デッドエンド・ウェディング

うてな

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23 ピンクトルマリン:希望

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時を遡った美夜。
美夜は時の狭間を流れながらも考えていた。

(何処へ戻るのが一番いい?自身の身体も含めて遡るならまだしも、時間を遡るだけならば寿命を削る心配はないし…。正直、今よりもっともっと遡ってもいい…。)

すると美夜の脳裏に、璃沙が浮かんだ。

(どんな過去を歩んでも、璃沙さんが私を殺そうとするのは間違いないのかしら。過去の式場の事でもそうだけど、きっと式場の情報を漏らしたのは璃沙さんだわ…。)

その瞬間、時が定まった。目覚めた場所はつい数分前、綺瑠が美夜の元へ駆けつけた直後だった。美夜は綺瑠を見上げる。

(璃沙さんの危険を、綺瑠さんに教えた方がいい。綺瑠さんが身を持って本郷さんの危険を伝えてくれたんだもの。私だって覚悟を決めて、璃沙さんの真実を話さないと。)

そう思って、美夜は璃沙を見る。

(きっとこれより前に時を遡って、綺瑠さんに事実を話しても信じてくれない。せめて…)

「綺瑠さん、そのワインに毒が入ってます。」

そう言われると、綺瑠と璃沙は強く反応した。綺瑠は眉を潜めて言う。

「毒?やっぱりヒカリが…」

しかし、美夜は首を横に振った。綺瑠は目を丸くすると、美夜は言うのがやはり心苦しいのか目に涙を溜める。

「璃沙さんも…共犯なんです……」

それを聞き、綺瑠は目を見開いて驚いた。璃沙も驚いて、図星な為か顔を下げてしまう。美夜は目を潤ませながらも、綺瑠に聞いた。

「そのせいで私も死にかけましたし、綺瑠さんも殺された…。信じて…くれますか…?」

綺瑠は美夜を見つめていた。璃沙はある事に気づいて、美夜に手を伸ばして言う。

「待て、ワインに毒が入っているって本当か!?」

しかし美夜と璃沙の間を、綺瑠が遮断した。璃沙は驚いて思わず綺瑠を見上げると、綺瑠は璃沙を冷たく見下ろしていた。

「璃沙、これは本当?」

璃沙は綺瑠の威圧に少し圧倒されたが、それでも答えた。

「ど、毒が盛られる…それは知ってた。でも、でも本当に毒が入っていたとは知らなかったんだ!『毒を入れるのは嘘』そう言われて…!」

すると綺瑠は眉を潜め、璃沙を睨みつけた。その目を見ると、璃沙は強い焦りを覚える。

「失望したよ。」

綺瑠の声が低くなった。

「美夜を守るって…約束したのに。なのに君が脅かす側になるだなんてね。…なんだろうねぇ…怒りで狂いそうだよ。」

口ではそう言っているものの、綺瑠は無表情で落ち着いていた。璃沙は思わぬ状況に俯いて何も話せない。綺瑠は続けた。

「ああ、聞いていたのが僕で良かったね。あっちじゃなくて良かったよ。君を家族だと思っている彼がもし、君が美夜を殺そうとしたって知ったのならば…また心が壊れていただろうね。」

璃沙はそれに強く反応した。綺瑠はそう言って璃沙の前に来ると、璃沙に言った。

「璃沙、僕は君が嫌いだ。」

そう言われ、璃沙は絶望した表情を見せた。体が震え、思わず両手で顔を覆う。正に今、璃沙の心が壊れそうになっていた。綺瑠はそんな璃沙はお構いなしで美夜の手を繋ぎ、その場を後にする。

「行こう美夜。」

美夜はその状況に緊張を解せずにいつつも、綺瑠についていく。すると璃沙は呟いた。

「なんで…」

綺瑠はその言葉に足を止めると、璃沙は続ける。

「私は綺瑠に振り向いてもらいたかっただけなのに…なんで嫌われる事してんだよ…」

綺瑠はそれを聞いていたが、何も言わずに再び歩き出した。璃沙は膝から崩れ落ち、泣き出してしまう。
綺瑠は廊下に出ると、廊下にエリコとヒナツがいた。予想外の展開だったのか、ヒナツは苦笑すると言う。

「あら、綺瑠じゃない。」

すると綺瑠はエリコに言った。

「エリコ、ママに会いたくない?」

エリコは顔を上げて綺瑠を見ると、ヒナツは眉を潜めた。綺瑠は続ける。

「エリコがママに会いたいって思うんなら、それを口に出して欲しい。そしたらエリコは、これからずっとママと暮らせる。
…もうこんな怖い場所から、バイバイできるんだよ。」

