在宅ワーカーと小学生

Aria

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――4月 新しい出会い――

第3話 質問の時間

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 卯月の一言で始まった質問タイム。俺と卯月は元々座っていた椅子から降り、少し移動してソファの方に弥生たちとともに腰かけた。
「そんじゃ、誰から質問したい?いないなら指名しちゃうぞ~?」
「じゃあ、私から行こうかな。弥生ちゃんや海友ちゃんが先に質問できるとも思わないし」
 この子はいつも苦労してるんだろうなぁ…。海友に振り回されて、弥生を気に掛ける。以外と骨が折れそうだな…。まだあって初日だけどこれだけは分かる、だって俺も同じような経験をたくさんしてきたからなぁ…。
「とりあえず、疑問に思ったのは小桜さんとの関係かなぁ…。如月さんと小桜さんってどんな関係なんですか?」
「おぉ…思ったよりまともな質問でびっくり…。えっと、俺と卯月は高校の時の先輩後輩なんだ。俺が後輩で卯月が先輩ね。高校の部活動で知り合ってそこから仲良くさせてもらってるって感じかな。まぁ、最近忙しくてあまり連絡を取れてなかったんだけどね」
 卯月がうんうんと頷いているのが見える。卯月とは部活動で知り合うまでは本当に赤の他人って感じだから、ほんと人の出会いってどこで起きるか予想できたもんじゃないなぁと思ったけどね。
「なるほど…別に恋人って訳じゃないんですね!あぁ、びっくりした!今まで女性の人しか連れてこなかったのに急に男性を連れてくるから何事かと思いましたよ~。あ、あと私はそこの2人よりはまともですからね…?」
 あぁ…だから関係を聞いてきたのか。確かに今まで女性ばっかり連れてきたのに、急に男性を連れてきたら誰だってびっくりするわな。
「じゃあ~次は海友がしつもんするね?そうだなぁ…あだ名とかで呼んでいいの?あとため口とか」
「はは…海友はもうため口じゃないか。うんため口でもいいよ、流石に誰かの前とかだったら敬語の方がいい時もあるけど一緒に家に居る時は全然自分たちの喋りやすい話し方でいいよ。ため口でも敬語でもね。あだ名は…俺だって分かるならいいかなぁ…あんまり変なのはやめてね」
 実際は言うのも言われるのもあんまり得意じゃないんだけどね、なんとなーく人を馬鹿にしているような感覚があって昔は特に嫌いだった。今は別にって感じかな。最近はペンネームの方で呼ばれるようになって来たからあだ名で呼ばれることに関しては抵抗しなくなったかな。
「ほほう、わかりました。なんと呼ぶか考えてくる。ちなみによいちゃん、もみちゃんと呼んでる」
 海友は1人1人指を指しながら自分がどう呼んでるか教えてくれた。…その流れで行くと俺はつるさんとかにならないかな?…そうならないことを祈ろう。
「最後は私かぁ…う~ん…。三弦さんって、その…が、学校の成績とかどうでした…?」
「え、急にどうしたの?…まぁ自分で言うのもあれだけど結構よかったよ?テストの成績は基本的に上から数えた方が早かったし通知表とかの成績もよかったよ?」
 弥生はなぜそんなことを聞きたがるのか…。もしかして俺試されてる?卯月が学校の先生で頭がいいから、卯月が俺も頭がよくないといけない…的な?いやいや流石に考えすぎだな。
「ですよねぇ…卯月さんが連れてきたんですからそりゃあ頭いいですよねぇ…はぁ、なんで私の友達はみんな頭いいんだろう…美鈴ちゃんも莉愛ちゃんも頭いいし…」
「それは、あんたが全然勉強しないからでしょ…それに莉愛はともかく美鈴にだって苦手な教科はあるよ?…美鈴は苦手な教科でも確かにあんたよりいい点とるけどね」
 な、なるほど…なんで弥生は中学生とか高校生とかが悩みそうなことで悩んでいるんだろうか…。小学生だったら別に成績とか気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ…。私の友達ってことは、紅葉や海友はそこそこ成績がいいんだろうなぁ…。途中出てて来た美鈴とか莉愛は学校の友達かな?ちゃんとここ以外の友達がいることはいいことだ。
