デッドエンド・ウェディング

うてな

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08 ゴールデンオーラ:品位

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次の日。
美夜は職場にて、仕事をせっせと片付けていた。美夜の仕事はデザイナーらしく、まだ見習いの段階である。
対し同じ職場にいるヒナツはプロのデザイナーで、多くの有名人やモデルの衣装を手がけている。
美夜の仕事っぷりを丁度通りかかって見ていたヒナツはニッコリ。

「白原さん早いね!流石は出来る女。」

それを聞いた美夜は笑顔だったが、裏では思っていた。

(これやるの三度目なので…!)

三度も時を遡っていると、繰り返す度に仕事の出来が上がる。美夜はそのお陰で、かの有名なモデルと対面する栄誉を授かったのだと思っていた。するとヒナツは言う。

「お昼は時間空いてる?丁度その時間に音無アンが来るのよ。」

「はい!勿論です!」

美夜が元気が勢い余って席を立つと、ヒナツはクスクスと笑う。美夜は咄嗟の行動に恥ずかしそうにし、職場のみんなもそれを微笑ましく笑っていた。話を逸らすように美夜はヒナツに聞く。

「あの、そう言えばなぜ音無アンさんが直接私に?」

「なぜって、美夜の話をしたら食いついてきたからよ。一応、とある絡みで私と音無アンは顔見知りだから。」

「そうなんですか…。」

その「とある絡み」とやらは美夜も知らなかったが、逢える話が夢ではなかったのだと安堵した。



そして昼の時間。
美夜とヒナツは近くのファミレスに来ていた。昼時な為かファミレスは多くの人で賑わっている。
しかしそんな中でも、一際存在感を放つ人がいた。身長は高く、ミディアムの髪を横に流している。整った顔立ちにボーイッシュな服装、長く細い手足や体型はモデルそのもの。しかし帽子を深く被っている為、ひと目ではその美しい顔は覗けない。
美夜はその女性を見ると目を輝かせ、女性はヒナツに気づいて手を振る。

「本郷、こっちだよ。」

「ええ。」

ヒナツは女性の正面に座り、美夜はドキドキした様子で女性を見ていた。

(本物の音無アンだ…!と言うか、サングラスとかしなくていいのかな…?)

美夜がそう思ってしまうのも無理はない。帽子の下からは強い目力が覗いているのだ、客や店員でさえ視線が奪われてしまう。アンは美夜を見るなり目を丸くして意外そうな顔をした。

「可愛い女の子じゃん。いいね、私こういう子好みだな。」

アンが言うと美夜はモデルに褒められた事に照れた様子を見せる。しかし根は緊張しているので照れた仕草よりも先に、背を伸ばしてシャキっとして見せた。

「え、ええっと、ありがとうございます。私、白原美夜と言います…!」

美夜が自己紹介すると、硬い様子にアンは一笑。

「反応まで可愛い!なーんだ綺瑠のヤツ、私に黙ってこーんな可愛い子と付き合ってたんだ。ああ、結婚するんだっけ?」

クールな容姿に対して常に当たり障りのない表情を浮かべ、人と壁を作らない様子のアン。そう言われると美夜は反応。

「綺瑠さんを知っているんですか?」

アンは笑みを含んだ表情で頷いた。

「私がまだモデル経験が浅い時に恋人だったのよ。あの子に女を教えたのは私!」

美夜は驚くのと同時に目を輝かせる。

「つまり、綺瑠さんの初恋!?」

「そうなるね。あー、可愛い綺瑠と可愛い女の子が結婚かぁ…。あ、おめでとうね!綺瑠にも言っておいて!」

心から祝福する声。アンが美夜へ笑顔を向けると、美夜はお礼よりも先にある言葉に反応する。

「綺瑠さんが可愛いって、私も同感です!」

するとアンは嬉しいのか前のめりになって笑顔を見せた。

「わかる!?あなた気が合うねぇ!」

二人が盛り上がっている中、ヒナツは追いつけないのか微妙な表情。ヒナツは首を傾げていた。
それはそうだ、自分を苦しめてきた元カレの話で笑顔を浮かべられる訳がないのだ。むしろ綺瑠とどんな関係を築いたらそんな顔で盛り上がれるのか聞いてみたいほどだろう。

(綺瑠が可愛い…?あの悪魔が?)

そして美夜はふと気づく。

(そうだ、この人も綺瑠さんの元カノって事は…。綺瑠さんの暴力を受けて別れた人の一人って事よね。綺瑠さんは元カノ全員に暴力を奮っていたって話ですもの。心に傷を抱えていないのかな…)

