デッドエンド・ウェディング

うてな

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20 サンストーン:恋のチャンス

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その日の夜、璃沙の家にて。
家には綺瑠が帰ってきており、広也と進也が対面していた。場所はリビングでテーブルを囲んで椅子に座っている。綺瑠はアンやクルミに足止めを食らっていたものの、どうやら帰って来れたようだった。
広也は綺瑠から一通り話を聞いた様子。

「んで 元カノから解放はされたが美夜に近づくのを暫く禁止されたと」

「うん。」

綺瑠がそう返事をすると、進也は変に思ったのか眉を潜めた。

「でも変っすね。なんで綺瑠の元カノが、隠しカメラで見た情報を本郷さんに伝えたんすかねぇ。」

「そうだな 美夜の言う綺瑠殺しの元カノの事とかを考えると…何か裏があると思わねぇか?」

広也が言うと、綺瑠は頷いた。

「それで、美夜はヒナツちゃんの家に今いるみたいだけど…」

それを聞くと、広也はヒナツに対して何か思う事があるのか眉を潜める。そして両手の指を組んで机の上に乗せた。

「あの女か」

広也の言葉に綺瑠は真剣な眼差しで頷き、綺瑠も同じく指を組んで机の上に乗せる。そんな二人に対し、進也はヒナツの事はあまり知らないのか目を丸くした。

「確かー、綺瑠の二番目に付き合った彼女っすよね?」

進也にしてはよく知っていたのか、広也は意外な顔をしてから頷く。

「随分と狂った女でよ 綺瑠と付き合っていながらも 元の旦那に未練タラタラの女なんだよ」

「そうなんすか?」

「そうだね。『海(ウミ)』を恨んでるのやら愛しているのやら…ヒナツちゃんの気持ちはよくわからなかったね。僕と付き合っていたのも、海の気を引く為らしいから。」

そこまで想像が及ばなかったのか、進也は驚いた顔。

「どういう事っすか!?」

進也の質問には綺瑠が答えた。綺瑠は身振りまで加えて進也に伝わりやすいように話す。

「海は僕の事をかなり気に入ってくれててね。だからヒナツちゃんは僕に近づいて、海を嫉妬させようとしてたんだって。本人から聞いた話だよ。」

進也は話に追いつけないのか、ポカンとしていた。ヒナツの行動心理やら気持ちやら、進也にとっては何ひとつも理解できないのだろう。広也は呆れた様子になって綺瑠に言った。

「進也にゃ通じねぇよ」

「そう?」

その時だ、家のインターホンが鳴る。三人がその音に気づくと、綺瑠は誰よりも先に玄関へ向かった。

「はーい!」

するとそこには、ヒナツの元旦那である海の姿が。彼は茶髪の髪にピンクのメッシュを入れ洒落たピアスを耳に付けている。海は今でも泣きそうな顔をしており、綺瑠を見ると飛びついた。

「綺瑠!良かった!ヒナツに変な事されてない!?」

口を開くと犬歯がよく見える海。それに対し、綺瑠は思わず満面の笑み。

「こんばんわ海。ヒナツちゃんは何もしてないよ。あ、僕は美夜を監禁しちゃったけどね。」

すると次は海はムスっとした怒りの表情。海は綺瑠同様、感情表現が豊かな様だった。海は綺瑠の胸を指でツンツンと刺しながら言った。

「ちょっとッ、アンタを理解してくれる数少ない人である美夜ちゃんを監禁ッ!?アンタ何もわかってない!バッカじゃない!今すぐ謝んなさいッ!」

「僕は美夜と接触禁止なんだよ。美夜は今、ヒナツちゃんの家にいる。」

それを聞くと海は口を噤んで驚いた顔。海は大人しくなると、神妙な様子で言う。

「…あの女は危険よ。」

「知ってる。」

「じゃあ今すぐ連れ戻しましょ!?何かされてからじゃ遅いわッ!」

海はヒナツを相当危険視しているのか、行動を急いだ。しかし綺瑠は迷った様子を見せる。

「でも、僕の元カノをカウンセリングしてくれてるみたいだし…改心していると信じたい。」

綺瑠はそう言ったが、海は真面目な様子で綺瑠の両肩を掴む。そして静かに首を横に振った。

「私も信じたいけどね、信じられないわ。あの女は、私の時だって…!そうやって私の心の隙間に入り込んで、悪さしてきたんだから…!美夜ちゃんも何か吹き込まれるに違いないわッ!」

