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9番星 愛してくれる方が…
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優しい空の星
9番星
破棄された…その言葉は、私の頭の中でぐるぐる回っていた。
こんなことになる…それは想像できたはずだし、私も気づいていたのではないか。ただ、そんな現実を見たくなくて、私の身勝手でわがままな気持ちが、ローレンの婚姻を破棄させることなんて見たくなくて…。言い訳なのはわかっている。ただ、貴族であり、上流階級で、おしとやかなローレンが、いや、この国に住む女性なら、誰もが望む早い結婚。子供を産むしか他に国のためにできることなどない女性が、唯一の幸せを手に入れる結婚という素晴らしいものを、私はローレンから奪ってしまった。
私が下を向きながら、青ざめた表情をしているとローレンは優しく私に話しかけた。
「ヴェデ?」
「…ローレン。」
「気にすることないのよ。知らない殿方に嫁ぐのですもの。嫌な気持ちもあったし、そんな気持ちで殿方に嫁ぎたくないの。慕っている殿方に想いを告げぬまま、他の殿方に嫁ぐなんてできなかったから…。」
「…他の、殿方…?……アルベーサ殿下…を…」
私が、ローレンの顔を見るとローレンは下を見ながら唇をかみしめて涙をこらえながら私の言葉に頷いた。
「…ええ。お慕いしているわ…。」
「で、でもそれは…」
「わかってる!」
ローレンとは思えないほどの大声に押されて私は少し固まってしまった。
「…わかってるのよ…。叶わない想いだと。告げてはならない想いだと。…ヴェデにこんなことする人だもの。一時期は想いが離れた。でも…でも…忘れることは…できなかった。ヴェデにこんなことするのは、ヴェデを一途に愛しているからだってわかってる。わかってるからこそ、あんな…寂しい暗い気持ちに包まれているアルベーサ殿下を…アルベーサ殿下…を…」
ローレンはついに涙が溢れて止まらなかった。
「あんな誰もが羨むお姿お人柄をお持ちのキルベール殿下を兄に持って…婚約者までキルベール殿下に奪われてしまったアルベーサ殿下…アルベーサ殿下を…私が、ヴェデではなく私が…お救いして差し上げたかった…」
初めて聞くローレンの真実の言葉がこんなことだなんて知らなかった。
本当にアルベーサ殿下を愛していて…涙が溢れて止まらなくなるほど強く強くお救いしたい気持ちがあって、これまで、いったいどんな気持ちで私のそばにいてくれたのか…その気持ちは測りきれないくらい辛かったのだろう。アルベーサ殿下の寵愛を受け、その後突き放された私を守る場につくローレンが幸せだと思えるような場所が今まで、あったのかすら私にはわからない。
でも、ローレンの手は変わらず温かくて、守ってあげるのは次は私だ。
私は、ローレンの手に優しく触れた。
ローレンは、潰れそうな声で「嫌にならないの?」と聞いてきた。
「嫌になんてならない。そんなローレンの気持ち聴けて嬉しかった。そばにいてくれてありがとう。」
私は、ローレンの肩に腕を回して優しく抱きしめた。ローレンは少し体を揺らしたがすぐに止まった。
「…ヴェデ。お願い。無理しないで。」
「え?」
「…私は、アルベーサ殿下に近づくために、あなたに取り入ったのよ…。あなたへの友愛よりもアルベーサ殿下への想いを優先させていたのよ。私はあなたに抱きしめられて、友愛を深めるような人間ではない。アルベーサ殿下を…アルベーサ殿下をお慕いしている。あなたの敵よ。いつ裏切ってアルベーサ殿下にいどころや、秘密をバラすか、わからない。」
私はその言葉に跳ね返るようにローレンの肩においていた腕を離してローレンの顔を見た。ローレンが目を反らせないくらい私の気持ちを伝える。そう思ったのだ。
「それでもっ。それでも!そばにいて欲しいの。」
「……」
「…ねぇ。ローレン。最初こそは、私のことをただの駒としてしか見てなかったのかもしれない。でも、そのあとは?私に仕えたい。私のいる生活に慣れてしまった。私がいなくなると物足りない。そんな気持ちは、駒としての見方とは違ってて欲しい。貴族で、優しいローレンが、シャーロットをやめてまで、ローレンになった理由は何?貴族のあなたは田舎に来てまで私を駒としては見ないはずよ。私のためであろうとなかろうと、シャーロット・サーシャを捨ててローレンになったのは事実なのよ。その想いが、アルベーサ殿下に向いていようと、こんなところまできて友達と接してくれてたローレンを私は慕っているのよっ。…何より、あなたは……あなたはキルや、リラン、イザベル、アナスタシオと共に私に、生きる意味を与えてくれたじゃない!」
「……」
ねぇ。ローレン。あなたがどんな風に私を見ていたとしても、私はあなたを慕って、そばにいたいと思うのはそんなに変なことかな。貴族と平民じゃ考え方が違うの当たり前だ。だけど、人を愛したり慕ったり、気持ちを通じあわせたいって思うのはどんな人間にも通じることなんじゃないの?笑って、悲しくても笑って、そうやって生きてこれたのは、キルや、その周りの人たちが支えてくれたから。大事な友愛を教えてくれたローレンがいたからなんだよ。
「…ローレン。あなたが気づいていなくても、私はあなたのそばにいたい。そんな気持ちが友愛が生まれてたのよ。」
…ローレンはまた唇を噛み締めながら私に「もし私が裏切ったらどうするの。」と言った。
「構わないわ。」
「!?」
「私があなたをそばに置きたいんだもの。理由なんていらない。あなたをそばに置くことで私は安心できる。だから、あなたも私のそばにいてよかった!って思えるようにしてあげたい。だから、私を信じて、生きて欲しい。」
ローレンは、また涙をボロボロこぼしながら、椅子から降りて跪いた。
「…ローレン?」
左手を胸に当てて、頭を下げながら跪いたローレンは、バッと顔を上げた。
「ヴェデーアスティーヌ妃殿下。私は浅はかでございました。これまでよりも忠実にあなた様にお仕えしたくございます。ですが、志は変えず、アルベーサ殿下を慕います。ですから、妃殿下。私に、友愛をお教えくださいませ。私は、あなた様に、友愛を感じとうございます!」
そんな姿をしているローレンは、美しい瞳で、まるで、女神のようなそんな美しさを持って、一言では表せない。そんな心を表していた。
友愛を…私が教えられるだろうか。
私はそんなことを考えながら、ローレンに手を差し出した。
「下手でいいのなら…」
