デッドエンド・ウェディング

うてな

文字の大きさ
39 / 53

39 ブラックオパール:威嚇

しおりを挟む
そうして着いた先は、ヒナツの住むマンションの駐車場。それに気づいた途端、エリコは絶望の表情を浮かべた。マヒルはエリコを車から降ろすと、数成に言う。

「マンションに少し用があるから、車で待っていて。」

「はい。」

数成がそう返事すると、マヒルはエリコを連れてさっさと家へと向かっていった。マンションへ入ったのを見計らって、数成も車を出て尾行する。

(あの子のさっきの表情…恐怖に怯えた表情だった。悪い予感がする…。)

数成は携帯片手にマンションに侵入すると、誰かに電話をかけた。


一方、マヒルの方では。マヒルはヒナツの家に来ており、エリコは今にも泣きそうな顔をしていた。ヒナツはエリコを見るなり、驚いた様子を見せる。

「あら、まさか乙木さんがエリコを連れてくるなんて。」

「だってエリコちゃんのお母さんでしょう?」

そう言ってマヒルは「お金欲しい」と言いたげな笑みを浮かべると、ヒナツは鼻で笑った。

「あなたが言いたい事はわかるわ。わかった、後で手配しとく。」

その言葉にガッツポーズをするマヒル。エリコはマヒルの服を引っ張ると言った。

「せんせー…プレゼントは…?なんでお母さんの家に来たの?」

それを聞くなり、ヒナツはエリコの腕を掴んで乱暴にも手繰り寄せた。ヒナツはエリコを睨んだ。

「何?お母さんと一緒にいたくないの?」

エリコは恐怖で口を開けない。マヒルはそれに対しても動じず、笑顔で応えた。

「エリコちゃんごめんね。お母さんが会いたいって言ってたから。」

エリコは遂に泣いてしまった。ヒナツは泣いたエリコを見ると、鬱陶しそうな表情をする。ヒナツの本性にマヒルは若干嫌そうな顔を見せつつも、ヒナツにバレないように表情を繕った。すると奥の部屋から、別の女性の声が聞こえる。

「おや、お客さん?」

そう言って出てきたのは、ストレート長髪の美人な女性。その女性は常に嬌笑を浮かべ、本心を悟れない。マヒルは目を丸くした。

「本郷さん、この方は?」

「ああ、実は最近私の作戦に協力してくれるって言ってくれた人でね。【マキコ】さんって言うの。」

マキコは紹介されると、礼儀正しく頭を下げた。

「マキコよ。かつてあの綺瑠さんの彼女だった子の…姉なの。」

「姉かぁ…」

マヒルが呟くと、数成の存在を思い出して二人に背を向ける。

「ごめん、人を車に待たせてるんだった!」

「人?」

そう言って眉を潜めるヒナツ。マキコは笑みつつ言った。

「おや、それはちょっと厄介ね。」

その言葉にマヒルは首を傾げるのだった。



場面は変わり、広也の方では。広也と進也と海は公園のベンチ付近で立っており、広也は誰かと電話していた。

「なんだって!? エリコが本当にそのマンションに連れてかれたのか!? 本当か数成!」

どうやら電話の相手は数成の様だ。

『ああ。部屋番も確認したが…610号室だった。』

「610号室…?」

広也が呟くと、海は青ざめて言う。

「ヒナツの家だわ…!」

それを聞くと、広也は焦った様子を隠せなくなる。

「誰だ! エリコを連れ去ったっていう女は!!」



一方、数成の方では。数成は車まで歩いて帰りながら、電話をしていた。

「確か名前は…」

その時だ。数成の背にスタンガンが当てられる。そのショックで、携帯を地面に落として気を失ってしまう数成。落とした音に、広也は更に焦りを加速させた。

『おいどうした!! 数成ィ! 返事しろ!!』

しかし背後に立っていたヒナツは、冷えた瞳で通話を切った。そして携帯を確認すると、ヒナツは鼻で笑う。

「ほら乙木さん。この子、美夜さんの家に住んでる中学生の知り合いみたいよ?」

ヒナツの背後にいたマヒルは、青ざめた様子で言った。

「嘘…!」

ヒナツは溜息をつくと、数成を抱えてマヒルに言う。

「手伝って。直に奴等が来るわ。早く証拠を隠滅して、この子達を連れて行かないと。」

「え、ええ…。」

マヒルは大人しく、ヒナツに従った。



そして広也の方では。広也は舌打ちして携帯をしまうと、二人に言った。

「多分ヒナツにやられた! さっさと助けに向かうぞ!!」

「待って、警察呼んだ方が…!」

海が提案すると、広也は続ける。

「いいや意味ない エリコと数成が誘拐されたって証拠はない 仮にエリコがヒナツの家にいたとしても 『母親だから』って取り合う理由にもならねぇ 相手は数成をどっかに連れて行くはずだ 手遅れになる前に急ぐぞ!」

