六音一揮

うてな

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2章 接続独唱

第19音 善巧方便

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【善巧方便】ぜんぎょうほうべん
相手や状況に合わせたやり方を考える事。

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今日もパートリーダーの六人は、外で東軍の為の重唱曲の練習。
ルネアは六人の歌声を聴きつつ言った。

「シナさん、今日はなんでそんなにカリカリしてるんですか?」

歌声がぶっきらぼうというか、怒りがあらわになるような歌声だ。
いつも楽しそうに歌うシナと比べ、全くらしくない歌声。

「だって、私元々軍の為に歌いたくなかったし、それにバリカンが今日もやる気なさそうだし!」

ルネアはアールを見ると、黙って目を閉じて悟りを開く。
その行動に、特に意味はない。

「アールさん声が出てないですよね、今日。」

一同は頷く。
アールはボーッとしており、眠たそうだ。

「アールさん大丈夫ですかー!」

ルネアが言うと、アールはルネアを見て首を傾げるだけ。
それを見たシナは心配したのか言った。

「本当に壊れてきたんじゃないの?バリカン、ちゃんと寝てる?」

アールはレイの事を考えていた。
ああいう日がこれからも続くのかと思うと、気が気でなくなるのだ。

「しっかりしろっ!」

とラムが言うと、急にアールは目覚めた顔をする。
しかし表情を暗くし、近くの木を思い切り拳で殴った。
それに一同は驚くが、一番驚いたのはラムだ。

(お…俺何かしたかな……)

アールは正気に戻ると、すぐにラムの方を見る。
ラムは怯えている様子だったので、アールは表情に見せなくとも焦った。

「ラムっ…ごめ……えっと、これは…夢でも見ていた…。」

冗談でもわかりやすすぎる。
きっと何かあったのだとルネアは思いつつも、ラムに言う。

「歌う時、ラムは声が大きい。アールさんの声が消えてる。」

「アールが小さいだけだ!」

ラムもどうやら練習に身が入っていない様子だった。
ルネアはその様子に思った。

(二人共何かあった…?今日は異様に集中力がない気がする。)

そこでノノは背中を押すように言った。

「お前達しっかりしろ!何をくよくよしとる!」

(そうだよ、ノノさんは暗い過去があってもこうして元気なんだから…)

ルネアはそう思いつつもラムとアールを見る。
ラムは見るからに悩みのある顔をしていて、アールは眠そうというより不機嫌そうに見えた。

テナーは困った様子で二人の前にやってくる。
同じ男声パートリーダー同士で、パートリーダーの中の長であるテナーはやはり二人が心配だろう。
テナーは二人の肩を撫でてあげると、二人はテナーの顔を見た。
テナーは真面目な顔で頷くと、ラムは自然と笑みがこぼれる。

「ありがと、俺達がクヨクヨしてちゃみんなに悪いな。」

そこに、テノと元ルネアと同室の三人が歩いてくる。
それと更に、先日食堂にいたロボットの少年も。
計五人。

「へぇ、んじゃ姉御がアルにゃんの代わりにパートリーダーになるかもって?」

テノが言うと、ダニエルは言った。

「私はアールの方がいいわぁ。色気のある大人の声って感じするじゃない?私大好きなのよねぇ~」

しかしルカは言う。

「声じゃなくて実力だぜ?
アールはダニエルに勝てないしぃ、調子悪いなら降りないと危険だよ~」

ダニエルは困った顔をしてしまうと、アールの視線がルカ達の方に向かう。
ルカはアールの視線を感じるとすぐに鳥肌が立ち、ツウの後ろに隠れてしまった。
ツウは笑ってしまう。

「ルカ兄は僕の兄さん代わりなのに、怖がりだな~。」

ルカはツウにそう言われ、少し恥ずかしそうにしていた。
ルネアは苦笑しつつも、心底トラウマの内容を聴きたくなっていた。
テノはパートリーダーの六人を発見すると言う。

「おい!そこの六人よ!一曲聞かせてくれよ!」

六人はそれを承諾すると、ルネアはとある事が気になった。

(そう言えばテノくんが歌った所、一回も見た事ないな。)

そうして六人の重唱が始まると、ルネアはダニエル達に尋ねてみる。

「ねえねえ、テノくんは歌わないの?」

ツウはそれに対して答えた。

「あの子は歌活動はしてないよ。
ケープのラインが赤紫でしょ?伴奏係なんだ。」

「伴奏…!凄い!テノくんピアノ弾けるんだ!」

ルネアの目が輝くと、ルカは言った。

「ああ見えて小さい頃は、天才ピアニストだったらしいぜ。」

「え!?あの野蛮なテノくんが!?」

とルネアは想像できないでいた。
ルネアはふと、再びラムとアールの歌の調子が気になる。

(この…不安定な歌声なんなんだろ…)