ローレンは、はっきり頷いてから、私の手を取って立ち上がった。
これまでの、ローレンとの友愛がなんであったかなんてそんなことは考えない。でも言えることはきっと、無駄ではなかった友愛が生まれた。ということだけだ。
ローレン。いつか、アルベーサ殿下があなたに振り向いてくれるはず。一途なのは二人とも変わらず残ってる愛だもの。きっとお互いが似ているから惹かれたんだ。私も、アルベーサ殿下に惹かれたのはそんなところなのだろうか。
「ヴェデ?」
俺が仕事を終えて家に戻ると、ヴェデと、ローレンは、手をつないで机に突っ伏して眠ってしまっていた。
イザベルとアナスタシオは、微笑みながら肩から落ちかけていた毛布をふわりと持ち上げ、ヴェデとローレンにかけた。
俺は、声を絞りながらイザベルたちに話しかけた。
「いつから眠ってしまってるんだい?」
イザベルは、少し口を緩ませて、微笑みながら、「わたくしどもが、少し席を外して戻ってきた頃にはもうお眠りになられて降りましたから、昼からでございましょうか。」
「そんなに長い間…もう夕方だというのに。疲れているのだな…」
俺は、マントの紐を取りながら話す。
アナスタシオは、俺の元へやってきて、静かに笑うと、小声で喋り始めた。
「殿下。ローレン様はわたくしどもや、リラン様がお部屋にお運びいたしますから。どうぞ、殿下はヴェデ様をお部屋に…」
ああ。気を遣ってくれてるんだな…とすぐにわかって俺も少し口元が緩んだ。
「ああ。わかった。ローレンのことは頼む。」
「お任せください。リラン様。お手伝いお願いいたします。」
俺が、ヴェデの腕を肩に回して横抱きに抱えてもヴェデは目を覚まさずによく眠っていた。
部屋についてベッドに下ろしても静かに眠っている。俺は、隣の椅子に腰をかけヴェデの顔を見ている。
「……私が無理をさせていたのだな。すまない。」
そう言って、ヴェデの左手の甲にキスをした。
静かだ。ヴェデの声のないこの家は静かで、なんだか寂しい。俺はいつの間にか、ヴェデなしじゃ生きられなくなっていたんだな。そんな自分に俺は、微笑みを隠せないでいた。
翌朝、眩しいほどの朝日によって私は目を覚ました。隣では、私の手を握って眠るキルがいた。
いつの間にベッドにきたのだろう?そんなことを思いながらキルに見とれていた。そんな視線を感じたのか、キルはゆっくりと目を開き体を起こした。
「おはよう。キル。」
「おはよう。ヴェデ。」
お互いがそう挨拶すると、毎朝決まって頬にキスをされた。アルベーサ殿下との対立を忘れてしまうほどの、優しい時間だった。私とキルが唯一ゆっくり恋人らしくいられる時間でもあった。…だから、こんな優しい時間を私は失いたくない。キルがこの時間を私と同じように優しい時間だと思ってくれてるのなら、私はそれを全力で守るのだ。それを毎朝心に誓って忘れないように生きよう。そう思うのだった。
「昨日は、お出迎えができなくてごめんなさい。」
私がそう言うと、キルは微笑みながら私を後ろから抱きしめた。私は驚きながらも冷静にキルの名を呼んだ。
「…キル?」
「眠くなったら寝てていいんだよ。ヴェデ。」
「でも、」
「出迎えしてくれて嬉しかったけど、それでヴェデが疲れて昨日のように眠ってしまってたらヴェデが可哀想でたまらない。私のせいで、ヴェデが疲れるなんて変だろう?」
「私疲れてないわ。」
「それに、ヴェデの寝顔あんなにゆっくり見れたの久しぶりなんだ。ヴェデの寝顔は私を安心させる。」
「…キル…」
「それでも待つのなら、寝室で仮眠しながらでいいから。…ね?」
キルの優しい声と綺麗なブロンドの髪が頬に当たって、いつの間にか私は頷いていた。
キルはホッとしたような顔で私をさっきよりも強く抱きしめた。私もそれに答えるようにキルの腕に手を置いた。
「それで?」
「え?」
「ローレンと何があったんだい?」
「あ、それは……」
「ん?」
またキルの髪の毛が私の頬に触れて自然と何があったか、話していた。
キルの髪の毛は優しい香りがして、キルの香りがして、なんだか包み込まれてるような気分になってしまうんだ。
「へぇ。そんなことがあったんだ。」
キルは、私の話を聞き終えるとそういった。
私はその言葉に頷きながら、私の体に巻きつけていた腕を解いて、ベッドから立ち上がった。
「アルベーサをそこまで慕っていたなんて気付かなかったよ。」
「ええ。私も…。なんとかしてあげたいのだけれど…私たちも今こんな状況ですしね、…アルベーサ殿下…」
私がボソリとそう言うと、キルは、私の顔をチラリと見て、私の方へゆっくりと駆け寄ってきた。ベッドに腰をかけている私の顔をじっくり見たと思ったら、突然唇を重ねてきた。私が跳ね返るように離れると、キルは私の顔を両手で包んだ。
「ど、どうしたの?キル。」
「ん?いや、君の口から男の名前が出るのってあんまりいい気しないなって思ってね。」
「えっ…それって…」
ヤキモチ…?
やだ。また顔がにやけてる。嬉しい。キルに求められてる。キルから必要とされてる。キル。それだけで私はこんなにも幸せでにやけちゃうくらいに幸せで喜びを隠せないくらいの女の子だって知ってた?そんなことも知らずにキルは私の顔を両手で包み込みながら優しく微笑むだけだった。
「ヴェデ様?お目覚めくださいませ。お母君が朝餉を作り終えてらっしゃいま……」
突然扉が開いて入ってきたのはアナスタシオだった。アナスタシオは私とキルの状態を見て、言葉を止めてしまった。と、思ったら顔をまるでタコのように真っ赤にして、頭を下げた。
「お、お取り込み中のところ、しっ、失礼いたしました!」
そういって部屋を走って出て行った。
アナスタシオ…なんか、かわいいな。そんなことを思いながらキルと目を合わせて笑っていた。
でも、そんな時間もあっという間で、本当に突然だったんだ。私たちがこんなことをしてる間緊張感が足りなかった。
本当に突然、ガラスの割れる大きな音は家中に響き渡った。
私とキルは同時に反応して音のした方へと走った。それと共に、私の名を呼ぶアナスタシオの声も家中に響いた。
「ヴェデ様!ヴェデ様!」
私はその現状を見て、頭の中が真っ白になった。なんで?どうして?なんでこうなったの?って言う嫌な感情がどんどん止まらなくて、私はこの現状を理解できなかった。
アナスタシオが、血まみれの手でイザベルを抱きかかえて床に座り込んでいたことなんて。
「イザベルッ!」
私の頭がやっと理解できたのかイザベルの元へ駆け寄った。イザベルの頬はまだ温かかったが、血が止まらず、アナスタシオの体も血まみれになっていった。
