デッドエンド・ウェディング

うてな

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17 ガーネット:変わらない愛情

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その日の夕方。
美夜と綺瑠は部屋のベッドの上で、すっかり眠ってしまっていた。美夜はずっと綺瑠に抱きついていたのか、抱きついたまま寝ている。二人は窓から差し込む夕日の光に照らされ、気持ち良さそうにしていた。
その時だ。
家のインターフォンが連打される。更には扉を強く叩く音まで。綺瑠は目が覚めると、ゆっくり起き上がる。

「誰…?」

美夜の腕を剥がすと、綺瑠はドアホンで誰が来ているか確認する。
映ったのは頭をピンク色に染めて高い位置でツインテールをした、真ピンクが基調の可愛いゴスロリ服を着た女性。見た目は愛らしさがある。
綺瑠は目を丸くすると言った。

「『クルミ』ちゃん!」

その声が聞こえると、クルミと言われた女性は怒りの表情で扉を叩く。そう躊躇に怒りを表しては、せっかくの可愛い顔が台無しだ。

『出なさいキルキル!出ないと暗殺する!!』

「急に何よ!」

綺瑠はクルミの発言を謎に思いつつ、大人しく玄関扉を開くとクルミとご対面。クルミは綺瑠を見た瞬間、目に涙を溜めて流した。綺瑠は涙を溜めたクルミに動揺もせず眉を潜める。

「暗殺目的なら警察呼ぶよ。」

「うわあああああん!」

クルミは声を上げて泣くと、綺瑠に抱きついた。クルミは綺瑠に抱きついていたが、鼻を利かせてすぐに離れ嫌な顔。

「他の女の匂い…」

そう言って綺瑠を睨みつけると、綺瑠は笑顔で言った。

「気づいた?未来のお嫁さんと一緒に寝てた!」

すると、クルミは不機嫌なまま拳を握って思い切り綺瑠の胸を殴った。綺瑠は少し眉を潜めたが、あまり効いていない様子。クルミは綺瑠を睨みつけていた。

「今すぐ結婚なんてやめて。キルキルはクルミと一緒じゃないとダメ。」

低く暗い声で言いながら詰め寄るクルミ。しかし綺瑠は引き剥がす。

「もう君と僕は付き合っていないんだよ。わかるでしょクルミ。」

子供に言い聞かせるように言う綺瑠。するとクルミは再び目に涙を浮かべて泣きじゃくった。

「イヤダ!キルキルと一緒じゃなきゃヤ~ダ~!」

綺瑠が扱いに困ってしまうと、そこに美夜が起きてくる。美夜はクルミの手首へ真っ先に視線を向けた。クルミが手首に付けている独特なブレスレットには、見覚えがあった。そう、璃沙のメモリーを見た時の事。綺瑠を刺して、爆風に巻き込まれて即死してしまった女性と同じ物を付けていた。
美夜はその人物が彼女と知り呆然としていると、綺瑠は美夜に気づく。

「ああ、美夜おはよう。」

そう言ってから、クルミに再び言い聞かせた。

「ほらほら、お家に帰りなさい。と言うか、なんで僕の家がわかったの?」

クルミは泣きながら言う。

「一回行った事あるもん!だから私も同じマンションに引っ越したのぉ!」

美夜はそれに驚きながらも思った。

(行動力有り過ぎ…と言うかストーカーさん…?)

クルミは次に美夜を睨みつけ、美夜は綺瑠を刺した人間からの視線だと思うと肝が冷えた。しかしクルミはすぐに綺瑠へ視線を戻した。

「さっきあの女と一緒に抱き合ってたでしょ!すやすや寝ちゃってさ!クルミの方が抱き心地いいよ!」

そう言ってクルミは、自身の大きい胸を自慢。誰がどう見ても美夜とクルミじゃ、クルミの方が豊乳であった。美夜は思わずクルミと比べてしまい、頬を膨らます。綺瑠はそれらを見て笑顔。

「確かにクルミのは大きいよね。」

それを聞くと、恥ずかしいのか美夜は顔を赤くした。

「綺瑠さんっ!」

突いて欲しくなかったのだろう。

「何?」

綺瑠は乙女心が微塵も理解出来ないのか目を丸くして聞くので、美夜は思わず溜息。美夜の様子を見て、綺瑠は焦った様子になる。

「言っちゃ不味かった?」

美夜はそれでも黙っているので、綺瑠は困った顔。クルミは綺瑠の背に飛びつくと、美夜はそれに驚いて二人を引き剥がしながら言った。

「ちょ、ちょっと離れてください…!私の夫です!」

「美夜…!」

綺瑠は「夫」と言われ、とっても嬉しそう。対しクルミは不機嫌そうだ。

「こんな地味で普通そうな女より、クルミの方がキルキルの事をよく理解してあげられるもん!」

それに対抗したのか、美夜は胸を張って言う。

「私は何年も綺瑠さんとひとつ屋根の下で暮らしていますから、私の方が理解しています。」

「ちょっと、おっぱい小さいのに胸張らないでよ。」

そう言ってクルミが胸を張るので、美夜はそれに圧倒される。美夜は苦し紛れに、確認がてら綺瑠に聞いた。

「綺瑠さん…この人は…?」

「ああ、僕の元カノの【暁(アカツキ) クルミ】ちゃん。怖い冗談も割と実行しちゃうから危険人物…かな?僕も付き合ってた頃に一度腹を刺されてるし。」

綺瑠はあまり気にしていない様子で言っているので、美夜は思わず顔が真っ青になる。

(ただの犯罪者では…?)

