デッドエンド・ウェディング

うてな

文字の大きさ
28 / 53

28 ピンクトパーズ=潔白

しおりを挟む
美夜が心配で追いかけてきた綺瑠は玄関へ向かうと、美夜の靴がない事に気づく。外へ出ると、綺瑠の車に寄りかかって座り込む美夜を発見した。今は夜中なので、上着がなければ少し寒いくらいだろう。綺瑠は美夜に駆け寄った。

「美夜!」

美夜は不機嫌な顔をしていたが、綺瑠の顔を見ると少しは和らいだ。綺瑠は自身が着ていた上着を、美夜の肩に羽織らせると言う。

「僕はいつも、美夜を傷つけてしまうね。璃沙の事もそうだし、どの未来でも美夜が幸せな結婚式を挙げられないのも僕が原因。…本当にごめんね美夜。いつも苦労をかけてしまっているね…。」

美夜はそれを聞くと、綺瑠に抱きついた。飛びつくように抱きついたので、しゃがんでいた綺瑠は思わず尻餅を着いた。美夜は綺瑠の胸に顔を埋めながらも言う。

「綺瑠さん!」

そう言ってから間を空け、美夜は言った。

「…監禁…してもいいですよ。」

「え?」

綺瑠は驚いた様子になると、美夜は続ける。

「だって綺瑠さん、そのままにしたら別の誰かの物になってしまいそうなんですもの…」

美夜は泣きそうな声を抑えながら言っていた。それほどまでに綺瑠の愛情が薄れるのが嫌なのか、美夜は辛そうだ。すると綺瑠は美夜に微笑む。

「美夜の自由を縛るような事は、もうしないよ。そう約束したもの。」

「なぜですか!?」

あの時は頼まなくても軟禁してきたのに、今は頼んでもそうしてはくれない綺瑠に美夜は焦りを覚えていた。綺瑠は優しく美夜に微笑みながら、美夜の頭を撫でた。答えてくれない綺瑠に美夜がムスっとしていると、綺瑠は通常の表情になる。綺瑠は夜空を見上げて言った。

「僕、今日は変なんだ。」

美夜がそれに反応をすると、綺瑠は続ける。

「璃沙を見てると、胸の中で込み上げてくるものがあるんだ。変なんだ、昨日までそんな事なかったのに。」

すると美夜は耳を塞いだ。

「聞きたくないです…」

「聞いて欲しい。」

綺瑠が即答するので、美夜は目を強く瞑りながらも耳を塞ぐ手を少しだけ緩めた。綺瑠はそれも確認せずに続ける。

「僕にはその正体がわからないんだ。…遊園地で璃沙に告白された。美夜がムスっとしちゃうのは、璃沙が僕の事を思うのは、僕の態度が悪いせいなんだって事も知った。そうしたら、もっとそれが大きくなった。」

璃沙が綺瑠に思いを伝えた事、それによって綺瑠が何かを感じている事、聞きたくない話だった。美夜が涙を流すと、綺瑠は続ける。

「昨日までは絶対になかったんだ、こんな感情。だから美夜に聞きたい。
昨晩、何があったの?美夜はヒナツちゃんの家に行ってたはずなのに帰ってきていて、璃沙は元気をなくしていて、僕は璃沙に変な感情を抱えてる。」

綺瑠の言葉で美夜は綺瑠の気持ちの正体を掴めた気がして、目を見開く。美夜の瞳は、希望を見出したように光を帯びた。

(そうか…!綺瑠さんは璃沙さんに好意を抱いているんじゃないんだわ。裏綺瑠さんの璃沙さんへの怒り、表の綺瑠さんが璃沙さんへ抱く好意。
その二つが摩擦を起こして、違和感を抱えているだけなんだわ。)

綺瑠は切ない表情を浮かべ、自身の胸に手を当てていた。美夜はそれを眺めながらも思う。

(璃沙さんの事、表の綺瑠さんにも言ったら…綺瑠さんは璃沙さんに構わなくなるのかしら?…いいえ、その前に裏の綺瑠さんと代わってしまっているわね。)