エリコは綺瑠を見つめる。するとヒナツは思わずエリコの肩を引っ張った。

「きゅ、急に何よ!エリコは私の子供なのよ!」

しかし綺瑠はヒナツに一切目をくれず、エリコだけを見つめる。

「僕はエリコに聴いてるの。この話にお母さんは関係ない。エリコの考えだけが重要なんだよ。」

どうやらそれは、エリコに言っているようだった。エリコは躊躇った様子で、ヒナツを見上げようとした。しかし、綺瑠が呼び止める。

「エリコ。」

その声を聞き、エリコは綺瑠の方を見る。

「パパに教えてくれないかな?」

エリコは綺瑠の事をジッと見つめていた。綺瑠はただ真っ直ぐエリコを見つめ返すだけ。それからエリコは俯いて考えていると、ヒナツは声を大きくして言う。

「エリコ!」

するとエリコは驚いたのか、掴む手を振りほどいて綺瑠に飛びついた。

「怖いよパパ…!ママに会いたい!」

それを聞くとヒナツは顔を引き攣り、綺瑠は優しく抱き上げる。

「わかった。」

ここまで来ればもうこの家には用がないのか、綺瑠はヒナツに背を向けた。

「らしいから、エリコは海が預かるね。」

「ハァ!?そんなの許せるわけ…!」

ヒナツが綺瑠を止めようとするが、綺瑠は歩き出しながら言う。

「子供を愛さない親なんて、親じゃないでしょ。他人だよ、他人。」

そう言って玄関前に立つ綺瑠。美夜を先に外へ出すと、綺瑠は更に加えた。

「ああ、警察は既に呼んであるから。」

それにヒナツは反応し、美夜はそれを聞くと苦笑。

「用意周到…ですね。まさか毒殺の件知ってました?」

「ヒカリから電話が入ったからね。僕は警察に事情を説明するから、二人は車の中で待ってて。」

美夜は思わず笑って、了解したのかエリコと手を繋ぐ。

「わかりました。」

エリコは眠そうにしており、気を遣いながらも美夜はエリコを車に乗せた。



数十分後。
綺瑠は美夜とエリコを車に乗せ、帰り道を走っていた。運転は綺瑠、助手席には美夜、エリコは後部座席にてぐっすり眠っている。美夜は言った。

「璃沙さんは?」

「別に戻ってきてもいいとは言ったけど、一緒に帰りたくはないそうだよ。」

「そう…ですか。」

美夜は璃沙に対して何か思う事でもあるのか俯いた。綺瑠はそれを横目で気にし、それから言う。

「璃沙は頭は良いんだけどね、どうしてあんな事を考え出したのやら。」

それに対し、心当たりがある美夜は黙り込んでしまった。

(綺瑠さんが好きだから…とか言えないな。)

しかし美夜は綺瑠の気持ちも気になるのか、思い切って聞いてみる。

「裏綺瑠さんは璃沙さんの事…平気ですか?」

「別に。」

綺瑠が言うと、美夜は意外そうに目を丸くした。

「そうなんですか?綺瑠さんは裏も表も『家族』が大好きだから、悲しんでしまうものかとてっきり…」

そう言われると、綺瑠は反応した。綺瑠は眉を潜めて言う。

「別に、璃沙を家族だなんて思った事ないし。だから平気。」

「そ、そうなんですか…」

と意外と安心してしまう美夜。綺瑠はそんな美夜の様子を確認する事なく、黙って運転を続けていた。すると脳裏に璃沙の姿が過り、綺瑠は眉を潜める。

(僕は璃沙が嫌いだ。いつも僕を怒るし、あっちの僕を贔屓するし、その上美夜を殺そうともした。
嫌い、嫌いだ。…嫌い…)

そう思っていた綺瑠だが、表情はどこか悲しげだった。やはり長い事一緒にいた璃沙を急に嫌いになるなど、綺瑠にはできないようだ。美夜は後部座席のエリコを見てから言う。

「エリコちゃんがまさか、綺瑠さんの事をパパって呼んでいただなんて驚きました。」

綺瑠はすぐに我を取り戻すと、落ち着いた様子で話す。

「たまに海と一緒に保育園まで様子見に行ったんだ。エリコはヒナツの前だとああだけど、外ではとっても元気のいい子なんだよ。」

「そうなんですか。」

美夜が言うと、綺瑠は少し黙る。それから美夜を気遣った様子で言った。

「…ヒナツの事、驚いた?ヒナツって実はね、エリコを怖がらせるような親なんだ。」

美夜は納得がいくのか、黙って聞いていた。綺瑠は続ける。

「六年前、僕とヒナツが付き合って…ヒナツがエリコに暴力を働いていた事を知って、あっちの僕が親権を海のものにしようと頑張ってた。でもその時はエリコ、まだ赤ん坊だったから…親権はヒナツのものになってしまったんだよ。」

事の真相を知ると、美夜は更に納得ができるのか俯きながらも小さく頷いた。

「そう…だったんですか。」

「うん。でも今なら、エリコは自分で選べる。ずっとこの時を待っていたよ、海も、あっちの僕も、勿論僕自身もね。」

美夜はそれを黙って聞いていた。何度も何度も繰り返されてきた最悪の未来を憧れの先輩であるヒナツが起こしていたと考えると、美夜は気分が優れなかった。しかし悲しむ以上にヒナツが凶悪な人間だった為、どこか清々してしまう美夜もいるのだが。
そして家に到着。綺瑠は駐車をしつつ言った。

「到着。エリコは僕が抱っこするから、美夜は家のみんなに元気な顔見せてあげて。」

「あ、はい。」

と言った瞬間、美夜は思い出す。

(そう言えば私、少し前まで綺瑠さんの家で監禁されてたんだよね…。)

時間を何度か遡ったせいか、すっかり忘れていた。

「綺瑠さん、もう監禁はやめたんですか?」

美夜が聞くと、綺瑠はエリコを抱いて車から出てきた。そして真顔で言う。

「して欲しいの?」

すると綺瑠の【愛】を思い出した美夜は慌てて言った。

「いえ!結構です!」

「あっそう。」

綺瑠が言い、美夜は先に家へ入った。綺瑠は美夜の後ろを歩きながら、小声で言う。

「本当はしたいんだけど…」

どこか残念そうに呟く綺瑠。そんな様子に美夜は苦笑せずにはいられなかった。
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