デッドエンド・ウェディング

うてな

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09 ペリドット:夫婦愛

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ある日の事。
式の準備は順調に進んでいた。今日は美夜と綺瑠は部屋にて、家族への感謝の手紙を書いている。二人で隣り合って一人分の机を分け合い、右利きの美夜と左利きの綺瑠は肩が喧嘩しないように並んでいた。美夜は笑いながら言う。

「いつも璃沙さんや広也くんや進也くんには会っているから、書く事ないわよね。」

「ふふ、あるよあるよ。広也と璃沙は喧嘩しないで…とか。」

綺瑠は穏やかな口調でそう答え、書く事もせず想像を膨らませていた。美夜はそれが可笑しいのか笑う。

「それは口で言えばいいじゃないですか。」

「確かにそれもそう!」

二人は書く内容に行き詰まってしまうが、美夜はふと閃いて机に向かった。

「そうだ、天国のお母さんに手紙を書こう。」

それを聞いた綺瑠は目を丸くする。同時に美夜を預かる前の、母親の前で泣きじゃくっていた美夜を思い出した。
美夜は産まれてからお別れをするまで、ずっと母親と二人で生きてきたのだ。美夜の唯一無二の家族だった母親を失った時の悲しさを思うと、綺瑠のいつものお気楽な表情も少しは曇った。
しかしその事で思い悩むほど綺瑠の感受性は強くはない。やがて微笑んで言った。

「じゃ、地獄にいる父さんと、天国にいる母さんに手紙でも書こうかな。」

どうやら綺瑠の両親も、既にこの世にはいないようだ。綺瑠の言葉に美夜は思わず苦笑。

「ちょっと、両方天国にいてくださいよ…!」

「僕の父さんは地獄がお似合いだって、親族はみんな言っているよ?ああでも、母さんに逢いたくて天国までよじ登っているかもしれないね。」

綺瑠は笑みを浮かべたまま言うので、美夜は面白いのか笑った。綺瑠は手紙を書きながら、どこか心残りがある様な表情で溜息。美夜は綺瑠の顔を覗いて首を傾げた。

「綺瑠さん?」

綺瑠は美夜の顔を見ると、眉を困らせて微笑んだ。

「ああ、璃沙の事を考えていたんだ。」

「璃沙さん…ですか?」

美夜は考える理由がわからずポカンとすると、綺瑠は続ける。

「璃沙を作った僕の友達がさ、『璃沙は家族として、一緒に暮らして欲しい』って言ってたんだ。だから僕と美夜が二人で暮らし始めたら、その約束を破る事になっちゃうのかなって。」

「作った本人に聞けばいいんじゃないですか?」

美夜が聴くと、綺瑠は眉を困らせて笑った。それは楽しい笑い声と言うより、虚しさを覚えた掠れた笑い声。笑い終えた綺瑠はやがて、弱った笑みを浮かべる。

「死んじゃったんだよ。」

予想外の言葉に美夜は口を噤んで驚くと、綺瑠は話を続けた。

「美夜と同じ【病】を患っていた。あの子は寿命が短くなる代わりに、天才的な頭脳を持っていた。特に機械のね。だから璃沙みたいな素晴らしいロボットを作れたのさ。」

美夜が「へぇ…」と感心した様子で呟き、綺瑠は微笑んでいた表情を崩す。体を美夜に向けると悲愁の表情をして美夜の手を握る為、美夜は目を丸くした。綺瑠はその手に視線を落としている。