「キルベール様!これは、この前世子殿で、キルベール様を狙った矢と同じ猛毒の毒矢にございます!」
カリラは、イザベルの体を射抜いた矢の匂いを嗅いでそう言った。
「イザベル。矢を抜く。少し痛むぞ。歯をくいしばるんだ。」
そう言いながら、リランはイザベルの体に刺さっている矢を触りながら言った。
「…は、はい。平気で…す。こ、このくらい…。」
「…イザベル…抜くぞ。」
リランは、アナスタシオにイザベルをきちんと強く抱えこめと言い、矢を強く握った。その瞬間リランは強い勢いで矢をイザベルの体から抜き取った。その時のイザベルの叫び声は尋常ではなかった。
…私のせいで…イザベルが矢に射抜かれるなんて…やだ…やだよ。
「誰か、医師の資格を持つものはいないか!」
リランは大声で隠れている兵士に聞こえるように言った。その中でカリラが医師の資格を持っていたため、カリラが応急処置をし、イザベルの家で、きちんと治療することに決まった。
「ここが…イザベルの家…」
私がボソリと言うと、キルは聞き逃さずに、
「ああ。この国でも有力な侯爵家テリヌピア侯爵家だ。」
イザベルの家は貴族の中でも上に立つ上流貴族の家柄だった。王室のものに対して口を挟めるほどの有力な家柄…そんな大事な娘であるイザベルにこんな大きな傷を負わせて、私は…イザベルやアナスタシオのそばにいていいのだろうか。誰かが傷ついて、もし死んじゃったら、いや、周りにいるものだけじゃない。それ以下でも以上でもない何の関係もない人がこんな怪我をしたら私は、何をして生きていけばいいのだろう。殺されるなら私だけ勝手に殺してくれても構わない。でも、キルがあなたは何も悪くない。そう言ってくれたから生きようと思えた。ローレンたちが手を引っ張ってくれる間は、生きて見せないと…私は、ただそれだけを生きがいに、生きねばならない。
「キルベール様。ヴェデ様。急ぎましょう。早く傷を塞がないと出血多量で死んでしまいます。」
焦った声でそう言ったカリラは、腕から落ちかけているイザベルをまた持ち上げて、横抱きに抱きしめた。
その時、ふっと…もしかして…イザベルの恋しい人って…そんなことを思ってしまった。
「そうだな。急ごう。」
キルのその声で門が開くと全員走って屋敷に入っていく。
屋敷の扉が開いて出迎えてくれたのは、テリヌピア侯爵夫人、イザベルの実母であるスクージア夫人だ。イザベルと目元がそっくりで本当に綺麗な人だった。父親のテリヌピア侯爵は、宮殿での仕事のため、不在だったから、夫人が全てを取り仕切った。イザベルの血だらけの様子を見てしっかりとした侯爵夫人らしい態度で部屋へ案内してくれたのだ。
「主治医がいないため、私が手当いたします。他の方々は退出してください。」
カリラはそう言って清潔な服装に着替えた。
私たちはイザベルの命をカリラに託して、部屋を出た。
どうか…生きて。生きて私たちの元へ…帰って来て。
「手当は時間がかかりましょうし、お茶をお出し致します故、どうぞこちらへ。」
夫人に案内された部屋は、綺麗でイザベルから香る同じ香りがした。
私たちはずっと口を閉じたまま、何も発しようとしなかった。アナスタシオはやっと涙が止まったところで、リランの方に寄り添ったままだ。ローレンは私の手をぎゅっと握りしめて、キルはただじっと真剣な表情で前を向いて座っているだけ。私は…ただ下を向いて、涙をこらえている。私が泣いたらきっとローレンも泣いてしまう。泣き止んだアナスタシオもきっとまた泣いてしまう。我慢するんだ。自分にそう言い聞かせた。沈黙の空気が続く中で、誰一人出されたお茶を飲むものはいなかった。そして、その沈黙を破ったのは、スクージア夫人だった。
「みなさん。お茶をお飲みになってくださいな。冷めてしまいますわ。」
優しく微笑みながらそう言う夫人は、誰よりも切なく弱々しく見えた。身分も地位も高い侯爵家で、大黒柱である旦那さんがいない間は、スクージア夫人が家を守るのだ。だから、せめて、人の前では泣かない。そう決めているのだろうか。
私は、そんな夫人を見て、いつの間にか立ち上がって片足を床につけ跪きながら頭を下げていた。その姿には夫人だけでなくキル、リラン、アナスタシオ、ローレン、兵士、皆が驚いて、視線は一気に私に送られた。
「申し訳ありませんでした。私たちは、イザベルを、娘さんを預かる身でありながら…こんな、命に関わるような大怪我を…本当に…本当に…何と言っていいのか…申し訳ありません。」
「い、嫌だわ。お顔をあげてください。いいのです。あなたたちを守った。それだけで、イザベルは、娘は、満足しているはず。」
そんな…それだったら尚更、私を守って死にそうになってるのなら尚更…申し訳が立たない。
「それに…娘は、そこまで弱くありませんのよ。」
「「「え?」」」
この場にいるもの全員が一斉に発した。
「娘は、そう簡単に死にません。特に、愛しい殿方の前では。」
愛しい殿方…やはり、イザベルの愛する人は、カリラ…
前言っていた重要なお役目、それは、キルの側近にいるお仕事ってことだったのね。ならば、ならば、必ず戻って来て。すぐに、祝言を挙げるから、二人は互いに愛しく思っているのだもの。そして、私に謝らせてほしい。必要としている人間がそばにいるのに、一人で天国になんて行かないでよ。イザベル。
みんながイザベルに対して同じように戻っておいで。そう願っている中、急に扉が開いた。
「遅くなりまして申し訳ありません。」
そう言って入って来たのはカリラだった。
みんなは、無意識に立ち上がってしまっている。
「イザベルは…」
私が小さな声で聞くと、カリラは下に俯いた。そして、大粒の涙を流しながらまた顔を大きくあげて私たちの方を向いた。
「…カリラ?」
「…でございます。」
「え?」
「イザベルは……意識を取り戻してございます!」
その後のことは、あまり覚えてない。
みんなの歓声が上がって、スクージア夫人が涙を流して…それから…アナスタシオもみんな同じように涙を流して、抱きしめあって…
嬉しいのに…嬉しくてたまらないのに、またこんなことが何度も起こったらどうしよう。そんな気持ちが頭の中で回ってた。
イザベルは、意識を取り戻したもののまだ体が疲れているためきちんと食事をとって体力をつけてから仕事に戻ることが決まった。
その後、疲れて眠ってしまっているイザベルとは会うことも話すこともできなかったけど、とりあえず、気持ちは決まった。
イザベルを殺そうとしたものは許せない!決して、許さない!逃しはしない!捕まえて、必ず捕まえてみせる!
