デッドエンド・ウェディング

うてな

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11 マザーオブパール:富

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控え室前に迫る狂気。凶器を持ち、美夜と綺瑠のいる控え室を訪ねたコトネ。扉を叩くと、部屋の中にいた美夜は扉の方を見た。

「あれ?アンさんが忘れ物でもしたのかしら?」

外の殺伐とした空気と対極になるように、中は優しい笑い声で満たされていた。すると綺瑠が苦笑して扉へ歩く。

「別の人だったらいいんだけど。」

そう言って何も考えずに扉を開くと、綺瑠は俯いた様子のコトネを見た瞬間に気づいた。

「君…コトネちゃん…?」

その名を聞くと美夜は背筋が凍り、笑みを恐怖に変えて青ざめる。綺瑠は前もって美夜から話を聞いていた為か、無闇に話しかけずに目を細めて注意深くコトネを見ていた。

(美夜の話は確か、コトネちゃんが刃物を持って僕達に襲いかかってくる だったね。それが嘘かも本当かも、僕にはわからない。でもコトネちゃんは特に僕に恨みを持っている子だから、警戒するに越した事はない。)

「久しぶり。」

コトネが俯いたまま言うと、綺瑠はその表情を保ったまま。

「あんなに僕を恨んでいたのに、今頃祝う気になったの?」

するとコトネはやっと綺瑠の顔を見上げた。人生を諦めきっている冷めた表情に、恨みがこもった軽蔑の瞳。綺瑠はその表情からコトネはまた別の目的があると悟り、試しにカマをかけてみた。

「その表情だと、祝うどころか殺しに来そうだね。僕が君へ謝罪に行った時みたいにさ。」

「喧嘩売ってんの…?」

コトネが声を震わせて綺瑠を睨むと、綺瑠はニッコリと微笑んだ。

「こんなに祝福モード全開な式場に、元カノが暗い顔を持ち運んでたらそう思っちゃうよ!」

するとコトネはキレたのか、歯を食い縛る。綺瑠の笑顔がそれほど憎いのか、懐に隠してあったナイフを取り出して綺瑠に振りかぶった。

「お前のその顔…世界一嫌いだッ!!!」

美夜は驚いて声を上げそうになったが、綺瑠は冷静にもコトネの振りかぶった手首を掴んで阻止。綺瑠の力は圧倒的なのか、掴まれた瞬間から一切刃物が動かない。続いて綺瑠はナイフを奪うと、部屋の隅に投げ捨てた。美夜は予想外の展開に目を丸くし、綺瑠はコトネの両腕を背に回して拘束する。

「悲しいね、かつて付き合ってた子が式を壊しにやってくるなんて。」

「離せ腹黒男ッ!!」

「コトネ、あと誰が君と手を組んでるの?」

食ってかかる獣の様に声を荒らげていたコトネが、綺瑠の質問に反応を見せて大人しくなる。綺瑠はそれを見逃さない。

「いるんだね?」

コトネはなぜバレたのかわからない様子で黙り込んだが、やがて美夜を睨みつけた。

「時を遡るバケモノ…。お前、このクズ男に何か吹き込んだな?」

美夜はコトネの剣幕に怯んだが、綺瑠は背で美夜を隠す。

「こっちの質問に答えてくれないかな?…まあいいや。美夜、警察呼んで?」

「あ、はい!」

美夜が警察を呼んでいると、コトネは悔しそうな表情で細々と言う。

「なんでお前みたいなクズが幸せになるのよ…!」

電話をかける美夜の様子を見守っていた綺瑠がその声に気づき、コトネの様子を確認した。コトネは目に涙を浮かべ、やり場のない怒りや悲しみが爆発しているようにも見える。コトネは再び声を張り上げた。

「なんで私は不幸のどん底にいるのに、お前みたいな人間が幸せな結婚をするんだッ!?」

綺瑠はその気迫に何かを感じたように目を丸くすると、コトネは綺瑠を睨んだ。

「お前が財閥の御曹司ってだけで、私は家族にまで見捨てられたッ!お前のせいで!!」

枯れた張り上げ声がコトネの犯行の本気度が伺える。綺瑠は言葉の意味が理解できずに聞いた。

「見捨てられた…?それはどういう事?コトネちゃん。」

そこでやっと美夜はコトネが泣いている事に気づく。コトネの恨みと悲しみの混じった表情から複雑な感情を読み取れた。コトネはまた急に大人しくなって、俯いて呟く。

「お前と結婚できたら、パパの事業を持ち直せるって…!パパもママも…妹も喜んでた…。お前の暴力だって、家族の為なら我慢できたッ!!」

それはコトネが綺瑠と付き合い、綺瑠の暴力を我慢し続けていた理由だった。綺瑠は反応を見せ、覚えていない為に申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「コトネちゃん…。ごめん、僕は何も覚えていないけれど…これだけは聴いてる。コトネちゃんは他の子と違って、長い間僕の暴力に耐えていたんだって…。そのせいで…心の傷は誰よりも深いんだって…。」

