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22 カルセドニー:開放
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綺瑠はヒナツのマンションに到着した。
急いでマンションのホームへ向かうと、そこにはなんとエリコが一人で立っていた。エリコは今でも泣きそうな顔をしている。綺瑠は驚いた表情を見せた。
それと同時に、綺瑠の様子に異変が起きる。綺瑠はエリコに近づくと、棒声ながらも声をかけた。
「エリコ。」
その表情といい、どうやら裏の綺瑠と入れ替わった様子だった。エリコは綺瑠に気づくと、思わず駆けてきて飛びついてきた。
「パパ!」
綺瑠は微笑んで、エリコの頭を優しく撫でる。
「よしよし、ヒナツはどうしたの。」
綺瑠はエリコを抱っこすると、ホームを歩き出す。
エリコは弱った表情を見せると、マンションの扉を開く鍵を見せた。
「お母さんが…パパを迎えに行けって…」
そう言われると、綺瑠は反応をする。綺瑠は怒りの表情を浮かべると、上の階を見上げた。
「アイツ…!やっぱりアイツも美夜の事を…!」
「美夜お姉さんがどうしたの?」
エリコが言うと、綺瑠はエリコを怖がらせないように表情を元に戻す。
「うん、大丈夫。エリコも美夜も、僕が助けてあげるから。」
そう言われると、エリコは笑顔を見せた。
「嬉しい!やっぱりパパは、ヒーローだね!」
こっちの綺瑠はヒーロー呼びされるのが嫌なのか、一瞬眉を潜める。そして気にしないようにし、走ってヒナツの家へ向かった。
玄関扉の前まで走ると、扉は鍵が開いていたので綺瑠は飛び入った。玄関先や廊下には誰もいなかったのでエリコを下ろすと、颯爽と綺瑠はリビングの方へ顔を出す。
リビングにはコップを持った美夜と璃沙、その少し距離を置いたところにヒカリがいた。綺瑠はすぐに美夜へ駆け寄る。
「美夜…!」
綺瑠は美夜が無事で、思わず笑みを見せた。美夜も綺瑠がやってきて心強いのか笑顔を浮かべる。
「綺瑠さん、なぜここに?」
そう言われると、綺瑠は美夜と話す前にヒカリを睨んだ。ヒカリは綺瑠に睨まれると、急に恐怖を覚えた表情で顔を真っ青にした。発作だろうか、発汗し息を荒くし、そして腰を抜かして部屋の端で蹲ってしまう。ヒカリは震えながらも呟いた。
「ダメ…やっぱりあの男だけは絶対にダメ…!」
ヒカリは裏の綺瑠によって、相当深い傷を負わされたのだろう。その様子が見て取れるように、ヒカリは発狂した様子であった。綺瑠はヒカリの様子に一瞬戸惑った様子を見せたが、戦意がない事を確認すると美夜の質問に答える。
「脅迫されて、思わず駆けつけたんだよ。」
綺瑠はそう言うと、美夜が持っていたコップにわざと手を当ててこぼした。美夜は目を丸くすると、綺瑠は璃沙の方を見る。
「璃沙、美夜を僕の車まで運んで。三人で帰るよ。ああ、運転は璃沙お願い。」
「ハァ!?お前が運転しろよ!」
綺瑠に反抗する璃沙を見て、美夜は眉を潜めた。美夜は璃沙を疑っているからだ。綺瑠は璃沙の手にあるコップを見ると言う。
「それ美味しい?」
「し、知るか。」
璃沙が答えると綺瑠はそれを手に取る。美夜もそれを見ていたが、美夜は別に止めなかった。
(璃沙さんは焦ってない様子ね…。多分そっちは毒が入っていないんだわ。璃沙さんは綺瑠さんが好きですもの、綺瑠さんに毒を飲ませる訳ないわ。)
