デッドエンド・ウェディング

うてな

文字の大きさ
13 / 53

13 ロードナイト:友愛

しおりを挟む
璃沙のメモリーになら、あの日の記録があるはず。そう踏んだ広也は璃沙のメモリーを体内から取り出した。広也が胸に、璃沙のメモリーを当てて呟く。

「璃沙…見させてもらうからな」

すると進也は言った。

「俺も美夜も見るっすよ!」

「あ?」

広也が言うと、美夜は膨れた様子で言う。

「広也くんはいいなぁ。生物の記憶や、機械の記録を、自分の脳に流す事ができちゃうもの。」

「兄貴の【能力】は相変わらずチートっす!俺なんかただの怪力っすよ!?」

そう、広也の能力は生物や機械の記憶やデータに干渉できてしまうもの。見る事も書き換える事もできてしまうようだ。広也は嫌悪丸出しの顔で言った。

「いや 美夜の未来や過去を行き来する能力もチートだと思うがな
進也の馬鹿力はパッとしねぇが 無いよりあった方がかなり便利だしな」

二人のブーイングは続く。広也は「仕方がない」と呆れ顔をすると、部屋を出て地下へ向かった。

「来いよ二人共 璃沙の研究室の道具で どうにかして画面に映すからよ」

すると、二人は目を光らせて広也についていった。しかし途中で、進也は気づいた顔をすると璃沙の方を見る。袋から半分出された状態で、フローリングに横たわる璃沙。進也は虚しさを覚えた顔をしたが、璃沙をソファーに座らせてから研究室へ向かった。

璃沙の研究室にて、広也は大きなモニターの前で機械のコードを繋げていた。広也は大人びている上に他の二人よりも機械に強いようだ。

「こっちだっけ…? ん? あー! わかんね!」

ただ、それでもわからない事が多いみたいだが。

「大口叩いてたっすけど、やっぱ兄貴は天才じゃないっす!」

進也が笑って言うと、広也は進也を睨みつける。

「うるせッテナッ!」

と、謎の語尾をつけつつ。進也はそんな広也に対して、笑っているだけ。

「こういう時に璃沙さんがいたら…」

思わず呟いてしまう美夜。それを聞いた広也は反応。美夜も失言をした事に気づいて俯くと、広也は作業する手を止めた。

「オレ達はもう…アイツ等の協力無しに歩いていかなきゃなんねぇんだ」

美夜は反省した様子をしていると、進也がやってくる。

「兄貴できたっすか?」

「もうすぐ…おし! できたァ!」

そう言うと広也は、璃沙のメモリーを特殊な機械へ挿入。モニターの電源を付けると、広也はその機械に触れながら言った。

「んじゃ あの日の記録まで飛ぶからな」

すると広也の目が、一瞬だけ赤く光った。モニターの画面は高速で早送りされる。進也は目を光らせた。

「流石兄貴っす!リモコン無しでも機械動かせちゃうんすね!」

「電子データを改竄できてしまう程ですもの、機械操作なんて楽ちんよね。」

二人が感心してそう言っても、広也は鼻にかける様子も見せない。この作業には集中が必要なのか、眉間にシワを寄せて広也は集中していた。そしてたった十数秒で目的のメモリーまでたどり着く。

「ここだ」

広也が言うと二人は切り替え、始まる映像に集中した。





――璃沙は火に包まれた式場へ入る。炎の眩しい明かりは璃沙の機能で明度調整されており、そのクオリティーはかなりのもの。綺麗に部屋を明瞭化させ、炎が無駄に暗く映る事もない。
このメモリーでは、璃沙の心までも聞こえてきた。

(クッソ…!GPSでは追えない…!)

璃沙はそう思いながらも、走って綺瑠を探していた。璃沙はロボットの為か、炎が当たってもも減っちゃらそう。
その時、近くの部屋が爆発を起こす。その爆発の中から、女性の悲鳴が聞こえた。

「キャアアッ!!」

(なんだ、女の声…!?)