ルネアは一度止めようとすると、ロボットを含む後ろの四人組に止められてしまう。

「何するんですか?」

「しっ、テノの前で歌は止めちゃメよ。」

ルネアは首を傾げると、ロボットの少年は早口で言った。

「テノは歌が途中で途切れるなどの状態に弱く
最悪の場合は恐怖でパニックに陥ると聞きました」

「え?なんで?」

ルカは上の空で言う。

「む~かしにちょぉ~っとね。」

ツウも言った。

「児童園に来る前に何かあったんだってさ。」

「何何?」

ルネアは詰め寄って聞くと、ルカとツウとダニエルは顔を見合わせた。

「覚えてないっち!」

「僕も忘れたよ。」

「ごめんなさ~い、他人の話にあんまり興味なくてぇ~」

ルネアは苦笑すると、ロボットの少年が言う。

「テノは小さい頃 天才ピアニストと呼ばれいていた
テナーは天才ソプラニスタ
二人はその類稀な才能を活かし 音楽活動に日々取り組んでいたと聴いた」

ルネアはロボットが説明し始めたのに、目を輝かせる。

「て言うかこのロボットさん、名前聞いてなかった。」

ルネアがロボットに言うと、ロボットは名乗った。

「ユネイ 【ユネイ・レジス】」

以前と比べてすっかり児童園の服らしい服を着ていた。
ケープも決まっており、男の子なのにソプラノの色だ。

「ユネイくん…!よろしく!」

ユネイは静かに頷いた。
するとルカは視線で三人に合図する。
三人は頷くと、サイレントで四人が並んだ。
そして口を大きく開いて発声するフリ、四人が順にそれを終えるとルカは言った。

「俺達新星!」

『クレッシェンド4!』

「略してC4」

と早口に言ったユネイ。
ルネアは苦笑いだった。

(一人増えちゃった…)

するとルネアは言う。

「話は戻りますが、天才って凄いですね二人共。」

「確かに小さすぎるもの~二人共。
児童園に来たのがテナーが七つ、テノが五つだったのよ?その前の話って事はかなりの天才よ。」

ダニエルはそう言うと、ルネアは驚きで目を丸くする。
そこにツウは補足した。

「まあ種族によっては成長が早いのもいるからね。
ほら、ルカ兄は成長遅いでしょ?」

それを聞いて、ルネアはルカを見てみる。
別に身長も高いし、顔が子供らしい事もない。
ルカはツッコミを入れる様に言った。

「いや!鵜呑みにすんなよぉ!逆だって、ツウは十八なのに背が低いだろ!?」

ルネアはツウを見てみると、確かに普通の十八にしては身長が低い。

(てかツウくん…僕と同い年だったんだ…)

「いやいや、ルカ兄は頭が幼稚だから。」

それを聴いたルネアは苦笑してしまい、ルカは話を逸らすように真面目な顔をしてユネイに言う。

「ほうほう、続きをお願いします。」

更にルネアは言う。

「親でも亡くなったんですかね…。て言うか、児童園のみんなはどういう経路でここに来るんですか?」

するとユネイは言った。

「ここはお金で子供を引き取っている かなりの額らしいね」

「人身売買じゃないですか!?駄目でしょそんなの!」

ルネアが怒ると、ユネイは眉を潜めた。
話を理解していない、そんなところだろう。
それを聴いたツウは言った。

「ユネイは感情がない訳じゃないけど、そういう道徳的な話は苦手みたい。
そうだなぁ…人身売買もアレだけど、子供を捨てるのもあんまり変わんない気がするよ。」

ルネアはしょんぼりしていると、ユネイは言う。

「今は外の惑星の多くが戦をしている
金で困る者もいれば 子供が足手纏いと考える者もいるんだ」

ルネアは黙り込んでしまうと、丁度六人の歌が終わった。

「みんな上手くなってきてるな。ラムとアルにゃんは…どうした?」

テノはそう言っていると、テナーはニコニコで何かを伝えている。

「ったく!気分で左右されんなんてリーダーらしくねぇな。」

テノはそう言ってルネア達の方を見た。
ルネア達の方では、ユネイが話の続きをしている。

「テナーもテノも 金銭目的で親に売られたという話を聴いている」

それを聴いたテノは、怒った様子でやってきた。

「おい!それをここで話すんじゃねぇ!」

ルネア達は驚くと、テノはズカズカとルネア達の方へ来る。
五人は目を丸くすると、五人を遠くまで連れて行こうとした。

「知りたいな俺が全部話すからよ。ここじゃなくて別の場所な。」

こうしてルネア達はテノに連れて行かれる。
それを他の六人のパートリーダーが見ていた。
テナーは真剣な眼差しでテノを見つめてから、他のパートリーダーの方へ顔を向けた。



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