璃沙は綺瑠がワインを飲むところを見てから、ある事に気づいて言った。
「っておい!飲酒するな!私が運転しなきゃいけなくなるだろ!」
綺瑠はちゃっかりとしており、ニヤリと笑う。
「だってそれが目的だもん。あー美味しいワイン。」
綺瑠はコップのワインを飲み干すと、テーブルに置いた。その時だ、廊下から物音がする。
一同がその方向へ視線をやると、そこにはヒナツがいた。ヒナツはエリコの両肩を掴み、自身の前に立たせている。ヒナツは笑みを浮かべながらエリコに言った。
「エリコ、久々にパパに逢えたね。嬉しい?」
ヒナツの笑みには強い違和感がある。なぜ笑っているのか、その笑いに心の和やかさも感じられない。エリコはヒナツに語りかけられていたが、震えて何も言えずにいた。綺瑠はそれを見ると、眉を潜める。そしてヒナツの方へ歩きながら言った。
「ヒナツ、エリコを離して。」
「なぜ?エリコは私の娘だもの。」
ヒナツはそう言いながら、携帯のカメラを構えていた。どうやらムービーを撮っているようだった。それがバレないよう、自然な動きで携帯を触る仕草をする。
綺瑠は言った。
「海の娘でもある。エリコはさ、どっちの…」
そこまで言うと、綺瑠は体に異変を感じた。綺瑠は急に咳き込み、血反吐を吐く。それを見て、美夜と璃沙は声を上げた。
「綺瑠さん!!」
「綺瑠ッ!?」
ちなみに真正面に立っていたエリコは、恐怖で呆然としていた。綺瑠が苦しみで膝を崩すと、エリコはやっと掠れた声を出す。
「パ…パ……?」
目に涙を浮かべ始めるエリコ。そこに美夜が駆け寄る。一方璃沙は、ヒカリを睨んで言った。
「おい…!毒入りだったのかよ!」
しかしヒカリは、綺瑠がいる恐怖から何も答えられない状態。璃沙はそれでも、ヒカリを揺すって話をしようとしていた。美夜は綺瑠に言う。
「綺瑠さん…!」
「大…丈夫…ちょっぴりだけど…正直な話…毒入ってると思ってた…し…」
そう言われると、美夜は驚いた表情のまま言った。
「じゃあなんで飲んだんですか!!」
そう言われると綺瑠は、ヒナツを見上げた。美夜も同じくヒナツを見る。
当のヒナツは綺瑠を撮影しながら、悦楽の表情を浮かべていた。ヒナツは更にエリコの肩を掴み、無理にカメラの方へ向けた。エリコの絶望の表情を見ると、ヒナツは狂気的に笑った。
「どうどうエリコぉ、パパ死んじゃうねぇ!」
いつものヒナツからは考えられないくらい、悪魔のような表情。美夜はそれに驚愕して呆然としてしまうと、綺瑠は美夜の耳元で言う。
「これ…ヒナツの正体…美夜に…知っていて…欲しくて…」
「え…?」
美夜が言うと、綺瑠は続けた。
「美夜…戻って…!」
美夜はその言葉に反応すると、綺瑠は毒のせいで衰弱した表情を見せて言う。
「逃げて…きっと…どの未来でも…美夜達を殺そうとしてるの…この女…」
その言葉に美夜はまだ信じられないのか口を閉じて黙り込むと、綺瑠はそのまま倒れてしまった。美夜はそんな綺瑠を重い体を支えていた。
(嘘…本郷さんがそんな…)
美夜は絶望で呆然とし、ヒナツを見上げる。ヒナツは二人に目もくれず、エリコの絶望した表情を見て喜んでいた。
「ホント、エリコは海にそっくり。この動画、海に送ったらどんな顔するかしらー。楽しみー。」
するとヒナツはやっと美夜の視線に気づき、美夜に微笑む。いつもの陽気で優しい、ヒナツの笑みだ。
