内政チートをやってみよう!……まあぼっちですが。

カナデ

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二章 増えた住人達

17話

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「本当に感謝しますぞ、リザティア殿。先ほどは挨拶だけで申し訳ない。改めて、わしはサジスティだ。こう見えても大分年寄りでな。一応長老と呼ばれておるよ」


「はい、長老さん。改めてようこそおいで下さいました。この通りなんにもない処ですが、皆様が穏やかに暮らせる場所になれば、と思います」

 サジスティさんのまだ五十代くらいの中年に見えるが、長老という響きに似合う過ごした年月の重みをその瞳に感じられて頭を下げた。
 エーデルドさんが来た時に、エルフは長命なのかという質問もしていた。今は混血が進んでいるから、エルフの血の出具合にもよるらしいけれど、長い人だと里の人で三百年くらい。生粋のエルフなら五百年の寿命があるということだった。ちなみにエーデルドさんも見た目はまだ二十代なのに五十になるそうだ。どうりで落ち着いていた。

「いえいえ、貴方が頭を下げることなぞなにもないですぞ。こちらが貴方を当てにして、こうして皆で住居まで押しかけて来てしまったのですからな。もう二度と無理だと思っていた結界の中の安全な生活が出来る場所があるとエーデルドが里に帰って来て告げられた時、正直みんな信じられん想いでしたが、そんな場所があるなら暮らしたい、とすぐに全員が言いました」

 だから何としてでも移住を受け入れて貰おうと、押しかけて来てしまいました。里の期待を背に、ここまで来る間も本当に結界があるのか、エーデルドの勘違いではないのか、そう疑い、そして信じたいと思いながら毎日歩きました。そして今日、結界が本当にこの地にあることをしっかりと感じ、涙が出る想いでした。

 そう続けて語り、頭を下げたサジスティさんに、里の現状が偲ばれて何だか申し訳ない気持ちになってしまった。
 私は森の中に捨てられていた赤ん坊だけど、エリザナおばあちゃんたちに大切に育てられ、こうして結界を張れて安全に暮らしている。そのことがどれ程運が良かったことか、しみじみと実感させられた。

「……結界は、私を育ててくれた人に教わりました。私がいる間は、途切れることはないでしょう」
 そう告げると、ただ無言でエーデルドさんとサジスティさんに頭を下げられた。

「……皆、疲れ果てているのです。いつ襲撃されるか、と怯えながら暮らす日々に。少し前に狩りに出た男衆が狩りで大怪我を負って戻って来てからは、里にはずっと張りつめた空気が漂っていました。私達長老がいたらないばかりに、里の皆に苦労を掛けてしまいました。だが、それはリザティア殿には本来何の関係がないこと。だからこを、先ほど私達を笑顔で迎えてくれた貴方には、心よりお礼を申し上げさせて下さい。この場所へ迎え入れていただき、ありがとうございました」

 結界は集落に害意がない動物などは通り抜け出来るが、中心点の集落には絶対に入ることが出来ないように張ってある。そのことが、どれだけ夜の安心感になるかは想像するのも容易い。

「その感謝は受け取りますが、どうか私のことはリザ、と呼び捨てにして下さい。私は、このように若輩者ですから。もう、頭を上げて下さい」

 こうして向かい合って話す人がいる。その温もりだけで私には十分だ。
 ねえ、皆。こうしてまたこの集落が賑やかになっていくのを、喜んでいてくれているよね?
 そっと寄せられたシルバーの頭を撫で、労わるように寄り添ってくれているピュラに目線でお礼を伝えた。

「それに本当にここはいい処ですな。儂はもう精霊もほとんど感じられない出来損ないのエルフの末裔ですが、ここでは精霊達が安らいでいることを感じられます。ここに来たら里の者たちは、安心して穏やかに暮らせるでしょうな。本当にエーデルドの言葉を信じて、我が里の移住を受け入れることを決意してくれたリザティア殿には、感謝してもしたりません。『誓約』も勿論、喜んでさせていただきましょう」

 じっと見つめ合っても、その瞳は穏やかな深い森のようだった。多分、サジスティさんは心からそう思っている。そしてそれを伝える為に、一足先に長老という身で来たのだろう。

「彼は本当にそう思ってるわよ、リザ。ちょっと気になって他の子にこの人達の里のこと聞いてみたけど、結界はないけど、森を必要以上に切り拓くこともなく、森と共存しているって言ってたわ。もうエルフの血は薄れてしまったみたいだけど、彼等は確かに森の民だわ」
「ピュラ……」