「そうだな、弥生はもう少し勉強しないとだめだな!このままだと高校は離れ離れかなぁ…?」
「う、卯月さん!そ、そんな不吉なこと言わないでください!私はこれでも頑張ってるんですよ!…算数と理科は」
 後ろの方の言葉がぼやっと言ったからなんて言ったのかは分からなかけど気にすることは無いか。というか、突っ込んではいけない領域の可能性の方が高いしな。
「あ、そうだ。如月さんってどんな仕事をしているんですか?」
「ん?三弦か?三弦はニートだからずっと家に居るぞ?これからは家事とか全部してくれるから安心していいぞ~」
 突然なに言いだすんだこの人は!?確かにずっと家にはいるから家事とかはやろうとは思うけど、断じてニートではないぞ?ほら、紅葉も信用しちゃって、嘘…?みたいな顔しちゃってるじゃんこれは早急に訂正しなくては。
「ちょっと?変なこと言わないでもらえます?確かに家にはずっといますけど働いてないわけじゃないから。俺はこれでも小説家なんだ。普段から家で作業をしているからずっと家に居るだけだから勘違いしないで?今どきの言葉で言うと在宅ワーカーってやつだね」
「しょ、小説家!?うそ!?小桜さんはあまり嘘をつかないから本当に働いていないのかと…。ち、ちなみに名前はなんていうんですか?」
 うわぁ、卯月先輩まじですか…。俺の前ではバンバン嘘をつくくせに自分の教え子の前では嘘をつかずにいい人ぶっていたのか…。まぁ確かに?生徒の前だからね?いい顔見せたいのは当然だよね?
「卯月…俺の前では平気で嘘を吐くくせに…。俺は、Fedyフェディって名前で小説を書かせてもらってるよ。F・E・D・Yでフェディね。最近ようやく名前が知られたくらいだからみんなは知らないかもしれないけどね」
「ふぇでぃ~?どうしてそんな名前にしたの?」
 海友は意外とぐいぐいくるタイプなのかな?でもマイペースな人ほど好奇心旺盛だったりするから、もしかすると海友もそっちのタイプなのかもしれないな。完全に俺の偏見なんだけども。
「実はそんなに深い意味はないんだよね…。俺の名字の『如月』は、和風月名って言うものでは2月を指すんだよね。それで2月は英語でFebruaryフェディアリィって言うからそれを短くしたんだよね」
 鞄からメモ用紙を取り出して俺の名字や英単語を紙に書きながら説明した。自分のペンネームを考えるのがまさかあんなに大変だと思っていなかったから、最終的に適当に決めたんだよな。今では意外と気に入っているからいいけども。
「割と適当に決めたからあんまり深掘りしないでね。あとみんなの名前も実は和風月名だったりするんだよ。弥生は3月、卯月が4月、文月が7月、長月が9月を指してるんだよ。多分そのうち学校でも習うかもね」
 俺も和風月名に関しては学校で習うまでは知らなかったしね。いつ習ったかまでは流石に忘れちゃったけど。
「へぇ~!私たちにそんな共通点があったんですね!私は3月かぁ…あ、他の月はなんていうんですか?」
「他の月?えっとね…1月が睦月、5月が皐月、6月が水無月、8月が葉月、10月が神無月、11月が霜月、12月が師走だね。もしかすると学校にも似たような名前の子がいるかもね」
 水無月とか師走はともかく、葉月や皐月なら名前としても全然確立されているくらいだし1人くらいいてもおかしくはないかな。実際長月なんて名字聞いたことないもんなぁ…。文月は聞いたことあるけど。
「よく覚えてますね…三弦さんって本当に頭いいんだなぁ…」
「そりゃそうでしょうよ…。あぁ気にしないでくださいね、弥生ちゃんはいつもこんな感じなので。なんなら弥生ちゃんに勉強を教えてあげて下さい。私たちじゃお手上げで…」
 そんなに悪いの!?同級生に見放されるって相当だぞ…。勉強を教えるって言っても俺は教えるの下手だからなぁ。多分余計混乱させてしまう可能性もあるけど、頼まれたら教えてあげようかな…?
