライブを観に来ているファンの皆様が、いまかいまかと開演を待ちながら、アイドルをステージへ誘うように手拍子をしているのだ。
今日はソロライブではなく、みんなで出る日だから、客席に広がるペンライトの色もカラフルだ。
円陣を終えてから、オープニングの自分の待機場所へ移動する。
裏はステージの足場を隠すようにして黒い幕を張られているから、ライトを点けないと結構薄暗い。始めの頃はこの薄暗さに驚いていたが、今ではすっかり慣れてしまった。
出番が少しずつ、近づいてくる。
緊張も、少しずつ押し寄せてくる。
いつもなら、パパが近くにいて励ましてくれるけど、今日は演出を担当しているから、ここにはいない。たぶん、客席の方で見ている。
始まる前に、パパに「一人暮らししてみたい」と言ってみたけど、反応は「そうか」の一言だったので、していいのかよくわからなかった。
でも、はっきりと物を言うパパのことだから、ダメではないと信じたい。
その前に、この緊張をどうにかせねば。
深呼吸を繰り返しながら、ステージに続く階段を上っていく。
その途中で、メッセージ入りの紙を見つけた。ちゃんと読めるようにと、非常灯の側に置かれているそれは、パパの字で書かれている。
〝小鬼は、良い子、できる子、元気な子。大丈夫、笑顔で高らかに歌え〟
「大丈夫……」
そうだ、大丈夫。
俺は一人ぼっちじゃないから、迷った時も悩んだ時も緊張した時も大丈夫だ。
胸にあった重たい気持ちが、パパのメッセージで上書きされて消えていく。
俺が大丈夫なのだ。鏡の向こうの俺も、きっと大丈夫。
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