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2章 接続独唱
第17音 一心不乱
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【一心不乱】いっしんふらん
一つの事に心を集中させ、
他に心を奪われない事。
==========
目が覚めるテノ、彼は起きたら起きたでさあ大変。
じっと寝る事ができない彼は、すぐに飛び起き外の散歩へ出かける。
日が昇るのが遅いため外は真っ暗だが、それでも彼は散歩をするのだ。
しかし夜は生き物も寝静まり、魔物の活動時刻でもある。
テノは攻撃魔法や素手で魔物を撃退しつつも、散歩に飽きたのかすぐに児童園へ帰ってくる。
部屋は静か。
同室のアールとレイが起きている時とあまり変わらない。
唯一消えた音はと言うと、アールが本をめくったり工作をする音が消えた、そのくらいだ。
二人は完全に爆睡していて、寝息も聞こえない。
(死人かお前ら…!)
他の部屋の人は徐々に起きてきて、廊下がバタバタしているのに二人は目を覚まさないのだ。
そして遂にテノは行動に出る、アールの布団をめくるのだ。
「アルにゃん起きろ!朝だぞッ!」
するとアールはテノに負けない握力で布団を奪うと、細々く言った。
「ん…今日休み…寝かせて…。」
テノは強い力で布団を奪われた事に一瞬だけ気が抜けたが、すぐにアールの言葉にツッコミを入れる。
「は!?休みってなんだよっ!おかしいだろ!」
起きる気のないアールにイライラしつつも、今度はレイの方へ。
テノは男女お構いなしに絡んでいる為、女からはあまり人気がないらしい。
「新人起きろッ!オメェも夜中まで起きてっから朝起きれねぇんだよッ!」
テノがそう言って怒った瞬間、レイは枕元から何かを取り出しテノに向かって投げた。
その何かはテノの頬に掠り、テノの頬からは血が滲んだ。
テノは怒ると怒り角を生やす。
「この~ッ!」
するとレイはうるさくて眠れないのか、嫌々起きると部屋を出ていった。
しかも、私服のまま寝ているようだった。
「テメェ私服で寝るって…ッ」
その時、アールは勢いよく起き上がる。
少々それに驚くテノ、アールはレイがいないとわかるとそのまま起きて着替えを始めた。
「おい、なんで新人がいなくなると起きる。」
テノが聞くと、アールは少しボーッとしてから再び着替えの続き。
そこでテノは気づいた。
「アルにゃん、ヒートテック着てるけど暑くねぇの?」
確かにサグズィは寒い方だが、今の季節は夏。いくらなんでも暑いだろう。
「…寒いから、悪いか。」
アールはそう答えると着替えを終えた。
「おいッ!寒いっておかしくねぇか!?今は夏だぞ!お前の体感どうなってんだよ…」
そしてアールは部屋を出ると同時に言う。
「レイは忍者らしいな。」
テノはアールの言葉と同時に、さっき投げられた物の行き先を見た。
部屋の壁にはなんと、手裏剣が刺さっている。
「マジかよ…」
「ペ~ルちゃん」
児童園から少し離れた草原で、レイはペルドに話しかけた。
レイとペルドは親戚らしく、レイにとっては数少ない家族。
「レイか」
ペルドはそう言ったが、あまり気にかける様子はない。
レイはペルドにも構ってもらえず、少し不貞腐れていた。
そして近くの草原では、アールとイーちゃんが一緒にいた。
「イー、もう少し待ってくれ。事が終われば必ずお前を魔物のいない場所へ連れて行く。
…だからもう少しだけ…私に時間を…」
アールは独り言のように言う。
イーちゃんは通じていないのか、アールの頬を舐めたりしていた。
その時、アールはペルドとレイの声を聞き取る。
(ペルド…!イーを見せてはイーが危ない…!)
「イー、遠くへ逃げるんだ。絶対、魔物に見つかるな。」
アールはそう言ってイーちゃんを逃すと、イーちゃんはアールを虚しそうに見つめながら逃げていった。
イーちゃんの表情を見て、アールは首を傾げる。
(言葉が…通じた…?)