「…そう。」

綺瑠が言うと、そこに広也と進也がやってくる。

「あ、海のおじちゃんっす!」

進也が言うと、海は「おじちゃん」と言われるのが嫌なのか進也を睨んだ。

「おじちゃんじゃなくてお姉さんよッ!」

海の反応を見て進也は笑った。広也は海に挨拶もせずに綺瑠に聞く。

「何で海を呼んだんだ?」

広也にそう言われ、綺瑠は口を噤んだ。そして何か思惑があるのか、海に言う。

「海、上がってよ。話したい事があるんだ。」

「え、ええ。」

海は目を丸くして、家へ上がった。綺瑠は玄関の扉を閉める。すると早速、綺瑠は真摯な表情で言った。

「僕はまだ諦めてないよ。エリコの親権を、海に渡す事。」

そう言われて海は驚いた顔を見せると、綺瑠は頷く。綺瑠はリビングへ向かいながら言った。

「言っておくけど海、エリコは未だにヒナツちゃんに怯えたままだよ。ヒナツちゃんがエリコを良く思っていない証拠だ。」

綺瑠はエリコがヒナツの前だといつも黙っている事、ヒナツが怒ると怯える事、全てに気づいていた様子。綺瑠はそんなエリコを心から心配しており、海もずっと気にかけていたのだった。

「やっぱり…」

活気の無い声で海が言うと、綺瑠は続ける。

「明日、思い切ってエリコに会って全てを聞いてみようと思う。…美夜の様子を聞く序でに。」

綺瑠の小言により、海はツッコミを入れた。

「やっぱり嫁優先かいッ!」

「両方だよ!」

焦った様子で綺瑠が言うと、海は少し呆れた様子だった。海は溜息をつく。

「つーか、ヒナツはエリコに付きっきりでしょ。どうやって剥がすのよ。しかも親権を今頃私にって…別に六年前と同じでヒナツに負けるわ。」

「それは問題ないよ。あっちには璃沙がいるんだ。璃沙に協力を仰げば、行けると思うよ。
それにエリコは今じゃ七歳、自分の意思を主張できるはずさ。つまりね、今が最大のチャンスなんだよ。」

綺瑠がウィンクをすると、海は希望を見出した表情で目を丸くした。

「本当…!?」

しかし無表情のままの広也は言う。

「十歳以下の意見は聞き入れないんじゃね? 裁判所はよ」

確かにそう一般的には言われているが、綺瑠は目を輝かせてガッツポーズ。

「だって経済的にも海の方が上だし、エリコも海を選べば確実でしょ!」

強い自信だ。それでも、エリコが強く望めば叶わん事はない夢だろう。海はエリコと暮らせる未来があると嬉しいのか、胸に手を当てて微笑んだ。

「今夜はあっちで飲み会らしいから、璃沙は今日帰ってこない。だから明日実行…って事になってるよ。」

綺瑠が言うと、海は頷く。

「なるほど。綺瑠にしちゃ考えたじゃない!」

「でしょでしょ!ヒーローには思考力も大事だからね!」

綺瑠はウィンクしながら言うと、広也は呆れた様子。

「そんな上手く行くかぁ?」

家が賑やかになっている所で、家の固定電話が鳴り出す。
綺瑠は颯爽と電話を取った。

「はいはい白原です。」

すると電話の内容を聞き、綺瑠は血相を変えた。驚いて呆然とする様な、怒りで震えが止まらない様な。広也達はその異変に気づくと、綺瑠は突然電話を切って家を飛び出した。

「綺瑠! どうした!」

広也は言ったが、綺瑠は三人を置いて車に乗り込んで出発してしまう。何が起きたのかわからない三人は顔を見合わせ、呆然としていた。





本郷の家では、飲み会が開かれていた。
美夜と璃沙とヒナツとエリコと…そして見知らぬ女性が一人。その女性は質素な服を着ており、その服装はまるで家着。

「『榎下(エノシタ) ヒカリ』です。」

笑顔で言ったヒカリと言う女性。それを見た美夜は、驚いた様子を見せた。

(ヒカリって…綺瑠さんの元カノにいたわよね。以前の結婚式で璃沙さんに脅迫文を送った…)

