上 下
3 / 4
導入

神様の降臨、異世界転生

しおりを挟む
 「ここは……」

 「狭間。あの世とこの世の中継ポイント」

 気がつくと、真っ白い無機質な部屋に居た。あまり広くはない。

 目の前にはひとりの女がいる。若い。同年代か……にしては奇抜な制服だ。

 多分、学校の制服だと思うが、上半身は全体的に薄いピンクで、胸部が白、その上に乗っかっている黒に近い赤のリボンが特徴的。スカートは濃い赤の生地に、黒いチェック、白いヒラヒラがついている。丈は短く、下着が見えそうな程だ。その更に下に目をやると、白のハイソックス。黒のリボンが上の方についている。

 何者だよ。

 「神様」

 少女は白い髪を揺らしながら、答えた。まるで、心の中を読んでいるようだ。

 少女の口が動く。

 「その通り」

 「……何が? 」

 「心の中」

 文字通り、心の中を読んでいるってことか? 

 「ダー(はい)」

 「ああ、そうですか」

 「驚かない。不思議」

 「いいや、驚いた。本当に驚いた。その服装には驚いた」

 「どうして」

 「その胸のせいじゃないか? 」

 俺は自称神様の豊かな胸部を指さした。

 彼女は首を傾げて「ヤりたい」と言った。

 疑問形のつもりなのか? 

 でもまあ、生前“そういうこと”は、やれなかったな。今思うと、少し惜しい。

 「……タダなら」

 「素直。好き」

 「そりゃどうも」

 「だから、チャンスあげる」

 「本当に!? 」

 俺は少女との距離を詰めると、その肩に両手を乗せる。この少女、よく見るとメチャクチャかわいい。がっつく。

 「身体じゃない。……第二の人生」

 「それは嫌だ」

 俺はブサイクの身体から手を離し、距離を取る。
 人生が嫌で自殺したのに、もう一度やれと? ふざけるな。

 「拒否権はない」

 彼女は微笑んで、話を続けた。

 「才能を与える。複数の才能……、絶対大丈夫。それに、中世ヨーロッパ風の異世界。ロマンある」

 「いや、そもそもなんで転生しなきゃなんねえんだよ。魂ごと消滅させてくれ。その方がよっぽどマシだ! 」

 「本来ならそう。自殺者の魂、消滅する。来世まで、もたないから」

 「なんでさ、なんで俺は転生するんだよ」

 生きたくなくて死んだ人間を……もう一度転生させるって……ただの拷問じゃねえか。……それか、自殺した罰か。

 こんなことなら、自殺なんて辞めておけばよかった。

 「キリがいい」

 「キリがいい? 」

 俺は少女の言葉を反復する。

 「そう。歴代自殺者数……あなたはキリがいい数字。だから――」

 「だから転生しろと? それだけの理由で? 」

 「そう。あと、自殺した罰」

 「そんなふざけた理由でか!? 誰が得するんだよ。俺は嫌だ」

 「私が得する」

 「はあ!? 」

 「苦しむ顔、好き。見るの、好き」

 一発殴ってやろうか。

 「じゃあね」

 少女が手を振ると、視界がぼやけてくる。



 目覚めると……どこだここ? よくわからん。

 白黒の世界。音が凄い。ガチャガチャという音が聞こえる。情報が多すぎて、理解も表現もできない。

 「……ッ!!」

 何かが腕の肌に触れた。柔らかい。触感は機能しているようだ。



 しばらくすると、慣れてきた。この音は金属音だ。なんでそんな音が聞こえるのかわからないが、とにかく金属の発する甲高い音が……遠くの方から聞こえる。
 またしばらくすると、少しずつ目の方も機能してきた。相変わらずモノクロではあるものの、何となくは理解出来るようになってきた。



 それでも白と黒の塊が動くように見えるだけ、白が何か、黒が何かなんてわからない。まるで正義と悪だな。



 またまたしばらくすると、ようやく理解した。どうやら俺は乳幼児になっているらしい。幼いときは目がほとんど機能しないが、代わりに耳は比較的良いと聞いたことがある。多分それだった。



 またまたまたまたしばらくすると、ようやく親の顔が認識できるようになった。鼻が高く、ヨーロッパ人っぽい顔だった。名前はまだわからない。とにかく、第二の母は美人だと認識した。



  ……どうやら家族は俺含めて三人か四人。父、母、俺(に加えて謎の女、多分召使い)だけらしい。父は時折外に出ていって、しばらく帰って来ない日々が続いたと思ったら、忘れた頃にひょっこり顔を出した。

 その時、彼は必ず甲冑を着て行った。初めはコスプレだと思ったが、あまりにもクオリティが高いんで、どうも違うように思えてきた。

 もしかしたら、ここは剣と魔法の世界で、ドラゴン討伐とか戦争にでも行っているのかもしれない。そうだ。その方が夢がある。

 とりあえず、現実逃避も兼ねて、そういう設定にしておいた。



 ……こっちに来て半年程が経った。奇妙な事に、自殺をしたいと思わなくなった。

 原因は色々とあるだろう。環境が変わったからとかさ。でも一番は、この身体だと思う。

 身体が別人のものになったから、脳とか神経とか、身体的なものは健康(というか新品)になった。

 全く劣化してないから、当然だよな。

 ……これはチャンスかもしれない。

 少し、生きてみようと思った。やり直しがきくかもしれない。こちらの世界で、なりたかった医者になったり、友達つくったり、そういった“ささやかな幸せ”が手に入るかもしれない。

 やってみよう。やってやろう。

 試してみるんだ、もう一度。

 俺は母乳を口に含みながら、そう決心した。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ファトエ人の独特な宗教観や慣習、祭祀に就いての述懐

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

グレート・グランド・マム ~私を溺愛する悪役令嬢は転生者らしい~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

次世代少女?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

現役高校生の俺が冒険者として自由にやって行く物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

間違えて寄付された額は1億円

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転校サバイバーズ

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

これで良いのか? 

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...