 住み慣れた場所を移動したいと思う人などいない。そこにもう失われた結界を張れる力を持った、ただ一人で集落に暮らす子のことを知った。その状況で普通はどう思うか?普通はこう思うだろう。
『その子をここに連れて来て結界を張って貰えばいい。説得でダメなら、どんな方法でも』と。村でマントを手にしようと追われたように。

「……私は、結界を教わった人にこの森に捨てられていた処を拾われました。そして育てて貰い、全ての知識と技術を教わりました。その中で結界も教えて貰いましたが、何故私が使えるか、何故育ててくれた人が結界を使えたか、何も知りません。でも、結界を張ることの出来る私は、結界がどういうものかを知っています」

 私が結界を張れると分かった日、エリザナおばあちゃんは何も言わなかったけど、他の皆がどこかほっとしていたのを感じていた。あの時はそれがどうしてだかは分からなかったが。
 目の前に並んで立つ、私よりもずっと長く時を生きているサジスティさんとエーデルドさんをじっと見つめた。二人はそっと膝をつき、そんな私の手を取って、そっと首を振った。

「いいのです。それ以上はおっしゃらずとも結構です。貴方が気にされることはない。こうやってこの地に向かい入れてくれただけで、十分すぎる程なのですぞ」
「はい、その通りです。リザは私の話だけで、見ず知らずの私達の為にこれだけの準備をしてくれた。これ以上は何も私達は求めません」

 初めてエーデルドさんと出会った日、里に来て欲しいと言われたら脅してでもその場で『誓約』を結ばせて追い払っただろう。

「……結界は、一度張ればいいという訳ではありません。結界の中に居れば感じることも出来るので、調整も可能です。だけど、離れて大丈夫かは保証することが出来ないんです」
 そう。本来はエーデルドさんに話を聞いた時。里に行って結界を張る、という選択肢がエーデルドさんの中になかったということはないだろう。でも彼は一度もそれを口に出さなかった。だからこそ信じることが出来た。

「……私はこの土地を離れる選択しは、今は選ばないと決めたんです。皆が開拓してまでここに住んだ、その意味を知る前に離れることは出来ません」
 村へ行った時も、自然とこの集落へ帰るのが当然だと感じていた。ここを離れてはならない。本能的なものが、そう思わせているのかもしれない。

「勿論です。貴方がそれを気に病むことはないのですよ。どうぞ笑って下さい。貴方がそんな顔をしていたら、精霊
も悲しんでいるのではないですか?」
「そうですよ、リザ。ほら、貴方がそんな顔をしていたら、皆さんが心配して集まって来たんじゃないんですか?」

 そっと頬をなでる風に精霊を感じて顔を上げると、目の前にはピュラが怒った顔で空中で仁王立ちしていた。他にもいつの間にか精霊さん達が私を囲んで心配そうな顔で見ていた。

「こーら、リザっ!貴方がそんな顔してるから、皆も心配しちゃってるわよ!その二人の言う通りよ、リザ!貴方は準備を頑張っていたでしょ?貴方が出来ることを精一杯やっていたじゃない。その二人だってそれでいいと言ってくれているのに、貴方がそんな顔したら困ってしまうだけよ。ほら、笑いなさい、リザ。皆で笑って暮らしたいからここに招いたんでしょう?」
「……ありがとう、ピュラ。みんなもありがとう。心配かけてごめんね」

 本当に皆優しい。エリザナおばあちゃんも、集落の皆も、そしてピュラ達精霊さん達も。私がこの世界で出会った人達は、私が何であるか分からなくても優しく見守ってくれた人ばかり。だから。

「分かりました、サジスティさん、エーデルドさん。皆さんがこの場所で安心して暮らしてくれるよう、これからも頑張りますね!……後で里の方へも結界を張りに行きます。気休めにしかなりませんが、シルバーに乗せて貰えば日数はかかりませんから」
 膝をついたまま頭を下げた二人に立つようにお願いする。

「さあ!もうこの話は終わりにしましょう!『誓約』は、今は単独行動をしないでいてくれたらそれでいいです。私はちょっと汚れてしまっているので今から水浴びをして来ますが、夕食は皆の分まとめて作りますから、広場で皆で食べましょう!皆さんもどの家に分かれるか、決めておいて下さいね」


 ここで暮らして私は幸せだから。だからここに新たに加わる人達も、皆で笑って幸せに暮らせるように。出来るだけのことはして行こう、と改めて会った人達を見て思った。
 何も言わず傍らに寄りそってくれたシルバーの温もりに、そっと身を寄せたのだった。


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