璃沙が急いで部屋へ向かうと、そこには床に転がりながらも火に巻かれて蠢く人間の姿が。そこから女の声が聞こえるが、璃沙はそれが手遅れである事を悟った。炎に飲まれてすぐに動かなくなる、左腕に独特なブレスレットを付けた女性。
璃沙はそんな女性よりも、近くで見知った影が倒れているのに気づいた。綺瑠が火の近くで倒れているのだ。

「綺瑠!」

綺瑠は太ももにナイフが刺さっており、更には爆風に巻き込まれたのか気を失っていた。その上、頭をぶつけたのか血を流していた。璃沙は綺瑠のタキシードに引火している火を、手で払って消す。

「煙吸ってないか…?大丈夫かな…」

応急処置は後にして、まずは綺瑠を運ぶことにした。綺瑠を引っ張り出し、背負って火のない場所へと向かう。勿論煙を吸わぬよう、背をできるだけ低くして運んだ。しかしどこを見ても炎、炎、煙、煙。綺瑠を運んで進める場所などなかった。
璃沙がそれに焦りを覚えていると、綺瑠が気がづいたのか唸る。璃沙はそれに気づいた。

「気づいたか綺瑠、一体何が…!」

その時、綺瑠はか細く呟く。

「…『夢月(ムツキ)』ちゃん…?」

その言葉に、璃沙は強く反応を見せた。――





それを見ていた美夜は首を傾げた。

「夢月さん…?」

広也はその正体を知っているのか説明してくれる。

「璃沙を作った機械学者の女 …綺瑠の友達だった女だ」

「え…?」

美夜は目を丸くすると、広也は続けた。

「璃沙はその夢月って女と全く同じ容姿なんだよ 頭や目の色は変えているみたいだが…」

それを聞いた美夜は心当たりがあるのか反応する。美夜は先日、綺瑠からその女性の話を聞いた事を思い出した。


――「美夜と同じ【病気】を持っていた。あの子は寿命が短くなる代わりに、天才的な頭脳を持っていた。特に機械のね。だから璃沙みたいな素晴らしいロボットを作れたのさ。」――


(私と同じ病気を持った女性…そして…)


――「いい友達だった。でも、死んじゃった。美夜の寿命が短くなってるって思う度ね…その子の死に立ち会った日の事を思い出すんだ…」

「美夜も同じように亡くさなきゃならないのかなって…」――


美夜はあの日の綺瑠の表情が脳裏に浮かぶと思う。

(あの時の表情は、ただの友達に向けるものじゃない…。夢月さんって人は、綺瑠さんにとって特別な人だったんじゃ…)

広也の話を聞いた進也は言う。

「じゃあ、綺瑠は璃沙をその夢月って人と勘違いしてるって事っすか?もう亡くなってる人と?」

「そうだな
多分 既に限界なんだろう 現状の整理ができてないんだろうな」

それを聞いた美夜と進也は、気の毒そうな顔をした。





――そして映像の続きだ。璃沙はそう言われて悔しそうに口を噤んだ。

(美夜の次は夢月かよ…)

悔しいと同時に、璃沙は虚しそうである。綺瑠は弱りきったか細い声のまま続けた。

「危険だよ…夢月ちゃん…。僕の事はいいから、早く逃げて…?さっき神父さんが逃げたから、その人を追いかけて…」

「なんでお前は負傷してるんだよ。」

璃沙が不機嫌そうに聞いてみると、綺瑠は続ける。

「昔付き合ってた彼女がいて、刺してきたんだ…。僕と一緒に死にたいんだって…、断って逃げちゃった…」

「…そうか、厄介な元カノばっかだな。」

璃沙が言うと、綺瑠は璃沙の髪に顔を埋めた。

「夢月ちゃん……、僕、ずっと夢月ちゃんに言いたかった…。ごめんね…夢月ちゃん…僕は…夢月ちゃんを病気から救えなかった…。」

「別に気にしてない。早死にしちまう病気にかかってるんだから、仕方ないだろ。」

すると、璃沙は気づいた。
どこも瓦礫や炎で道が塞がっていて、出られない状況にあると。周囲を見渡すと、先程綺瑠が逃がしたと思われる神父も倒れていた。既に意識が無い様子。つまり、これから綺瑠も同じになるという事だった。

(嘘…出口がない…!このままじゃ綺瑠は…!)

