六音一揮

うてな

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2章 接続独唱

第25音 鬼面仏心

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【鬼面仏心】きめんぶっしん
表面上は怖そうだが、
内心はとても優しい事。

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息が切れそうなのを感じるルネア、顔色が真っ青になっていく。
しかしアールは、苦しそうなルネアを見て若干手を緩めた。
ルネアはふと言った。

「ラ…む…」

アールは咄嗟に後ろへ振り返るが、そこには誰もいない。
ルネアはアールを押すが、力が弱かった。
アールは騙されたのだと気づくと、再びルネアに近づく。

「お前も小癪な真似をするんだな。」

ルネアの首は、アールの両手から解放された。
ルネアは座って咳き込んでしまっていると、そこに背後から女の声が聞こえた。

「待ちなさい。」

アールは次こそ背後を確認すると、そこにはレイがいた。

「レイ…様…。」

アールはそう呟いて眼鏡をかけ直すが、その手は震えている。
ルネアは落ち着いて二人を見ると、レイはアールに言った。

「あなたは人を殺してはダメよ。」

「どう…してですか?」

ルネアが聞くと、レイは驚いた顔をした。

(この子、あんなに首を絞められておいて…まさか、彼が手を抜いたのかしら…?)

そしてレイはそれに答える。

「一度人を殺してしまえば、次も人を殺したくなるものよ?
この人の場合、殺したい人なんて山ほどいるわ。」

ルネアは表情は優れないまま、その言葉に納得してしまう。
アールも図星なのか微妙な反応をしていると、頭を抱えた。

(お前も含め、嫌いな者が消えたらどれだけ楽になるのやら…。
そんな殺人鬼みたいな思考に走るのを、止めてくれたんだな…。)

アールはそう思っていると、レイは言う。

「一度滑車がかかるとやめられないでしょ?」

レイはニッコリして言うと、アールはギクッと反応する。
ルネアは目を丸くしてしまった。

(珍しい反応、相当心当たりがあるんだ。
まあ確かに、食べると止まらない人ではあるけれど。)

「あの、じゃあ僕は殺されないんですか?」

レイはルネアに対しては冷静な表情で言う。

「そうね。黙ってくれるならいいわよ?今回の件。」

「いや…黙りますよ…そりゃ…」

(ただでさえアールさん、地獄耳なんだもん…迂闊に言えない…)

ルネアは内心そう思っていると、アールはレイに言った。

「信じるのですか?」

「そんなわけないじゃない。
でも知られたのは事実。あなたが責任持って見張る?」

そう言われたアールは暫く黙ったが言う。

「承知いたしました。」

ルネアは瞬乾をいくつかすると、アールに聞く。

「なんでレイさんにそんな畏まってるんですか?」

それに対し、アールではなくレイが答えた。

「彼、私には礼儀正しくしてくれるの。」

「え…?」

ルネアは頭の上に疑問符を浮かべていたが、そこにアールがルネアの前にやってきた。
アールは座り込んだルネアに手を伸ばす。

「ほら、立てるか?……さっきはすまん…。」

謝罪の言葉だけ言いにくそうにしているアール。
ルネアは手を伸ばすと、手を掴まれて一気に引っ張ってきた。
ルネアは立ち上がったが、さっきの恐怖があるのか悲しそうにしている。

「しっかりしろ。」

アールはそう言うと、ルネアの頬を軽くつついた。
その時、ルネアはラムの言葉を思い出す。


――「アールは優しいヤツなんだぞ…!?口下手で無表情なだけなんだよ!」――


これは、アールの裏切りの可能性について提示した時にラムが放った言葉。
ルネアはアールを見る。
アールはその視線の正体がわからず首を傾げると、ルネアは微笑してしまった。

(この人が意味わかんないのは、きっと天然のせい。)

そういう事にしておいた。



一方、ラムは外を気分転換に歩いていると、近くでラムを呼ぶ声がする。

「お~い!」

ラムはその方向を見ると仰天した。
なんと目の前に、アール似の青年がいたのだ。

「アール!…じゃなくてこの前の!」

「愛しじゃなくてごめんね~」

(なんでコイツも俺がアールの事好きだって知ってんだよ~っ!)

ラムは急に疲れると、肩を落としてしまう。
青年はそれに気づかずに言った。

「ごめんねこの前は、驚かせちゃってさ。悪気はなかったんだよ?」

ラムは呆然と頭に疑問符を浮かべると、青年は笑った。

「きゃは~!そんなクエスチョンやめてよ~!君もわかってるク・セ・ニ~」

ラムは彼の常に笑っている表情が怖い。
青年は急に真面目な顔になると言う。

「あ、そう言えば君、僕の事は片割れくんに秘密ね。」

「なんで?」

「まだ知らなくていいの。
別に自分にそっくりな人に会ったって混乱するでしょ。」

ラムはそれに納得すると、青年は言った。

「僕は片割れくんを助けたい。
片割れくんは今大変な時期なんだ、彼には成し遂げたい事がある。
僕は片割れくんを助けるピースを持っているけど…でもそれはまだ言えない。」

