デッドエンド・ウェディング

うてな

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18 モルガナイト:洞察力

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それは三十分くらい経った後の事。綺瑠は自分の家のリビングにて、ソファーに座らされ手首を縛られていた。
その正面には大股を開いてソファーに座るアン。アンはいつもの笑顔を見せず、綺瑠を警戒した様子でいる。そして近くには涙を拭っているクルミがいた。綺瑠は不服そうな表情で言う。

「で、美夜一人で何処へ向かわせたの?」

「本郷ん家。綺瑠の嫁さんが監禁されてるって、本郷から聞いたんだから。」

アンが答えると、綺瑠は眉を潜めた。

「どうしてヒナツちゃんがそんな事知ってるの?」

するとアンはクルミを見る。視線を感じたクルミは涙を拭き終えると言った。

「クルミが教えたの。クルミ、キルキルの家に隠しカメラ設置してたから知ってたの。」

それを聞いた途端、初耳だったのか綺瑠は顔を引きつった。

「隠しカメラ!?いつ!?」

「別れる前。ずっと気づいてなかったんだね、キルキル。」

「分かる訳ないじゃない!」

と言っていた綺瑠だが、今はそんな事を突っ込んでいる場合ではない。綺瑠は再び落ち着いた様子に。

「にしても、アンはヒナツちゃんと知り合いなのは理解できるけど…クルミちゃんはなぜヒナツちゃんを知ってるの?」

そう言われると、クルミは不貞腐れた顔。

「本郷って女が、キルキルの元カノに興味を示してるみたいで。カウンセラーみたいな立ち位置?」

綺瑠はそれを聞くと、思わず溜息。その溜息は安堵の意味ではなく、疑いの溜息であった。綺瑠は珍しく真面目な表情を見せると、考え込んだ様子で呟く。

「ヒナツちゃん…まさかあの子がね…」

「どうした綺瑠。」

アンが聞くと、綺瑠は首を横に振った。

「別に、ヒナツちゃんも変わったんだなって思っただけだよ。」

そう言いつつも、綺瑠の神妙な表情が崩れる事はない。アンは変に思って目を丸くすると、綺瑠は続ける。

「で、僕はいつ解放されるの?」

「もう誰も監禁しないって、約束なさい。」

アンの言葉に、綺瑠は難しい様子で眉を潜めた。それから視線を落とす。

「僕の意識がない時に動いている僕、そっちが承諾してくれるかな…」

全ての原因は裏綺瑠の行動の為、表の綺瑠ではどうしようもなかった。そのせいか、この話はいつまで経っても終わらない。





一方、美夜の方では。
美夜はとあるマンションに来ていた。綺瑠のいた高層マンションに比べ、極々普通のマンションである。美夜はある玄関扉の前まで来ており、インターホンを鳴らした。キョロキョロしつつ、美夜は思う。

(本郷さんの家って、マンションの一角だったんだ…!プロのデザイナーさんだから、もっと高価なマンションに住んでるイメージだった…。)

すると、扉が開いてヒナツが顔を出した。ヒナツは笑顔で言う。

「白原さん!無事だったのね!ごめんね、一人でこっちに来てって言って。」

「いえ。」

「さあ上がって上がって!」

ヒナツに言われ、美夜は家に上がった。

「お邪魔します。」

家の玄関は薄暗いが、廊下の真ん中はオレンジの照明がついており照らされている。他人の家の独特な香りを感じながらも、美夜はヒナツの後を追った。ヒナツは美夜に対し笑顔で言う。

「本当は音無アンと一緒にって思ったけど、暁クルミと綺瑠を二人にさせる訳にもいかないじゃない?それに暁クルミと白原さんだったら、暁クルミの方が問題を起こしそうで。」

「あの、本郷さんは暁さんや音無さんとお知り合いなんですか?」

「ええ。」

美夜はそれを聞くと、どこか引っかかるのか首を傾げた。ヒナツは美夜をリビングへ連れて行くと、美夜をソファーに座らせた。

「ま、座って。白原さん、暫くここで泊まっていきなさいよ。家へ帰ったら、また綺瑠が監禁してくるかもしれないでしょ?」

そう言われると、美夜は申し訳ない顔を浮かべる。

「確かにそうですが…本郷さんに悪いです。」

「いいのよいいのよ!…あ!」

ヒナツは閃いた顔をして、リビングを出た。美夜は目を丸くしてそれを見ていると、ヒナツは走って帰ってくる。ヒナツは娘のエリコを抱えており、エリコは大人しくしていた。

「だったら代わりにエリコと遊んであげてよ!私仕事で相手できてないからさ!」

そう言われ、美夜は思わず席を立って返事。

「は、はい!勿論!」

「よし!」

ヒナツはそう言いエリコを下ろした。エリコはヒナツを見上げて戸惑った様子を見せていると、ヒナツがエリコの背を押しながら言う。

「この人が綺瑠の奥さんよ、遊んでらっしゃい。」

エリコは黙って頷き、美夜の元へやってきた。美夜はエリコを見ると、目を丸くする。

(そう言えばエリコちゃんって、一言も喋らない大人しい子…よね。本郷さんはあんなに陽気なのに、不思議だな。)

