5 / 5
3話
しおりを挟む
「まず試験に取り掛かってもらう前に、今回の試験について少しお話させていただきたいと思います。そして皆さんには現在の戦況についても知っていただきたいので、戦争のことも交えて話させていただきます」
教卓に両手をついて、イラドは受験生達に言った。
イラドはエルドにとって初めて会う人物だが、どこか高圧的に思える声調は、エルドにとってあまりいい印象ではない。
「では最初に行う筆記試験について説明させていただきます。時間はありますので質問があったら挙手をしてください。答えられるものは答えます」
教壇の上で片手を挙げてイラドが言う。
「ええ、まず今回のこの筆記試験は問題が少々難しいものになっています。それはこの試験が一般的な軍学校の試験ではなく、精鋭兵候補を選出するための試験だからです」
精鋭兵養成学校入学試験、それがたった一校に入学するために全国各地で特別に行う試験ということはエルドも聞いていた。さらに前もって試験の広告などで、戦闘知識の勉強や戦闘力の強化、あとは他に自分が戦争に参加する上で必要だと思うスキルを身に着けておくようにと知らされていたため、単純に一般兵より戦闘において優秀な人材を選出したいのだろうとエルドは思っていた。特殊能力も、ものによっては評価の対象となる、とも書いてあったが。
「ええ、広告にも書かれていたと思いますが、現在トゥライデンとリヴィーサの戦争は膠着しています。兵士一人一人の質はトゥライデンのほうが上回っていると見られていますが、リヴィーサの魔術師が操っているといわれる『土兵』に数と勢いで大きく差をつけられ、トゥライデンは攻めあぐね、それどころかトゥライデンの兵はリヴィーサの兵よりも早く消耗しています」
イラドは表情を変えずに淡々と説明する。
すると、早速受験者の一人が手を挙げた。手を挙げたのはエルドの隣の男性受験者だった。
「どうぞ」と言ってイラドが質問を促す。
「土兵というのは傀儡術で動く兵だと聞いてるんですが、俺の知っている限り、傀儡術のような魔術は魔力の消費量的にそれほど多用できないのではないかと思います。なのに何故土兵に数で差をつけられてしまのでしょうか? 魔術師がそれだけ優秀ということ、でしょうか?」
すると、イラドは首を横に振った。
「いえ、リヴィーサの魔術師は確かに優秀ですが、魔力量が多く高い技術を持つ魔術師ならトゥライデンにも大勢います。しかし、リヴィーサとは魔力の供給力に違いがあります。リヴィーサは供給においてトゥライデンを上回ることが出来ており、それが数の差を生んでいるといわれています」
「魔力の供給力、ですか」
受験者がすぐに聞き返す。
「はい。実は三年前、リヴィーサの土地で『メビアー』という魔法石が発見された、という情報がトゥライデンに入ってきました。メビアーというのは魔力を吸収する性質があり、さらに魔力を貯蔵することもできる魔法石なのですが、非常に珍しい魔法石で、通常発見されても、数センチから数ミリの大きさの物が殆ど、というものだそうです。ですが、リヴィーサで発見されたメビアーは実に幅が縦横一メートル程になるものだったそうで、恐らくそれが魔力を膨大に貯蔵しており、その魔力を引き出して利用することで、多大な魔力を使用できているのではないかといわれています」
要はリヴィーサには魔力を大幅に補うことができる供給源があり、それゆえに魔術師の魔力量が仮に少なくても土兵を大量に使うことが出来る、ということだろうかとエルドは思う。
確かにもしそうだとしたら、リヴィーサ側は体力面、魔力面、兵力の温存などの面でも大きなアドバンテージがあるようにエルドには思える。
正直膠着しているというような話はエルドも聞いたことがあったが、しかし、魔法石の話を聞くと、エルドの想像していた以上にトゥライデンが不利な状況にあるように思えて、少なからず危機感が湧いてくる。