美夜は急に気の毒そうな顔をした。アンは美夜の様子に気づいていなかった為か話を続ける。

「本っ当に可愛い子だよね綺瑠は。【あんな事】する子じゃなかったら、今頃私の【彼女】のままだったんだろうな。」

それを聞いた美夜は【あんな事】が気になるよりも先に、【彼女】の方が気になる。

「え?綺瑠さんが音無さんの彼女…?」

ヒナツはそれを聞いて、慌てた様子で美夜に言った。

「ごめんね白原さん!言うの忘れてたけど、この人はレズビアンなのよ!だから綺瑠の事を彼氏と言うより彼女扱いしていて…」

衝撃の事実に美夜は開いた口を手で覆う。そう言われるとアンは口を開けて笑った。

「レズじゃないよ、可愛い女の子が好きなだけ。綺瑠の事を彼女呼ばわりする度に綺瑠が膨れるの、懐かしいなー。またあの顔が見たい!」

美夜は受け取った情報と自分の想像の齟齬が生じ、呆然としていた。

「えと…、レズなのに男と付き合っていた…?」

困った様子の美夜を見るのが面白いのか、アンは「ふふふっ」と笑いながらも話をした。

「確かに女一筋だったんだけど、可愛い綺瑠に惚れちゃって。当時の私も、まさか男に惚れるとは思わなくてさー!」

美夜は情報を整理する為か、呆然としたまま黙っていた。するとアンは綺瑠の事を考えるとつまらなそうな顔をする。

「でも今は連絡も取ってないな。ねぇ、綺瑠の顔写真持ってない?」

そう言われ美夜は目を点にすると、戸惑った様子を隠せないまま写メを見せてあげた。

「え、えっと、こちらです。」

アンは綺瑠の写真を見ると「わお!」と言って手を合わせて笑顔。アンは通常時は頼もしく見える顔つきだが、笑顔を見せると天使のようだ。

「全っ然変わんないじゃん!三十過ぎても可愛いまんま!」

「綺瑠さん、美容には結構凝ってらっしゃいますから。」

「そうなの!?じゃあ私が教えた事全部覚えててくれてるんだろうなー!」

アンは嬉しそうに綺瑠の話をしていた。そんなアンを見ると、美夜は思わず微笑んでしまう。

(綺瑠さんの元カノさん、コトネさんやマヒルさんの様な恐ろしい人ばかりじゃないのね。本郷さんは勿論、音無さんもとても優しそうな人だわ。
音無さんに関しては、あんな事があっても純粋に綺瑠さんの幸せを喜べているみたいだし…。綺瑠さんの元カノに怯えている、自分がなんだか愚かに思えてくるわ。)

こうして暫く美夜とアンの会話は続いた。二人はかなり気が合うのか、時間ギリギリまで話を続けていた。そのせいかヒナツが蚊帳の外であった情報も付け加えておこう。ヒナツにとっては退屈な時間だったが、二人にとっては非常に有意義な時間であったろう。



ファミレスの外を出る頃には、美夜とヒナツ仕事の時間が近づいていた。アンとはお別れで、美夜に笑顔で手を振ると言った。

「今日は美夜に会えて本当に良かった!今度は綺瑠と美夜と私の三人でお茶でもしましょ!」

「はい!」

美夜も大満足なのか、笑顔で答える。アンはウィンクをして、立ち去りながら言った。

「二人で幸せになるんだよ!私は可愛い二人を応援してるから!あ、結婚式の招待よろしくぅ~!」

「はぁ~い」

と美夜は完全に打ち解けた様子で手を振る。美夜が手を振っていると、颯爽と帰っていくアンを見たヒナツは苦笑した。

「あの人、嵐の様に去っていくでしょ?」

そう言われると、美夜は上品に笑う。

「ふふ、綺瑠さんと気が合っていただけある人です。綺瑠さんも風の様に通り抜ける人ですから。」

「それもそうね、二人共飄々としてるわ。」

ヒナツが共感すると、美夜は頷いた。すると美夜はふと思い出したのか、少し聴きづらそうにしてヒナツに言った。

「えっと、アンさんは元気に振舞っていましたけど…アンさんも一応、綺瑠さんに酷い事されたんですよね…?」

ヒナツは眉を困らせると言う。

「そうね。でもあの人は綺瑠の暴力がエスカレートする前に逃げたから、あまりダメージはないみたいよ。」

「へぇ…」

美夜は納得するとヒナツは難しい顔。

「まあ、私や他の子達は監禁もされたから、あの人がどうやって逃げ切れたか謎だけどね。」

「監禁…!?」

美夜が顔を真っ青にすると、ヒナツは頷いた。するとヒナツは美夜を心配したように言う。

「本当に、白原さんは大丈夫かしら。」

その言葉の意味を想像しきれなかった美夜が首を傾げると、ヒナツは続けた。

「将来、綺瑠に暴力とか、監禁されたりしないか…私は心配よ。」

すると美夜の表情が曇る。美夜は考えていた。

(綺瑠さんは、もう誰にも暴力をしないって心に決めているけれど…。確かにいつされてもおかしくない…。
かつては人を傷つける事を、【愛情表現】だと思っていた人だもの…。)

綺瑠の愛情表現に関しては、また深い事情がありそうだ。美夜が暗い表情をすると、ヒナツは重い空気を変える為か声を発する。

「まあとりあえず、式まで急ピッチで準備を進めないとね!ドレスのデザインは出来たから、あとは設計と作るだけ!」

それを聴くと、美夜の目が輝いた。

「本当ですか!?」

「うん!さ、これから大忙しだー!」

そう言ってヒナツが立ち去るので、美夜は眉を困らせながらも微笑んだ。

(気にしていたらダメね。ちゃんと綺瑠さんを信じてあげないと。)

こうして美夜は、午後の仕事へ向かった。
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