デッドエンド・ウェディング

うてな

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48 ゴールドストーン:活力を与える

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その日、広也は綺瑠にマヒルの話をした。教えてもらった事、マヒルが綺瑠達を狙う気はないと言っていた事。マヒルが友人を救った事は証拠がない為、綺瑠には話さなかった。ちなみに現在地は綺瑠の部屋で、綺瑠は椅子に座って広也は床に胡座をかいて話をしている。綺瑠は詳細を聞くとマヒルの話を疑う様子もなくあっけらかんとして言った。

「へぇ、マヒルちゃんがねぇ。そっか、教えてくれてありがとう。」

「お前 少しは怪しめよ」

広也は呆れた様子で言うと、綺瑠は笑顔を見せた。

「マヒルちゃんは人より欲が深いだけで、普通の子だったからね。僕は元カノに暴力を謝罪しに回った事があるんだけど、マヒルちゃんだけ唯一、他に暴力された子がいた事に怒りを向けてきたんだよ。他人の事を思いやれる出来た子だよねぇ。」

「金にはかなり意地汚ぇようだけどな」

広也にとっては大きな欠点に思える事だが、生まれた時から坊ちゃんの綺瑠には些細な欠点のようだ。広也は綺瑠の単純さには言葉も出ないのか、溜息だけを残す。すると綺瑠は続けた。

「それよりも、マキコって人が気になるね。調べてたどり着けるような相手じゃなさそうだしなぁ…。」

そう言って上の空で考えていた綺瑠だが、いい方法でも閃いたのか「あ。」と呟いた。広也は綺瑠の方を見ると、綺瑠は笑顔を見せる。

「明日は休日だったね。僕、朝から用事が出来たから。夜まで帰れそうにない。」

急な外出宣言に、広也は反対する。

「おい待て 明後日は偽式なんだぞ!」

そうである、二日後が偽の結婚式を挙げる日。前日は当日に備えて家族会議やら休息を取るべきだと広也は考えていた。しかし綺瑠は折れない。いつもの穏やかな笑みで、両手を合わせてお願いする。

「お願い、どうしてもやらなきゃいけない事が出来たんだ。」

どうしても行かなくてはならない理由があるらしい。広也はそこまで言われると強制する気も起きないのか、溜息を吐いてからそっぽ向く。

「わかった 後で璃沙達にも説明しとけよな 自分で」

「うん、勿論だよ。」

そう言って綺瑠は席を外し、他の三人に伝えにさっさと向かってしまった。広也は綺瑠の部屋に飾ってある壁掛けカレンダーを眺める。偽の結婚式の日付を見つめながらも広也は思っていた。

(今回の式で綺瑠達を陥れる元カノ達が集まって悪事を働けば 警察に突き出すそれなりの理由が成立する これで二人の邪魔をする奴等が全員捕まれば…晴れて二人は本当の結婚式を挙げられるんだよな)

そこまで考えると、広也は祈るようにして目を深く閉じる。

(…だいぶ遠回りだな)



そして、偽の結婚式の当日がやってきた。美夜は一人で控え室にいる。既にウェディングドレスを身に纏っており、髪を下ろした状態でいた。美夜は緊張した様子でいる。

(以前はヘアメイク担当でコトネさんがやってきていた。コトネさんの本業は理容関係らしいし、潜入するには打ってつけの職ね。問題は今回は来るかどうか…。)

すると美夜は昨晩の回想をする。昨晩、綺瑠にこんな事を言われた。

――「コトネちゃんは絶対に式へ侵入出来るように手を打ってあるよ。ご両親にもお願いしてあるから来るよ。」――

それを思い出すと美夜は苦笑。大方、綺瑠が強引な手でも使ったのだろうと思っているのだ。

(信じて大丈夫そう…。)

その時、扉を叩くノック音が聞こえた。軽く叩かれたその音に美夜は反応する。

「失礼します。」

そう言って入ってきたのは、ヘアメイク道具一式を持ったコトネ。美夜は意外に思ったのか目を丸くした。そして薄らと額に冷や汗を浮かべる。

(いつもは綺瑠さんと一緒の時を狙ってやってくる。でも私一人の時でも来るのね。)

コトネは今まで、問答無用で綺瑠を刺してきた凶悪な女性だ。そんな女性が髪を触る為に後ろに立ったとしたら…いつ殺されてもおかしくないと感じてしまうだろう。美夜は内心、気が気でない。それでも気丈に振舞わねば、相手に怪しまれるだけだ。

「よろしくお願いします。」

美夜は恐怖を抑えて笑顔で答えたが、コトネは興味無さそうに美夜の後ろに回った。美夜は肝が冷える感覚がしたが、そのまま髪を整え始めるコトネ。意外にも攻撃を仕掛けてこなかった為に拍子抜けするが、それでも警戒を解けない美夜。しかし鏡越しから見るコトネの表情は、どこか不貞腐れた様に感じた。この状況に不満を抱いている表情…美夜はそう感じた。恐る恐る美夜は口を開く。

「…いつも新婦さんの髪を整えているんですか?」

「…いえ、今回が初めてです。」

声にも無粋な様子が聞いて取れる。相当嫌なのだろうか。美夜は今までに見た事のないコトネの様子に、むしろ怖ささえ感じてしまう。そして何事もなく終わってしまい、コトネはさっさと部屋を出て行った。美夜は鏡で髪型を確認したが、手を抜いた様子なども一切無い。美夜は呆然としていると、そこへ綺瑠がノックして入ってくる。美夜は綺瑠だと気づくと、すぐに駆け寄った。

