ある地の暁の物語

はちどり

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ローセントの戦争

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 エルテス大陸の北東、ローセントという地方には2つの国があった。

 大陸北東部でも有数の広大な領地を持つトゥライデン王国、そしてその西側にある単一民族国家リヴィーサ王国。

 隣接するこの2つの国は現在、大規模な戦争の最中だった。

 トゥライデンに先に侵攻を仕掛けたリヴィーサは、侵攻の理由を土地の奪還と民族のさらなる繁栄のためであると言った。

 それは180年前、トゥライデンもリヴィーサもまだ国となっていなかった時代に、現在におけるトゥライデンの民に“建国の際の領土と資源欲しさ”に奪われた自分達の住む場所を取り戻すこと。そしてもう一つ、リヴィーサの国の指針である『女王の戒律』に従い、世界にリヴィーサの唯一の民族、フィーズエスト族を繁栄させるためだった。

 しかし、それらの理由をトゥライデン側は受け入れなかった。

 現在のトゥライデンの国王は言った。「180年前、トゥライデン側は武力行使に移る前に、フィーズエスト族に対し幾度となく新たにできる国への参加などを提案し、さらに、話し合いすら出来ないのなら侵略をする可能性もある、と忠告した。それなのにフィーズエスト族は直接話そうともせずただただ無理だの一点張り。だからトゥライデン側は忠告したとおりに武力を行使して追い出したのである」と。

 故に、トゥライデンとしては、当時のトゥライデン側のやり方は全く悪くなかったというわけではないが、今更話し合いもないまま土地を返さなくてはならないほどの理由はなく、さらに、女王の戒律などの為に国を明け渡すことなども出来るはずがない、とした。

 かくして、両国とも引くことなく新暦659年に始まってしまった戦争は、地方名から『ローセント戦争』と呼ばれ、決着が着くことなく現在3年目を迎えていた。
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