広也が駆け出すので、進也も深く頷いて追いかけた。海はその言葉に肝を冷やしたが、やがて真摯な表情を浮かべて言う。

「待って二人とも!」

二人が振り返ると、海は言った。

「車があるわ。一緒に探しましょう。」

そう言われると、二人は頷いた。

「サンキュー」

「助かるっす!」

海に案内され、二人は車に乗ってヒナツの家へと向かった。



あれから一時間近く経った。都市の沿岸部にあるコンテナ倉庫の前にて。波止場の先で目を覚ました数成。
口にはガムテープがキッチリ貼られており、腕も足も拘束されている。その上、身体が徐々に海に向かって引きずられていくのだ。慌てて状況を確認すると、数成の拘束から伸びる縄が海に落ちていた。どうやら先端に錘がついているようで、その重さで徐々に海へ引きずり込まれているのに気づく。必死に足掻いて拘束を解こうとするが、その程度で解かれる拘束ではない。拘束が解けないと知ると、陸にしがみついて引きずられまいとする。それでも身体は、徐々に海へと引きずられていった。


一方、車で帰宅しているヒナツとマヒル。ヒナツは言った。

「ごめんなさいね。あの男の子、結構気に入ってたんでしょ?」

対し、マヒルは興味なさそうに言った。

「別に。いい金蔓になると思っただけ。でも実際、中学生だったとか…幻滅だわ。」

しかし車の窓の向こうを眺めながらも思う。

(にしても運の悪い子ね、本郷さんに見つかっちゃうなんて。悪い子には見えなかったから尚更。)

「そう?なら良かったわ。」

ヒナツがそう言って運転を続けていると、マヒルはヒナツを横目で見てから言う。

「エリコちゃんを連れ去って、どうする気なの?いずれ元夫に返さなきゃでしょ?」

そう言われると、ヒナツは急に冷めた表情を見せた。マヒルはそれを変に思っていると、ヒナツは不気味にも笑う。

「返すわけないでしょ。」

マヒルはその笑みを奇妙に思いながらも言った。

「じゃあどうするの?本当に誘拐でもする気?」

「殺してあげようかしら。」

その言葉を聞いて、マヒルは強く反応を見せた。マヒルは思わず眉を潜める。

「赤の他人じゃないのよ?自分の娘よ?」

「それが何?エリコのせいで海と離婚したのよ?原因は全部エリコに決まってるじゃない。」

流石のマヒルも、その発言に異常さを感じた。

(想像以上にヤバイ女かも…!お金貰えて綺瑠も制裁出来てラッキーとか思ってたけど、関係ない人間も巻き込んでもこんな顔出来るなんて…!)

マヒルは言葉を失っていると、ヒナツは更に狂気的な笑みを浮かべた。これから起こる事に楽しみを覚えた表情をしている。

「海を呼んで、目の前で命を奪ったらどうかしら?私と離婚した事、心から後悔してくれるかしらねぇ?後悔して欲しいのよ…!海には…!!」

「そ、そう。自分が警察に捕まっちゃっても?」

「ええ、それでもいいわ。海が一生後悔できるってなら、服役でもなんでもしてやるわよ。」

ヒナツの執念深い言葉に、思わずマヒルは嫌そうな顔を浮かべた。そしてヒナツから顔を背けた。

(やっぱ本郷さんに協力してる女達って本人も含め…変な人ばっかり。警察に捕まって自由が奪われるなんて御免だわ。これ以上協力をして私の足跡を残されても困るし…本郷さんとは距離を置こう。)

「ねえ乙木さん。」

そうヒナツに声をかけられ、マヒルはヒナツの方に振り返る。するとヒナツは笑顔で言った。

「私に協力してくれる?…いつもの倍、払うから。」

マヒルはそう言われると、思わず反応。迷った顔を見せ、深く悩む。

(うっそ…百パーセントの確率で本郷さんが捕まるじゃん…!私との関係を漏らされても困るし…でも大金は欲しい…!!)

「す、少し考える時間を貰っても…?」

マヒルがそう言うと、ヒナツは冷めた目でマヒルを見つめた。まるで裏切った相手をどう陥れようかと企てている…そんな表情だった。ヒナツは裏切る相手には容赦しない人間だと、さっきの話からもマヒルは十分に理解している。だからこそ目の前で裏切るのは得策ではないと考えた。マヒルはそれに怯んでしまい、俯きながらも言う。

「も、勿論やります…。」

それを聞くなり、ヒナツは優しい笑顔を浮かべた。

「ええ、よろしくね。」

マヒルはヒナツの目はできる限り見ないようにしていた。

(だめだこりゃ…この女から逃れられる気がしない。)

マヒルは今頃になって、ヒナツと関わった事を後悔するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...