「ああ、ごめんね白原さん。別に、綺瑠に深い恨みなんてないんだけど…」
美夜は呆然としながらも、まだ信じられない様子だった。
「綺瑠さんに暴力されて…監禁されて…恨んでたとかでは…?」
美夜が掠れた声で聞くと、ヒナツは目を丸くする。そして首を傾げるのだ。
「そんな事言ったっけ。私、別に監禁なんてされてないけどな。監禁される訳ないじゃない、先に別れを告げたの綺瑠だし。」
それを聞き、美夜は驚いて口を噤んだ。
(嘘…。ヒナツさん、綺瑠さんに監禁されたって言ってたもの。)
そして、エリコの言葉を思い出した。
――「お母さん、嘘つきなの。」――
その意味を知り、美夜は深く失望した。今まで美夜や綺瑠達に見せていた姿もきっと、全て嘘なのだと美夜は悟る。そしてエリコはと言うと、恐怖や絶望から泣き出していた。ヒナツは笑いながら言う。
「元旦那がさー、綺瑠とエリコが大好きって言ってたの。元旦那とはちっさな理由で別れたからさ、復讐したいなって思ったの。
…絶望のドン底に落としてやろう、ってね。」
その言葉を聞いて、美夜はヒナツの凶悪さに強く鳥肌を感じた。ヒナツは携帯を触りながら言う。
「この動画を送ってあげたら、きっと海は面白い反応見せてくれるわね。いい気味だわ。」
美夜は失望しつつも、奥底から怒りが沸き上がってくるのがわかった。美夜は露骨に表情を歪ませると、ヒナツを睨む。
「なぜ…!本郷さんも綺瑠さんの元カノさんも…みんなそうだけど…どうして恋人に復讐なんて考えるのよ…!どうして他人を巻き込んでまで、相手を不幸にするのよ…!
大好きだった彼なんでしょ…!」
そう言われると、ヒナツは腹を抱えて笑った。相当面白かったのか、目には涙まで滲んでいる。美夜は不快に思って眉を潜めると、ヒナツはやっと笑い飽きたのか笑いが止まった。そして涙をぬぐいながら言う。
「なんでって、不幸にされたからに決まってるでしょ~?海は私を不幸にしたの。
ちょっとエリコを殴っただけで怒ってきたのよ?泣かせただけで『別れよう』って言ってきたのよ?」
ヒナツの言い分は美夜にとって許せない内容だった為、美夜は思わず言い放つ。
「それは当たり前です!!大事なお子さんでしょう!」
そう言われると、ヒナツは怒りの表情を浮かべた。
「普通は恋人を大切にするでしょう…?!海は私より、エリコが良かったのよ!ふざけんな…ッ!」
美夜はそのヒナツの剣幕に、圧倒されてしまっていた。
(本郷さんって…そんな人だったの…?私とはだいぶ価値観がズレているわ…)
ヒナツは軽く鼻で溜息をつくと、美夜の方を見て言う。
「あなた、ワインは飲んだ?」
美夜はそれに反応して、それから首を横に振った。するとヒナツは溜息。
「あー、飲んだかと思ってた。そっかー、本性バレたか。死ぬかと思って全部曝け出したのに。
また過去へ帰る?はぁ、別の世界の私は海の絶望顔を拝めないのね…。」
美夜はヒナツを睨みつけ、それからそっと目を閉じた。美夜の容姿が、タイムスリップする時の容姿へと変化する。そんな美夜を見てヒナツはニヤリと笑った。
「どこまでお帰り?」
美夜は目を開き、息絶えた綺瑠を眺めながらも言った。
「本郷さんに言う、義理はありません。」
美夜はそう言うと、その場から消え去る。本郷の家には、泣きじゃくるエリコの声だけが残った。ヒナツは怪しくクスッと笑いながら、エリコの頭を撫でた。エリコは怯えてしまうと、ヒナツはエリコに不気味な笑顔を見せて言う。