「ごめんなさい…私の口からは言えないんです…。裏の綺瑠さんが、隠している事なので…。」

そう言われると、綺瑠は納得したように目を閉じた。

「そっか。…じゃあこの感情は、あっちの僕が感じているものでいいのかな?璃沙の事、どう思っているんだろう…」

美夜はそれに黙り込むと、口を開いた。

「裏綺瑠さん…璃沙さんの事を嫌っているみたいです。」

綺瑠はそれに驚いた様子でいた。綺瑠は眉を潜めて考え込むと、ブツブツと呟く。

「いつも璃沙が叱るから?怒りが頂点に達しちゃったとか…?いやでも、だとしてもこの感情は異常だな…。」

すると美夜は安心したのか、やっと笑みを浮かべて安堵の溜息。

(良かった…綺瑠さん、璃沙さんに心を奪われた訳じゃないのね。)

美夜は再び綺瑠の体を強く抱きしめると、綺瑠は目を丸くした。美夜の幸せそうな表情を見ると、綺瑠は安心したのか優しい笑みを見せる。
そして、こっそりと玄関の扉を開いて美夜達の方を見る者達がいた。そう、璃沙と広也と進也だ。三人は二人を見守りながらも、二人の話を聞いていた。

「それと、もう一つ美夜に言っておきたい事があって…」

綺瑠の言葉に美夜が反応すると、綺瑠は再び切ない表情を見せた。美夜は首を傾げると、綺瑠は言う。

「僕は…本当に美夜が一番なのか、わからなくなってきたんだ。」

突然の衝撃的な告白、美夜は目を剥いて呆然とした。玄関で聞いている三人も反応を見せると、綺瑠は続ける。

「僕は美夜が大好き、それは確かだ。だけど僕は、家族が全員大好きで。美夜がとか、一番なんて選べない…そんな気がしてきたんだ。」

すると美夜は綺瑠の服を強く握り締める。信じられないような表情を浮かべ、瞳を潤ませていた。

「私は…綺瑠さんが一番ですよ。綺瑠さんが…」

美夜の言葉に頷きながらも、綺瑠は続けた。

「あっちの僕は、きっと美夜が一番なんだと思う。でも僕はわからない…わからなくなってきちゃった。」

美夜は、綺瑠の服を下に引っ張るようにして握る。丁度ボタン辺りを握っていた為か、ブチッとボタンが取れて綺瑠の胸が見える。その綺瑠の胸元には、いつ付けられたのかわからない傷跡があった。美夜は苦しいのか、喉を締めたような声を出した。

「どうして…?どうして急にそう思うようになってしまったんですか…?」

綺瑠はそれを聞くと言う。

「僕の家族に対する行動は、まるで恋人にするようなものだって指摘されてね。考えたんだ、僕は本当に美夜を恋人だと思えてるのかって。」

それを聞いていた広也は、綺瑠の急な心変わりの理由に気づいたのか眉を潜めた。

「そっか…」

「どうしたっすか?」

進也が聞くと、広也は続ける。

「多分綺瑠のヤツ 自身のスタイルを周囲に否定され続けたせいで自信失くしてんだ 一時的なものだろうから 時間が解決してくれると思うが」

「でも綺瑠ってその程度で自信失くす人じゃないっすよ。常に我の道を歩く男っすよ。」

進也がそう言うと、璃沙は否定した。

「いや。綺瑠は他人の話なら無視するだろうが、大好きな家族に言われ続けたら行動を省みる男だ。」

「それに璃沙の件もあるし… 精神的にかなり参ってんのも原因じゃねぇか?」

それを聞いて進也はしゅんとしてしまう。璃沙は原因が自分にもあるのだと思うと返す言葉もなく、黙り込んでいた。広也は落ち込んだ様子の進也を気にかけていると、進也は口を開く。

「なんか…最近暗い事続きっす。」

一方、綺瑠は俯いてしまうと、美夜の握りしめる手を下ろした。美夜は綺瑠を見つめると、綺瑠は呟く。

「…結婚の話は一度白紙にしよう。恋人としての距離も、暫く離してもいいかな?…僕は、こんな気持ちじゃ付き合いを続けられない。気持ちを整理したいんだ。」

突き放されたと感じた美夜はショックを受け、手が震えた。大粒の涙がボタボタと落ちる。綺瑠は俯いていた顔を上げ、弱々しい笑みを美夜へ向ける。

「でも美夜の事が嫌いになったとか、そんな事は絶対にないよ。僕は美夜の事が大好きだから。」

美夜が泣いているのに対し、綺瑠は優しく笑みながらも美夜の涙を拭く。美夜はそんな綺瑠を見つめながら、心の中で思う。

(これじゃ…未来で綺瑠さんを失うのと同じ……こんなの嫌だ……!)