綺瑠もコトネが哀れに思うのか表情が暗くなっていくと、コトネは綺瑠を睨みつけた。

「心にもない謝罪をするなッ!!」

綺瑠はその剣幕に口を噤んで、コトネの為にも同情の表情を浮かべないよう耐える。コトネはやるせない気持ちで脚を崩し、床にへたりこんで再び俯く。ただ悲しくすすり泣きながら、小刻みに身体を震わせていた。

「結局役に立てなくて…!お前を訴えようと思っても…家族は認めてくれなかった…。家族よりも、お前のところの取引の方が…事業の方が大事なんだって…!!なんで…なんでぇ……!!」

遂には声を上げて泣きじゃくるコトネ。綺瑠はコトネを見つめながら、過去を思い出していた。



――綺瑠はコトネの実家にて、コトネに土下座をして暴力を奮っていた事を謝罪した。コトネは怒り狂い綺瑠に包丁を向けていたが、家族がそれを制止してくれていた。
それから綺瑠が帰る頃、コトネの父が綺瑠と話していた。綺瑠は言う。

「謝って許されるものではないですが、この度は誠に申し訳ありませんでした。彼女の傷を癒す為に、僕にできる事があればなんなりと。」

真摯に答えた綺瑠を見て、父は消極的な反応を見せていた。どこか綺瑠を恐れた様子を見せており、それでいて解せない様子である。父は口を開いた。

「私達からは、貴方様を攻撃する真似は一切いたしません。ただ…ただ、私達を見逃してくだされば…!」

父はそこまで言うと、逆に父が土下座を始める。

「私は…!私はこれからも、家族を支えていく努めがございます…!妻を、コトネを、カレンを…!ですからどうか、どうか私から家族を養う手立てを、奪わないでください…!」

そんな父の姿を見て、綺瑠は意外と思ったのか目を丸くする。

「…そう……ですね。僕は何度かこの件について訴えられていますが、病気のせいで全て無かった事にされています。朝露さんが訴えたところで、結果は同じでしょう。」

それを聞いた父は、悔しそうに拳を握っていた。拳がはち切れんばかりに握り、短く切った爪でさえ肌に食い込んで怪我しそうなほど。綺瑠はそれを見ていたが優しく微笑んだ。

「顔を上げてください、朝露さんが頭を下げるべきではないのに。…わかっています、僕にコトネちゃんやその家族の生活を奪う権利はありませんから。」

それを聞くと、父は不本意であるが頭を床につけて深々と感謝の意を述べる。

「ありがとうございます…!」

涙混じりに答える父は、悔しそうな表情をして握りすぎた拳を赤くさせていた。本当ならば、今すぐにでも飛びかかり殴ってやり返したいくらいなのだろう。しかし相手はお偉いさんで、娘に信じられないような仕打ちをした何をしでかすかわからない危険な男。だからか、尚更恨みを買うべきではないと判断したのだろう。それをなんとなく察していた綺瑠は、なんと声をかけるべきか考えていた。――



綺瑠は泣き崩れるコトネを見つめていた。そこに、丁度電話を終えた美夜が同情した眼差しで綺瑠に近づく。

「コトネさん…」

美夜が言うと、綺瑠は美夜と顔を合わせる。二人共コトネが歩んできた過去を思うと、変に言葉をかけられない様子で眉を困らせていた。綺瑠は迷った末にコトネに言う。

「仕方がないと言ったら良くない表現だけど、君のお父さんの選択には理解できるものがあるよ。僕に逆らったら潰される、そう思ったんじゃないかな?別にコトネちゃんを見捨てた訳じゃない。お父さんも言っていたよ、家族を支えたいんだって。」

「わかった事を言うなァッ!!!」

コトネは綺瑠の言葉を信用していないのか、再び憎悪を浮かべてに飛びかかりそうになる。しかし戦況は変わらない為、綺瑠はコトネを抑え込んでやめさせた。美夜は綺瑠に泣きながら抵抗をするコトネを見て、胸を痛めている。

