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「ミシェラ。起きているか?」

 ハウリーの怒ったような声が聞こえ、その声で目覚めたミシェラは慌ててベッドから飛び出した。勢いのままに扉を開ける。

「おはようございます。ハウリー様!」
「……! まだ着替えていなかったのか、すまない」

 ハウリーがミシェラの格好を見て、慌てて背を向けた。
 ミシェラは寝る前に渡された薄いピンクのひらひらとした薄手のワンピースを着ていた。

 凄く可愛いし綺麗だったのでこのまま出られると思っていたが、ハウリーの態度見るに良くなかったようだ。

「あっ、これだと人前に出てはいけなかったのですね。申し訳ありません」

 謝ってみたものの、ミシェラは今どういった服を着るのが正解なのかわからない。ミシェラは背を向けているハウリーの背中にそっと手を置いた。

「あの、出来たら今のタイミングで着なければいけない服を教えて頂けませんか?」
「……メイドを今すぐに呼ぼう。ともかくその、その服は露出が多すぎる。駄目だ。決してメイド以外に扉をあけないように」

 真剣な口調で言われ、ミシェラは何度も頷いた。

 全く目を合わせないまま、ハウリーは後ろ手で扉を閉めた。

 ぱたんと静かになった部屋が寂しい。
 今までずっと一人で寂しいなんて感じたことがなかったのに、変だ。

「ミシェラ様、お召し物をお持ちしました! こちらにもありますので、ご自分で選んでただいても構いませんよ」

 首を傾げていると、フィアレーが慌てた様子で入ってきて、あっという間に着替えさせてくれた。もちろん選んでもらった。

 先ほどのとは違い、これは胸のあたりがぴっちりと閉じている。露出が多いとだめらしい。
 肌が出ているときは人前に出ない、ミシェラは心の中でメモした。

「お待たせいたしました」
「……うん、それも可愛い。似合っている」
「ありがとうございます。ハウリー様は、今日もとても素敵だと思います」
「……朝食をとりながら話そう」

 褒められたので褒めかえすのが礼儀かと思ったけれど、ハウリーは何故かまた後ろを向いてしまった。難しい。マナー関連の本を早急に読む必要がある。

「手違いというか、大変申し訳ないことになった」

 席に着くとともに、ハウリーはミシェラに頭を下げた。

「えっ。いったいどうしたんですか? 謝らないでください!」
「本来ならばしばらくここの生活に慣れた後に形だけの試験を受けてもらい、私の部下になってもらう予定だった。その後徐々に魔術については勉強していけばいいと……」
「はい」
「だが、総長から、きちんとした試験を受け、成績が足りない場合は入団を認められないと……」

 悔しそうにハウリーは言うが、ミシェラはそれは当然だと思った。

 突然現れた新人が、伝聞だけの魔力の多さで魔術師などになっていいはずがない。魔術師はかなり地位が高いのも、もうわかっている。更にハウリーは慕われているようだし、彼の部下になりたいものはたくさんいるのだろう。

 そこには正しい判断が必要だ。

「頑張って、勉強したいと思っています」
「はあ……ありがとう。ミシェラならそう言う気がしていた。ただ、試験は一か月後だ。それに、これはきっとマリウゼの仕業だ。私の部下に対しての教育的な問題なんだ……。一緒に試験の勉強が出来るように、魔術の基礎から教えられる部下をつける。ミシェラが魔術師になれるよう、なんとか、手は尽くす」

「それだけでも、大変に過分です」
「君を魔術師として遇すると連れてきたのに、申し訳ない。マウリゼに先に君が仲間としてどんなに素晴らしいかどうか、話を通すべきだった」
「今のところ何の活躍もしていないので当然ですよ。気にしないでください。あと、素晴らしいかどうかは……」

「……もし駄目でも、絶対に悪いようにはしない」
「ありがとうございます。魔術師じゃなくても、連れ出していただいたことにはとても感謝をしています。それは間違いなく、変わりません。私、案外器用ですよ。どんなことでもできますから」

「最悪な場合は、個人的に雇うから」
「……? マッサージは得意です?」

「ちがう! ……ああ、まったくもう。君は状況を受け入れるのが、早すぎる。……とりあえず、食べてくれ。朝でも食べやすいものを用意した。好きなものがあればまた用意するから教えてくれ」
「わかりました。でも、どれも本当に美味しいです。……ただ、マナー本について早めに貸していただけるととても助かります」

 目の前に座っているハウリーの所作は、自分と全然違いすぎる。この差を少しでも埋めたいと願い出れば、彼はすぐに頷いた。

「図書館があるので、そこでいつでも好きなものが読めるようにしよう。司書もいるので、彼に言えば好みのものが見つかるだろう。……ただ、この先一カ月は魔術の勉強を優先してもらわなければならない」
「それは当然です。魔術師になれるように、ハウリー様の期待に沿えるように頑張ります」
「そうだな。一緒に働けると嬉しい。でも、そうじゃなくても落ち込まないで欲しい」

 ハウリーはそうじゃない方が大きいというように、ミシェラに微笑んだ。
 駄目でも何も問題はないというように。

 自分でも難しいという事はわかっていたのに、その言葉は恐ろしい響きを持ってミシェラに届いた。

 失望されたくない。
 何故か震えそうになる手をぎゅっと握り込む。

「ありがとうございます」

 ミシェラは頷いて、食べて勉強に備えることにした。
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