「ねぇ、美夜お姉さんにも見捨てられたね?エリコ。」
急いでマンションのホームへ向かうと、そこにはなんとエリコが一人で立っていた。エリコは今でも泣きそうな顔をしている。綺瑠は驚いた表情を見せた。
それと同時に、綺瑠の様子に異変が起きる。綺瑠はエリコに近づくと、棒声ながらも声をかけた。
「エリコ。」
その表情といい、どうやら裏の綺瑠と入れ替わった様子だった。エリコは綺瑠に気づくと、思わず駆けてきて飛びついてきた。
「パパ!」
綺瑠は微笑んで、エリコの頭を優しく撫でる。
「よしよし、ヒナツはどうしたの。」
綺瑠はエリコを抱っこすると、ホームを歩き出す。
エリコは弱った表情を見せると、マンションの扉を開く鍵を見せた。
「お母さんが…パパを迎えに行けって…」
そう言われると、綺瑠は反応をする。綺瑠は怒りの表情を浮かべると、上の階を見上げた。
「アイツ…!やっぱりアイツも美夜の事を…!」
「美夜お姉さんがどうしたの?」
エリコが言うと、綺瑠はエリコを怖がらせないように表情を元に戻す。
「うん、大丈夫。エリコも美夜も、僕が助けてあげるから。」
そう言われると、エリコは笑顔を見せた。
「嬉しい!やっぱりパパは、ヒーローだね!」
こっちの綺瑠はヒーロー呼びされるのが嫌なのか、一瞬眉を潜める。そして気にしないようにし、走ってヒナツの家へ向かった。
玄関扉の前まで走ると、扉は鍵が開いていたので綺瑠は飛び入った。玄関先や廊下には誰もいなかったのでエリコを下ろすと、颯爽と綺瑠はリビングの方へ顔を出す。
リビングにはコップを持った美夜と璃沙、その少し距離を置いたところにヒカリがいた。綺瑠はすぐに美夜へ駆け寄る。
「美夜…!」
綺瑠は美夜が無事で、思わず笑みを見せた。美夜も綺瑠がやってきて心強いのか笑顔を浮かべる。
「綺瑠さん、なぜここに?」
そう言われると、綺瑠は美夜と話す前にヒカリを睨んだ。ヒカリは綺瑠に睨まれると、急に恐怖を覚えた表情で顔を真っ青にした。発作だろうか、発汗し息を荒くし、そして腰を抜かして部屋の端で蹲ってしまう。ヒカリは震えながらも呟いた。
「ダメ…やっぱりあの男だけは絶対にダメ…!」
ヒカリは裏の綺瑠によって、相当深い傷を負わされたのだろう。その様子が見て取れるように、ヒカリは発狂した様子であった。綺瑠はヒカリの様子に一瞬戸惑った様子を見せたが、戦意がない事を確認すると美夜の質問に答える。
「脅迫されて、思わず駆けつけたんだよ。」
綺瑠はそう言うと、美夜が持っていたコップにわざと手を当ててこぼした。美夜は目を丸くすると、綺瑠は璃沙の方を見る。
「璃沙、美夜を僕の車まで運んで。三人で帰るよ。ああ、運転は璃沙お願い。」
「ハァ!?お前が運転しろよ!」
綺瑠に反抗する璃沙を見て、美夜は眉を潜めた。美夜は璃沙を疑っているからだ。綺瑠は璃沙の手にあるコップを見ると言う。
「それ美味しい?」
「し、知るか。」
璃沙が答えると綺瑠はそれを手に取る。美夜もそれを見ていたが、美夜は別に止めなかった。
(璃沙さんは焦ってない様子ね…。多分そっちは毒が入っていないんだわ。璃沙さんは綺瑠さんが好きですもの、綺瑠さんに毒を飲ませる訳ないわ。)
璃沙は綺瑠がワインを飲むところを見てから、ある事に気づいて言った。
「っておい!飲酒するな!私が運転しなきゃいけなくなるだろ!」