ヒナツはニッコリと笑うと、美夜にヒカリを紹介する。

「ヒカリは私の弟子なの!仲良くしてあげて?」

「あ、はい!」

美夜が返事をすると、困った様子を見せながらも思う。

(きっと名前が同じなだけね。そんな偶然ある訳ないもの…)

自分の考えすぎだと、美夜は深く考えないようにした。飲み会が本格的に始まり、ヒカリとヒナツが二人で会話をして盛り上がっている。美夜はエリコと一緒におり、璃沙は単体で暫く飲み会の様子を傍観していた。ここは女子だけの飲み会なのか、ヒナツの弟のリョウキは参加していない。
璃沙はロボットなので何も飲食せず、ヒカリを見ていた。

(ヒカリって女は綺瑠の元カノ…。綺瑠に凄惨な暴力を受け、人生を壊された女…。)

そして璃沙は、数分前の出来事を思い出していた…。



――美夜とヒナツがキッチンで飲み会の準備をしている中、廊下で璃沙とヒカリは一緒にいた。
ヒカリは一本のワインボトルを見せて言う。

「このワインに、致死量の毒が入ってるの。」

「ハ!?まさか美夜を…!」

璃沙は怒りの表情を見せると、ヒカリは言った。

「まだあるの、聞いて?」

それに璃沙は黙るとヒカリを睨む。

「飲み会が始まったら、真っ先に綺瑠に連絡を入れるわ。
『今から大事な美夜ちゃんに毒入りワインを飲ませる。
それが嫌ならさっさと本郷さん家に来て、あなたが代わりに飲みなさい。
そうしたら、美夜ちゃんを解放してあげる。
電脳璃沙ちゃんも、連絡機能をOFFしているから頼っちゃメよ。』って。」

それを聞かされた璃沙は、怒りの表情を見せて言った。

「ハァ!?綺瑠を殺す気かッ!!」

「勘違いしないで。これはあなたの為であり、あなたの覚悟を知る為のもの。」

ヒカリはそう言うと、腕時計を見せる。

「綺瑠がこの家に到着するまでは…車で十五分くらい?それまでにあの女にワインを飲ませて毒殺する事。そうしたら、綺瑠の命だけは助けてあげる。」

「は…?」

璃沙は掠れた声を出すと、再び怒りを交えて言った。

「滅茶苦茶だ!!なんで私が美夜を…!」

「…あなたはあの女を救う為に、綺瑠と研究を重ねてきたんでしょ。
でもいずれ、あの女は死ぬ。そうしたらあなたは用済みになるかもしれないって、ヒナツから聞いたわ。」

璃沙は思わず黙ると、ヒカリは続けた。

「私はこの事件を起こした後、警察に捕まる。あの女を殺した犯人は私として処分するのよ。そうなったら、あなたが綺瑠に恨まれて用済みになる事はなくなるのかなって。」

璃沙はヒカリのやる事が理解できないのか、思わず呆然とする。

「は…?なんでお前がそこまでして…」

するとヒカリは虚しい表情を浮かべた。俯いているのにどこか遠くを見ているような目で、疲れたような表情を見せている。

「私は疲れたのよ、人生に。アイツの暴力のせいで、人生全部楽しくなくなっちゃった。私はされるだけされて、最後は物を捨てるように捨てられた。それ以降、私は何をしても辛くなったの。」

『物』その言葉に、璃沙は強く反応をした。璃沙は自分もいつかそうやって捨てられると思うと、恐怖で顔が真っ青になる。するとヒカリは優しく微笑んだ。

「それでもあの男が好きなら、私はあなたに協力してもいい。あなたにはなんだか同情しちゃうんですもの。」

「でも…、それでも美夜を殺すだなんて…!」

璃沙が言うとヒカリは続ける。

「あの女が死んだら、綺瑠に寄り添える女はあなただけになるのよ?」――



それを思い出し、璃沙は拳を握っていた。璃沙は葛藤をしている様子だった。

(綺瑠は馬鹿だ…。一人の人間をここまで陥れるほど、恐ろしい事をしていたとはな…。)

璃沙はそれでも、綺瑠への恋慕を止められない。

(そんな男であっても…それでも私…綺瑠の事が好きだ…!)

璃沙はそう思いつつも、美夜を見つめる。迷った瞳で美夜を見つめ、涙が瞳を潤わせた。

(私が…美夜を…そうすれば綺瑠は……)
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