そこに、ペルドとレイが歩いてきた。
「おう、お前か。」
ペルドはそう言うと、アールはペルドにお辞儀をする。
レイはというと、さっき逃げた影が気になって言った。
「私ちょっと用事思い出したわ。」
そう言ってレイはイーちゃんの後を追いかける。
ペルドはそれを眺めるように見送ると、アールは険しい顔を見せた。
レイの足は速く、すぐに見えなくなってしまう。
アールはイーちゃんに心配を寄せつつも、ペルドは言った。
「おやつの時間だ。」
アールはそれを聞くと、自分の首元を開いてペルドに血を捧げる。
アールはペルドに吸血されている間、イーちゃんが逃げた先の道を見つめていた。
レイはイーちゃんを追いかけていたが、イーちゃんの方が速かったのか見失ってしまう。
それでもレイは探していたが、近くの湖に人影を見つけてしまい立ち止まった。
それはラムで、何か独り言を話している。
レイはアールが言った通り、忍者である。
相手に気づかれずに近づくなんてお手の物。
ラムの場合は相手の魔法で相手の場所を確認できるが、生憎レイには魔法力などなかった。
ラムはアールの事を考えており、【アール】というワードが出る度にレイの表情が重くなる。
「アールが隠し事…アール…なんで昔から仲良くしてる俺には打ち明けてくれないんだろう…。
…俺が積極的に話せないからか…!アールが自分から話しかけられない奴だって知ってんのに…っ」
ラムはそう言うと空を見上げて声を上げた。
「あ~!」
しかし何か起こる訳もなく、空が虚しく見えてラムはしょんぼりとする。
レイはその様子にただならぬ気がしてきた。
「ねえあなた。」
レイは急に話しかけると、ラムは驚いて跳ねた。
「うわぁっ!え!?レイ!?」
「あなたはアールさんの何?」
レイは空かさず質問をしてくるので、ラムはレイの真面目な目を見る。
(この人…アールを狙ってるのかな…)
ラムは戸惑いつつも答えた。
「昔から仲の良い…友人かな…」
「児童園の子は皆家族じゃないの?」
レイが言うと、ラムはその言葉に反応した。
(そうだ…。児童園の人はみんな家族…友達とかじゃなくて…)
ラムがそう思っていると、レイは鋭い目になる。
(この子…、絶対にアールさんに気がある…。)
レイは人間観察を得意としていて、人を無視する割にはいつも人間を観察している。
だからこそ分かる事がある、ラムの反応は好きな人に対する反応だと。
「あなた…女っぽいのね。」
レイは小声で呟くと、ラムは何を聞き間違えたのか言った。
「え!?なんで俺が女だって事バレてんの…!?」
と言って貧血を起こして倒れそうになる。
ラムが混乱し始めるので、レイはまさかと思って聴いた。
「あなた、女なのね?」
ラムはレイを見るとゆっくり頷いた。
レイは落ち着いた表情なので、ラムはそれを見ると落ち着きを取り戻す。
「俺、実は魔法で姿を変えてるだけで…あ!これは他の奴等には秘密だからな!」
ラムは全部話してしまうと、レイは頷いた。
「ドジねあなた、聞き間違えだけで全部話してしまうだなんて。」
ラムは目を丸くしてポカンとすると、レイは更に考え事をし始めた。
(そう言えばペルちゃんがこの児童園に執着する理由が…
容姿魔法を使用できる児童がここにいるって情報を嗅ぎつけたからよね…。
まさか…この子がペルちゃんの探してる…。)
すると、レイはアールと初めて出会った日の事を思い出した。
――二年前、私は彼氏にフラれて寂しく酒場で酒を飲んでた。
人生なんてどうでも良くなって、消えてなくなってしまいたかった…彼のいない人生なんて有り得ない。
そんな事を思っていたら、そこにペルちゃんと一人の男がやってきた。
「よおレイ。コイツは下僕だ、私は今から愛しの人に会いにいくからコイツを見張っとけ!
