デッドエンド・ウェディング

うてな

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41 アクアマリン:勇敢

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人気のない廃工場の中。そこにはエリコが囚われており、椅子に全身を縛り付けられ目隠しをされていた。エリコは怖くて泣いているが、もう何時間も泣いているのか…既に元気を失いかけていた。
それらを二階の足場から遠目で眺めるヒナツ。ヒナツはエリコを撮影しながらも、不気味な笑いをあげていた。その隣でマヒルが、自分の財布の中にある小銭を取り出している。マヒルの財布には小銭が少量入っていたが、財布の内布はよく見ると伸びきっている。普段はこの財布に小銭が大量に入っているのだろう。
マヒルは小銭を一枚手に取ると、コイントスの感覚で遠くへ飛ばしていく。それらを見ていたヒナツは言った。

「乙木さん、いつも小銭を道端で捨ててるわね。」

「だって私に小銭は似合わないから。私に似合うのはそう…札束!」

自信満々にそう答えるマヒル。ヒナツは呆れた様子。

「捨てるくらいなら募金にでも入れたらどう?そこら辺が小銭だらけになるじゃない。」

「誰かが拾うからいいじゃない。それで、私のやる事って何?」

マヒルが聞くと、ヒナツはニヤリと笑んだ。そして大きめのショルダーバッグから刃物を取り出す。それは刺身包丁で、よく研がれていた。マヒルは眉を潜めると、ヒナツは言う。

「今から海に連絡するんだけど、一人は絶対邪魔者が来るじゃない?見つけたら即私に連絡して、躊躇わずに刺しちゃって?」

「え、ええ…。」

マヒルは断れずに恐る恐るその包丁を手に取ろうとすると、ヒナツは脅かすつもりなのか包丁をマヒルを刺す寸前まで腹に近づけた。思わずマヒルは構えをとったが、ヒナツは大笑い。マヒルの額には、冷や汗が伝った。

「冗談冗談。はい、これ。」

ヒナツに包丁を渡され、マヒルはなんだか悔しい様子。

(本当にイかれた女ね…。)

「じゃ、よろしく~」

ヒナツはそう言って、ルンルンで一階へ下りエリコの方へと向かった。マヒルはヒナツから顔を背けると、携帯を開く。

(こりゃ共犯にされて捕まるの確定だわ。どうにかして逃げ切らないと。)

するとマヒルはヒナツの弟であるリョウキの連絡先を発見。目を丸くして、マヒルは閃く。

(そうだ、弟を利用したらどうにかなるかも。)





一方の海や綺瑠の方では、一通のメールが来ていた。海の携帯のメールにはこうあった。

『エリコの場所を記すから来なさい。
海だけで来る事を推奨するけど…警察や仲間を呼んでも構わないわ。
そしたらあの子の遺体を拝むだけになっちゃうけど!』

そのメッセージはヒナツからの様で、海は怒りで手が震えていた。綺瑠は海に言う。

「落ち着いて海。この文の意味をよく考えてみよう。」

「二人で話したいって意味でしょ。いいわよ、行ってやるわよ!」

「本当に一人でいいの?」

「そうしないとエリコが危ないでしょ!!」

海の切迫した剣幕に怯む事無く、綺瑠は続けた。

「いいや、怪しすぎるよ。エリコを殺害する覚悟があるなら、海が一人で行っても状況は変わらないよ。」

「でも…!」

「お願い、僕も連れてって。見つからないように立ち回るからさ。」

綺瑠の真摯な願いに、海は弱る。それから難しい表情で考えてから、やがて溜息を吐いた。

「わかったわ。」





海は車で目的の廃工場付近に着いた。周りは草木が茂っており、隠れられる場所が多い。しかし工場の周辺だけは更地になっており、見つからずに内部へ入るのは不可能だろう。海は車のエンジンを切ると、声を出す。

「行ってくるわね。隙間を空けておいたから、私が呼んだら出てきてちょうだい。」

「おっけ!」

と聞こえた先は、車のトランク。トランクの扉は気づくか気づかないくらいの隙間が開いており、その中に綺瑠が潜んでいた。海はその声に頷くと、車を出て廃工場へと歩いて行った。

一方、この廃工場にもう一人やってきている者がいた。それはリョウキで、茂みの中を歩いているとマヒルを見つけた。マヒルは強く手招きするので、リョウキは首を傾げてからマヒルの所へ向かう。