「馬鹿野郎!」
部屋中に俺の怒鳴り声と、ガラスの割れる音が響く。へぇ。窓ガラスを殴ると、こんなに割れてしまうのか。ふぅん。面白い。
「で、ですが、アルベーサ殿下…やはり、見せしめに…誰か一人は…」
そう言い訳する内官の頭の髪の毛を上に引っ張って、ついさっき割れたばかりのガラスの破片を首元に近づける。
「お前を見せしめに殺してやっても良いと言うのか!」
「ひっ!お…お許しください!」
髪の毛を離すと、内官は腰の力が抜けたのか床に座り込んでしまった。俺は、腰にかけてある剣を抜くと内官の首に当てた。いつでも、こいつを殺せる。そんな状況を作った。
「俺は見張りをしろと言った!誰が女官を殺せと命じた!」
「ひっ!も、申し訳ありません!で、ですが、あの女官は生きておりますっ」
「言い訳は見苦しい。お前を殺すのも一興かと思ったがやめた。」
俺はそう言いながら、剣をさやにしまう。
「一家共に、路頭に迷う方が惨めで面白い。連れてけ。」
扉が大きく開いて入って来たのは、3人の兵士。彼らは、内官の腕を持ち引っ張りながら部屋から出す。「お、お待ちください!お助けください!お慈悲を!アルベーサ殿下!」そう叫びながら、内官は連れ出された。いや、もう内官ではないな。男は連れ出された。
俺を、山賊のような人間と思うからだ。
そう簡単に人は殺さぬ。ヴェデを奪った兄だけが許せない。それだけだ。突き放しはしたが、こうなったからには必ずヴェデを取り戻す。取り戻してみせる。
たった一人だけ。ヴェデだけが俺を愛してくれた。いつだってリラン先生にだって褒められたりしたことがない。いつだって、誰だって、「キルベール殿下はもっとすごい。」そんな言葉ばっかり言われて、俺を本気で愛してくれたのはヴェデだけだ。
「守るのは兄上ではない。俺だ。」
ヴェデ…
あの事件から2日経った。
事件の犯人はアルベーサ殿下派の誰かの仕業であるとわかってはいるものの証拠がつかめず、進展はしていない。
日にちだけが、少しずつ経っていく。
「ヴェデ様。」
アナスタシオに名を呼ばれて振り向くと、アナスタシオは、私服のドレスを着て花を持ちながら立っていた。
「あら、アナスタシオどこかいくの?」
「イザベルのお見舞いに参ろうかと思います。それで、ヴェデ様もご一緒にいかがかと思いまして…」
私は、持っていた本を机において勢いよく立ち上がった。
「行くわ。イザベル元気にしてるかしら…。すぐ着替えるから待ってて!」
「かしこまりました。お着替えお手伝い致します。」
頭を下げながらアナスタシオは持っていた花を机において、私の後をついてきた。
「ありがとう。アナスタシオ。」
そう言うと、アナスタシオは顔を少し赤くしながら微笑んだ。
今日は、イザベルの家へ行くのだからあまり派手やかだと村の人たちはいいとしても、町の人たちにキルや王家の人たちがここら辺にいるなんて知られたら変なふうに思われてしまうわ。
「今日は、あまり派手やかなものだと変なふうに思われてしまいますから、貴族が来ているような、今の私のようなドレスをご用意しますね。」
口に出さずともアナスタシオはわかってくれる。それは、私のことを知ってくれてる証だ。それが言葉に出せないくらい、幸せで嬉しかった。
「まぁ、来てくださったんですね。」
イザベルの屋敷に着くと、スクージア夫人が迎えてくれた。今日も、旦那様である侯爵は不在だった。
「イザベル。入るわよ。」
部屋の扉の前からスクージア夫人はイザベルに話しかけた。
間も無く一人の使用人によって部屋の扉は開けられ、中にはベッドの上で本を読むイザベルの姿があった。
「姫君。アナスタシオ。」
慌てて立ち上がろうとするイザベルを、私とアナスタシオで説き伏せた。
「申し訳ありません。このような格好で…」
謝るイザベルにアナスタシオは持って来た花束を渡した。イザベルはその花束の花の香りをかいで微笑んだ。それを見て私は、笑みをこぼしたいところだったが、むしろ、イザベルを切なく思った。
「体調はどう?イザベル。」
「姫君に心配していただくような怪我では…」
「いいえ。私のせいだもの。」
「姫君…」
私は、イザベルの手を両手で包み込む。
イザベルの手は、小さくて白くて、貴族の娘の手だった。…本来なら何の苦労もせず、王宮で礼儀作法を学んで、幸せな結婚をして、幸せな家庭を作って、そんな幸せに囲まれた生活をするはずだったイザベル…。アナスタシオも同じだ。内官は仕方ないとしても、ローレンも、私の犠牲の一人…。でも、もう私は…
「ごめんなさい。ごめんなさいね。」
もう弱くない。二度とこんなことを起こさないように私がしっかりするんだ。
「ごめんなさいね。もう少しだけ付き合ってほしいわ。いつか、きっと、終わりが来るから。」
私はイザベルの手を強く握りしめた。
そんな私の手に対してイザベルはまた強く私の手を握りかえした。
「ご無礼を…致しますこと…お許しくださいませ。」
「え?」
その瞬間に、私はイザベルに抱きしめられた。イザベルの手は震えていて…緊張してるのね。ご無礼なんて…そんなこと思ったことないわ…私はイザベルよりも強く深くイザベルを抱きしめる。
「ご無礼を…お許しください。」
イザベルは泣きながらそう言う。
「良いのです。」
私はそう言って、イザベルの背中をさする。
なぜ泣いているの?と、聞くと、イザベルは、途切れ途切れに、言葉をつなげた。
「…お守り…できなくて…自分の不甲斐なさ…に、私、愛しい人に、愛の言葉を伝えれずに…姫君を守ると言う志を果たせずに…逝くなんて……帰ってこれて…今、この場にいることが幸せで……」
私は、イザベルの背中をさするのと同時に語りかけた。
「…イザベル。あなたは帰ってこれたのよ。この場に。みんなが待ってるこの世に。カリラのいるこの世に…」
「…はいっ。」
イザベルは泣いて泣いて、泣きはらした。
そうよ。私のために死んじゃいけない。
愛する人がいるのに、愛してくれる人がいるのに、必要とする、必要としてくれる人がいるのに、死んじゃダメなのよ。…だから、次は全力でみんなを巻き込まないように、全力で守るから。しっかりするから。みんな、死んじゃダメなんだよ。
私たちは泣き腫らして疲れたイザベルをベッドに寝かせて部屋を出た。部屋を出るとスクージア夫人が私たちのことをずっと待っていた。
「お待たせしてしまって……」
私が頭を下げようと跪こうとすると、スクージア夫人が私の手を引っ張って強く握った。
「スクージア夫人…?」
「お話、全てここまで聞こえました。…イザベルを…どうか、よろしくお願いします。姫様。」
この人も、強がってはいるものの、母親なんだものね…。
「もちろんでございます。」
「アナスタシオ。イザベルと話す時間、取れなくてごめんね…」
帰り道、スクージア夫人がくれたケーキを持ち帰りながら私は言った。
アナスタシオはすぐに私の方を向いて、微笑んだ。