すぐ逃げようとするからな!逃がすなよ!」
親戚のペルちゃんの言う事は絶対に聞くようにしてた。
私は魔物の血を引くのに、体が殆ど人間と同じだった。
そのせいか魔物には出来損ないと拒まれ、人間からは魔物だと言われ続けた。
そんな私を、ペルちゃんは拒まないでいてくれるから…。
私に押し付けられた男一人。
年齢は近かったが、私は元より他の男を信用してなかったので会話もしなかった。
「こんな酒場に、二十も満たない子供が何をしに。」
男はそう言った。
無愛想な男だった、軽蔑しているように私は見えた。
私だってその男が気に入らなかった。
雰囲気も含めまるで、自分を見ているようだったから。
「なんでもいいじゃない、嫌いなら話しかけないでちょうだい。」
「昼間から酒なんて飲んで、親に怒られないのか。」
私は頭に来た。
「親の話なんてしないでよ…!」
そしたら相手は驚いていた、私は拳を握り締めていたら男は言う。
「…何かあったのか。」
私はすると気づいた。
この男は、私を軽蔑してたんじゃなくて気にかけてたんだって。
それからお互いの話をした。
彼は自分の居場所で多くの子から虐めを受けた事、
私は…親によって男に売られて小遣い稼ぎに使われてた事。
彼は驚かずに最後まで話を聞いてくれた。
お互いに苦しい思いをして生きてきた事を明かした。
今日だって親の小遣い稼ぎに出される所を、彼は一緒に逃げようと提案した。
私はダメだって言ったけど、彼は私を連れて外に出てしまう。
「…すまない…。親に知られては大変だな…。」
彼はそう言って困ると、私は咄嗟に言う。
「ねえ、生きるのが辛いなら…いっそこのまま一緒に死なない…?」
彼はその言葉を聞くと首を横に振る。
「無理だ、私には大事な人がいる。救いたい者が…、だから死ねない。」
すると更に彼は、自分の有り金を差し出した。
「足りないと思うが…、これで我慢してくれ。親にはそういう客だったと言ってくれ…」
私は驚いた。
そして思わず、彼を止めた。
「ねえ、あなた名前は?」
彼は帰ってきたペルちゃんを見つけてから言う。
「アール・ダーン。」
そう言うと彼は、ペルちゃんと一緒にどこかへ行ってしまった。――
(そうよ…私はこうして彼を欲しいと思った…!
そして今、彼の大事な人の存在に気づいた…。)
レイはアールがラムと一緒にいる時間を思い出し、ラムを見つめた。
(彼が守りたいのは他でもない…!
ペルちゃんが求める力を持ったこの子なんだわ…!)
レイの暗い表情にラムは怖気付くと、レイは言った。
「負けない…!私はあなたに負けないわ、絶対に彼は渡さない…!」
「え…」
ラムが呟くと、レイはそのまま立ち去る。
(絶対…絶対に渡さない!
彼はペルちゃんがいる限りいつも、私の手の内にあるのよ…!)
そしてレイは考える。
レイは見つけてしまった、アールを落とす方法を。
(イイコト考えた…)
レイはそう思いながら、ニヤリと笑うのであった。
一つの事に心を集中させ、
他に心を奪われない事。
==========
目が覚めるテノ、彼は起きたら起きたでさあ大変。
じっと寝る事ができない彼は、すぐに飛び起き外の散歩へ出かける。
日が昇るのが遅いため外は真っ暗だが、それでも彼は散歩をするのだ。
しかし夜は生き物も寝静まり、魔物の活動時刻でもある。
テノは攻撃魔法や素手で魔物を撃退しつつも、散歩に飽きたのかすぐに児童園へ帰ってくる。
部屋は静か。
同室のアールとレイが起きている時とあまり変わらない。
唯一消えた音はと言うと、アールが本をめくったり工作をする音が消えた、そのくらいだ。
二人は完全に爆睡していて、寝息も聞こえない。
(死人かお前ら…!)
他の部屋の人は徐々に起きてきて、廊下がバタバタしているのに二人は目を覚まさないのだ。
そして遂にテノは行動に出る、アールの布団をめくるのだ。
「アルにゃん起きろ!朝だぞッ!」
するとアールはテノに負けない握力で布団を奪うと、細々く言った。
「ん…今日休み…寝かせて…。」
テノは強い力で布団を奪われた事に一瞬だけ気が抜けたが、すぐにアールの言葉にツッコミを入れる。
「は!?休みってなんだよっ!おかしいだろ!」
起きる気のないアールにイライラしつつも、今度はレイの方へ。
テノは男女お構いなしに絡んでいる為、女からはあまり人気がないらしい。
「新人起きろッ!オメェも夜中まで起きてっから朝起きれねぇんだよッ!」
テノがそう言って怒った瞬間、レイは枕元から何かを取り出しテノに向かって投げた。
その何かはテノの頬に掠り、テノの頬からは血が滲んだ。
テノは怒ると怒り角を生やす。
「この~ッ!」
するとレイはうるさくて眠れないのか、嫌々起きると部屋を出ていった。
しかも、私服のまま寝ているようだった。
「テメェ私服で寝るって…ッ」
その時、アールは勢いよく起き上がる。
少々それに驚くテノ、アールはレイがいないとわかるとそのまま起きて着替えを始めた。
「おい、なんで新人がいなくなると起きる。」
テノが聞くと、アールは少しボーッとしてから再び着替えの続き。
そこでテノは気づいた。
「アルにゃん、ヒートテック着てるけど暑くねぇの?」