「まあですので、数で差があると言いましたが、もっと正確に言えば兵の供給力に差があり、倒しても倒してもすぐに土兵が現れるために数でも勢いでも負けている状態、と言えるでしょう」
トゥライデンの兵からしたらやる気が削がれるような状況だろうなとエルドは思った。
そして、質問した受験者はイラドの答えに頷き、それ以上質問はしなかった。
それを見てイラドは話を続ける。
「まあそこでですが、そんな苦境を打開するために、トゥライデンは精鋭兵を用いた一つの策を講じることになったわけです」
イラドの言葉に受験者達が眉をひそめる。
広告には精鋭兵候補を選抜する試験を行う、とは書いてあったが、何かの作戦があるとは書かれていなかったし、当然策の内容も書かれていなかった。
「言うなればそのために精鋭兵を用意することになったわけですが、それは恐らく、皆さんは今はじめて知ったかと思います。今まで皆さんに伝えなかったのは、策の内容を極力外に漏らさぬようにという国の方針があったからです。国は切羽詰まった状況にあるので慎重になっているのでしょう。まあですので、今から策について話しますが、策の内容は念のため今日から一ヶ月間は口外しないようにお願いします。口外したことが国に知れれば投獄になる可能性もあります」
そして「策の内容について聞きたくない人は今のうちに試験を辞退するように」とイラドは付け加えたが、結局辞退する者はおらず、教室にいた受験者全員が話を聞くことになった。
「では策について説明します」
イラドが再び口を開く。
「ええ、先程の話から分かるかも知れませんが、現在前線は消耗戦の様相を呈しています。そしてその中で、今は膠着していますが、リヴィーサの土兵は数が多い挙句次から次へと現れるため、トゥライデンの兵は疲弊していずれ前線は後退し始めるだろうといわれています」
要は、トゥライデンにはあまり時間が残されていないということだろうかとエルドは思う。
「ですので国は状況の打開のために、ある策を講じることにしたわけです」
どんな策なのかと、エルドは興味を持ちながらイラドのほうを見る。
「それが精鋭兵による『要所・主戦力潰し』です」
教卓に両手をついて、イラドは受験生達に言った。
イラドはエルドにとって初めて会う人物だが、どこか高圧的に思える声調は、エルドにとってあまりいい印象ではない。
「では最初に行う筆記試験について説明させていただきます。時間はありますので質問があったら挙手をしてください。答えられるものは答えます」
教壇の上で片手を挙げてイラドが言う。
「ええ、まず今回のこの筆記試験は問題が少々難しいものになっています。それはこの試験が一般的な軍学校の試験ではなく、精鋭兵候補を選出するための試験だからです」
精鋭兵養成学校入学試験、それがたった一校に入学するために全国各地で特別に行う試験ということはエルドも聞いていた。さらに前もって試験の広告などで、戦闘知識の勉強や戦闘力の強化、あとは他に自分が戦争に参加する上で必要だと思うスキルを身に着けておくようにと知らされていたため、単純に一般兵より戦闘において優秀な人材を選出したいのだろうとエルドは思っていた。特殊能力も、ものによっては評価の対象となる、とも書いてあったが。
「ええ、広告にも書かれていたと思いますが、現在トゥライデンとリヴィーサの戦争は膠着しています。兵士一人一人の質はトゥライデンのほうが上回っていると見られていますが、リヴィーサの魔術師が操っているといわれる『土兵』に数と勢いで大きく差をつけられ、トゥライデンは攻めあぐね、それどころかトゥライデンの兵はリヴィーサの兵よりも早く消耗しています」
イラドは表情を変えずに淡々と説明する。
すると、早速受験者の一人が手を挙げた。手を挙げたのはエルドの隣の男性受験者だった。
「どうぞ」と言ってイラドが質問を促す。
「土兵というのは傀儡術で動く兵だと聞いてるんですが、俺の知っている限り、傀儡術のような魔術は魔力の消費量的にそれほど多用できないのではないかと思います。なのに何故土兵に数で差をつけられてしまのでしょうか? 魔術師がそれだけ優秀ということ、でしょうか?」
