六音一揮

うてな

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4章 奇想組曲

第58音 侃侃諤諤

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【侃侃諤諤】かんかんがくがく
ひるまず述べて盛んに議論するさま。

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夜中の児童園前にある鎌倉。
未完成ではあるが、だいぶ中まで彫れている。
そこにレイが通りかかり、児童園に帰ってきた。

レイはみんなの集まる食堂の扉を開けた。

「大変よ!アールさんがっ!」

と言うので、流石にみんなは驚く。
話の内容よりもまず、人前で一切喋らないレイが喋った事が。
レイだって喋りたくないと言うか、喋る事なんてできない。
しかし恐怖で気が高ぶっていたのか、なんとなく言えた。

そこでテノは話の内容を聞き返した。

「アルにゃんがどうしたってんだ!?」

レイは急に黙り込む。
みんなに見られるのは少し恐怖だ。

「何も言わんのじゃわからんのう…」

とノノは呟いた。
そこでシナはレイに近づき、優しく聞いた。

「レイちゃん、緊急事態なんでしょ?
教えて欲しいの。あなたもアイツが心配なんだろうけど、私達もとっても心配していたのよ?二人が帰らなくて。
だから、事情を教えて欲しいの。」

シナは真剣な眼差しで言うのであった。
レイは黙っていたが、このままだといけないと思った。
彼女達は本当に彼にとって信頼できる者なのか。
それだけが心配だった。
事情を語るには、一部アールの情報も提示しなければならない。
そうして真実を知った彼女達はどう反応するのか。
ルネアは不穏な表情をしつつも、何の事だか大体予測がついてしまう。

「まさか…」

ラムは言った。

「アールは生きているよな!?」

その言葉にみんなは驚く。

「勝手に殺しちゃ駄目だよ!」

リートは控えめに言う。
そこにテノがテナーの通訳で言う。

「ラムもルネアも何か知ってるな?」

二人はギクッとした。

「話すんじゃ!今は緊急事態!隠すならば意地でもっ!」

と、ノノは拳を出して言うのであった。
ルネアは焦って言う。

「わかりました言います!言いますから許して!」

「俺も知ってるところなら」

ラムもそう言った。
それにルネアは驚いた。ラムも何か知っていたのかと。



一連を話した二人。それにさっきの現状をレイは伝えた。

「ええっ!?バリカンがドラゴン!?
しかも星を破滅に導いた親がバリカンの中に封印されてるだって!?」

シナは驚く。
ノノは考える仕草をした。

「確かに初め見た時は恐ろしそうな雰囲気はしておったの。」

するとテノは言った。

「え?強そうって思った!
だから喧嘩してぇって尚更思った。」

リートも呟く。

「だからあんなに怖かったんだ…」

「そうね、バリカンを見て恐怖するのは…みんな同じだったわね。」

シナの言葉に、一同は深く頷いた。
しかし、ラムはずっと黙っている。
シナはラムに気づいて言った。

「どうしたの?」

「俺…何とも思わなかった…」

ラムの言葉に、ノノは首を傾げた。

「ラムは人間?だからか?」

「野生の直感がなってないぜ!へへッ」

とテノは言った。
ルネアは冷や汗で思う。

(もしかしたら自分以下の魔法力には
恐怖も何も感じないとか…それともラムの方が恐ろし…)