「いい友達だった。でも、死んじゃった。
美夜の寿命が短くなってるって思う度ね…その子の死に立ち会った日の事を思い出すんだ…」

美夜は同情したのか悲しい顔を見せると、綺瑠は薄ら涙を浮かべた。

「美夜も同じように亡くさなきゃならないのかなって…」

「綺瑠さん…」

美夜が言うと、綺瑠は目をゆっくりと閉じて続ける。

「もう五年近くかな…美夜の持つ病気を治す方法を探している。でも、見つからない。…情けないんだ、あの子も、美夜も守れない自分が…。とても悔しくて…。」

美夜はどうしようもならない現実に何とも言えない表情を浮かべていたが、やがて綺瑠の頭を撫でた。綺瑠は顔を上げて美夜の顔を見ると、美夜は無理に微笑む。

「私は、少しでも長く綺瑠さんと一緒に過ごせれば、それで幸せよ。綺瑠さんは嫌?」

すると綺瑠は美夜の手を強く握り、真摯な様子で美夜の目をしっかりと見た。

「もっと…!もっともっと一緒に居たい!ずっと一緒に居たいよ!」

美夜は嬉しいのか頬をピンクにしたが、綺瑠はその手をゆっくり離す。それから綺瑠は美夜から視線を逸らした。

「でも、それは我儘だよね。今の幸せを、噛み締めて生きていかなきゃ…」

美夜も同じ気持ちなのか、浮かない表情で綺瑠を見つめていた。すると綺瑠は言う。

「ヒーローは、我儘なんて言わないね。」

そう言って綺瑠は微笑む。美夜の表情を見ると、綺瑠は美夜の顎に手を当てて自分の顔へ向けた。美夜は驚いて目を丸くするのと同時に紅潮する。綺瑠は美夜と顔を近づけると言った。

「だから、二人で暮らす前に死んじゃったりしたら嫌だよ?」

綺瑠の優しい笑みに、美夜は嬉しさのあまりに頭がボヤーっとしてくる。美夜は思わず目を閉じて、綺瑠とキスをしようと近づいた。しかし美夜の唇を、綺瑠が顎を持っていた手の親指で軽く塞いでしまう。
美夜はそれに気づくと、目を開けて困った顔。

「意地悪…。綺瑠さんはいっつも、私にこういう意地悪ばかり…。」

美夜は恥ずかしかったのか俯いてしまうが、綺瑠は微笑んで眺めているだけ。綺瑠は再び美夜の顔を自分に向けると、自分から美夜にキスをした。美夜は驚いて目を丸くしたが、やがて受け入れたのかゆっくりと目を閉じる。
静かな時間。
時計の秒針の音だけが、部屋に鳴り響く。綺瑠はゆっくりと唇を離すと、美夜はゆっくり目を開いた。

「ごめん。美夜の反応が面白くて、つい意地悪しちゃうよ。」

その綺瑠の笑みに、美夜は我慢ならないのか唸る。

(この小悪魔…!…最高…!)

美夜は若干不貞腐れた様子になって、綺瑠から視線を逸らした。綺瑠はそんな美夜も好きなのか、ニコニコ笑顔だった。

「も、もう…!綺瑠さんの意地悪には、困っちゃいます。」

「ごめんって、美夜。」

美夜は綺瑠の方に視線を向けると、許したのか一笑する。

「そうだそうだ綺瑠さん。式に綺瑠さんの元カノのアンさんを招待したんですよ。」

美夜が笑顔で言うと、綺瑠の表情が一瞬にして凍る。驚いたのか真顔で止まってしまう綺瑠の表情。続いて綺瑠は微妙な顔をして言った。

「え、アンと友達…なの?」

予想外の反応に美夜は目を丸くした。以前元カノの話をした時はあんなに笑顔を見せていたのに、アンにだけは違った反応を見せているからだ。

(あれ?綺瑠さんって元カノさんは全員ちゃん付けなのに、アンさんだけ呼び捨てだな…。)

「ええ、最近知り合って。一回しかお話してませんが。」

「嘘…」

綺瑠の表情が若干優れない為、美夜は変に思って首を傾げた。

「どうしたんですか?綺瑠さんがそんな表情をするなんて、珍しいですね。」

すると綺瑠は慌てた様子で言う。

「えっ…、ま、まあ。まさか彼女が出席するとは思わないじゃない?」

そんな綺瑠を見て、美夜は目を細めた。

「なんか怪しい言動…」

「しゅ、出席するだけだよね!?」

綺瑠は明らかに動揺していた。美夜はそんな綺瑠を不思議に思いながらも頷く。

「勿論。」

すると綺瑠は安堵の溜息。美夜は始終変に思いながらも、綺瑠の様子を眺めていた。

(アンさんと綺瑠さん、何かある?)