すると、イラドは首を横に振った。
「いえ、リヴィーサの魔術師は確かに優秀ですが、魔力量が多く高い技術を持つ魔術師ならトゥライデンにも大勢います。しかし、リヴィーサとは魔力の供給力に違いがあります。リヴィーサは供給においてトゥライデンを上回ることが出来ており、それが数の差を生んでいるといわれています」
「魔力の供給力、ですか」
受験者がすぐに聞き返す。
「はい。実は三年前、リヴィーサの土地で『メビアー』という魔法石が発見された、という情報がトゥライデンに入ってきました。メビアーというのは魔力を吸収する性質があり、さらに魔力を貯蔵することもできる魔法石なのですが、非常に珍しい魔法石で、通常発見されても、数センチから数ミリの大きさの物が殆ど、というものだそうです。ですが、リヴィーサで発見されたメビアーは実に幅が縦横一メートル程になるものだったそうで、恐らくそれが魔力を膨大に貯蔵しており、その魔力を引き出して利用することで、多大な魔力を使用できているのではないかといわれています」
要はリヴィーサには魔力を大幅に補うことができる供給源があり、それゆえに魔術師の魔力量が仮に少なくても土兵を大量に使うことが出来る、ということだろうかとエルドは思う。
確かにもしそうだとしたら、リヴィーサ側は体力面、魔力面、兵力の温存などの面でも大きなアドバンテージがあるようにエルドには思える。
正直膠着しているというような話はエルドも聞いたことがあったが、しかし、魔法石の話を聞くと、エルドの想像していた以上にトゥライデンが不利な状況にあるように思えて、少なからず危機感が湧いてくる。
「まあですので、数で差があると言いましたが、もっと正確に言えば兵の供給力に差があり、倒しても倒してもすぐに土兵が現れるために数でも勢いでも負けている状態、と言えるでしょう」
トゥライデンの兵からしたらやる気が削がれるような状況だろうなとエルドは思った。
そして、質問した受験者はイラドの答えに頷き、それ以上質問はしなかった。
それを見てイラドは話を続ける。
「まあそこでですが、そんな苦境を打開するために、トゥライデンは精鋭兵を用いた一つの策を講じることになったわけです」
イラドの言葉に受験者達が眉をひそめる。
広告には精鋭兵候補を選抜する試験を行う、とは書いてあったが、何かの作戦があるとは書かれていなかったし、当然策の内容も書かれていなかった。
「言うなればそのために精鋭兵を用意することになったわけですが、それは恐らく、皆さんは今はじめて知ったかと思います。今まで皆さんに伝えなかったのは、策の内容を極力外に漏らさぬようにという国の方針があったからです。国は切羽詰まった状況にあるので慎重になっているのでしょう。まあですので、今から策について話しますが、策の内容は念のため今日から一ヶ月間は口外しないようにお願いします。口外したことが国に知れれば投獄になる可能性もあります」
そして「策の内容について聞きたくない人は今のうちに試験を辞退するように」とイラドは付け加えたが、結局辞退する者はおらず、教室にいた受験者全員が話を聞くことになった。
「では策について説明します」
イラドが再び口を開く。
「ええ、先程の話から分かるかも知れませんが、現在前線は消耗戦の様相を呈しています。そしてその中で、今は膠着していますが、リヴィーサの土兵は数が多い挙句次から次へと現れるため、トゥライデンの兵は疲弊していずれ前線は後退し始めるだろうといわれています」
要は、トゥライデンにはあまり時間が残されていないということだろうかとエルドは思う。
「ですので国は状況の打開のために、ある策を講じることにしたわけです」
どんな策なのかと、エルドは興味を持ちながらイラドのほうを見る。
「それが精鋭兵による『要所・主戦力潰し』です」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる