拗らせ王子は悪役令嬢を溺愛する。

平山美久

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未定

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"にな"はごく平凡の家庭で育ち
それなりに幸せだったけど
彼女自身はわりと打たれ弱かった。


何か心配ごとがあれば
数日悩んでは落ち込み
幼馴染の些細な一言で
すぐに傷ついてた弱気な子だった。

それでも周りに恵まれていたから
彼女は幸せに暮らせていたと思ってる。


今ここにいるのはシェニー。

だけどもう前世を思い出してしまっては
勝気なシェニーに戻ることはできない。


左手を天高くかざす。
薬指をしばらくじっと見つめてから
考え事は明日にして今日はもう寝よう。

と眠りについた。


それから一週間リハビリや
遅れている勉強に専属家庭教師を
つけられなんだかんだで忙しく
考える余裕もなくあっという間に時は過ぎていった。


アインス様はその一週間
一度も見舞いには来なかった。

城に帰っていくまでの彼は
何だったんだろうと思って考えるのを
やめにした。
おそらく自分が悪者になりたくなくて
ただ心配したふりをして意識が戻ったからもういいでしょ行かなくても。
という風なんだろうな。


私はそれが寂しくもありホッとしたのもあり
今は彼に会いたくない気持ちで
複雑なまま一週間を慌ただしく過ごしていった。



「シェニー、病み上がりだから今日は早く帰ってくるんだよ。」

「しんどくなったら遠慮せずに帰ってらっしゃいね。」

アンシュタイン公爵の紋章が
刻まれている馬車の前でお父様とお母様は心配そうに私に言った。

「お父様、お母様、一週間も休んだんだから大丈夫です。心配しないで。行ってきます。」

笑顔を見せて馬車に乗り学園に向かった。

お父様もお母様も心配するのは仕方がなかった。

一週間のリハビリや遅れている勉強についてを心配していたのではなく
体調面というより私の中身の変わりように心配していたのだ。

これまでのシェニーはどんなことが
あっても強気。勝気。だったのに
対して
今のシェニーはどこか弱々しく
発する言葉に棘など感じられないほど
性格が真逆なのだ。


ガタゴトと馬車は学園に向けて走っていく。
カーテンの隙間から今日も暑い日差しが
サンサンと地面を照らしていた。


別に前のシェニーが消えたわけじゃないわ。


ただ気づいてしまったの。
この物語は私ではなく
サラがヒロイン。そしてその相手は
アインス様。

物語が上手くいくように私が
頑張らなくてももうすでに仲がいい2人なら勝手に進展するでしょ?

"にな"の記憶を持つ私は
イジメとかできないし
仲睦まじい2人なんて見たくないわ。
それはシェニーの私だって
はじめからそう思っていた。

でも邪魔をしようなんて思えない。
2人の前にきっと立てないと思う。
そんなこと今の私では到底無理。
ただただ悲しくなるし怖い。


前世の幼馴染みたいに文句ばっかり言って
私に対して全然優しくないし
冷たい彼の顔なんかもう見たくない。

だから私が身を引いてなるべく
2人を視界にいれないようにするだけ。

それにもう王妃になるための勉強だってしなくていいし
アインス様を慕っているご令嬢から
睨まれることもなくなる。

もう何もしたくない。

アインス様のことは好き。大好き。

"にな"になってもそこは
変わらないわ。

たとえ"彼"を思い出したとしても
私が今好きなのはアインス様。
それでももう彼の隣にいることに
疲れてしまったのだから。

今はひとりになりたい。


馬車はカタ、コト、とゆっくり止まり
学園の前についた。
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