(コトネさん…。綺瑠さんの暴力が無かったら今頃、復讐に駆られずに普通に生活していたでしょうね…。)

こうして、コトネは警察に連行されていった。連行される時のコトネは、驚く程落ち着いていた。そう、まだ手段は残っている…そう言いたげに。



そして遂に式が始まった。
綺瑠は祭壇で待ち、美夜は入場を始めている頃であった。美夜はコトネが捕まってもなお、不安を拭いきれなかった。

(確かに式場は警察が警戒にあたってくれるって話だったけど…だけどなんだろう…この違和感…。)

美夜は式中なのに、落ち着かない様子だった。それを横目で見ていた綺瑠も、違和感を感じていた。綺瑠は参列者席を見つめている。殆ど埋まった席の中で、ぽっかり空いた三人分の席。そう、璃沙や広也や進也がいないのだ。

(璃沙に広也に進也がいない…。なぜ…?)

その時…

式場の外から刑事らしき人が一人入ってきた。刑事は大声で言う。

「ストップ!!!」

一瞬にして注目が新婦から刑事に集まった。周囲がざわつき始めると、刑事は冷静な様子で言う。

「今さっき、殺人未遂の女から証言が取れた。この会場に、爆弾が仕掛けてあると。だから皆さん、今すぐ避難を…!」

それを聞いた瞬間、式場のみんなは動揺し戦慄した。更にその瞬間、最前の参列者席が大爆発を起こす。

…あの時と全く同じだった。

周囲は火に包まれ、皆が悲鳴を上げて逃げ出した。美夜は参列者側にいた為、祭壇にいた綺瑠とは離れ離れになってしまう。祭壇は火に巻かれ、その先は煙が広がってお互い姿を確認ができない。前回とは違い背に窓が無い式場だった為、綺瑠は炎に行く手を阻まれて外へは逃げられなかった。パニックになった式場の中、美夜は大声で綺瑠を呼ぶ。

「綺瑠さんッ!!」

すると火の向こう側から、綺瑠の比較的落ち着いた声が聞こえた。

「僕は大丈夫だよ美夜!先に避難していて、僕は神父さんと出るから。外で落ち合おう。煙吸っちゃ駄目だからね!ヒーローとの約束!」

綺瑠は祭壇で一緒にいた神父に肩を貸しながら、別の扉から出口へ向かっていた。美夜は元気そうな声にホッとしたのか、避難を急ぐ。避難通路の人混みの中では、新婦だろうと参列者だろうと関係ない。誰もが押し合い、我先にと避難を急いだ。やっとの思いで式場の外へ出ると、そこにはヒナツがいた。

「白原さん!」

「本郷さん!」

二人は駆け寄ると、ヒナツは焦った様子で言う。

「なんなのなんなの!?何が起きてるの!まさか結婚式のサプライズじゃないわよね!?」

「そんなはずないですよ…!」

美夜が言うと、そこに更に璃沙と広也と進也がやってきた。璃沙は美夜に聞く。

「美夜、綺瑠は!?」

「神父さんと外に出るって…!」

「はぁ!?探してくる!!」

璃沙はそう言って、燃え上がった式場まで走って綺瑠を探しに行ってしまった。美夜も追いかけようとしたが、それをヒナツが止める。

「待って白原さん!ロボットの璃沙さんはともかく、あなたは子供を置いて向かっちゃダメよ!」

斯く言うヒナツも、七つになるエリコを連れているのだが。それを聞いて真っ先に怒ったのは広也。

「アァン? オレ様は中学生だッテナ! ガキじゃねぇ!!」

小さな事で怒る広也の肩を叩きながら落ち着かせる進也。美夜は少し落ち着きを取り戻したのか、広也と進也に聞く。

「そう言えば、さっきまで三人ともどこへ行ってたの?式が始まった頃には、三人ともいなかったじゃない?」

そう言われると、進也は思い出した様な顔をして大慌てした様子になった。

「そ、そそそそうっすよ!脅迫メールが来たんす!璃沙のトコに!」

「脅迫メール?」

美夜が驚くと、広也は冷静な様子で説明する。

「『式場に爆弾を幾つか仕掛けておいた。
お前達の中で誰でもいい、指定の場所に来い。
そこで話をつけよう。
家族以外の、新郎新婦や他人にこの話をした場合、式場ごと吹っ飛ぶ事になる』ってな」

「え…」

美夜は呆然と驚くと、広也は話を続けるのであった。
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