六音一揮

うてな

文字の大きさ
22 / 95
2章 接続独唱

第20音 恒久不変

しおりを挟む
【恒久不変】こうきゅうふへん
いつまでも変わらない事。

===========

ルネア達はテノによって少し遠い場所まで連れてこられる。
テノはパートリーダー達が見えない事を確認すると話した。

「お前ら別に俺らの過去を話してたんだろ。
だったら俺の口から話してやる。」

「ほんとですか!」

ルネアは言うと、テノは真面目な顔で頷く。

「俺の母さんがピアニストで、親父がソプラニスタだったんだ。
だから俺達は音楽に縁があってな、母さんと親父みたいになってた。
親父が面白半分に自分のコンサートに俺達を出したら大盛況でさ、両親の応援もあって俺らは有名になる事ができた。」

(胸熱…!)

ルネアはそんな事を思っていると、テノは続けた。

「でも母さんが事故に遭って…半身が不自由になった。」

それを聴いたルネアの表情は一気に冷める。
ルカも同情した顔をしていたが、他の三人の反応は薄い。

「命に別状はなかったけど、母さんの大好きなピアノができなくなってよ。
いつも元気すぎるくらいの母さんが一気に落ちこぼれて…。
好きな楽譜も捨て、車椅子でじっとする事しかできなくて…。」

ルネアはなんとも言えない気分になってしまう。



そしてテナーの所では、アールはテナーの通訳をしつつもテノ達の方へ向かっていた。
ちなみに他のパートリーダーはテナーの後ろを歩いていた。
アールはテナーの通訳で話す。

「父は何もかも失くした母を哀れに思った。
抜け殻のような母に少しでも何かを…取り戻して欲しかったんだ。
でも何をしても駄目でね、困ったものだった。」

パートリーダー達は、テナーの話を黙って聞いていた。



テノは怒った様子で言った。

「あのクソ親父は相当な女ったらしでよォ!
他の女と遊んでたんだよ…!母さんにわざと見せるようによ…!
アイツはつまらなくなるとすぐに捨てる最低な野郎だったッ!
アイツは母さんに飽きたんだよ…!
「ピアノを失った君はつまらない」って言ってた…!最低だ!自分の妻に言う事かよそれ…!」

テノの言葉にルネアは同情の言葉が浮かばなかった。
単に衝撃的で、信じられない事だったからだ。



テノはいつも通り、アールに通訳させて言う。

「母は父の浮気に腹が立って、痺れを切らして刃物を持ち出した。
母はテノに似て短気だったからね。」

「母親似なんだ…」

とラムは呟いた。



その短気の張本人はイライラした様子で続ける。

「そしたらよ、あの親父!
「自分を殺す事ができるのか?」って挑発しやがったんだ!」



そして場面は再び変わってテナーの方へ。

「母は事故以来、何もかも失い、何もできなくなった。
活気を失った母を見て、父は意地でも動かそうとしていた。
昔の母を取り戻したいが為に…僕はそう考えている。
母は案の定挑発に乗って、父を刺してしまった。」

アール以外のパートリーダーがその話に驚くと、アールは通訳を続けた。

「父は女と遊ぶフリをしていても、母を誰よりも愛していたよ。
父は死ぬ直前に言った、「そう活き活きとした君が好きなんだ」って。
傍から見たら馬鹿に見えるかもしれない、でも僕には大きな愛を感じたよ。」



一方テノは、少し落ち着いた表情になる。

「俺達はその日、ソファーで寝てるフリしててさ。
俺は見ちまったんだ、母さんの友人が来て証拠隠滅をしてたの。
でも親父の自業自得さ、クソ。」



テナーは空を見上げた。

「あの後は三人で暮らすんだけど、父が死んでからは母は荒れたよ。
ついには僕達に虐待を始めた。」

一同は驚いた。
虐待の事実を知らなかったからだ。



テノは溜息をついた。

「例え母さんが虐待してきても俺は思う、母さんも苦しんでるって。」

ルネアは気持ちが完全に落ち込んでいる為黙り込むと、テノは続ける。

「その後に俺とテナーの共同コンサートがあって。
嫌な事が沢山あっても、テナーと共演できるのが本当に嬉しかった。」



するとテナーは笑顔になってアールに通訳してもらう。

「舞台裏でのテノは緊張しすぎだったかな。
まあステージに乗ると、すぐにいつものテノに戻るんだけどね。」

一同は明るくなったテナーに微笑んでいると、テナーは再び暗い表情を見せた。



テノも優れない顔で言う。

「演奏、歌。別にそこまでは良かった。
でも途中でテナーの声が聞こえなくなって…何事かと思ってテナーの見てる方を見たら…」



テナーは目を閉じた。

「母はコンサート会場の人が少ない客席で、証拠隠滅を手伝った友人男性に身を委ねていた。
…僕は失望してしまったよ。
虐待以上に、今まで愛していた父を裏切るような…。」