綺瑠はちゃっかりとしており、ニヤリと笑う。
「だってそれが目的だもん。あー美味しいワイン。」
綺瑠はコップのワインを飲み干すと、テーブルに置いた。その時だ、廊下から物音がする。
一同がその方向へ視線をやると、そこにはヒナツがいた。ヒナツはエリコの両肩を掴み、自身の前に立たせている。ヒナツは笑みを浮かべながらエリコに言った。
「エリコ、久々にパパに逢えたね。嬉しい?」
ヒナツの笑みには強い違和感がある。なぜ笑っているのか、その笑いに心の和やかさも感じられない。エリコはヒナツに語りかけられていたが、震えて何も言えずにいた。綺瑠はそれを見ると、眉を潜める。そしてヒナツの方へ歩きながら言った。
「ヒナツ、エリコを離して。」
「なぜ?エリコは私の娘だもの。」
ヒナツはそう言いながら、携帯のカメラを構えていた。どうやらムービーを撮っているようだった。それがバレないよう、自然な動きで携帯を触る仕草をする。
綺瑠は言った。
「海の娘でもある。エリコはさ、どっちの…」
そこまで言うと、綺瑠は体に異変を感じた。綺瑠は急に咳き込み、血反吐を吐く。それを見て、美夜と璃沙は声を上げた。
「綺瑠さん!!」
「綺瑠ッ!?」
ちなみに真正面に立っていたエリコは、恐怖で呆然としていた。綺瑠が苦しみで膝を崩すと、エリコはやっと掠れた声を出す。
「パ…パ……?」
目に涙を浮かべ始めるエリコ。そこに美夜が駆け寄る。一方璃沙は、ヒカリを睨んで言った。
「おい…!毒入りだったのかよ!」
しかしヒカリは、綺瑠がいる恐怖から何も答えられない状態。璃沙はそれでも、ヒカリを揺すって話をしようとしていた。美夜は綺瑠に言う。
「綺瑠さん…!」
「大…丈夫…ちょっぴりだけど…正直な話…毒入ってると思ってた…し…」
そう言われると、美夜は驚いた表情のまま言った。
「じゃあなんで飲んだんですか!!」
そう言われると綺瑠は、ヒナツを見上げた。美夜も同じくヒナツを見る。
当のヒナツは綺瑠を撮影しながら、悦楽の表情を浮かべていた。ヒナツは更にエリコの肩を掴み、無理にカメラの方へ向けた。エリコの絶望の表情を見ると、ヒナツは狂気的に笑った。
「どうどうエリコぉ、パパ死んじゃうねぇ!」
いつものヒナツからは考えられないくらい、悪魔のような表情。美夜はそれに驚愕して呆然としてしまうと、綺瑠は美夜の耳元で言う。
「これ…ヒナツの正体…美夜に…知っていて…欲しくて…」
「え…?」
美夜が言うと、綺瑠は続けた。
「美夜…戻って…!」
美夜はその言葉に反応すると、綺瑠は毒のせいで衰弱した表情を見せて言う。
「逃げて…きっと…どの未来でも…美夜達を殺そうとしてるの…この女…」
その言葉に美夜はまだ信じられないのか口を閉じて黙り込むと、綺瑠はそのまま倒れてしまった。美夜はそんな綺瑠を重い体を支えていた。
(嘘…本郷さんがそんな…)
美夜は絶望で呆然とし、ヒナツを見上げる。ヒナツは二人に目もくれず、エリコの絶望した表情を見て喜んでいた。
「ホント、エリコは海にそっくり。この動画、海に送ったらどんな顔するかしらー。楽しみー。」
するとヒナツはやっと美夜の視線に気づき、美夜に微笑む。いつもの陽気で優しい、ヒナツの笑みだ。
「ああ、ごめんね白原さん。別に、綺瑠に深い恨みなんてないんだけど…」
美夜は呆然としながらも、まだ信じられない様子だった。
「綺瑠さんに暴力されて…監禁されて…恨んでたとかでは…?」