美夜がそう思っていると、美夜の容姿に異変が出た。黒く染まる髪、赤くなる瞳。美夜は再びやり直すために、時を遡ろうとしていた。綺瑠はそれを見て、切ない表情を浮かべて言う。

「どうして、戻ろうとするの…?」

それを見て、思わず璃沙達も美夜の方まで駆け寄ってくる。綺瑠は三人を見ると驚いた。

「璃沙に広也に進也…!」

璃沙と広也は眉を潜めてそれを眺めていたが、進也は顔を歪めて泣きそうにしていた。

「行かないで欲しいっす美夜…!」

それに対して美夜は進也の方を見ると、進也は美夜に飛びついた。

「ダメっす美夜!俺達置いて過去に帰らないで欲しいっすよ!美夜がいなくなったら、俺達の家族が一人欠けるっす!みんな寂しい思いをするんすよ!!」

進也は涙を流して声を枯らしていた。しかしそんな進也に目もくれず、美夜は俯く。

「でも…綺瑠さんと一緒に居れない未来なんて…」

「綺瑠は一緒にいるっすよ!美夜は綺瑠に嫌われてないっすよ!どうしてすぐに巻き戻そうとするんすか!!美夜は綺瑠と恋人であればそれ以外はどうでもいいんすか!?俺達なんか要らないっすかっ!?」

そう言われると、美夜はやっと我に戻る。
今まで、何度も時を遡ってきた美夜。美夜は思い出した、時を遡る直前の皆の顔を。

綺瑠と璃沙が亡くなった未来では、進也と広也だけが取り残された。

(その時の進也くんは笑顔で見送ってくれたけど、きっと今の様に悲しかったはず。まだ中学生の二人を残して、私は時を遡って…)

更には本郷の家にて、綺瑠が毒を飲んだ時の事も思い出す。綺瑠が目の前で亡くなったショックで、愕然としていたエリコを。

(エリコちゃんはあの後、どうなったんだろう…。未来に取り残されたみんなは、進也くん達は、今と同じ気持ち…なのかな。)

美夜は取り残されるみんなの事を考えると、容姿が普段通りに戻った。それに綺瑠や璃沙が目を丸くすると、美夜は進也を見つめて微笑み、それから優しく抱きしめた。

「そんな事ないよ。でもね…『綺瑠さんと幸せな結婚を』と何度も遡っていたら、綺瑠さんと私の事しか考えられなくなっていた。ごめんなさい。」

美夜は何度も何度も綺瑠の凄惨な死を目の当たりにしながら、綺瑠を救う為に…幸せな結婚式を挙げるために遡ってきた。その中で時を遡る理由が『結婚式を無事に終える為』となっていたせいか徐々に心の余裕を失い、普段から大事にしていた家族の事を忘れかけていた様だった。それを思い出させてくれた進也に感謝するのと同時に、非常に申し訳なく感じている美夜。
美夜の言葉で進也は顔を見上げると、美夜は涙を静かに流した。頬を伝った涙は、進也の服にこぼれ落ちて染みる。

「私、わかってた。何度結婚しようとしても、本郷さん達が邪魔するんだって。」

美夜はそこまで言うと、声を震えさせて悔しそうな顔をした。

「私達って本当は…結婚しちゃ駄目なんだって…!今まで通りに過ごすしかないんだって…!私と綺瑠さんの幸せな未来なんてないんだって…!」

美夜が泣き崩れると、進也は美夜の頭を撫でた。璃沙や綺瑠は返す言葉を考えていると、広也は言う。

「早まった判断はすんなよ 綺瑠も今はだいぶ精神がやられてる お互い落ち着いたら またこの話はしようや」

そう言われると、美夜は小さく頷いた。綺瑠も広也に言う。

「ありがとう広也。じゃ、家に入ろうみんな。冷えちゃうよ。」

それに対し、広也は悪態をつきながら言う。

「あん? こんな寒ぃカッコしてよく言うぜ」

その言葉に笑ってしまう綺瑠。周りに気を遣う綺瑠を、美夜は見つめていた。綺瑠の服の間から見えるその傷を、美夜は見つめていたのだった。

(綺瑠さんは私を恋人と思っていないんじゃなく、家族の愛と混同しているだけだわ。そして綺瑠さんが、その双方の違いがわからないのは…仕方のない事なのよね。
そうよ。綺瑠さんにある無数の『傷』が、綺瑠さんをそういう人間にしただけなんだから。)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...