テノは苦しそうな表情を見せる。

「テナーはあの光景が衝撃で、歌うのも忘れてた…!
俺だって驚きたいのは山々さ!でも今はそういう時じゃねぇって!
ケジメだ…ケジメ。
俺は気づいてもらえる様にいつまでもピアノを鳴らした。
でもアイツは耳を傾けなくって…。」

それを聴いたルネアは言った。

「結局…コンサートは失敗に終わってしまったんですね…。」

テノはそれに頷く。

「あの日から、アイツは一切歌わなくなった。
コンサートを拒んで、母さんに捨てられるまで拒否し続けた。」



テナーの所では既に話が終わっていた。

「そういう事もあって今はここに売られて生きてるんだ。」

それに対し、ラムは優れない笑顔を見せる。

「仲間の事が知れて良かった。ありがと、言ってくれて。」

テナーは微笑むと、ラム以外の他の四人も黙って頷いた。
それを見たテナーは、次にテノを発見して走っていく。
アールは通訳係なので、アールも急いでついていった。



テノはまだ話を続けていた。

「母さんはテナーを嫌うようになってよ。
親父に声が似てる事もあって、ある日母さんは…」

そこで、やってきたテナーはアールの通訳を通して言う。

「テノ、これ以上は言わなくても。」

「は!?」

テノは怒った様子でそう言った。
テナーは虚しそうな表情をするので、テノは痺れを切らして言う。

「お前ってヤツはいつまで臆病になってんだよッ!
母さんみたいになって…!何を言い憚ってんのか意味分かんねぇ!」

テノはそう言い放つと、立ち去ってしまった。
テナーはテノの後ろ姿を見ると溜息をつく。
一同は会話しにくい空気になっていると、ユネイは言った。

「これ以上の詮索はできないね 
この話は終わりだ」

テナーはそれに対して頷くと、一同は解散する事に。
後になってやってきた他のパートリーダー達は、暗い空気に再び不穏な表情を浮かべるのであった。



部屋にルネアは戻ると、先にラムが帰っていた。
ラムは椅子に座って俯いている様子なので話しかけてみる。

「どうしたんですか今朝から、元気ないですよ?」

ラムはルネアの顔を見ると、椅子をルネアの方に向けて座ると言った。

「実は…新入生のレイが、アールの事が好きかもしれなくて…更に俺が女である事もバレて…。」

「えぇっ!?」

ルネアは驚くと、ラムは顔を赤くして涙を流してしまう。

「うわああっ!新入生がアールの事本当に好きだったらどうしよう!!」

ラムは声をあげると、ガクッと俯いて無言になったのであった。
ルネアは微妙な反応をしつつも言った。

「だったら聞きに行きましょうよ。」



一方、テノは部屋にいた。
部屋にはアールとレイまでいる。

「おいアルにゃん!」

テノが呼ぶと、アールは手作りのフェナキストスコープを手に言った。

「なんだ。」

「あの日のリベンジッ!」

それを聴いたアールは溜息をつく。

「まだそんな事を言っていたのか。」

その時、部屋の外から声が聞こえた。

「リベンジ!?」

と言って入ってきたのはルネア、ラムもついていた。
ラムはレイから鋭い視線を感じると、ラムは恐縮してしまう。
テノはルネアの言葉に頷いた。

「おう、俺はこのリベンジの為だけに修行の旅に出たんだからな。」

ルネアの目は輝いていた。

(男の闘いってやつ…!)

「今度こそお前に勝ってやる。
俺は忘れてないぜ?共にリートへの愛を叫んだ日をッ!」

ルネアは目が丸くなる。
レイからは邪悪なオーラが流れ、ラムはそれに驚いていた。

「やらない。」

アールは即答だった。
テノは怒った顔を見せると、ルネアは言う。

「いや、そもそも愛を叫ぶ為だけに修行いるんですか?というか負けたとか勝ったとか何。」

するとラムは言った。

「リートへの愛を叫んだ日があったらしくて…。
声量でテノが負けたから旅に出たんだって。」

「丘で『好きだ』と叫ぶだけだ。別にリートへの愛なんて叫んでない。」

アールは付け加えるようにラムに言うと、ラムは苦笑い。

「くだらなっ…」

ルネアはつい本音が出てしまうと、テノはルネアを睨みつけた。
するとアールはラムに言う。

「テノがくだらない事にお前達を巻き込むつもりだぞ、早く帰れ。」

ラムは苦笑しつつもルネアの手を引っ張ると

「は、はーいありがと。」

と言って部屋を立ち去ってしまう。
ルネアはラムに言った。

「レイさんに聞くんじゃなかったんですか?」

「無理だって!あんな空気で聞けっかよ!
それに新入生の目見たか?俺を睨みつけてた…!」

ルネアは溜息が出てしまう。

(ラムは威勢がいいのやら臆病なのやら…)



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...