「リョウキくん!私ね、今お姉さんに脅されちゃってるのよ…!」

「姉貴に?」

「ええ。工場にお姉さんがいるんだけど、邪魔者は刺せって命令を受けていて…。私、本当はこんな事したくないの!お願い、協力して?」

マヒルは目を潤ませて言うと、リョウキは動じてない様子で言った。

「何すれば?」

するとマヒルは弱い者のフリはやめ、リョウキの背中を陽気にも叩く。

「話がわかるじゃない!えっとね、私は逃げるからお姉さんを止めて欲しいのよ。」

「止めるって、何を?」

「娘のエリコちゃんを殺そうとしてるのよ、あの人…!」

マヒルの言葉を聞くと、リョウキはやっと反応を見せた。リョウキは廃工場を睨むと呟く。

「嘘だろ姉貴…」

そして廃工場へ歩き始めてしまうので、マヒルは慌てて言った。

「ちゃんとお姉さんに『見回りの女は追っ払った』って言うのよー!」

しかし返事無しで工場へ向かってしまうので、マヒルは呆れた様子で溜息。それから不機嫌な様子で立ち去りながらも呟く。

「アレ、絶対聞いてないわ。でもま、弟が登場した所でエリコちゃんを殺さないでしょ。あの海って人が着く前に終わるといいわね…。」

内心エリコの事を助けたいと考えているのか、そう呟いて俯く。こうしてマヒルは工場を後にした。



海は茂みから出る一歩手前、近くにリョウキがいるのを発見する。

「りょ、リョウキくん!?」

リョウキは海に気づくと、知らない相手だったのか海を睨みつけた。海はリョウキに近づきながらも言う。

「あら、おっきくなったわねぇ。覚えてる?お姉さんの元夫の…」

そこまで聞くとリョウキは持ってきていた懐中電灯を海に向け、顔を確認すると納得した顔を見せた。

「ああ、エリコを引き取ったオカマか。姉貴に呼ばれたのか?」

その言葉に反応する海。工場をうろつくリョウキに、エリコを人質にしているヒナツ…。そう考えると海は急に真面目な表情を見せた。

「リョウキくん、まさかヒナツのお手伝い?」

「いや、見回りの姉さんに呼ばれて来た。姉貴を止めて欲しいって。」

拍子抜けした様子で海は目を丸くする。

「見回り…?」

「ま、俺行くわ。」

リョウキが歩き出すので、海はリョウキの腕を掴む。

「待って!私が行かないとエリコが殺されちゃうの!だから私が先に行くわ!」

そう言われるとリョウキは大人しくなるので、海はさっさと一人で工場へ入ってしまった。リョウキはそれを見守ってから、工場の裏手へ回っていくのであった。
海は工場の扉を開くと、その先には天井の電球に照らされるエリコとヒナツがいた。目隠しを解かれたエリコは海に気づいたのか、顔を上げる。

「ママ!」

「エリコぉ!」

海がそう呼ぶと、ヒナツはニヤリと笑う。

「ちゃんと一人で来たのね。」

「…ええ。」

海はヒナツに警戒すると、ヒナツは持っていた包丁を見せる。それに強く反応する海。そのままエリコの周りをゆっくり歩きながら、ヒナツは話した。

「私達の出会いって、運命的だったわよね。」

「…ええ、偶然だったわ。バーで出会って…意気投合したわよね。」

「海はいつも私を一番に考えて行動した。愚痴を零せば私の味方をしてた。私は幸せだったのに…。」

ヒナツは懐かしむようにそう言っていたが、急にエリコを睨みつける。

「でもエリコが産まれたら、私よりエリコの方を大事にし始めた!私よりエリコが大事だって言い出した!…エリコさえいなければ…!!」

そう言ってヒナツは憎悪の表情でエリコに刃を向けると、海は大声で怒った。

「エリコに何もするなぁッ!!」

自分がオカマである事を忘れ、声を荒げる海。しかしヒナツは海に負けないくらいの声を張り上げた。

「ほらやっぱり!!エリコばっか!言っとくけど、これ以上近づいたら殺すから!!」

そう言われ駆け出そうとしていた海の足は止まり、相手の様子を伺う。ヒナツはそんな海を見ると滑稽なのか笑った。笑われると余計、海の表情は険しくなる。するとエリコはすすり泣きながらも言った。

「ごめんねお母さん…ごめんねママ…私のせいで…」

「ホント、そうよ。」

ヒナツがそう言うと、海は言い放った。

「違う!エリコは悪くない!!」

海の必死な様子を見ると、ヒナツは冷めるのか無表情に。そしてエリコを見下ろしてニヤリと笑った。

「じゃあエリコ。お母さんの為に『ひと仕事』してもらおうかしら。」

そう言ってヒナツは包丁を両手で高く上げ、刃先をエリコに向けた。その直後に振り下ろす事は最早確定的である。すると海はヒナツの行動を阻止する為に、反射的に走り出した。

「エリコォ!!」

しかし二人は工場の最奥にいる為、海がどんなに走ろうと間に合わない。ヒナツは包丁を振り下ろし、エリコは強く目を瞑った。

その時だ。
二階の方から人が落ちて来る。

ヒナツは自分に重なる影に驚いて、一瞬手を止めた。降りてきたのはリョウキで、降りた足の痛みを堪えてヒナツの方へ走り出す。ヒナツは焦って包丁を振り下ろしたが、リョウキがエリコを庇った。振り下ろされた包丁は、エリコを庇ったリョウキの腕に刺さる。リョウキは痛みで表情を歪め、ヒナツはリョウキを睨みつけて言う。

「リョウキあんた…私を裏切る気?」

しかしリョウキは言った。

「俺の意思に姉貴は関係ねぇだろ。」

そう言ったリョウキも、ヒナツを強く睨みつけていた。
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