そうして、結婚式当日。
式場はあの日とはまた別の場所にした。以前は海外での結婚だったが、今回は本国にて行う。あの日ほどの豪勢さやリッチさは無いものの、隅々まで綺麗にされた素朴で神聖な儀式を行うに相応しい式場。美夜はあの日と同じドレスを着て、綺瑠はタキシードを着て控え室にいる。
美夜は緊張した様子だった。

(遂に結婚式当日…!何も起きませんように…!)

綺瑠は部屋に飾られた花を眺めながらも言った。

「はあ、遂にこの日が来たんだね。なんだか信じられないよ。」

美夜はそれを聴くと、顔を上げて綺瑠の方を見た。綺瑠は結婚は嬉しいものの、過去を思い出して上の空だった。しかしいつもの笑みは忘れていない。

「僕がまだ小さい頃、未来を言い当てちゃう占い師から言われたんだ。僕は『結婚できない』って。でもそんな事ない、今日出来ちゃうんだから。」

綺瑠が笑顔で言うので、美夜の表情は優れなくなる。どうやら歩んできた未来と今の状況が酷似している様だ。

(綺瑠さん…。四度目の結婚式でも、また同じ事を言っている。その占い師さんの話も、強ち間違いじゃないのかな…三度も結婚を邪魔されている事を考えると…。)

どうやらこの話をするのは、いつの未来でも確定事項の様だ。美夜はただひたすら、結婚式で事件に遭う事が確定事項でない事を祈るばかりだ。

「綺瑠さん。」

美夜が言うと、綺瑠は美夜の方を見た。心に決めた美夜は真摯な表情ながらも言う。

「今日、綺瑠さんの元カノさんに式を邪魔されるかもしれません。」

「そうだね。でも、そうならないように警備も、僕達自身も警戒を怠らないようにしよう。」

「はい…。」

美夜はそう言うと、心の中で思う。

(仮に今回も綺瑠さんや私が死ぬ事になったら…)

そして、綺瑠の言葉を思い出す。


――「僕は君を早くに失いたくないよ…!」――

――「だから、一緒に暮らす前に死んじゃったりしたら嫌だよ?」――


美夜は切なく感じるのか、その感情を顔を浮かべた。

(そうなっちゃいけない…。私が巻き戻せば巻き戻すほど、綺瑠さんと将来暮らしていける時間が減るんだもの…。)

美夜は自身の胸に手を当てる。

(私の寿命が短くなるトリガー…。それは時を巻き戻すのと同時に、私の身体も巻き戻す事。傷を癒す為に身体を巻き戻す。そうすると、代償として寿命が縮んでいく。)

「美夜?」

綺瑠が美夜を心配して呼ぶと、美夜は綺瑠に笑みを見せた。

「ごめんなさい。少し不安で。」

(なら、私が致命傷を受ける前に巻き戻せば、寿命を縮めなくて済む…。)

綺瑠は美夜の心配を払拭する為か微笑む。次に綺瑠は隣に座ると言った。

「大丈夫。何があっても、僕が美夜を守るから。」

そう言われると、尚更悲しくなる美夜。綺瑠はどの未来でも、命懸けで美夜を庇って死んでいったからだ。美夜は涙が滲みそうなのを耐える。

「ありがとうございます…」

その時だ。
部屋をノックする音。美夜はその瞬間、戦慄した。
美夜は思い出す。綺瑠の元カノであるコトネが、控え室に入ってきて綺瑠を殺害した事を。自身も呆気なく刺されてしまった事を。
そんな未来を知らずに綺瑠は扉に近づこうとした。

「誰かな?どうぞ。」

しかし、美夜は綺瑠の服を引っ張って止めた。綺瑠は美夜を見ると、美夜の表情でただならぬ状況である事を察する。

「美夜…?」

すると扉のドアノブが捻られ、中へ誰かが入ってきた…。
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