璃沙は焦りを覚えていると、綺瑠は言う。

「夢月ちゃん、僕、好きな人ができてね…結婚するんだ…。美夜って言うんだけど、とってもいい子なんだよ…。」

「お前は喋るな、煙を吸ったら死ぬぞ!」

璃沙は焦りながら出口を探していたが、やはり見つからない。自分で飛び込んでいって、綺瑠を救えない無力さにギリっと歯を食いしばる。しかし、綺瑠は続けた。

「夢月ちゃん…、手、繋いでいいかな…?」

そう言われると璃沙は足を止めた。璃沙はふと綺瑠の顔を確認すると、綺瑠は既に深く目を閉じていた。その表情は煙を吸って熱に晒されているとは思えないほど穏やかで、微かにこちらに微笑みかけているようにも見える。
力を失ったように垂れる両腕に、璃沙は綺瑠の終わりを悟った。

「綺瑠…」

璃沙は悔しそうな顔をすると、火が一番遠い場所へ移動した。そこで綺瑠を膝枕すると、璃沙は綺瑠の手を握ってあげる。すると、綺瑠は微笑んだ。

「夢月ちゃん……相変わらず、夢月ちゃんの手は冷たいね…寒くないの…?」

璃沙は悔しくて、綺瑠を失う悲しみで涙を流していた。綺瑠の手に顔を近づけながら、嗚咽を抑えて言う。

「馬鹿っ…熱すぎるくらいだよ…!」

「夢月ちゃん…」

掠れ始めた綺瑠の声、璃沙は悲しみを交えた表情で綺瑠を見下ろした。綺瑠は途切れ途切れの声を出す。

「僕…前はね…夢月ちゃんの事…好き…だった……んだ……今なら……夢月ちゃ…の顔……見て…言え…るよ…」

そう言われると、璃沙は大粒の涙を綺瑠の頬に落とした。

(馬鹿…!だったら目を開けて言えや…!コイツはいっつも夢月の話をして、美夜を好きになったら美夜の話ばっかで…!)

璃沙は悔しそうに綺瑠の手を握った。

(頭の片隅にもいない、私の気持ちになれよ…馬鹿っ…!)

璃沙の涙は綺瑠の手に落ちた。それと同時に綺瑠の手も微笑みかけているような表情も、徐々に力が抜けていく。完全に動きが停止すると、璃沙は深い溜息。既に涙は止まっており、悲哀に満ちた瞳で綺瑠を見つめていた。
それから眠った子供に語りかけるように、落ち着いた様子で優しく呟く。

「お休み、私達のヒーロー。……私もお前と同じ気持ちだよ…奈江島。」

そう言うと、璃沙は綺瑠にキスをした。しかし、綺瑠の表情はピクリともしない。璃沙はまた一滴の涙を頬に伝わらせたが、やがて離れて綺瑠を見下ろした。
璃沙の哀愁漂う表情が、綺瑠の眠りに就いた表情が、業火の明かりに照らされる。

「なんだよ最期まで…」

璃沙は綺瑠を膝枕したまま、綺瑠の髪に触れた。

(お前がいないんじゃ…私は誰の命令を受けて生きればいいんだよ…)

すると、璃沙も深く目を閉じる。

(私もお前の隣で消えさせてくれよ…。主人のいない精密機械に、存在意義なんてないんだからさ……)

「夢月もそうなんだよ…私と同じで。」

そう呟くと、璃沙の体も一瞬にして停止し動かなくなる。

(綺瑠の事、愛してた…)――





ここで、記録は終わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...