「いえ。イザベルの本当の気持ちを知れて、とても嬉しかったです。…ですが、ヴェデ様。」
「?」
「何故、イザベルの婚約者がカリラだとお分かりになられたのですか?私は、前々から聞いていたのですが、」
「あ、それのこと…?この前カリラがイザベルを横抱きにして、あの屋敷に向かった時、カリラ本当に大切そうに抱きしめていたから、なんとなくそんな気がしてね。」
私は、ウィンクをしながら笑った。
「そうですか。あんなふうに愛してくださる相手がいるのですもの。イザベルはきっと大丈夫ですね。」
そんな話をしながら、私たちは家に戻った。
愛してくれる方がいるから、私たちは前を向いて、例え遅くても、手を引いてくれる相手がいるから歩ける。
私たちは、一人じゃない。少なくとも、私の周りにいる人には、そんな人がいる。私が必要と、愛しているうちはみんな、逝ってはならない。こんな時に、使うのもどうかと思うけれど、姫として、姫の権限で、誰一人として欠けてはならない。生きて、王宮へ戻るのよ。
もうすぐ、アルベーサ殿下に合わなくてはならない時がくる。もう、逃げてるだけじゃダメなのだ。私から、私から、私自身から、向かっていくのだ。…そう、思っていたのに…
「やぁ。ヴェデ。久方ぶりだね。」
彼が、アルベーサ殿下が、こんなにも早く動き出すなんて、思わなかったんだ。
9番星
破棄された…その言葉は、私の頭の中でぐるぐる回っていた。
こんなことになる…それは想像できたはずだし、私も気づいていたのではないか。ただ、そんな現実を見たくなくて、私の身勝手でわがままな気持ちが、ローレンの婚姻を破棄させることなんて見たくなくて…。言い訳なのはわかっている。ただ、貴族であり、上流階級で、おしとやかなローレンが、いや、この国に住む女性なら、誰もが望む早い結婚。子供を産むしか他に国のためにできることなどない女性が、唯一の幸せを手に入れる結婚という素晴らしいものを、私はローレンから奪ってしまった。
私が下を向きながら、青ざめた表情をしているとローレンは優しく私に話しかけた。
「ヴェデ?」
「…ローレン。」
「気にすることないのよ。知らない殿方に嫁ぐのですもの。嫌な気持ちもあったし、そんな気持ちで殿方に嫁ぎたくないの。慕っている殿方に想いを告げぬまま、他の殿方に嫁ぐなんてできなかったから…。」
「…他の、殿方…?……アルベーサ殿下…を…」
私が、ローレンの顔を見るとローレンは下を見ながら唇をかみしめて涙をこらえながら私の言葉に頷いた。
「…ええ。お慕いしているわ…。」
「で、でもそれは…」
「わかってる!」
ローレンとは思えないほどの大声に押されて私は少し固まってしまった。
「…わかってるのよ…。叶わない想いだと。告げてはならない想いだと。…ヴェデにこんなことする人だもの。一時期は想いが離れた。でも…でも…忘れることは…できなかった。ヴェデにこんなことするのは、ヴェデを一途に愛しているからだってわかってる。わかってるからこそ、あんな…寂しい暗い気持ちに包まれているアルベーサ殿下を…アルベーサ殿下…を…」
ローレンはついに涙が溢れて止まらなかった。
「あんな誰もが羨むお姿お人柄をお持ちのキルベール殿下を兄に持って…婚約者までキルベール殿下に奪われてしまったアルベーサ殿下…アルベーサ殿下を…私が、ヴェデではなく私が…お救いして差し上げたかった…」
初めて聞くローレンの真実の言葉がこんなことだなんて知らなかった。
本当にアルベーサ殿下を愛していて…涙が溢れて止まらなくなるほど強く強くお救いしたい気持ちがあって、これまで、いったいどんな気持ちで私のそばにいてくれたのか…その気持ちは測りきれないくらい辛かったのだろう。アルベーサ殿下の寵愛を受け、その後突き放された私を守る場につくローレンが幸せだと思えるような場所が今まで、あったのかすら私にはわからない。
でも、ローレンの手は変わらず温かくて、守ってあげるのは次は私だ。
私は、ローレンの手に優しく触れた。
ローレンは、潰れそうな声で「嫌にならないの?」と聞いてきた。
「嫌になんてならない。そんなローレンの気持ち聴けて嬉しかった。そばにいてくれてありがとう。」
私は、ローレンの肩に腕を回して優しく抱きしめた。ローレンは少し体を揺らしたがすぐに止まった。
「…ヴェデ。お願い。無理しないで。」
「え?」
「…私は、アルベーサ殿下に近づくために、あなたに取り入ったのよ…。あなたへの友愛よりもアルベーサ殿下への想いを優先させていたのよ。私はあなたに抱きしめられて、友愛を深めるような人間ではない。アルベーサ殿下を…アルベーサ殿下をお慕いしている。あなたの敵よ。いつ裏切ってアルベーサ殿下にいどころや、秘密をバラすか、わからない。」
私はその言葉に跳ね返るようにローレンの肩においていた腕を離してローレンの顔を見た。ローレンが目を反らせないくらい私の気持ちを伝える。そう思ったのだ。
「それでもっ。それでも!そばにいて欲しいの。」
「……」
「…ねぇ。ローレン。最初こそは、私のことをただの駒としてしか見てなかったのかもしれない。でも、そのあとは?私に仕えたい。私のいる生活に慣れてしまった。私がいなくなると物足りない。そんな気持ちは、駒としての見方とは違ってて欲しい。貴族で、優しいローレンが、シャーロットをやめてまで、ローレンになった理由は何?貴族のあなたは田舎に来てまで私を駒としては見ないはずよ。私のためであろうとなかろうと、シャーロット・サーシャを捨ててローレンになったのは事実なのよ。その想いが、アルベーサ殿下に向いていようと、こんなところまできて友達と接してくれてたローレンを私は慕っているのよっ。…何より、あなたは……あなたはキルや、リラン、イザベル、アナスタシオと共に私に、生きる意味を与えてくれたじゃない!」
「……」
ねぇ。ローレン。あなたがどんな風に私を見ていたとしても、私はあなたを慕って、そばにいたいと思うのはそんなに変なことかな。貴族と平民じゃ考え方が違うの当たり前だ。だけど、人を愛したり慕ったり、気持ちを通じあわせたいって思うのはどんな人間にも通じることなんじゃないの?笑って、悲しくても笑って、そうやって生きてこれたのは、キルや、その周りの人たちが支えてくれたから。大事な友愛を教えてくれたローレンがいたからなんだよ。
「…ローレン。あなたが気づいていなくても、私はあなたのそばにいたい。そんな気持ちが友愛が生まれてたのよ。」
…ローレンはまた唇を噛み締めながら私に「もし私が裏切ったらどうするの。」と言った。
「構わないわ。」
「!?」
「私があなたをそばに置きたいんだもの。理由なんていらない。あなたをそばに置くことで私は安心できる。だから、あなたも私のそばにいてよかった!って思えるようにしてあげたい。だから、私を信じて、生きて欲しい。」
ローレンは、また涙をボロボロこぼしながら、椅子から降りて跪いた。
「…ローレン?」