「お前!アールの身に何が起こってるのかわかんのか!?」

ラムが食いつくと、青年は頷く。

「でも僕は片割れくんの味方。君には言えないよ…
君にはまだ、覚悟もないだろうからね。」

「は…?」

ラムはわからなくて呟いてしまうと、青年はラムに真摯な眼差しを送った。

「彼にとって、君は大事な人。
君がなんでも知ってると、彼も不安になってしまうの。
だから…心配をかけないように、彼の変化を知らないフリして欲しいの。」

それをラムは考える。

(アール…悩みがあるなら俺に相談して欲しい気もあるけど…それは独りよがりだよな…。
俺も伊達にアイツと長年友人やってるわけじゃない、アイツは立派な心配性だし、計画が少し狂うだけで大慌てする。
俺が口出ししたら…きっとそうなっちまう…でも…)

「なあ、俺がそれを知っちゃいけない理由とかあるのか?
別に成し遂げたい事があるってなら、俺が手伝ってもいい気がする。」

「ダメだよ。」

青年は即答し、続けた。

「全部…全部君の為なんだ。」

ラムは余計わからなくなると、青年は微笑む。

「大丈夫。君自身が真実を知るのも、そう先の事ではないと僕は思う。
だから…今は彼を信じてあげて。」

ラムはモヤモヤしてしまうが、小さく頷いて返事をした。

「わかった。」

すると、青年は素敵な笑顔を向けてくれる。

「ありがと!じゃ、僕はこれでね!」

そう言って、青年は遠くへ走っていった。
ラムは青年の後ろ姿をボーっと見ている。

(アールも…笑ったらあんな顔になるのかな…)

ラムはそんな事を思いつつも、晴れた青空を見上げた。

(俺は…アールが苦しんでるってなら、助けてやりてぇよ…)

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ルネアは今日は、リートの元で魔法の勉強をしていた。
学習室を通ったアールはルネアを見つけると、つい足を止めてしまう。
それに気づいたリートは驚く。

「あ、アール…!」

アールはリートを見ると、ルネアに言った。

「魔法は使えないから、勉強するのはやめたんじゃなかったのか。」

ルネアはアールに気づくと微笑む。

「いえいえ!未来ではよくこうやって勉強してましたから…こうしないと落ち着かないなーって!」

すると、アールは明らかに冷めた顔を見せた。
それを見たルネアは動揺してしまう。

「な、その気持ち悪いものを見る目なんですか!」

リートは小声で言った。

「あ、アールはお勉強が嫌いだからちょっと信じられないんじゃないかしら…」

するとルネアはニヤニヤ。

「あれ~いつも読書するのに勉強はしないんですか?」

「読書と勉強は関係ない。」

「待って、勉強苦手って事はアールさん落ちこぼれなんですか?」

リートは言いにくそうにしていると、ルネアは図星だと察する。
ルネアは笑顔になった。

「アールさんって意外と欠点多いですよね!
あっ!何かわかんない事があったら僕にも聞いてくださいね!僕結構頭には自信あるんです!」

アールは無表情だったが心の中ではお怒りだった。

(コイツ、テノと同じくらいウザい性格してる。)

「あ、魔法は全くわかんないですけど…えへへ…」

ルネアはニコニコしていると、アールはルネアの前まで歩いてくる。
そしてアールはルネアの胸ぐらを掴むので、ルネアは驚いた。

「なな!なんですか!?」

アールは余った片手に赤色の電気を帯びると呟く。

「私が教えてやるぞ。」

「いや!それ殺しにかかってません!?さっきの続きですかぁ!?」

それでもアールは魔法を強くするので、リートは慌ててアールに両手をかざした。

「弱い者いじめしちゃダメぇーっ!」

リートはそう叫ぶと、その手から水の衝撃波が生まれる。
ルネアを離してアールは衝撃波に飛ばされると、壁に頭から打ち付けてしまった。

「アールさんっ!」

ルネアは心配すると、リートも焦る。

「あっ…!ごめんアール…!」

ずぶ濡れのアールは起き上がると、二人の前にやってきた。
二人は表情が堅くなっていると、アールは呟く。

「…すまない…。」

「え…」

リートはポカンとすると、アールは恥ずかしいのか小声で言った。

「ルネアに腹が立ったから…逆に魔法を教えようと…見栄張った…。」

そう言うとアールはそのまま部屋を出て行った。
リートは驚いた顔でルネアを見ると、ルネアはリートを見て言った。

「あれ、魔法を教えようとしたんじゃなくて、僕を始末しようとしてましたよね?」

「えと…アールは教えるつもりだったんじゃないかしら…」

「嘘だぁ!」

「アールは不器用だから…」

「…わかります。」

リートの不器用という言葉に、ルネアはなんとなくであったが納得してしまうのだった。



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