「私は美夜って言うの。よろしくねエリコちゃん。」

美夜は笑顔で言うと、エリコはお行儀良く頭を下げた。しかし声は発しないので美夜は苦笑を浮かべてしまうと、ヒナツは笑う。

「どうやら緊張してるみたい。慣れれば喋るようになるから。」

「はい。」

美夜が言うと、そのままヒナツは出かけてしまう。エリコはそれを確認し、美夜はエリコの様子を見ていた。

「エリコちゃん?」

するとエリコは、体をビクッと跳ねさせてから美夜を見た。どうやら美夜を怖がっている様子。美夜はその反応に気づき、それでも笑顔を見せて言う。

「遊ぼう?何して遊びたい?」

エリコはそう言われると、視線を落として黙ってしまう。それから視線をキョロキョロとさせていたが、やがて俯きながら言った。

「…ヒーローごっこ」

思わぬ提案に、美夜は目を丸くした。しかしすぐに微笑みで返す。

「ええ。」





そしてヒナツは車に乗って出かけた先で、璃沙の家へ来ていた。璃沙が出てくると、ヒナツは上機嫌で言う。

「白原さんが見つかったよ?」

「ハ!?どこだ!!」

璃沙が前のめりになって聞くと、ヒナツは眉を困らせてから言った。

「勿論あの悪魔みたいな元彼に捕まってたのよ。」

「今はどこに…!」

璃沙が聞くとヒナツは璃沙の様子を見ていた。それはもう、品定めでもするかのようにだ。璃沙の焦った様子に、ヒナツは冷静に聞く。

「璃沙さんってさ、綺瑠の事好きでしょ。」

そう言われた瞬間、璃沙は顔を真っ赤にして顔を庇った。

「ハ!?そんな訳…!」

と言ったが、ヒナツの目は誤魔化せない。

「いいの?白原さんと綺瑠が結ばれてさ。」

そう聞かれると璃沙は驚いて黙り込んでしまう。が、ヒナツを少し睨みながら言った。

「なんだよ急に、話を逸らすな。」

「私はね、話し合いに来たの。綺瑠って一途でしょ?あなたがどれだけ頑張っても、白原さんに追いつけないのも私知ってるわ。」

璃沙は反論もできないのか黙って聞いているので、ヒナツは続けた。

「今回綺瑠が監禁を起こしたお陰でわかったでしょ?綺瑠はあなた達家族じゃなくて、白原さんだけいればいいのよ。だって綺瑠は連絡手段を全て絶ち、隠れていたんだから。」

そう言われると、璃沙は悔しいのか拳を握った。璃沙は俯いてしまう。

「知ってるよ…。アイツの目には、いつも美夜ばっかだよ。」

璃沙のその表情を見ると、ヒナツは思わず鼻で笑ってしまう。

「可笑しいわよね。白原さんだって余命僅かなんでしょ?ずっと拘ってる綺瑠の神経がわかんないわ。
ほんのちょっとしか生きれない白原さんより、メンテナンスさえ出来ていれば永遠に生きてられる璃沙さんの方がいいはずなのにね。」

璃沙はそれを聞くと、ヒナツを睨んだ。

「馬鹿な事を言うな。それほど綺瑠は美夜が好きって事だよ。それに綺瑠は…精密機械よりも生物が好きだ。私が対象から外れるのは当たり前だ。」

「大丈夫よ、私がどうにかしてあげるから。」

「は?」

璃沙は睨むとヒナツは笑顔。

「逆に璃沙さんが何もしないでいたら、綺瑠は一生あなたに振り向かないわ。仮に白原さんが寿命で亡くなったら、綺瑠はどう思うでしょう。白原さんの病気を治そうと研究していた璃沙さんを、役立たずと思うかもしれない。そうしたら、綺瑠はあなたを捨てるかもしれない。
だってあなたは人間じゃない、ただのロボット…物ですもの。」

ヒナツの追い込むような話術に、璃沙は息を詰まらせた表情を見せた。しかし璃沙はそれでも、綺瑠を信じた表情で言う。

「私はロボットだが…綺瑠は私を家族と認めてる…!捨てられる事なんて…!」

しかし璃沙の手は震えていた。正直な話、捨てられてしまう可能性の方が大きいと考えているのだろう。すると綺瑠の言葉を思い出した。


――「決めた。あの子を幸せにしてあげよう。僕ら二人で、必ず彼女を幸せにしてあげるんだ。彼女の幸せを第一に…。」――


(美夜を幸せにできなかったら…私は綺瑠に何て思われる…?)

ロボットの存在理由とは、与えられた仕事を完璧にこなす事である。主人が思った通りの仕事が出来ないロボットなど、所持し続ける価値があるだろうか?使い勝手の悪い備品なら、捨てて代わりをあてがった方が効率がいいだろう。少なくとも璃沙はそう思ったのだ。
璃沙が思い悩んでいるのを見て、ヒナツは怪しい笑みを浮かべていた。

「本当に捨てられないと思ってる?綺瑠って案外、残酷な男でしょ?捨てる時は捨てる男よ。私達元カノだって、そうやってアイツに捨てられて来たのに。」

強ち間違いでない事まで言われ、璃沙は遂に焦った様子になる。

「駄目だ…それは駄目だ。私は、綺瑠の命令無しじゃ生きていけない。」

「綺瑠の命令なら、綺瑠があなたの前から消えられてもいいと?」

ヒナツの言葉に、璃沙は苦虫を噛み潰した様な表情で拳を握った。そして微かに呟く。

「嫌…!」

その言葉を待っていたのか、ヒナツは微笑む。

「嫌ならチャンスを掴みなさい、私が手伝ってあげる。」

そう言われ、璃沙がヒナツの顔を見上げた。

「私に、いい考えがあるの。」

その時のヒナツは、明らかに怪しい笑みを浮かべていた。しかしそんなヒナツの表情を、璃沙は怪しく思いながらも縋ろうとしていた。
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