左手を胸に当てて、頭を下げながら跪いたローレンは、バッと顔を上げた。
「ヴェデーアスティーヌ妃殿下。私は浅はかでございました。これまでよりも忠実にあなた様にお仕えしたくございます。ですが、志は変えず、アルベーサ殿下を慕います。ですから、妃殿下。私に、友愛をお教えくださいませ。私は、あなた様に、友愛を感じとうございます!」
そんな姿をしているローレンは、美しい瞳で、まるで、女神のようなそんな美しさを持って、一言では表せない。そんな心を表していた。
友愛を…私が教えられるだろうか。
私はそんなことを考えながら、ローレンに手を差し出した。
「下手でいいのなら…」
ローレンは、はっきり頷いてから、私の手を取って立ち上がった。
これまでの、ローレンとの友愛がなんであったかなんてそんなことは考えない。でも言えることはきっと、無駄ではなかった友愛が生まれた。ということだけだ。
ローレン。いつか、アルベーサ殿下があなたに振り向いてくれるはず。一途なのは二人とも変わらず残ってる愛だもの。きっとお互いが似ているから惹かれたんだ。私も、アルベーサ殿下に惹かれたのはそんなところなのだろうか。
「ヴェデ?」
俺が仕事を終えて家に戻ると、ヴェデと、ローレンは、手をつないで机に突っ伏して眠ってしまっていた。
イザベルとアナスタシオは、微笑みながら肩から落ちかけていた毛布をふわりと持ち上げ、ヴェデとローレンにかけた。
俺は、声を絞りながらイザベルたちに話しかけた。
「いつから眠ってしまってるんだい?」
イザベルは、少し口を緩ませて、微笑みながら、「わたくしどもが、少し席を外して戻ってきた頃にはもうお眠りになられて降りましたから、昼からでございましょうか。」
「そんなに長い間…もう夕方だというのに。疲れているのだな…」
俺は、マントの紐を取りながら話す。
アナスタシオは、俺の元へやってきて、静かに笑うと、小声で喋り始めた。
「殿下。ローレン様はわたくしどもや、リラン様がお部屋にお運びいたしますから。どうぞ、殿下はヴェデ様をお部屋に…」
ああ。気を遣ってくれてるんだな…とすぐにわかって俺も少し口元が緩んだ。
「ああ。わかった。ローレンのことは頼む。」
「お任せください。リラン様。お手伝いお願いいたします。」
俺が、ヴェデの腕を肩に回して横抱きに抱えてもヴェデは目を覚まさずによく眠っていた。
部屋についてベッドに下ろしても静かに眠っている。俺は、隣の椅子に腰をかけヴェデの顔を見ている。
「……私が無理をさせていたのだな。すまない。」
そう言って、ヴェデの左手の甲にキスをした。
静かだ。ヴェデの声のないこの家は静かで、なんだか寂しい。俺はいつの間にか、ヴェデなしじゃ生きられなくなっていたんだな。そんな自分に俺は、微笑みを隠せないでいた。
翌朝、眩しいほどの朝日によって私は目を覚ました。隣では、私の手を握って眠るキルがいた。
いつの間にベッドにきたのだろう?そんなことを思いながらキルに見とれていた。そんな視線を感じたのか、キルはゆっくりと目を開き体を起こした。
「おはよう。キル。」
「おはよう。ヴェデ。」
お互いがそう挨拶すると、毎朝決まって頬にキスをされた。アルベーサ殿下との対立を忘れてしまうほどの、優しい時間だった。私とキルが唯一ゆっくり恋人らしくいられる時間でもあった。…だから、こんな優しい時間を私は失いたくない。キルがこの時間を私と同じように優しい時間だと思ってくれてるのなら、私はそれを全力で守るのだ。それを毎朝心に誓って忘れないように生きよう。そう思うのだった。
「昨日は、お出迎えができなくてごめんなさい。」
私がそう言うと、キルは微笑みながら私を後ろから抱きしめた。私は驚きながらも冷静にキルの名を呼んだ。
「…キル?」
「眠くなったら寝てていいんだよ。ヴェデ。」
「でも、」
「出迎えしてくれて嬉しかったけど、それでヴェデが疲れて昨日のように眠ってしまってたらヴェデが可哀想でたまらない。私のせいで、ヴェデが疲れるなんて変だろう?」
「私疲れてないわ。」
「それに、ヴェデの寝顔あんなにゆっくり見れたの久しぶりなんだ。ヴェデの寝顔は私を安心させる。」
「…キル…」
「それでも待つのなら、寝室で仮眠しながらでいいから。…ね?」
キルの優しい声と綺麗なブロンドの髪が頬に当たって、いつの間にか私は頷いていた。
キルはホッとしたような顔で私をさっきよりも強く抱きしめた。私もそれに答えるようにキルの腕に手を置いた。
「それで?」
「え?」
「ローレンと何があったんだい?」
「あ、それは……」
「ん?」
またキルの髪の毛が私の頬に触れて自然と何があったか、話していた。
キルの髪の毛は優しい香りがして、キルの香りがして、なんだか包み込まれてるような気分になってしまうんだ。
「へぇ。そんなことがあったんだ。」
キルは、私の話を聞き終えるとそういった。
私はその言葉に頷きながら、私の体に巻きつけていた腕を解いて、ベッドから立ち上がった。
「アルベーサをそこまで慕っていたなんて気付かなかったよ。」
「ええ。私も…。なんとかしてあげたいのだけれど…私たちも今こんな状況ですしね、…アルベーサ殿下…」
私がボソリとそう言うと、キルは、私の顔をチラリと見て、私の方へゆっくりと駆け寄ってきた。ベッドに腰をかけている私の顔をじっくり見たと思ったら、突然唇を重ねてきた。私が跳ね返るように離れると、キルは私の顔を両手で包んだ。
「ど、どうしたの?キル。」
「ん?いや、君の口から男の名前が出るのってあんまりいい気しないなって思ってね。」
「えっ…それって…」
ヤキモチ…?
やだ。また顔がにやけてる。嬉しい。キルに求められてる。キルから必要とされてる。キル。それだけで私はこんなにも幸せでにやけちゃうくらいに幸せで喜びを隠せないくらいの女の子だって知ってた?そんなことも知らずにキルは私の顔を両手で包み込みながら優しく微笑むだけだった。
「ヴェデ様?お目覚めくださいませ。お母君が朝餉を作り終えてらっしゃいま……」
突然扉が開いて入ってきたのはアナスタシオだった。アナスタシオは私とキルの状態を見て、言葉を止めてしまった。と、思ったら顔をまるでタコのように真っ赤にして、頭を下げた。
「お、お取り込み中のところ、しっ、失礼いたしました!」
そういって部屋を走って出て行った。
アナスタシオ…なんか、かわいいな。そんなことを思いながらキルと目を合わせて笑っていた。
でも、そんな時間もあっという間で、本当に突然だったんだ。私たちがこんなことをしてる間緊張感が足りなかった。
本当に突然、ガラスの割れる大きな音は家中に響き渡った。
私とキルは同時に反応して音のした方へと走った。それと共に、私の名を呼ぶアナスタシオの声も家中に響いた。
「ヴェデ様!ヴェデ様!」
私はその現状を見て、頭の中が真っ白になった。なんで?どうして?なんでこうなったの?って言う嫌な感情がどんどん止まらなくて、私はこの現状を理解できなかった。