するとクルミは眉を釣り上げた。

「それはキルキルがクルミよりクマに興味を示すから!」

(クマに興味を持っただけで刺した…!?)

美夜が思っていると、綺瑠は上の空で考えながら言う。

「そうそう、北海道の山まで観光へ行った事があってね、クマと遭遇したんだ。
野生のクマを見つけたら楽しい気分になるじゃない?クルミちゃん見るより楽しいでしょ。」

綺瑠の言葉に、美夜は思わず呆然。それに加え小学生の落書き並みの想像力で綺瑠がクマに出会って万歳する謎の図が脳裏に浮かんだ。

(クマと対面して、よく生きて帰ってきたな綺瑠さん達…!)

「最ッ低!」

クルミは綺瑠に言うと、美夜も綺瑠に若干冷たい目を向けて言った。

「そうです綺瑠さん、その発言デリカシーないですよ。」

女性二人に責められ、綺瑠はタジタジ。

「そうよそうよ!」

クルミも言うと、空かさず美夜は言う。

「刺す方もどうかと思いますけど。」

「なんですって!?」

クルミは美夜を睨むと、綺瑠はそんな二人の仲裁をする。

「落ち着いてよクルミちゃん、大声出したら周りが迷惑しちゃうでしょ。僕と美夜はこれから用があるから、クルミちゃんは家へ…」

そこまで言うと、クルミは綺瑠を帰すまいと声を出した。

「キルキルの心の傷まで理解してあげられるのは…クルミだけだよ?」

それに強く反応する美夜。綺瑠は首を傾げた。クルミは神妙な様子で綺瑠を見つめる。

「キルキル、私どうしても言わないといけない事があるの。」

「何?」

するとクルミは困った顔になり、涙を目に溜めた。まるで反省しているような、強く後悔した表情を見せる。

「ごめんね…。キルキルは、ただクルミを愛したかっただけなのに…それなのに一方的に別れちゃってごめんね。キルキルが謝罪に家に来てくれた日も…罪悪感であまり話せなかったし…。」

そう言われると、綺瑠は目を丸くした。

「確かにクルミちゃん、その日は大人しかったね。」

するとクルミは俯いてモジモジとし始める。

「私、ずっと考えてたの、キルキルが与えてくれる【愛】の事。最初は痛くて、苦しくて、叔父さんと同じ事をするんだなって、心底絶望した。」

その言葉を聞き、美夜は察したのか顔色が優れなくなる。

(この人…まさか親族から暴力を…)

クルミは続けた。

「でも、キルキルは叔父さんとは違った。キルキルは、私を『愛してる』って『可愛い』って沢山言ってくれた。言われてこそばゆい事、沢山、沢山。それをね、時間が経ってからようやく思い出せたの。」

「そう?僕は何一つ覚えてないけど。」

綺瑠は目を丸くして言うと、美夜は思わず苦笑。

(裏綺瑠さんなんだろうな…)

「そしたらね、あの日の事を思い出す度ね…」

そう言って、クルミは顔を上げた。恍惚とした表情を浮かべ、興奮が抑えきれないのが身体にも表れている。唇に細い指を添え熱い吐息を漏らした。

「スキが溢れて…またキルキルと一緒に居たいなって。もっともっと、スキを分かち合えたらなって、ずっと考えちゃうの…!!」

狂気的なその悦びに美夜の背筋が凍った。ちなみに綺瑠は動じる事無く平気そう。

「気持ちは嬉しいよ、クルミちゃん。でもね、僕は美夜の事が好きなんだ。君と一緒にはなれない。」

すると恍惚の表情から一変、我を忘れた様に怒りの表情を浮かべた。

「なんでよッ!!」

クルミは声を裏返しながら声を上げ、綺瑠の胸を何度も殴りながらも嘆く。

「なんでなんでなんでなんでッ!!クルミをもう愛してくれないのッ!!?『クルミを愛してる』って、言ったじゃん!!嘘なのッ!?」

「ごめん、覚えてないや。」

相変わらず攻撃は通用しないのか綺瑠は苦笑して言うと、クルミは「信じらんない」と言いたげに目を見開き呆然とした。美夜はクルミが大声を出した頃から、ハラハラが止まらない。クルミは悔しくて歯が割れんばかりに食い縛ると、肩に下げていたバッグに手を入れる。綺瑠は警戒すると、クルミはバッグの中からトンカチを出して綺瑠に襲いかかってきた。
美夜は咄嗟に声を上げた。

「綺瑠さん危ないっ!」

綺瑠はトンカチを避け、クルミをそのまま押さえつけた。床に押さえつけられるクルミ。

「クッソ…!!離せッ!!離せェー!!」

まるで悪霊に取り憑かれた様に暴れるクルミ。綺瑠はトンカチを奪うと安堵の溜息。美夜も同じく安堵していた。
そこへ、一人の女性がやってくる。帽子を被った高身長の女性…音無アンだ。アンは綺瑠がクルミを押さえつけてトンカチを持っているところを見て、反射的に駆け出した。

「危ない!」

アンはそう言って、綺瑠に向かって足を振りかぶる。どうやら大きな勘違いをしている。

「え?」

綺瑠は目を丸くして、美夜もそれに気づいて驚いた顔。
そして残念な事に、綺瑠はそのままアンの回し蹴りを食らってしまう。諸に顔面に食らってしまった綺瑠は、バッタリと床に倒れてしまうのであった。
それを見た瞬間、美夜の顔は真っ青に。

「綺瑠さんーッ!!」

その声には、若干泣きが混ざっていた。
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