「綺瑠さん、さっきコトネさんが…!」

美夜がそう言っているのにも関わらず、綺瑠は美夜の花嫁衣裳を見て笑顔。

「綺麗だなぁ、美夜のウェディング姿!」

「綺瑠さん!」

そう褒められるのも美夜にとっては何度目だからか、思わずコトネの事を聞いた。綺瑠はそう言われると笑みを浮かべたまま言う。

「聞きたい事はなんとなくわかるよ。コトネちゃんの事でしょ?」

「はい。あの狂気的で衝動的なコトネさんが…何もしないでただ仕事して帰ったのが不思議で。」

美夜のコトネへの恐怖心は相当なのか、顔に躊躇に現れている。綺瑠は余程なのかと思いつつも、美夜の恐れ加減が面白いのか笑った。

「コトネちゃんの親族に、彼女が僕の嫁さんの身支度を手伝ってくれるって話をしたらね…ご両親がコトネちゃんを止めたんだ。それでもコトネちゃんは来たんだけどね。」

そう言われると美夜は確信する。自分に攻撃はしなかったが、コトネは綺瑠を殺害する気でいる事を。美夜の表情が再び引き締まり、それに対し綺瑠は頷きで応える。

「彼女はきっと、まだ諦めてない。」

空気が完全に凍ってしまったが、そこで綺瑠は再び笑顔を浮かべた。

「さて美夜!偽の結婚式、一体どのくらいの人が式に参列すると思う?」

そう言われると美夜は首を傾げるしかなかった。偽の結婚式に無闇に人を呼ぶのは危険と言える。失礼にも値するし、何よりも事件が起きた時に巻き込まれてしまう危険性があるからだ。

「え?元カノさん達の動向を考えたら…無闇に人は参加させられないわよね。」

「そう。だから参列者は僕達家族だけだ。式場の警備もわざと手薄にしている。」

「怪しまれたりしませんか?」

美夜が眉を困らせてそう言うと、綺瑠はクスッと笑う。

「でも逆にわかりやすいとは思わない?この式に僕達以外は参加しない。つまり、侵入してきた誰かが僕達を狙う人物だ。璃沙が防犯カメラを逐一確認しているから、多分わかると思うよ。」

その言葉は腑に落ちるのか、美夜は納得した表情を見せた。誰が自分達を狙っているかわからない状況で、手っ取り早く犯人の目星をつけるには打って付けの方法ではある。しかし一つだけ問題点があった。

「式場の人間に、犯人が混ざっていたら?」

「みんな僕が雇った人だから大丈夫。いるとしたら、コトネちゃんくらいだね。」

綺瑠がそう言い切ったのを見て、美夜は苦笑した。確かに綺瑠は財力があるので、それを利用しない手はないだろう。しかし表立って護衛を入れれば怪しまれる為、そうはしなかったようだ。次に綺瑠は眉を困らせた様子で言った。

「僕と付き合っていた子達が、僕の幸せを阻止しにやってくる…。その為に人生を投げ出した子もいた。僕は強い罪悪感を感じているんだ、僕が彼女達をそうさせてしまった事に…。こんなのヒーロー失格だ。」

そこまで綺瑠は言うと、美夜に弱った笑みを向ける。

「でももし、僕の願いが叶うなら……彼女達にも幸せになって欲しい。」

美夜はその言葉の意図は考えなかったが、綺瑠の優しさなのだと感じていた。美夜はその優しさに触れると思わず一笑。綺瑠がその笑いに気づいて美夜の顔を見ると、美夜は言う。

「久しぶりに聞きました、綺瑠さんの『ヒーロー』。」

そう言われると綺瑠は目を丸くした。

「ああ、確かに。最近は色々あって、頭からすっぽ抜けていたよ。」

「ふふっ。最近は機嫌がいいのね。」

美夜がそう言うと、綺瑠はやがて穏やかな笑みを浮かべて静かに頷く。すると美夜の手を両手で包むように握ると、綺瑠は眉を釣り上げて自信に満ちた表情で美夜を見つめた。その一変した表情に美夜は釘付けになる。

「やれるだけの事はやったから。見ていて美夜。」

「え…?」

やはり綺瑠の意図は読めない。美夜がポカンとしていると、綺瑠はそのまま控え室の出口へ。そして扉を開くと笑顔で手を振った。

「全てが終わったら、今度こそ二人の夢を叶えようね!」

そう言われると美夜は顔を赤くする。綺瑠はそんな美夜を見て笑いながらも部屋を出て行った。美夜は今の言葉が耳から離れないのか、思わず俯いてしまう。

(『二人の夢』…!嬉しいな、そんな事言われると…。)

二人はそう思っているかもしれないが、本当は家族みんなの夢かもしれない。二人の結婚を他の家族達も、強く…又はささやかながら願っているだろうから。
綺瑠は部屋を出て廊下を歩いていたが、その扉が自然に閉まると…その扉の裏から恨みの形相をしたコトネが佇んでいた。コトネの手にはどの未来でも綺瑠を屠ってきた包丁。そんなコトネの殺意に綺瑠は気づかず、背を向けてしまっている。コトネは綺瑠が恨めしいのか包丁を両手で握ると、腹の前に抱えて一気に走り出した。
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