確かにサグズィは寒い方だが、今の季節は夏。いくらなんでも暑いだろう。
「…寒いから、悪いか。」
アールはそう答えると着替えを終えた。
「おいッ!寒いっておかしくねぇか!?今は夏だぞ!お前の体感どうなってんだよ…」
そしてアールは部屋を出ると同時に言う。
「レイは忍者らしいな。」
テノはアールの言葉と同時に、さっき投げられた物の行き先を見た。
部屋の壁にはなんと、手裏剣が刺さっている。
「マジかよ…」
「ペ~ルちゃん」
児童園から少し離れた草原で、レイはペルドに話しかけた。
レイとペルドは親戚らしく、レイにとっては数少ない家族。
「レイか」
ペルドはそう言ったが、あまり気にかける様子はない。
レイはペルドにも構ってもらえず、少し不貞腐れていた。
そして近くの草原では、アールとイーちゃんが一緒にいた。
「イー、もう少し待ってくれ。事が終われば必ずお前を魔物のいない場所へ連れて行く。
…だからもう少しだけ…私に時間を…」
アールは独り言のように言う。
イーちゃんは通じていないのか、アールの頬を舐めたりしていた。
その時、アールはペルドとレイの声を聞き取る。
(ペルド…!イーを見せてはイーが危ない…!)
「イー、遠くへ逃げるんだ。絶対、魔物に見つかるな。」
アールはそう言ってイーちゃんを逃すと、イーちゃんはアールを虚しそうに見つめながら逃げていった。
イーちゃんの表情を見て、アールは首を傾げる。
(言葉が…通じた…?)
そこに、ペルドとレイが歩いてきた。
「おう、お前か。」
ペルドはそう言うと、アールはペルドにお辞儀をする。
レイはというと、さっき逃げた影が気になって言った。
「私ちょっと用事思い出したわ。」
そう言ってレイはイーちゃんの後を追いかける。
ペルドはそれを眺めるように見送ると、アールは険しい顔を見せた。
レイの足は速く、すぐに見えなくなってしまう。
アールはイーちゃんに心配を寄せつつも、ペルドは言った。
「おやつの時間だ。」
アールはそれを聞くと、自分の首元を開いてペルドに血を捧げる。
アールはペルドに吸血されている間、イーちゃんが逃げた先の道を見つめていた。
レイはイーちゃんを追いかけていたが、イーちゃんの方が速かったのか見失ってしまう。
それでもレイは探していたが、近くの湖に人影を見つけてしまい立ち止まった。
それはラムで、何か独り言を話している。
レイはアールが言った通り、忍者である。
相手に気づかれずに近づくなんてお手の物。
ラムの場合は相手の魔法で相手の場所を確認できるが、生憎レイには魔法力などなかった。
ラムはアールの事を考えており、【アール】というワードが出る度にレイの表情が重くなる。
「アールが隠し事…アール…なんで昔から仲良くしてる俺には打ち明けてくれないんだろう…。
…俺が積極的に話せないからか…!アールが自分から話しかけられない奴だって知ってんのに…っ」
ラムはそう言うと空を見上げて声を上げた。
「あ~!」
しかし何か起こる訳もなく、空が虚しく見えてラムはしょんぼりとする。
レイはその様子にただならぬ気がしてきた。
「ねえあなた。」
レイは急に話しかけると、ラムは驚いて跳ねた。
「うわぁっ!え!?レイ!?」
「あなたはアールさんの何?」
レイは空かさず質問をしてくるので、ラムはレイの真面目な目を見る。
(この人…アールを狙ってるのかな…)
ラムは戸惑いつつも答えた。
「昔から仲の良い…友人かな…」
「児童園の子は皆家族じゃないの?」
レイが言うと、ラムはその言葉に反応した。
(そうだ…。児童園の人はみんな家族…友達とかじゃなくて…)
ラムがそう思っていると、レイは鋭い目になる。
(この子…、絶対にアールさんに気がある…。)
レイは人間観察を得意としていて、人を無視する割にはいつも人間を観察している。
だからこそ分かる事がある、ラムの反応は好きな人に対する反応だと。
「あなた…女っぽいのね。」
レイは小声で呟くと、ラムは何を聞き間違えたのか言った。
「え!?なんで俺が女だって事バレてんの…!?」
と言って貧血を起こして倒れそうになる。
ラムが混乱し始めるので、レイはまさかと思って聴いた。
「あなた、女なのね?」
ラムはレイを見るとゆっくり頷いた。
レイは落ち着いた表情なので、ラムはそれを見ると落ち着きを取り戻す。
「俺、実は魔法で姿を変えてるだけで…あ!これは他の奴等には秘密だからな!」
ラムは全部話してしまうと、レイは頷いた。
「ドジねあなた、聞き間違えだけで全部話してしまうだなんて。」
ラムは目を丸くしてポカンとすると、レイは更に考え事をし始めた。
(そう言えばペルちゃんがこの児童園に執着する理由が…
容姿魔法を使用できる児童がここにいるって情報を嗅ぎつけたからよね…。
まさか…この子がペルちゃんの探してる…。)
すると、レイはアールと初めて出会った日の事を思い出した。
――二年前、私は彼氏にフラれて寂しく酒場で酒を飲んでた。
人生なんてどうでも良くなって、消えてなくなってしまいたかった…彼のいない人生なんて有り得ない。
そんな事を思っていたら、そこにペルちゃんと一人の男がやってきた。
「よおレイ。コイツは下僕だ、私は今から愛しの人に会いにいくからコイツを見張っとけ!