「で、でもでも!私算数と理科はすっごく得意なんですよ!」
「弥生ちゃんは算数と理科だけでしょ。なんで理科が出来て社会が出来ないのか理解できないんだけど…」
 わお、紅葉さん辛辣っすね。確かに、理科も社会も暗記科目ではあるから理科の暗記が出来ているなら、社旗の暗記も出来そうなもんだけどなぁ…。
「まぁまぁ…理科の暗記と社会の暗記は人によっては全く別物だから仕方ないよ。単語事態の長さもそうだし理科はカタカナが多いイメージあるから覚えやすい!…とかね?」
「そ、そうなんですよぉ!私の味方は三弦さんだけですよ!みんな私を責めるんですから!」
 カタカナが多いかはちょっと分からないけど、どんだけ自分の成績の事を気にしているんだよ…。
「養護した俺が言うのもあれだけど、そんなに自分の成績が心配なら頑張って勉強しようね…?俺も時間あるときに見てあげるからさ?弥生の成績がどんな感じかは知らないけど、中学生になったら大変だからね?」
「うぅ…わかりましたぁ…」
 やけに素直に聞いたな。味方だと思った人に言われたから予想以上にダメージをもらったのかな?…改めて3人を見てもやっぱりこの子達は面白いな。子供らしさが残りつつもどこか大人びているというか…。これが思春期特有の変化ってやつ…なのかな?
 そうこうしていると、時間がいい感じになってきたのが見えた。一度家に戻っていろいろ整理したりなんだりしないといけないしそろそろ一旦お暇しようかな?
「おっと、もうこんな時間か。申し訳ないけど一旦家に帰って整理したいから今日はもう帰るね。…ん?あれ?そういえば今日ってみんな学校あったんだよね?なんで卯月が家に居たの?」
「あぁ、実は中学校の方に行っててさ。別の先生に1日だけお願いしてたんだよね。だからあの時間に居たってこと。本当は終わったら帰ってきます~って言ったんだけど、1日くらいいいですよって言われたからそのまま直帰してきたんだよね」
 なるほど、てっきり先生だって話が嘘なのかと思ってしまった。それなら確かに納得がいく。代わりの先生がいるならなんで6月まで~とか少し疑問に思ったが首を突っ込むだけ無駄だろう。
「あぁ~だからお隣のクラスから保健室の先生が出てきたんだ~」
「そうそう、三田先生ね。あの人なんで教師免許まで持っているのか謎なんだよなぁ…。頭良すぎじゃない?21歳よ21歳。私より2つ下、三弦と同い年。ほんとあり得ないわ」
 うん、あり得ないわ。やろうと思えば保健室の先生をやめて教師として働けるんでしょ?どんな才能だよ。俺のやっていることが霞んで見えるからやめて欲しい、身近にそういう人がいるの。
「まぁ…いいや。明日も多分来るからみんなはちゃんと学校行くんだよ?」
「わかってますよ、安心してください。学校休みたいって言うの海友ちゃんくらいなので、眠たい~とか言って」
 なんか容易に想像できてしまうのが海友のすごい所かもしれない。それに怒る紅葉の姿も想像できてしまって笑いそうになってしまった。
「確かにそうかもね、じゃあまた明日。みんなが帰ってくるより前にいると思うから」
「お、だったら鍵渡しておくわ。入った後は鍵を閉めといてね~」
 そう言って卯月は俺に鍵を手渡してくれた。入った後鍵を閉める習慣だから、玄関を見るまで弥生たちが帰ってきているか分からなかったのか。
 結局パソコン持って来た意味なかったなぁ。まぁ、流石にインパクトが大きかったからパソコンとかにメモらなくても全然覚えているけど。
「まさか女子小学生3人と一緒に暮らすことになるとは思っていなかったけど、これはこれでいい刺激になりそうだから、まぁよしとしますかな!」
 そんな独り言を漏らしながら元居た家の帰路についた。幸い昼に工事していた場所は工事が終わったらしく通れるようになっていたため行きよりも早く家につけそうだ。
「……………………」
 ただそんな彼を見つめる1つの小さな陰に気づくことは出来ずに…。
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