アナスタシオが、血まみれの手でイザベルを抱きかかえて床に座り込んでいたことなんて。
「イザベルッ!」
私の頭がやっと理解できたのかイザベルの元へ駆け寄った。イザベルの頬はまだ温かかったが、血が止まらず、アナスタシオの体も血まみれになっていった。
「キルベール様!これは、この前世子殿で、キルベール様を狙った矢と同じ猛毒の毒矢にございます!」
カリラは、イザベルの体を射抜いた矢の匂いを嗅いでそう言った。
「イザベル。矢を抜く。少し痛むぞ。歯をくいしばるんだ。」
そう言いながら、リランはイザベルの体に刺さっている矢を触りながら言った。
「…は、はい。平気で…す。こ、このくらい…。」
「…イザベル…抜くぞ。」
リランは、アナスタシオにイザベルをきちんと強く抱えこめと言い、矢を強く握った。その瞬間リランは強い勢いで矢をイザベルの体から抜き取った。その時のイザベルの叫び声は尋常ではなかった。
…私のせいで…イザベルが矢に射抜かれるなんて…やだ…やだよ。
「誰か、医師の資格を持つものはいないか!」
リランは大声で隠れている兵士に聞こえるように言った。その中でカリラが医師の資格を持っていたため、カリラが応急処置をし、イザベルの家で、きちんと治療することに決まった。
「ここが…イザベルの家…」
私がボソリと言うと、キルは聞き逃さずに、
「ああ。この国でも有力な侯爵家テリヌピア侯爵家だ。」
イザベルの家は貴族の中でも上に立つ上流貴族の家柄だった。王室のものに対して口を挟めるほどの有力な家柄…そんな大事な娘であるイザベルにこんな大きな傷を負わせて、私は…イザベルやアナスタシオのそばにいていいのだろうか。誰かが傷ついて、もし死んじゃったら、いや、周りにいるものだけじゃない。それ以下でも以上でもない何の関係もない人がこんな怪我をしたら私は、何をして生きていけばいいのだろう。殺されるなら私だけ勝手に殺してくれても構わない。でも、キルがあなたは何も悪くない。そう言ってくれたから生きようと思えた。ローレンたちが手を引っ張ってくれる間は、生きて見せないと…私は、ただそれだけを生きがいに、生きねばならない。
「キルベール様。ヴェデ様。急ぎましょう。早く傷を塞がないと出血多量で死んでしまいます。」
焦った声でそう言ったカリラは、腕から落ちかけているイザベルをまた持ち上げて、横抱きに抱きしめた。
その時、ふっと…もしかして…イザベルの恋しい人って…そんなことを思ってしまった。
「そうだな。急ごう。」
キルのその声で門が開くと全員走って屋敷に入っていく。
屋敷の扉が開いて出迎えてくれたのは、テリヌピア侯爵夫人、イザベルの実母であるスクージア夫人だ。イザベルと目元がそっくりで本当に綺麗な人だった。父親のテリヌピア侯爵は、宮殿での仕事のため、不在だったから、夫人が全てを取り仕切った。イザベルの血だらけの様子を見てしっかりとした侯爵夫人らしい態度で部屋へ案内してくれたのだ。
「主治医がいないため、私が手当いたします。他の方々は退出してください。」
カリラはそう言って清潔な服装に着替えた。
私たちはイザベルの命をカリラに託して、部屋を出た。
どうか…生きて。生きて私たちの元へ…帰って来て。
「手当は時間がかかりましょうし、お茶をお出し致します故、どうぞこちらへ。」
夫人に案内された部屋は、綺麗でイザベルから香る同じ香りがした。
私たちはずっと口を閉じたまま、何も発しようとしなかった。アナスタシオはやっと涙が止まったところで、リランの方に寄り添ったままだ。ローレンは私の手をぎゅっと握りしめて、キルはただじっと真剣な表情で前を向いて座っているだけ。私は…ただ下を向いて、涙をこらえている。私が泣いたらきっとローレンも泣いてしまう。泣き止んだアナスタシオもきっとまた泣いてしまう。我慢するんだ。自分にそう言い聞かせた。沈黙の空気が続く中で、誰一人出されたお茶を飲むものはいなかった。そして、その沈黙を破ったのは、スクージア夫人だった。
「みなさん。お茶をお飲みになってくださいな。冷めてしまいますわ。」
優しく微笑みながらそう言う夫人は、誰よりも切なく弱々しく見えた。身分も地位も高い侯爵家で、大黒柱である旦那さんがいない間は、スクージア夫人が家を守るのだ。だから、せめて、人の前では泣かない。そう決めているのだろうか。
私は、そんな夫人を見て、いつの間にか立ち上がって片足を床につけ跪きながら頭を下げていた。その姿には夫人だけでなくキル、リラン、アナスタシオ、ローレン、兵士、皆が驚いて、視線は一気に私に送られた。
「申し訳ありませんでした。私たちは、イザベルを、娘さんを預かる身でありながら…こんな、命に関わるような大怪我を…本当に…本当に…何と言っていいのか…申し訳ありません。」
「い、嫌だわ。お顔をあげてください。いいのです。あなたたちを守った。それだけで、イザベルは、娘は、満足しているはず。」
そんな…それだったら尚更、私を守って死にそうになってるのなら尚更…申し訳が立たない。
「それに…娘は、そこまで弱くありませんのよ。」
「「「え?」」」
この場にいるもの全員が一斉に発した。
「娘は、そう簡単に死にません。特に、愛しい殿方の前では。」
愛しい殿方…やはり、イザベルの愛する人は、カリラ…
前言っていた重要なお役目、それは、キルの側近にいるお仕事ってことだったのね。ならば、ならば、必ず戻って来て。すぐに、祝言を挙げるから、二人は互いに愛しく思っているのだもの。そして、私に謝らせてほしい。必要としている人間がそばにいるのに、一人で天国になんて行かないでよ。イザベル。
みんながイザベルに対して同じように戻っておいで。そう願っている中、急に扉が開いた。
「遅くなりまして申し訳ありません。」
そう言って入って来たのはカリラだった。
みんなは、無意識に立ち上がってしまっている。
「イザベルは…」
私が小さな声で聞くと、カリラは下に俯いた。そして、大粒の涙を流しながらまた顔を大きくあげて私たちの方を向いた。
「…カリラ?」
「…でございます。」
「え?」
「イザベルは……意識を取り戻してございます!」
その後のことは、あまり覚えてない。
みんなの歓声が上がって、スクージア夫人が涙を流して…それから…アナスタシオもみんな同じように涙を流して、抱きしめあって…
嬉しいのに…嬉しくてたまらないのに、またこんなことが何度も起こったらどうしよう。そんな気持ちが頭の中で回ってた。
イザベルは、意識を取り戻したもののまだ体が疲れているためきちんと食事をとって体力をつけてから仕事に戻ることが決まった。
その後、疲れて眠ってしまっているイザベルとは会うことも話すこともできなかったけど、とりあえず、気持ちは決まった。
イザベルを殺そうとしたものは許せない!決して、許さない!逃しはしない!捕まえて、必ず捕まえてみせる!