すぐ逃げようとするからな!逃がすなよ!」
親戚のペルちゃんの言う事は絶対に聞くようにしてた。
私は魔物の血を引くのに、体が殆ど人間と同じだった。
そのせいか魔物には出来損ないと拒まれ、人間からは魔物だと言われ続けた。
そんな私を、ペルちゃんは拒まないでいてくれるから…。
私に押し付けられた男一人。
年齢は近かったが、私は元より他の男を信用してなかったので会話もしなかった。
「こんな酒場に、二十も満たない子供が何をしに。」
男はそう言った。
無愛想な男だった、軽蔑しているように私は見えた。
私だってその男が気に入らなかった。
雰囲気も含めまるで、自分を見ているようだったから。
「なんでもいいじゃない、嫌いなら話しかけないでちょうだい。」
「昼間から酒なんて飲んで、親に怒られないのか。」
私は頭に来た。
「親の話なんてしないでよ…!」
そしたら相手は驚いていた、私は拳を握り締めていたら男は言う。
「…何かあったのか。」
私はすると気づいた。
この男は、私を軽蔑してたんじゃなくて気にかけてたんだって。
それからお互いの話をした。
彼は自分の居場所で多くの子から虐めを受けた事、
私は…親によって男に売られて小遣い稼ぎに使われてた事。
彼は驚かずに最後まで話を聞いてくれた。
お互いに苦しい思いをして生きてきた事を明かした。
今日だって親の小遣い稼ぎに出される所を、彼は一緒に逃げようと提案した。
私はダメだって言ったけど、彼は私を連れて外に出てしまう。
「…すまない…。親に知られては大変だな…。」
彼はそう言って困ると、私は咄嗟に言う。
「ねえ、生きるのが辛いなら…いっそこのまま一緒に死なない…?」
彼はその言葉を聞くと首を横に振る。
「無理だ、私には大事な人がいる。救いたい者が…、だから死ねない。」
すると更に彼は、自分の有り金を差し出した。
「足りないと思うが…、これで我慢してくれ。親にはそういう客だったと言ってくれ…」
私は驚いた。
そして思わず、彼を止めた。
「ねえ、あなた名前は?」
彼は帰ってきたペルちゃんを見つけてから言う。
「アール・ダーン。」
そう言うと彼は、ペルちゃんと一緒にどこかへ行ってしまった。――
(そうよ…私はこうして彼を欲しいと思った…!
そして今、彼の大事な人の存在に気づいた…。)
レイはアールがラムと一緒にいる時間を思い出し、ラムを見つめた。
(彼が守りたいのは他でもない…!
ペルちゃんが求める力を持ったこの子なんだわ…!)
レイの暗い表情にラムは怖気付くと、レイは言った。
「負けない…!私はあなたに負けないわ、絶対に彼は渡さない…!」
「え…」
ラムが呟くと、レイはそのまま立ち去る。
(絶対…絶対に渡さない!
彼はペルちゃんがいる限りいつも、私の手の内にあるのよ…!)
そしてレイは考える。
レイは見つけてしまった、アールを落とす方法を。
(イイコト考えた…)
レイはそう思いながら、ニヤリと笑うのであった。
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