美夜が掠れた声で聞くと、ヒナツは目を丸くする。そして首を傾げるのだ。
「そんな事言ったっけ。私、別に監禁なんてされてないけどな。監禁される訳ないじゃない、先に別れを告げたの綺瑠だし。」
それを聞き、美夜は驚いて口を噤んだ。
(嘘…。ヒナツさん、綺瑠さんに監禁されたって言ってたもの。)
そして、エリコの言葉を思い出した。
――「お母さん、嘘つきなの。」――
その意味を知り、美夜は深く失望した。今まで美夜や綺瑠達に見せていた姿もきっと、全て嘘なのだと美夜は悟る。そしてエリコはと言うと、恐怖や絶望から泣き出していた。ヒナツは笑いながら言う。
「元旦那がさー、綺瑠とエリコが大好きって言ってたの。元旦那とはちっさな理由で別れたからさ、復讐したいなって思ったの。
…絶望のドン底に落としてやろう、ってね。」
その言葉を聞いて、美夜はヒナツの凶悪さに強く鳥肌を感じた。ヒナツは携帯を触りながら言う。
「この動画を送ってあげたら、きっと海は面白い反応見せてくれるわね。いい気味だわ。」
美夜は失望しつつも、奥底から怒りが沸き上がってくるのがわかった。美夜は露骨に表情を歪ませると、ヒナツを睨む。
「なぜ…!本郷さんも綺瑠さんの元カノさんも…みんなそうだけど…どうして恋人に復讐なんて考えるのよ…!どうして他人を巻き込んでまで、相手を不幸にするのよ…!
大好きだった彼なんでしょ…!」
そう言われると、ヒナツは腹を抱えて笑った。相当面白かったのか、目には涙まで滲んでいる。美夜は不快に思って眉を潜めると、ヒナツはやっと笑い飽きたのか笑いが止まった。そして涙をぬぐいながら言う。
「なんでって、不幸にされたからに決まってるでしょ~?海は私を不幸にしたの。
ちょっとエリコを殴っただけで怒ってきたのよ?泣かせただけで『別れよう』って言ってきたのよ?」
ヒナツの言い分は美夜にとって許せない内容だった為、美夜は思わず言い放つ。
「それは当たり前です!!大事なお子さんでしょう!」
そう言われると、ヒナツは怒りの表情を浮かべた。
「普通は恋人を大切にするでしょう…?!海は私より、エリコが良かったのよ!ふざけんな…ッ!」
美夜はそのヒナツの剣幕に、圧倒されてしまっていた。
(本郷さんって…そんな人だったの…?私とはだいぶ価値観がズレているわ…)
ヒナツは軽く鼻で溜息をつくと、美夜の方を見て言う。
「あなた、ワインは飲んだ?」
美夜はそれに反応して、それから首を横に振った。するとヒナツは溜息。
「あー、飲んだかと思ってた。そっかー、本性バレたか。死ぬかと思って全部曝け出したのに。
また過去へ帰る?はぁ、別の世界の私は海の絶望顔を拝めないのね…。」
美夜はヒナツを睨みつけ、それからそっと目を閉じた。美夜の容姿が、タイムスリップする時の容姿へと変化する。そんな美夜を見てヒナツはニヤリと笑った。
「どこまでお帰り?」
美夜は目を開き、息絶えた綺瑠を眺めながらも言った。
「本郷さんに言う、義理はありません。」
美夜はそう言うと、その場から消え去る。本郷の家には、泣きじゃくるエリコの声だけが残った。ヒナツは怪しくクスッと笑いながら、エリコの頭を撫でた。エリコは怯えてしまうと、ヒナツはエリコに不気味な笑顔を見せて言う。
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