「馬鹿野郎!」
部屋中に俺の怒鳴り声と、ガラスの割れる音が響く。へぇ。窓ガラスを殴ると、こんなに割れてしまうのか。ふぅん。面白い。
「で、ですが、アルベーサ殿下…やはり、見せしめに…誰か一人は…」
そう言い訳する内官の頭の髪の毛を上に引っ張って、ついさっき割れたばかりのガラスの破片を首元に近づける。
「お前を見せしめに殺してやっても良いと言うのか!」
「ひっ!お…お許しください!」
髪の毛を離すと、内官は腰の力が抜けたのか床に座り込んでしまった。俺は、腰にかけてある剣を抜くと内官の首に当てた。いつでも、こいつを殺せる。そんな状況を作った。
「俺は見張りをしろと言った!誰が女官を殺せと命じた!」
「ひっ!も、申し訳ありません!で、ですが、あの女官は生きておりますっ」
「言い訳は見苦しい。お前を殺すのも一興かと思ったがやめた。」
俺はそう言いながら、剣をさやにしまう。
「一家共に、路頭に迷う方が惨めで面白い。連れてけ。」
扉が大きく開いて入って来たのは、3人の兵士。彼らは、内官の腕を持ち引っ張りながら部屋から出す。「お、お待ちください!お助けください!お慈悲を!アルベーサ殿下!」そう叫びながら、内官は連れ出された。いや、もう内官ではないな。男は連れ出された。
俺を、山賊のような人間と思うからだ。
そう簡単に人は殺さぬ。ヴェデを奪った兄だけが許せない。それだけだ。突き放しはしたが、こうなったからには必ずヴェデを取り戻す。取り戻してみせる。
たった一人だけ。ヴェデだけが俺を愛してくれた。いつだってリラン先生にだって褒められたりしたことがない。いつだって、誰だって、「キルベール殿下はもっとすごい。」そんな言葉ばっかり言われて、俺を本気で愛してくれたのはヴェデだけだ。
「守るのは兄上ではない。俺だ。」
ヴェデ…
あの事件から2日経った。
事件の犯人はアルベーサ殿下派の誰かの仕業であるとわかってはいるものの証拠がつかめず、進展はしていない。
日にちだけが、少しずつ経っていく。
「ヴェデ様。」
アナスタシオに名を呼ばれて振り向くと、アナスタシオは、私服のドレスを着て花を持ちながら立っていた。
「あら、アナスタシオどこかいくの?」
「イザベルのお見舞いに参ろうかと思います。それで、ヴェデ様もご一緒にいかがかと思いまして…」
私は、持っていた本を机において勢いよく立ち上がった。
「行くわ。イザベル元気にしてるかしら…。すぐ着替えるから待ってて!」
「かしこまりました。お着替えお手伝い致します。」
頭を下げながらアナスタシオは持っていた花を机において、私の後をついてきた。
「ありがとう。アナスタシオ。」
そう言うと、アナスタシオは顔を少し赤くしながら微笑んだ。
今日は、イザベルの家へ行くのだからあまり派手やかだと村の人たちはいいとしても、町の人たちにキルや王家の人たちがここら辺にいるなんて知られたら変なふうに思われてしまうわ。
「今日は、あまり派手やかなものだと変なふうに思われてしまいますから、貴族が来ているような、今の私のようなドレスをご用意しますね。」
口に出さずともアナスタシオはわかってくれる。それは、私のことを知ってくれてる証だ。それが言葉に出せないくらい、幸せで嬉しかった。
「まぁ、来てくださったんですね。」
イザベルの屋敷に着くと、スクージア夫人が迎えてくれた。今日も、旦那様である侯爵は不在だった。
「イザベル。入るわよ。」
部屋の扉の前からスクージア夫人はイザベルに話しかけた。
間も無く一人の使用人によって部屋の扉は開けられ、中にはベッドの上で本を読むイザベルの姿があった。
「姫君。アナスタシオ。」
慌てて立ち上がろうとするイザベルを、私とアナスタシオで説き伏せた。
「申し訳ありません。このような格好で…」
謝るイザベルにアナスタシオは持って来た花束を渡した。イザベルはその花束の花の香りをかいで微笑んだ。それを見て私は、笑みをこぼしたいところだったが、むしろ、イザベルを切なく思った。
「体調はどう?イザベル。」
「姫君に心配していただくような怪我では…」
「いいえ。私のせいだもの。」
「姫君…」
私は、イザベルの手を両手で包み込む。
イザベルの手は、小さくて白くて、貴族の娘の手だった。…本来なら何の苦労もせず、王宮で礼儀作法を学んで、幸せな結婚をして、幸せな家庭を作って、そんな幸せに囲まれた生活をするはずだったイザベル…。アナスタシオも同じだ。内官は仕方ないとしても、ローレンも、私の犠牲の一人…。でも、もう私は…
「ごめんなさい。ごめんなさいね。」
もう弱くない。二度とこんなことを起こさないように私がしっかりするんだ。
「ごめんなさいね。もう少しだけ付き合ってほしいわ。いつか、きっと、終わりが来るから。」
私はイザベルの手を強く握りしめた。
そんな私の手に対してイザベルはまた強く私の手を握りかえした。
「ご無礼を…致しますこと…お許しくださいませ。」
「え?」
その瞬間に、私はイザベルに抱きしめられた。イザベルの手は震えていて…緊張してるのね。ご無礼なんて…そんなこと思ったことないわ…私はイザベルよりも強く深くイザベルを抱きしめる。
「ご無礼を…お許しください。」
イザベルは泣きながらそう言う。
「良いのです。」
私はそう言って、イザベルの背中をさする。
なぜ泣いているの?と、聞くと、イザベルは、途切れ途切れに、言葉をつなげた。
「…お守り…できなくて…自分の不甲斐なさ…に、私、愛しい人に、愛の言葉を伝えれずに…姫君を守ると言う志を果たせずに…逝くなんて……帰ってこれて…今、この場にいることが幸せで……」
私は、イザベルの背中をさするのと同時に語りかけた。
「…イザベル。あなたは帰ってこれたのよ。この場に。みんなが待ってるこの世に。カリラのいるこの世に…」
「…はいっ。」
イザベルは泣いて泣いて、泣きはらした。
そうよ。私のために死んじゃいけない。
愛する人がいるのに、愛してくれる人がいるのに、必要とする、必要としてくれる人がいるのに、死んじゃダメなのよ。…だから、次は全力でみんなを巻き込まないように、全力で守るから。しっかりするから。みんな、死んじゃダメなんだよ。
私たちは泣き腫らして疲れたイザベルをベッドに寝かせて部屋を出た。部屋を出るとスクージア夫人が私たちのことをずっと待っていた。
「お待たせしてしまって……」
私が頭を下げようと跪こうとすると、スクージア夫人が私の手を引っ張って強く握った。
「スクージア夫人…?」
「お話、全てここまで聞こえました。…イザベルを…どうか、よろしくお願いします。姫様。」
この人も、強がってはいるものの、母親なんだものね…。
「もちろんでございます。」
「アナスタシオ。イザベルと話す時間、取れなくてごめんね…」
帰り道、スクージア夫人がくれたケーキを持ち帰りながら私は言った。
アナスタシオはすぐに私の方を向いて、微笑んだ。
「いえ。イザベルの本当の気持ちを知れて、とても嬉しかったです。…ですが、ヴェデ様。」
「?」
「何故、イザベルの婚約者がカリラだとお分かりになられたのですか?私は、前々から聞いていたのですが、」
「あ、それのこと…?この前カリラがイザベルを横抱きにして、あの屋敷に向かった時、カリラ本当に大切そうに抱きしめていたから、なんとなくそんな気がしてね。」
私は、ウィンクをしながら笑った。
「そうですか。あんなふうに愛してくださる相手がいるのですもの。イザベルはきっと大丈夫ですね。」
そんな話をしながら、私たちは家に戻った。
愛してくれる方がいるから、私たちは前を向いて、例え遅くても、手を引いてくれる相手がいるから歩ける。
私たちは、一人じゃない。少なくとも、私の周りにいる人には、そんな人がいる。私が必要と、愛しているうちはみんな、逝ってはならない。こんな時に、使うのもどうかと思うけれど、姫として、姫の権限で、誰一人として欠けてはならない。生きて、王宮へ戻るのよ。
もうすぐ、アルベーサ殿下に合わなくてはならない時がくる。もう、逃げてるだけじゃダメなのだ。私から、私から、私自身から、向かっていくのだ。…そう、思っていたのに…
「やぁ。ヴェデ。久方ぶりだね。」
彼が、アルベーサ殿下が、こんなにも早く動き出すなんて、思わなかったんだ。
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