と思いつつも首を横に振った。
テノは机を叩いて言った。

「んで!アルにゃんのオヤジが暴れそうだと」

続いてノノも言った。

「翼を広げ飛んでいったアール。
どこへ行ったのじゃろうなぁ」

それを聞いたレイはこう呟いた。

「東軍の本拠地かもしれないわ…。
彼の父は彼の思った事をやろうと思っているのかも。
彼、戦争が無ければと思っていたし…」

その小さな声に耳を傾けながらも、シナは頷いた。

「それはみんな一緒ね。
私はそのまま攻撃しても構わないけど。
むしろ好都合なんじゃないかしら?」

ラムは焦った様子で言う。

「でも!それで周りも襲ったらどうなんだよ!
相手は一つの星の生命達を絶滅させた竜だぞ!?」

更にみんなは考え込む。

「じゃあどうすればいいの?
バリカンは今どこにいるの?
相手の意識の中?それとももういないの?
その答えで結果が決まるわ。」

シナが言うと、レイは少し考えてから言った。

「アールさんの望みを叶える事、
父が言った『共に』と言う発言から、いない事は無さそうな気がするわ…」

ルネアは考え始めた。
自分が見た未来を。
見た未来ならば竜の姿になってしまうが、話を聞いた感じ、アールはまだ人の姿。

それをみんなに伝えた。

「え、じゃあ未来は変わっているって事?」

リートは言う。
グランは考えつつも言った。

「ルネア君の行動で、変わってしまったのかもしれないね。」

ラムは思い出した顔に。

「て言うかアールにそっくりな青年!アイツはどこだ!?」

「ラムも知っているの!?僕も会ったんですよ!雪道で!」

「ルネアもか!」

そこでテノが言った。

「まず!アルにゃん似って何モンだよッ」

「知るか!」

と答えたのはラム。

そこにテナーが机を大きく叩く。
みんなは驚きテナーを見た。
それを見たテノは急いで通訳。

「今はアルにゃんを助けるのが先。
俺は探しに行くぜ。」

そう言うと、テナーは外に行こうとした。

「ま…!」

と言ってシナもついて行く。

みんなが外に出ようと思った時、玄関にまめきちがいる。

『まめきちさん!』

とみんなで声を揃えて言う。
まめきちは驚いた顔。

「何?なんだろ。ごめん、帰るの遅くなったね」

と申し訳なさそうに言う。
シナは少々イラついた表情になって言った。

「あなた、バリカンが竜って知ってるわよね?
あなたが連れてきたんだから知ってるわよね!?
アイツの父の意識が今復活してどっか行っちゃったのっ!」

それを聞いたまめきちは驚く。

「アールが!
…ヤツの意識を…。…大変だな…」

その言葉にみんなは目を見開いた。

「やっぱり知ってたんだ!」

とルネア。

「どういう事なんですか!」

とリート。

「貴男、因果があるでしょう?」

とズバリ言うグラン。

「いいから吐けこの箱ぉッ!」

と掴みかかるテノ。
それを裂くようにノノは言った。

「落ち着け」

まめきちは暫く黙ると、一同に対して答える。

「詳しく話を聞かせて欲しい」

「こっちが聞きたいです。」

ルネアの言葉に、みんなは頷いた。
しかしまめきちは首を横に振った。

「話は長くなるんだよ。だから教えて!」

そこでラムは、一連を話していく。



大まかな内容を聞くと、まめきちは言った。

「…そうか。でも奴は完全には復活していないね。
ヤツの封印が完全に解かれるならば、今頃ここらは火の海だ。」

それを聞いたラムは「じゃあ…」と言うと、まめきちは笑顔で頷いた。

「まだアールの意識はあるみたいだし、
ヤツの本性がただアールの意識を一時的に乗っ取っているだけかもしれない。
助かる可能性はゼロではない。」

みんなは安堵の溜息をついた。
更にまめきちは言った。

「アールには人間の形を保つ魔法がかけられている。
それを解かない限りは完全に竜になったりしない。
…それにしても、封印にヒビを入れた青年…。アールにそっくりな…。
誰だ…何も聞いていないぞ…。後で聞いてみるか」

「誰にですか?」

ルネアが聞くと、まめきちは答えた。

「私の大親友さ。何でも知っているのさ。
…ルネア、君にはいつか紹介しよう。」

その言葉に目を輝かせるルネア。
ラムはまめきちに聞く。

「あの、なぜアールにその父の意識が封印されたんですか?」

「それは簡単な話しさ。竜は血が命。
血が絶えれば死んでしまう。ヤツの体は今動きを封じられていてね。
血を抜かれ、絶命を待っていた。
しかし絶命させんと、奴の妻は産まれた子に意識を封じたんだ。」

みんなは冷や汗で聞いていた。
するとレイはまめきちに聞く。

「貴男は何のためにこんな事を黙っていたの?
なぜそんな事を知っているのかしら?」

「私は訳あってあのドラゴンに復讐したいだけさ。
ヤツの復活は望まない。
だから、長年封印され続けていたアールを見張るためにここに連れてきた。」

それにみんなは驚く。

「長年!?」

とリートは言う。
まめきちは溜息をついて言った。

「ただ意識を封じただけでは危険なんだ。
ただでさえヤツの血を引いている。
その時が来るまでアール自身も封印していたのさ。アールの母親がな。」

それを聞いたテノは怒って言った。

「それじゃ連れてきたテメェの責任でもあるだろッ!」

まめきちはそう言われ、俯いて言った。

「そうだ。…奴はあそこに封じたままにすればいずれ復活する。
だからここで見張る為に連れてきて、復活するようならば親子共々絶命させようと考えている。」

「酷い!」

リートは言った。
ノノも呆然とした。

「アールは死ぬのか…?」

「そんな…」

ラムは動揺している。
それにまめきちは言った。

「今は詳しい話はできないが、
私だって沢山考えてきた。これが終わったら話そう。」

と言うと、まめきちは外に出て行ってしまった。
一同は沈黙していた。
するとルネアは呟く。

「アールさん…未来では生きてた…」

みんなは驚いてルネアを見た。
ノノは言う。

「それはどういう事じゃ?」

「アールさんがあの未来生きてるって事は、絶命させられなかったって事…。
まめきちさん、その未来にはもういないのかなって…。」

ルネアの答えに、みんなは何とも言えない気持ちになる。

「じゃあまめきちさん危なくねッ!?」

とテノ。
ラムは言った。

「じゃあまめきちさんも助けに行くぞ!」

みんなは返事するが、リートはグランに言った。

「グランさんはお留守番。」

グランは苦笑い。

「行ってらっしゃい…」

『行ってきます!』

グランの言葉にみんなは返事し、駆け出した。



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